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綺羅星たちの魔法演技
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「「「ご覧くださり、ありがとうございました」」」
3人が紳士淑女の礼を取ると、みんなはわっと歓声を上げて盛大な拍手を送った。
今日は大会前の予行演習として、クラスのみんな全員で森の空き地に移動して、本番で披露する演技を鑑賞した。
みんなで頑張った甲斐が合って、それはそれは見事な演技に仕上がったと思う。それと、おまけでクラスのみんなの魔法もちょっと上達していた。どうやら俺の助言はいくらかの役に立ったらしい。
「すごいよ! 本当にすごい!」
「とても綺麗だったわ。本当にあの世界にいるようだった……」
ハンカチの彼女は、感激のあまり涙を流している。
演技の構成はみんなで意見を出し合って決めた。このクラスの誰もが、この演技になんらかの形で関わっている。正真正銘クラス全員で作り上げたものだ。
「フロイド、ジョナサン、ベハティ嬢、明日は思い切り楽しんで欲しい」
ライリーが代表して、3人に激励の言葉をかける。ステッラ賞を獲れなくても、楽しければそれで十分じゃないか。それがここにいるみんなの総意だ。
「めいいっぱい、楽しんできますわ」
ベハティ嬢がそういえば、フロイドとジョナサンも力強く頷いた。
魔法演技は剣術大会が行われる会場と同じ、屋外の大きな剣技場で行われる。円形の大きな会場には、学院生の他にも多くの観客が集まっていた。中には騎士団や魔法師団の姿もちらほら見える。なにしろ審査員には学院の関係者だけではなく、魔法師団長も名を連ねているのだ。確かにこれは将来魔法師団の入団を目指す学生にとって、気合が入るというのも分かる。ついでに言うと、元父親であるオルドリッジ伯爵も審査員として来ているらしいが、あれにまともな審査ができるとは思えない。まぁ、あの男が誰にどんな評価を下そうと、俺たちには関係のないことだけど。
些か緊張している代表の3人を気楽にね、と笑顔で送り出し、俺たちは観客席に入る。空はどんよりとした鈍色の雲に覆われて生憎の天気だ。フロイドの作り出す水の小鳥や妖精たちは、陽の光を受けて一層輝く事を知っているクラスメイトたちは残念がっていたけれど、空を見上げた俺にはちょっとした予感があった。
これから始まる魔法の演技に期待と興奮で騒ついていた会場は、開会の挨拶と共に静かになる。学院長と魔法師団長が開会の挨拶をしたけれど、魔法師団長が俺の想像した人物像と大きく違っていて、ちょっと驚いた。がっしりとした立派な体躯は、騎士団長と言われても納得してしまう逞しさだ。
前世の俺もそうだったけれど、魔法使いは細身が多い。魔法で全ての荒事を片付けるので、腕力がほぼ必要ないからだ。
「あれは、騎士の間違いじゃないのか……」
思わず呟けば、隣に座っていたクラスメイトが教えてくれた。あの魔法師団長はかなり変わった人物らしいが大変な人格者で、騎士団の面々にも信頼が篤いらしい。そういえば、そんな話を前にも聞いた覚えがある。そうなると、ますます相談役の存在ってなんだろうな? って話になるのは当然。人格者から一番遠い所にいるのがオルドリッジ伯爵だからな。
そんな話をしているうちに演技が始まった。演技の順番は学年ごとではなく、事前に学院側が決めている。何を基準にどうやって決めているかはわからないけれど、俺たちのクラス第一学年Cクラスの順番は全体の真ん中ぐらいだ。
予想した通り、ほとんどが攻撃魔法での演技だ。3人がそれぞれ得意な魔法を披露していて、協力して一つの演技を見せるクラスは今のところない。第四学年の代表にもなると、それなりの魔法を使うのでなかなか見応えはある。
そろそろ俺たちのクラスだなと思っていれば、剣技場にウェリタスが登場した。一緒に出てきた2人の代表は、あの時カフェテリアで巻き添い事故にあった人達だ。
昨年星を取っただけあってウェリタスの魔法はそこそこだったが、本当にそこそこだった。特に面白みもなく、気持ちが昂る要素もない。恐らく、去年から何の成長もしていないんだろう。今年のウェリタスがステッラ賞を獲ることはないだろうな。
そして、いよいよ我らが代表の登場だ。
3人がピッタリと同じ動きで一礼をすると、声を揃えて詠唱をする。
「「「女神の理において、我が力を行使する!」」」
「水よ軽やかに羽ばたき舞い踊れ!」
「光よ星の如く輝き照らせ!」
「花よ鮮やかに咲き誇れ!」
3人の詠唱が終わると同時に、水の小鳥と精霊たちが空中に舞い上がり、色とりどりの花と光の煌めきが剣技場に広がった。小さいけれど複雑な形をいくつも作りあげなければならないのに、魔法の発動が早い。練習の成果がしっかりと現れている。
小鳥と精霊たちが光と花を伴って剣技場を舞い踊ると、会場の雰囲気が一気に変わった。突然広がった幻想世界に観客は目を瞬かせる。杖を振る3人の息がぴったりで、三つの魔法がまるで一つの魔法のようだ。
攻撃魔法の演技に比べて派手さはないけれど、この幻想的な光景と笑顔で演技する3人の姿は観客の心に何かを残すと思う。
いよいよフィナーレという時だ。今までどんよりと曇っていた空の一部から、青空が覗きさっと日差しが差し込んだ。
雲が薄くなっているところがちらほら見えていたので、どこかの場面で陽が差し込む事もあるだろうと思っていたけれど。なんて最高のタイミング!
