天上下427

里之子 葱子

文字の大きさ
上 下
3 / 4

3.心音が蜘蛛の糸を垂らすなら、お前はどうすればいいか、分かるよな?

しおりを挟む
天上下心音は焦っていた。
(清人君は何か企んでる。)
心音は確信めいたものがあった。そして、その企みで多くの生徒が犠牲になるであろうことも。だからこそ、絶対に阻止しなければならない。外道院の陰謀を、壊さなければならない。
(今は私の、できることを……!)
この広い天上下学園。バトルロワイアルが始まった今、たった10数人の参加者がすぐにエンカウントする確率は低いものの、用心に越したことはない。天上下心音は数々のすれ違う生徒の思考を読み取り、参加者を探していった。
心音が考えていることは、停戦協定だ。
参加者に停戦を持ちかけ、バトルロワイアル自体を成り立たなくさせる。誰も戦わなければ、死人も出ないし、被害も出ない。
この協定が結ばれる確率は極めて低いことなど、心音とて承知の上だ。
しかし、参加者が皆外道院に捕られている人質のために仕方なく参加しているのだとしたら、本音で言えば外道院の言いなりになって他者を殺すことに積極的ではないはずだ。
だから、皆がそれを望んでいなければ、戦闘が発生しないことがあるかもしれない。
戦局が進まなければ、外道院は人質を使って脅してくるだろうが、それはあくまで脅しだ。貴重な参加者、そして参加者の人質を殺して(壊して)しまえばバトルロワイアルが成り立たなくなる。
参加者がその脅しに屈せず、戦闘が起こらなかったら。
………バトルロワイアルは終了するかもしれない。
(……あまりにも、楽観的な考えだよね)
けれど、他に方法があるだろうか。外道院の言いなりになって、外道院だけが得をするバトルロワイアルを行って、皆が殺し合いをするくらいなら。停戦協定という一縷の望みに賭けた方がまだ、いいのではないか。希望が、あるのではないか。
外道院の高笑いが聞こえる。
幻聴だ。
だが、今頃生徒会室で1人、楽しくバトルロワイアル中継を観ているのは、想像に難くない。殺し合いが始まり、大爆笑している姿も。
(そんなのは、だめだ)
バトルロワイアル初の戦闘が始まってしまう前に、少しでも多くの参加者に強力を求めなくては。


天上下心音はその後、二人の参加者を見つけ、停戦協定を提言した。
本音のところは知らないが、二人は特に否定する様子もなく、その提案をのんだ。

その様子を狐面の少女、赤蜘蛛百合あかぐもゆりは見ていた。
(やはり。外道院の言った通りですね)
本日付けで天上下学園の生徒となった赤蜘蛛は、先日の生徒会室のことを思い出す。
外道院はこのことを予想していた。だから自分にあんなことを言ったのだろう。

「俺はたのしーいバトロワを観たいんだ。だーれもなんにもしない、物語が動かない映画なんて、誰も観たかねぇだろ? けど心音は違う。どうせあいつはアラソウノハヤメテーって言ってくる。停戦協定とかを持ちかけてくるかもしれない。参加者共はな、馬鹿で考えなしだから。もしかしたらそれに応じちまうかもしれねぇ。天から湧いてきた蜘蛛の糸だとでも思って、縋りついちゃうかもしれねぇ。でもな、そんなもんは意味がないんだ。殺し合いってのは、誰か1人でもヤっちまえば、自ずと起こっちゃうもんなんだよ。そうなったら止められない。誰だって自分が死ぬのは嫌だろ? そのために戦うんだ。……戦争だよ」
――心音が蜘蛛の糸を垂らすなら、お前はどうすればいいか、分かるよな? 赤蜘蛛。

(殺したい相手は、決まっているんですけどね)
そのために、天上下学園に入学し、外道院と契約したのだ。
因縁の相手――。
しかしずっと探しているものの、見当たらない。
赤蜘蛛は溜息をついた。
(まぁ、今はいいでしょう。とりあえず外道院に言われた通りに動くとしましょう。……あら、あれは?)
外道院から事前に貰った参加者の一覧。
その中でも目立つとある存在が目に入った。
(えっと、彼の能力は……)
プロフィール資料に目を通す。
そのデータを見て、赤蜘蛛は固まった。

『能力:切れ痔にする』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

処理中です...