キズナチャット

里之子 葱子

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日野美優 (ひのみゆう)

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グループチャットは、戦いだ。


『それでは双輿女子高校一年A組の、文化祭の出し物についての会議をはじめます!』 

 午後八時定時。 

トークルームに打ち込んだ言葉に、一瞬にして三十九人から反応が来る。 

吹き出しの下に表示される「既読39」という文字。 

取りあえず、全員が出席してくれてることに安堵する。 

『進行役は学級委員長である私が務めさせていただきます。よろしくお願いします』 

『よろしくー』 

 すぐに数人から返信が来る。私と仲がいい子達からだ。他は沈黙しているけれど、全員に好き勝手喋られたら収拾がつかなくなるからそれでいい。チャットを使っているとはいえ、これは会議だ。今日中に決めなくてはならない重要な会議。恙なく進行させることが私の役目。 

 私達A組はクラス会議に、チャットアプリサービス、キズナチャットを活用している。 

普通こういうのは朝礼前や放課後に集まってやるものだ。けれども、A組は会議に対して消極的な子が多く、なかなか集まらなかった。事前に呼びかけても朝礼前なら遅刻するし、昼休みは食堂派が教室にいないし、放課後は用事があると言って早々に帰る子が必ずいた。 

 いつまでも纏まりに欠けるA組を心配してか、担任がクラスのグループチャットを作ってみたら? と提案したのが始まりだった。 

 元々チャットをやっていた人はいたらしいが、既存のアカウントとは別に学校専用のを作らせたところ、参加者は多く、中々の盛り上がりを見せた。 

 教室では関わったことがなかったクラスメイトとも、チャットでなら気軽に話せる、という人も出てきた。チャットの中の交友関係が、教室にも反映されるようになった頃には、いつしかクラスメイト全員のグループチャットになっていた。 

 こんなに集まりがいいならば、会議もここですればいい、という流れになるのは、当然かもしれない。先生からも了承を得て、今に至る。 

 実際、チャットで会議をするのは便利だ。 

 議論の内容が文字として記録されているし、誰が何を発言したかがすぐ分かる。一人ずつ順番に意見を聞いていくのも、教室よりずっと楽だ。顔が見えないから、余計な事に気を回さなくていい。 

 雑談しているクラスメイトに苛立つこともなければ、発言もしないくせに、早く終われって顔に出てる自分勝手な人に気づかなくていい。 

 文字は平等だ。 

 手のひらサイズの画面の中で流れていく言葉は、誰が打っても同じ文字だ。 

 私はその言葉の一つ一つを拾っていって、クラスの意見としてまとめ上げる。 

 今日も会議は恙なく進行している。 

 顔の見えないクラスメイトに、私は小さく微笑んだ。 
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