小鳥と精霊たちは、ちょうど日差しの方向に向かって舞い上がってゆく。光を受けた水は輝きながら虹を描き、まるで雲間へと吸い込まれるように小鳥と妖精たちは消えてゆく。余韻を残すように花々が消え、そして最後に光が静かに消えた。
会場がしん、と静まり返っている。
フロイド、ジョナサン、ベハティ嬢が、演技を始める前と同じように揃って綺麗な礼をした。
「「「ご覧いただき、ありがとうございました」」」
俺は立ち上がると、渾身の拍手を送る。とっても素敵で楽しい魔法だった。
クラスメイトも皆立ち上がって拍手する。それに漸く観客たちも我に返ったのだろう。皆同じように立ち上がり、歓声と惜しみない拍手を彼らに送っている。魔法には夢があって楽しいものだって、見ている人たちに少しでも知って貰えただろうか。
我らが代表の演技が無事に終わり、肩の力をすっかり抜いて他クラスの演技を見ていれば、これは星を獲ったなと思ったクラスがあった。代表3人が模擬戦として魔法を披露したんだけど、観客を興奮させる派手さを見せながらも、相手を傷つけない微妙な魔力操作が素晴らしかった。
しかもなんと、彼らはパーシヴァルのクラスの代表だったのだ。なるほど、パーシヴァルが誉めていただけある。第一学年でこれだけの腕前だ。将来は魔法師団にと望まれるかもしれないな。
その後も、パーシヴァルのクラスの代表を超える演技は出てこなかった。今年のステッラ賞は間違いなく、パーシヴァルのクラスだろう。
全ての演技が終わり、いよいよステッラ賞発表の時を迎えた。
俺たちは星の期待もないので気楽なもんだ。今年は何処のクラスだろうな? なんて雑談をしながらすっかり穏やかな空気に浸っていた。
「今年も素晴らしい魔法を拝見することができ、実に有意義な時間を過ごさせていただいた。どの演技も素晴らしく、甲乙つけ難い。その中でも、大変素晴らしい魔力操作で演技を見せたクラスがあった」
魔法師団長が総評と共に、今年のステッラ賞を発表する。
「……第一学年Bクラス代表。君たちに星の栄誉を与える」
わっ!と会場が盛り上がる。
Bクラスはパーシヴァルのクラスだ。納得の受賞だな。俺も敬意を込めて拍手を送る。
「そして、今年はもうひとクラスの代表に、星の栄誉を与えたいと思う」
続いた魔法師団長の言葉に会場がざわつく。星の栄誉は毎年ひとクラスと決まっている。なのに、ふたクラスも星の栄誉を賜るなんて異例の事らしい。
「第一学年Cクラス代表。君たちの演技はとても美しかった。おかげで私は、魔法とはこんなにも楽しいものだったと思い出すことができた。ありがとう」
……え? どういうこと?
