キズナチャット

里之子 葱子

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沖明日 (おきあすか)

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黒板にびっしりと張られた紙を見たとき、ああ、全部終わったんだなぁって思った。 


 クラスメイトはざわついている。 

 何が何だか分かってない子も多い。 

 その紙は、暗闇チャットのログだった。 

 グループ結成から、今までのトークルーム画面がずらっと並んでいる。 

 クラスメイトは見慣れたものだっただろう。シルエットではなく、実名と学生証の写真でなければ。 

 暗闇チャットの全ては暴かれていた。誰が何を言ったのか。誰もシルエットではない、双輿女子高校一年A組の人間による言葉が、言い逃れできる余地もなく、全てうつっている。 

 委員長、日野美優は、教卓にあがって言った。何百枚もの証拠の紙を背景に。 

「暗闇チャットを作ったのは私です」 

 皆、信じられないようだった。暗闇チャットは三十九人のグループ。省かれた一人は決まっている。委員長であり、「イインチョ」である日野美優なはずだ。 

「でも、作ったアカウントは沖さんのです。私は、沖さんのスマホを預かってました」 

 暗闇チャットは三十九人。クラスメイト全四十人から一人引かれた人数が所属しているチャット。その一人は見ていないあたしで、委員長は常に監視していた。 

 文字通り、監視していた。 

「新機能ですからね、知らない人も多かったかもしれませんね。知っていても、皆トークルームマスターは神山愛梨さんだと思っていたから悪口言っても大丈夫だと思っていたんでしょう?」 

 思い当たる節がある人は、身じろぎを。分からない人は不安そうに。 

 名前の挙がった神山愛梨は、誰よりも呆然としてた。 

「分かりやすく言うと、シルエットチャットは、グループを作った人には見えるんですよ。誰が何を発言したのか」 

 だから、黒板には証拠が並んでいる。 

 あれは特殊な捜査でもなんでもなく、ただ日野美優が、あたしのアカウントから見た暗闇チャットの光景をスクリーンショットで印刷しただけなのだ。 

「私は、全部見てました。それで、思いました。自分の言葉に無責任な人の発言は、何て軽いんだろうって」 

 日野美優は、紙をクラスメイトに向かってばらまいた。 

 スノードームみたいに、教室に白が舞う。 

「皆さんちゃんと読んでください。自分が何をしたか、しっかりと自覚してください。悪口を言った人間が誰か、ちゃんと把握してください」 

 読めば、分かる。 

 今は闇チャットのように神山愛梨の圧力はない。悪口を言うのも、言わないのも自由なのだ。 

シルエットは暴かれた。それを読めば一目瞭然だ。 


「反省してくださいね、みんな」 


顔の見えてるクラスメイトに、彼女は小さく微笑んだ。 
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