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お祖父様攻略編
第55話 良い思い出になってしまう
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お祖父様が用意してくれたのはクッキーと綺麗な紺色のお茶だった。
このお茶はリラックス効果のある花を乾燥させて作ったもので、街でも流行っているので怪しいものじゃない。
クッキーは数種類あり、プレーンからショコラ、イチゴジャムの入ったものからナッツのまぶされたものまで様々だ。
私にアレルギーはないのでどれも毒にはなりえない。
隣の席に座ったお姉様は久しぶりに会うお祖父様に緊張していたけれど、クッキーをひとつ摘まんで食べると「とても美味しいです」と笑みを浮かべた。
「甘いのにお茶の味を邪魔しない上品な味ですね」
「そうか、マクベスに任せたが気に入ったか」
良かったと言いながらお姉様に笑みを向けたお祖父様を眺めつつ、私もなるべく大きなクッキーを手に取った。
そのクッキーの陰に潜ませたのは小さなアリだ。
この子はついさっき私が影から作り出したもので、念のための毒見役だった。
お菓子とアリという取り合わせはなんともそわそわしてしまうけれど、万一アリが付いていることを指摘されても払い落とすふりをして消せるので抜擢した。
さすがにお祖父様もマクベスも落ちたアリを探し出して調べるような真似はしないはずよ。
そして見失ったまま見つからなくても違和感はない。適役だわ。
恐る恐る影のアリにクッキーの破片を齧らせると、アリはケロッとしていた。
ひとまず即死するような毒は仕込まれてないみたいね。
そう安堵しつつクッキーを口に含む。お姉様の言っていた通り上品な甘さで、しつこくないので何枚でも食べれそうな味だった。
さすがお姉様! 細やかな味の差も感じ取れる最高の舌だわ!
「ちょっとヘルガ、なんでクッキーを食べて目を輝かせながら見るのが私なのよ」
「ハッ! すみません、思わずお姉様の味覚を心の中で称賛してました……!」
「本当になんでそうなるの!?」
思わずといった様子でツッコんだお姉様は目の前にお祖父様がいることを思い出したのか、そそくさと姿勢を正すと笑って誤魔化した。
そういうところも大変可愛らしい。
……と思っていることも見抜かれたのか視線で注意されたので、私もお茶を頂くことにした。
お茶もカップを持つ際に指の陰にアリを潜ませ、なるべくお祖父様たちの死角になる位置で内側にひっつかせてお茶を毒見してもらう。
このお茶は同じカップから全員分注がれたものなので危険性は低いだろうけれど、もしここでなにかあればレネを心配させてしまうので慎重に行なった。
アリはアリでも影のアリなので熱を持ったカップや湯気も気にせず進んでいく。
そしてお茶を啜っ……た? 啜ったわよね?
小さくて見づらいけど目的を果たしたらしいアリは触角をぴょこぴょこ動かしてこちらを見上げている。
特に苦しむ様子は見られない。お茶もセーフみたいだわ。
こうしてひとつひとつチェックすることで安全確認はバッチリだった。
ただし――
(し、終始見られてるからやりづらい……!)
――そう、お祖父様の命令で待機しているマクベスがずっとこちらの様子を窺っているから、そんな彼に不自然に思われないよう細心の注意が必要だった。
従者は主人の様子を逐一見守り、要望に応えることが仕事なので視線を外さないのも自然なことだ。
もちろんマクベスの主人はお祖父様だけれど、そのお祖父様が私たちをもてなすように言っているのだからこちらを注視するのも当たり前のことよね。
それにしてもやりづらいわ。
私の侍女たちはここまでガチガチじゃなくて私がリラックスできるよう自然に接してくれているし、見られていても気にならないのだけれど……マクベスは接する機会が少ないから仕方ないとはいえ、見張られているレベルよねこれ。
(それともお祖父様の命令で本当に見張られてる? これは更に慎重に進めたほうがいいわね)
そう思いつつも、優雅な動きでお茶を飲むお姉様を見ていると気が緩んでしまう。
無意識に見惚れているとお祖父様が口を開いた。
「メラリァとヘルガはどうだ、最近仲良くしているのか?」
そう問われて私より緊張したのはお姉様だった。
――そう、お姉様が私に殺意を抱いた時、その殺害計画の後押しをしたのはお祖父様だ。家族の中で唯一お姉様の本心を知っているのがお祖父様で、そんな人から最近の仲を訊かれれば緊張もするわよね。
私たちにとってはもう何年も前のこと。
お祖父様の中では子供のたわ言として処理されているかもしれない。
それでもお姉様は固い表情で答えた。
「……世話のかかる、危なっかしい妹です。よく悩みの種にもなってますね」
「お姉様……」
「でもその性格に救われたこともありますし、な、仲が悪いとは思っていません」
「お姉様……!!」
その場でハグしそうになり「そういうところよ、そういう!」とたしなめられる。
でも不意打ちでこんなデレを浴びせられたら理性が働くより先に体が動くってものだわ!