みんなも何が起きたかわからないといった表情で、顔を見合わせている。
「第一学年、Bクラス、Cクラスの代表の皆さん。こちらへ」
何が起きているのか分かっていない我らがクラスの代表3名は、他のクラスの代表に促され、おずおずと学院長達の前へ歩み出る。
俺にもよくわからないけれど、とにかくCクラスの代表が星を得た。これはめでたいことに間違いないんだから、俺たちは観客席から最高の賛辞と拍手を星を手にした代表に贈る。
予想もしていなかった喜びに湧いた俺たちのクラスだったけれど、審査員の1人オルドリッジ伯爵が星の授与式にいなかった事に最後まで気が付かなかった。
……まぁ、いてもいなくても、全く問題なかったけど。
3人が紳士淑女の礼を取ると、みんなはわっと歓声を上げて盛大な拍手を送った。
今日は大会前の予行演習として、クラスのみんな全員で森の空き地に移動して、本番で披露する演技を鑑賞した。
みんなで頑張った甲斐が合って、それはそれは見事な演技に仕上がったと思う。それと、おまけでクラスのみんなの魔法もちょっと上達していた。どうやら俺の助言はいくらかの役に立ったらしい。
「すごいよ! 本当にすごい!」
「とても綺麗だったわ。本当にあの世界にいるようだった……」
ハンカチの彼女は、感激のあまり涙を流している。
演技の構成はみんなで意見を出し合って決めた。このクラスの誰もが、この演技になんらかの形で関わっている。正真正銘クラス全員で作り上げたものだ。
「フロイド、ジョナサン、ベハティ嬢、明日は思い切り楽しんで欲しい」
ライリーが代表して、3人に激励の言葉をかける。ステッラ賞を獲れなくても、楽しければそれで十分じゃないか。それがここにいるみんなの総意だ。
「めいいっぱい、楽しんできますわ」
ベハティ嬢がそういえば、フロイドとジョナサンも力強く頷いた。
魔法演技は剣術大会が行われる会場と同じ、屋外の大きな剣技場で行われる。円形の大きな会場には、学院生の他にも多くの観客が集まっていた。中には騎士団や魔法師団の姿もちらほら見える。なにしろ審査員には学院の関係者だけではなく、魔法師団長も名を連ねているのだ。確かにこれは将来魔法師団の入団を目指す学生にとって、気合が入るというのも分かる。ついでに言うと、元父親であるオルドリッジ伯爵も審査員として来ているらしいが、あれにまともな審査ができるとは思えない。まぁ、あの男が誰にどんな評価を下そうと、俺たちには関係のないことだけど。
些か緊張している代表の3人を気楽にね、と笑顔で送り出し、俺たちは観客席に入る。空はどんよりとした鈍色の雲に覆われて生憎の天気だ。フロイドの作り出す水の小鳥や妖精たちは、陽の光を受けて一層輝く事を知っているクラスメイトたちは残念がっていたけれど、空を見上げた俺にはちょっとした予感があった。
これから始まる魔法の演技に期待と興奮で騒ついていた会場は、開会の挨拶と共に静かになる。学院長と魔法師団長が開会の挨拶をしたけれど、魔法師団長が俺の想像した人物像と大きく違っていて、ちょっと驚いた。がっしりとした立派な体躯は、騎士団長と言われても納得してしまう逞しさだ。
前世の俺もそうだったけれど、魔法使いは細身が多い。魔法で全ての荒事を片付けるので、腕力がほぼ必要ないからだ。
「あれは、騎士の間違いじゃないのか……」
思わず呟けば、隣に座っていたクラスメイトが教えてくれた。あの魔法師団長はかなり変わった人物らしいが大変な人格者で、騎士団の面々にも信頼が篤いらしい。そういえば、そんな話を前にも聞いた覚えがある。そうなると、ますます相談役の存在ってなんだろうな? って話になるのは当然。人格者から一番遠い所にいるのがオルドリッジ伯爵だからな。
そんな話をしているうちに演技が始まった。演技の順番は学年ごとではなく、事前に学院側が決めている。何を基準にどうやって決めているかはわからないけれど、俺たちのクラス第一学年Cクラスの順番は全体の真ん中ぐらいだ。
予想した通り、ほとんどが攻撃魔法での演技だ。3人がそれぞれ得意な魔法を披露していて、協力して一つの演技を見せるクラスは今のところない。第四学年の代表にもなると、それなりの魔法を使うのでなかなか見応えはある。
そろそろ俺たちのクラスだなと思っていれば、剣技場にウェリタスが登場した。一緒に出てきた2人の代表は、あの時カフェテリアで巻き添い事故にあった人達だ。
昨年星を取っただけあってウェリタスの魔法はそこそこだったが、本当にそこそこだった。特に面白みもなく、気持ちが昂る要素もない。恐らく、去年から何の成長もしていないんだろう。今年のウェリタスがステッラ賞を獲ることはないだろうな。
そして、いよいよ我らが代表の登場だ。
3人がピッタリと同じ動きで一礼をすると、声を揃えて詠唱をする。
「「「女神の理において、我が力を行使する!」」」
「水よ軽やかに羽ばたき舞い踊れ!」
「光よ星の如く輝き照らせ!」
「花よ鮮やかに咲き誇れ!」
3人の詠唱が終わると同時に、水の小鳥と精霊たちが空中に舞い上がり、色とりどりの花と光の煌めきが剣技場に広がった。小さいけれど複雑な形をいくつも作りあげなければならないのに、魔法の発動が早い。練習の成果がしっかりと現れている。
小鳥と精霊たちが光と花を伴って剣技場を舞い踊ると、会場の雰囲気が一気に変わった。突然広がった幻想世界に観客は目を瞬かせる。杖を振る3人の息がぴったりで、三つの魔法がまるで一つの魔法のようだ。
攻撃魔法の演技に比べて派手さはないけれど、この幻想的な光景と笑顔で演技する3人の姿は観客の心に何かを残すと思う。
いよいよフィナーレという時だ。今までどんよりと曇っていた空の一部から、青空が覗きさっと日差しが差し込んだ。
雲が薄くなっているところがちらほら見えていたので、どこかの場面で陽が差し込む事もあるだろうと思っていたけれど。なんて最高のタイミング!
