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お祖父様攻略編
第59話 少し話せるかい?
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しばらくは平穏な時間が続いた。
お祖父様はパーティー後も相変わらず離れに隠居していたけれど、レッスンを機にお菓子を持って行ったり、実際のデビュタントパーティーはどんな雰囲気なのか訊ねに行ったりしても追い返されることはなかった。
おかげですこぶる元気な様子を見せることができたわ。
……効果がどれくらい出ているのかは今のところわからないけれど。
寮へと戻ったレネのもとにも以前のように通い、少ないながらも情報を交換した。
本人にそのつもりはなかっただろうけど、ある意味お目付け役としてあの場にいたアルノルドさんは上へなにかを報告をすることはなかったらしい。
つまりお祖父様が怪しい動きを見せることはなかったということね。
ただし、それはパーティー会場内でのことだけ。
私が見かけた時のように、ひと気のない中庭に出た時はアルノルドさんの目からも外れることになる。
ちょっと危険な橋を渡ってしまったね、とレネは言っていたけれど、だからといってさすがにレネにお手洗いにまで同行してもらうことは難しかったと本人も理解しているのか、それ以上なにかを言われることはなかった。
ただなにかしら理由を付けてお姉様に一緒に来てもらえば良かったなと今更ながら思っている。
――会場でも少しは考えたことだけれど、切り分けられたメイメイ鳥を美味しそうに食べているお姉様が可愛ッ……もとい、そんなお姉様にお願いするのが憚られたのよね。
(デビュタントパーティーでも似たパターンがありそうだし、なんらかの対策を考えておいた方が良さそうね。恐らくパーティーにお祖父様は同行しないけれど……)
なにもお祖父様が直接手を下すとは限らない。
かつてお姉様が計画していたように、暗殺を人に頼むというパターンもありえる。
ただし可能性が高いのはデビュタントパーティーより前だ。その時期を絞るためにデビュタントを早めたんだもの。
そう色々と考えながら廊下を歩いていると、ついさっき通り過ぎたドアがカチャリと開いた。
そこからお父様が顔を出して私に手招きしている。あそこはお父様の部屋だわ。
「どうしました?」
「急にごめんよ、ヘルガ。少し話せるかい?」
いつになく真剣な表情だった。
私は頷き、お父様が開けて待っていてくれていたドアから中へと入った。部屋の作りは以前とまったく変わっていない。
お父様は私にイスへ座るよう伝えてから窓を開けて外を確認し、そして極力音をさせないように閉めてからカーテンを引く。
いつもはうっかりした部分のあるお父様だけれど、その動きに無駄はない。
私の向かい側に腰を下ろしたお父様は「変なことを訊ねるが、素直に答えてほしい」と前置きした。
も、もしかしてレネのことかしら。
誕生日パーティーにまでお呼ばれしたから心配症なお父様はずっと悩んでいたのかも。その、私がアルバボロス家に嫁ぐんじゃないかとか、そういうことを。
取り越し苦労だと言おう。
そう思っているとお父様は予想外の質問を口にした。
「ヘルガ、君は……お義父さんと何かトラブルでもあったのか?」
思わず肩が跳ねそうになる。
お父様が『お義父さん』と呼ぶのはもちろんイベイタスお祖父様のことだ。
もしかしてお祖父様が私の命を狙っているとバレてしまった……?
バレたら家族全員で仲良く暮らす夢が叶わなくなってしまう。
そう返答に困っているとお父様は話を続けた。
「……パーティーに行ったあの時、中庭でお義父さんたちが話していたんだ。ヘルガが忌み子であることは忘れてはならないって」
「あ、あの距離で聞こえてたんですか!?」
「いや、だが口の形で把握はできる」
ツテといい読唇術といい、やっぱりお父様ってば只者じゃないわね……。
兎にも角にもお父様はお祖父様たちの話を口の動きで知り、その内容から私たちの間になにかあったんじゃないかと心配していたらしい。
そしてその様子からお父様はヘーゼロッテ家における『忌み子』がなにを指すのか詳しくは知らないようだった。
同じく忌み子と言われていたイレーナ。
そんな彼女と同じように私を見せしめで殺す、というのは私が妹という立場だからこそであり、忌み子云々は主な理由じゃない。
もしかすると多少は耳にしていたかもしれないけれど、ヘーゼロッテ家が隠してきたそれを貴族という地位から落ちたお父様たちの一族は暴けなかったんじゃないかしら。
私は引き攣る喉へ慎重に空気を送りながら笑った。
また最初のようにお祖父様が不用心に話したせいでこっちは大変だわ。
つい口にしたくなるくらいお祖父様もいっぱいいっぱいなのかもしれないけれど。
「なに言ってるんですか、お祖父様とは仲良くしてますよ。先日なんて持っていったクッキーに合うお茶を選んでくださったんです」
「だが……」
「それにほら、忌み子って響きは気になりますけど……同じ音とか、似た音をした別の単語かもしれませんよ?」
この場は誤魔化そう。
心配してくれたお父様には悪いし心苦しいけれど、私はその選択肢を選んだ。
お父様はまだ眉を下げていたものの、私が気にしていないと知ると腰を浮かせかけていた体勢を正す。しかし話はそこで終わらなかった。
「もしそうだとしても、お義父さんにはしばらく近づかない方がいいかもしれない」
「なぜですか?」
あまりにも心配しすぎじゃないかしら。
そう疑問に思っていると、お父様は言いづらそうにしながら口を開いた。
「裏社会のツテから話が入ってきてね。――ヘーゼロッテ家の使いを名乗る者が、お義父さんの注文としてあるものを買っていったらしいんだ」
「あるもの……」
