マッシヴ様のいうとおり

縁代まと

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第四章

第105話 村にて再会

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 火山への道のりは長い。
 森を抜けてからの移動は魔力に余裕のある内は伊織のバイクで行ない、休ませるためのインターバルは徒歩で進んだが、ヨルシャミの体調も鑑みて休憩することも多かった。
 七人の大所帯となったためバイクも移動時は左右にサイドカーというとんでもない状態になっている。これがまた魔力を消費するのだ。
 ヨルシャミ曰く、これは質量の加減よりもバイクが元の『バイク』の形状から離れるほど魔力消費が激しくなっているのではないか、とのことだった。

 サルサムたちの持つ転移魔石の使用にも少し難点がある。
 研究員たちを突き出した街はサルサムの知っている場所だったが、知らない場所の場合は座標指定だけで転移設定をしなくてはならない。これにも慣れてきたものの、人数が多い状態で行なうのはまだ経験が浅くどうなるかわからないらしい。
 加えて充填する魔力はヨルシャミ頼みであるため、これもヨルシャミの体調が戻ってからの方がいいだろうということになった。
(あと人工の転移魔石は転移時に気分が悪くなるんだっけ……)
 サルサムから受けた説明を思い返しながら伊織は道を歩いていた。
 車酔い程度から嘔吐するまで感じ方は人それぞれらしく、これにより体調が更に悪化しては元も子もない、ということで現在は転移魔石の使用を諦めている。全員憂いのない時に試してみようということで落ち着いたところだ。
 ちなみに街へ飛ぶ際サルサムに同行したリータは少しめまいを感じた程度だったという。


 現在向かっているのは火山の最短ルート上にある小さな村。
 そこからまた山々が控えているため、ここで少し体を休めようということになった。
 施設を離れてから二日が経とうとしている。ヨルシャミの視力も当初よりは戻ってきたが、まだバイクに乗ろうとして切り株に腰掛ける等とんでもないミスをすることがあった。
 このまま元に戻らなかったらどうしよう……と心配しているのは他人ばかりで、当のヨルシャミ本人はあっけらかんとしているが。
「……あ! 目的の村ってあれだろ!」
 静夏の次に身長の高いミュゲイラが、その視界に家々を見つけて指をさした。
「よし、ではあそこで宿を借りられるか訊ねてみよう」
「ちっさい村っすけど宿屋ありますかね?」
「なければ村人と交渉、だな」
 もし宿屋がなくても今まで通り野宿をしつつ物資の補給くらいはできるかもしれない。

 一行は一歩一歩確実に前へと進み、伊織たちの視界にも村が入ったのはそれから程なくしてからだった。

     ***

 村には普段は住民が住居として使用している宿屋があった。
 どうやら山を越えるのにトンネルが掘られているらしく、それ目当てに時折旅人が訪れるのだという。
 住居として使用しているのはオーナーの一家の娘で、宿屋として使わない時でも家屋として手入れをするには住むのが一番手っ取り早いそうだ。宿泊施設として使用している間は別にある家族の住む家に戻るか、余っている部屋を使うので支障はないらしい。

 そんな宿屋は現在一人が部屋を使っている以外は客はおらず、全部で三部屋あるためとりあえず男女で部屋を分けようという話になった。

「……で、なんでヨルシャミがこっちにいるんだ?」

 宿の一室にて、四つあるベッドの内の一つに腰掛けたヨルシャミを見ながらバルドが言う。
 当然のように自分の荷物を整理し始めていたヨルシャミは首を傾げた。
「ああ、見目を気にしているのか? 中身はお前たちと同じ男だ、気にするな。それにそもそも今まで全員で寝起きしていたのだ、何を心配することがある」
「うーん……なんか絵面がアレなんだが、まあ本人がいいならいいか……」
 バルドは眉間を押さえながら呟く。
 女好きではあるものの、年齢が対象外なのかはたまた中身が男なせいか、バルドからヨルシャミへの食いつきは弱い。
 サルサムは元から気にしておらず、伊織は慣れてしまったため支障はなかった。この中で気にしていたのがバルドのみというのも奇妙な光景である。
「そうだ、食事は付かないらしいんで買い出しに行ってきます。何かリクエストありますか?」
「肉が欲しいな! 捌く必要があるならするぜ!」
「道中は栄養が偏りがちだからな、野菜類もあれば頼む」
「私は久しぶりに甘い果物が食べたい。こないだ森の中で食べたやつのクドい味を上書きせねば……」
 森を抜ける前にブルーベリーのような実を見つけ、フォレストエルフ陣の「毒はない」というお墨付きのもと口にしたのだが、如何せん味が甘みと苦みの間を行ったり来たりした後に苦みにタックルをかましたような味――つまり後味最悪だったため、未だにその味が舌についているようで嫌なのだという。
 ちなみに実の洗礼は伊織も受けた。

 伊織は三人に荷物の整理や食料以外に必要なもののリストアップ作業を頼み、カバンを持って部屋から出る。
 ウサウミウシは部屋のベッドで寛いでいたため留守番である。久しぶりに軽いカバンはなんだか違和感があった。
 静夏らにも買い物のリクエストを聞き、これくらいなら一人でも大丈夫だと手伝いを断って宿屋の外へ足を進める。

「あ」
「えっ」

 その出入口で出くわしたのは赤い髪に銀色の瞳の少年――どう見てもロストーネッドで別れたはずのネロだった。
 お互い一音だけ発したまま固まり、何をどう口に出そうか逡巡する。
 先に口を開いたネロは伊織の両肩を掴んで言った。
「――っなんでまだここに居るんだよ!?」
「へ……?」
 施設を潰すという寄り道。
 そんなこと露ほども知らないネロは伊織たちを追うべく旅路を急ぎ、今朝ここに到着したところだった。明日には経って早く追いつかなくてはならない。そう焦燥感に駆られていたというのに、追っていた対象がなぜか自分の泊っている宿屋から出てきた。
 ネロはパニックに陥っていたが、そんな事情を知らないのは伊織も同じで、結果的にふたりして妙な声を上げるしかなかったのだった。
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