小鳥と精霊たちは、ちょうど日差しの方向に向かって舞い上がってゆく。光を受けた水は輝きながら虹を描き、まるで雲間へと吸い込まれるように小鳥と妖精たちは消えてゆく。余韻を残すように花々が消え、そして最後に光が静かに消えた。
会場がしん、と静まり返っている。
フロイド、ジョナサン、ベハティ嬢が、演技を始める前と同じように揃って綺麗な礼をした。
「「「ご覧いただき、ありがとうございました」」」
俺は立ち上がると、渾身の拍手を送る。とっても素敵で楽しい魔法だった。
クラスメイトも皆立ち上がって拍手する。それに漸く観客たちも我に返ったのだろう。皆同じように立ち上がり、歓声と惜しみない拍手を彼らに送っている。魔法には夢があって楽しいものだって、見ている人たちに少しでも知って貰えただろうか。
我らが代表の演技が無事に終わり、肩の力をすっかり抜いて他クラスの演技を見ていれば、これは星を獲ったなと思ったクラスがあった。代表3人が模擬戦として魔法を披露したんだけど、観客を興奮させる派手さを見せながらも、相手を傷つけない微妙な魔力操作が素晴らしかった。
しかもなんと、彼らはパーシヴァルのクラスの代表だったのだ。なるほど、パーシヴァルが誉めていただけある。第一学年でこれだけの腕前だ。将来は魔法師団にと望まれるかもしれないな。
その後も、パーシヴァルのクラスの代表を超える演技は出てこなかった。今年のステッラ賞は間違いなく、パーシヴァルのクラスだろう。
全ての演技が終わり、いよいよステッラ賞発表の時を迎えた。
俺たちは星の期待もないので気楽なもんだ。今年は何処のクラスだろうな? なんて雑談をしながらすっかり穏やかな空気に浸っていた。
「今年も素晴らしい魔法を拝見することができ、実に有意義な時間を過ごさせていただいた。どの演技も素晴らしく、甲乙つけ難い。その中でも、大変素晴らしい魔力操作で演技を見せたクラスがあった」
魔法師団長が総評と共に、今年のステッラ賞を発表する。
「……第一学年Bクラス代表。君たちに星の栄誉を与える」
わっ!と会場が盛り上がる。
Bクラスはパーシヴァルのクラスだ。納得の受賞だな。俺も敬意を込めて拍手を送る。
「そして、今年はもうひとクラスの代表に、星の栄誉を与えたいと思う」
続いた魔法師団長の言葉に会場がざわつく。星の栄誉は毎年ひとクラスと決まっている。なのに、ふたクラスも星の栄誉を賜るなんて異例の事らしい。
「第一学年Cクラス代表。君たちの演技はとても美しかった。おかげで私は、魔法とはこんなにも楽しいものだったと思い出すことができた。ありがとう」
……え? どういうこと?
みんなも何が起きたかわからないといった表情で、顔を見合わせている。
「第一学年、Bクラス、Cクラスの代表の皆さん。こちらへ」
何が起きているのか分かっていない我らがクラスの代表3名は、他のクラスの代表に促され、おずおずと学院長達の前へ歩み出る。
俺にもよくわからないけれど、とにかくCクラスの代表が星を得た。これはめでたいことに間違いないんだから、俺たちは観客席から最高の賛辞と拍手を星を手にした代表に贈る。
予想もしていなかった喜びに湧いた俺たちのクラスだったけれど、審査員の1人オルドリッジ伯爵が星の授与式にいなかった事に最後まで気が付かなかった。
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