「ヘルガも見たことがあるだろう」
お父様は僅かに目を伏せ、私と同じ色の睫毛の向こうからこちらを見る。
そしてはっきりと言った。
「アニエラが使った禁薬と同種の薬だよ」
お祖父様はパーティー後も相変わらず離れに隠居していたけれど、レッスンを機にお菓子を持って行ったり、実際のデビュタントパーティーはどんな雰囲気なのか訊ねに行ったりしても追い返されることはなかった。
おかげですこぶる元気な様子を見せることができたわ。
……効果がどれくらい出ているのかは今のところわからないけれど。
寮へと戻ったレネのもとにも以前のように通い、少ないながらも情報を交換した。
本人にそのつもりはなかっただろうけど、ある意味お目付け役としてあの場にいたアルノルドさんは上へなにかを報告をすることはなかったらしい。
つまりお祖父様が怪しい動きを見せることはなかったということね。
ただし、それはパーティー会場内でのことだけ。
私が見かけた時のように、ひと気のない中庭に出た時はアルノルドさんの目からも外れることになる。
ちょっと危険な橋を渡ってしまったね、とレネは言っていたけれど、だからといってさすがにレネにお手洗いにまで同行してもらうことは難しかったと本人も理解しているのか、それ以上なにかを言われることはなかった。
ただなにかしら理由を付けてお姉様に一緒に来てもらえば良かったなと今更ながら思っている。
――会場でも少しは考えたことだけれど、切り分けられたメイメイ鳥を美味しそうに食べているお姉様が可愛ッ……もとい、そんなお姉様にお願いするのが憚られたのよね。
(デビュタントパーティーでも似たパターンがありそうだし、なんらかの対策を考えておいた方が良さそうね。恐らくパーティーにお祖父様は同行しないけれど……)
なにもお祖父様が直接手を下すとは限らない。
かつてお姉様が計画していたように、暗殺を人に頼むというパターンもありえる。
ただし可能性が高いのはデビュタントパーティーより前だ。その時期を絞るためにデビュタントを早めたんだもの。
そう色々と考えながら廊下を歩いていると、ついさっき通り過ぎたドアがカチャリと開いた。
そこからお父様が顔を出して私に手招きしている。あそこはお父様の部屋だわ。
「どうしました?」
「急にごめんよ、ヘルガ。少し話せるかい?」
いつになく真剣な表情だった。
私は頷き、お父様が開けて待っていてくれていたドアから中へと入った。部屋の作りは以前とまったく変わっていない。
お父様は私にイスへ座るよう伝えてから窓を開けて外を確認し、そして極力音をさせないように閉めてからカーテンを引く。
いつもはうっかりした部分のあるお父様だけれど、その動きに無駄はない。
私の向かい側に腰を下ろしたお父様は「変なことを訊ねるが、素直に答えてほしい」と前置きした。
も、もしかしてレネのことかしら。
誕生日パーティーにまでお呼ばれしたから心配症なお父様はずっと悩んでいたのかも。その、私がアルバボロス家に嫁ぐんじゃないかとか、そういうことを。
取り越し苦労だと言おう。
そう思っているとお父様は予想外の質問を口にした。
「ヘルガ、君は……お義父さんと何かトラブルでもあったのか?」
思わず肩が跳ねそうになる。
お父様が『お義父さん』と呼ぶのはもちろんイベイタスお祖父様のことだ。
もしかしてお祖父様が私の命を狙っているとバレてしまった……?
バレたら家族全員で仲良く暮らす夢が叶わなくなってしまう。
そう返答に困っているとお父様は話を続けた。
「……パーティーに行ったあの時、中庭でお義父さんたちが話していたんだ。ヘルガが忌み子であることは忘れてはならないって」
「あ、あの距離で聞こえてたんですか!?」
「いや、だが口の形で把握はできる」
ツテといい読唇術といい、やっぱりお父様ってば只者じゃないわね……。
兎にも角にもお父様はお祖父様たちの話を口の動きで知り、その内容から私たちの間になにかあったんじゃないかと心配していたらしい。
そしてその様子からお父様はヘーゼロッテ家における『忌み子』がなにを指すのか詳しくは知らないようだった。
同じく忌み子と言われていたイレーナ。
そんな彼女と同じように私を見せしめで殺す、というのは私が妹という立場だからこそであり、忌み子云々は主な理由じゃない。
もしかすると多少は耳にしていたかもしれないけれど、ヘーゼロッテ家が隠してきたそれを貴族という地位から落ちたお父様たちの一族は暴けなかったんじゃないかしら。
私は引き攣る喉へ慎重に空気を送りながら笑った。
また最初のようにお祖父様が不用心に話したせいでこっちは大変だわ。
つい口にしたくなるくらいお祖父様もいっぱいいっぱいなのかもしれないけれど。
「なに言ってるんですか、お祖父様とは仲良くしてますよ。先日なんて持っていったクッキーに合うお茶を選んでくださったんです」
「だが……」
「それにほら、忌み子って響きは気になりますけど……同じ音とか、似た音をした別の単語かもしれませんよ?」
この場は誤魔化そう。
心配してくれたお父様には悪いし心苦しいけれど、私はその選択肢を選んだ。
お父様はまだ眉を下げていたものの、私が気にしていないと知ると腰を浮かせかけていた体勢を正す。しかし話はそこで終わらなかった。
「もしそうだとしても、お義父さんにはしばらく近づかない方がいいかもしれない」
「なぜですか?」
あまりにも心配しすぎじゃないかしら。
そう疑問に思っていると、お父様は言いづらそうにしながら口を開いた。
「裏社会のツテから話が入ってきてね。――ヘーゼロッテ家の使いを名乗る者が、お義父さんの注文としてあるものを買っていったらしいんだ」
「あるもの……」
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