力説するとお姉様はうんざりしつつも頬を赤らめて「はいはい」と目を逸らした。
うーん、良いものを見れたわ。
そう思っているとお祖父様が腕を組む音が聞こえた。
「そうか、――ここしばらく家族のことを見る機会がめっきり減ってしまったからな、姉妹仲が良いのはとてもいいことだ。これからも仲良く過ごしなさい」
私はお祖父様の真意を知っている。
そんな私が真意を知っているとお姉様も把握している。
ふたりして緊張してしまったけれど、それは久しぶりに会う祖父と孫の間になら生じてもおかしくない程度のもので、すぐにハッとして「もちろんです!」と頷いた。
「私、お姉様が結婚したり自分のやりたいことを叶えるまで――いいえ、叶えた後もしっかり見守りますね!」
これはお祖父様へのちょっとした宣戦布告だ。
ささやかだけれど、私がこれからの未来を見据えて生きようとしていることを伝えたかった。そんな思いで発した言葉にお姉様が小さく咳払いをする。
「あなた本当に馬鹿ね、……それはこっちのセリフよ」
もしかすると命の危険が伴うかもしれないお茶会。
――それでもこんなデレを連発されると良い思い出になってしまう、私はそう身を以て知ったのだった。
このお茶はリラックス効果のある花を乾燥させて作ったもので、街でも流行っているので怪しいものじゃない。
クッキーは数種類あり、プレーンからショコラ、イチゴジャムの入ったものからナッツのまぶされたものまで様々だ。
私にアレルギーはないのでどれも毒にはなりえない。
隣の席に座ったお姉様は久しぶりに会うお祖父様に緊張していたけれど、クッキーをひとつ摘まんで食べると「とても美味しいです」と笑みを浮かべた。
「甘いのにお茶の味を邪魔しない上品な味ですね」
「そうか、マクベスに任せたが気に入ったか」
良かったと言いながらお姉様に笑みを向けたお祖父様を眺めつつ、私もなるべく大きなクッキーを手に取った。
そのクッキーの陰に潜ませたのは小さなアリだ。
この子はついさっき私が影から作り出したもので、念のための毒見役だった。
お菓子とアリという取り合わせはなんともそわそわしてしまうけれど、万一アリが付いていることを指摘されても払い落とすふりをして消せるので抜擢した。
さすがにお祖父様もマクベスも落ちたアリを探し出して調べるような真似はしないはずよ。
そして見失ったまま見つからなくても違和感はない。適役だわ。
恐る恐る影のアリにクッキーの破片を齧らせると、アリはケロッとしていた。
ひとまず即死するような毒は仕込まれてないみたいね。
そう安堵しつつクッキーを口に含む。お姉様の言っていた通り上品な甘さで、しつこくないので何枚でも食べれそうな味だった。
さすがお姉様! 細やかな味の差も感じ取れる最高の舌だわ!
「ちょっとヘルガ、なんでクッキーを食べて目を輝かせながら見るのが私なのよ」
「ハッ! すみません、思わずお姉様の味覚を心の中で称賛してました……!」
「本当になんでそうなるの!?」
思わずといった様子でツッコんだお姉様は目の前にお祖父様がいることを思い出したのか、そそくさと姿勢を正すと笑って誤魔化した。
そういうところも大変可愛らしい。
……と思っていることも見抜かれたのか視線で注意されたので、私もお茶を頂くことにした。
お茶もカップを持つ際に指の陰にアリを潜ませ、なるべくお祖父様たちの死角になる位置で内側にひっつかせてお茶を毒見してもらう。
このお茶は同じカップから全員分注がれたものなので危険性は低いだろうけれど、もしここでなにかあればレネを心配させてしまうので慎重に行なった。
アリはアリでも影のアリなので熱を持ったカップや湯気も気にせず進んでいく。
そしてお茶を啜っ……た? 啜ったわよね?
小さくて見づらいけど目的を果たしたらしいアリは触角をぴょこぴょこ動かしてこちらを見上げている。
特に苦しむ様子は見られない。お茶もセーフみたいだわ。
こうしてひとつひとつチェックすることで安全確認はバッチリだった。
ただし――
(し、終始見られてるからやりづらい……!)
――そう、お祖父様の命令で待機しているマクベスがずっとこちらの様子を窺っているから、そんな彼に不自然に思われないよう細心の注意が必要だった。
従者は主人の様子を逐一見守り、要望に応えることが仕事なので視線を外さないのも自然なことだ。
もちろんマクベスの主人はお祖父様だけれど、そのお祖父様が私たちをもてなすように言っているのだからこちらを注視するのも当たり前のことよね。
それにしてもやりづらいわ。
私の侍女たちはここまでガチガチじゃなくて私がリラックスできるよう自然に接してくれているし、見られていても気にならないのだけれど……マクベスは接する機会が少ないから仕方ないとはいえ、見張られているレベルよねこれ。
(それともお祖父様の命令で本当に見張られてる? これは更に慎重に進めたほうがいいわね)
そう思いつつも、優雅な動きでお茶を飲むお姉様を見ていると気が緩んでしまう。
無意識に見惚れているとお祖父様が口を開いた。
「メラリァとヘルガはどうだ、最近仲良くしているのか?」
そう問われて私より緊張したのはお姉様だった。
――そう、お姉様が私に殺意を抱いた時、その殺害計画の後押しをしたのはお祖父様だ。家族の中で唯一お姉様の本心を知っているのがお祖父様で、そんな人から最近の仲を訊かれれば緊張もするわよね。
私たちにとってはもう何年も前のこと。
お祖父様の中では子供のたわ言として処理されているかもしれない。
それでもお姉様は固い表情で答えた。
「……世話のかかる、危なっかしい妹です。よく悩みの種にもなってますね」
「お姉様……」
「でもその性格に救われたこともありますし、な、仲が悪いとは思っていません」
「お姉様……!!」
その場でハグしそうになり「そういうところよ、そういう!」とたしなめられる。
でも不意打ちでこんなデレを浴びせられたら理性が働くより先に体が動くってものだわ!
力説するとお姉様はうんざりしつつも頬を赤らめて「はいはい」と目を逸らした。
うーん、良いものを見れたわ。
そう思っているとお祖父様が腕を組む音が聞こえた。
「そうか、――ここしばらく家族のことを見る機会がめっきり減ってしまったからな、姉妹仲が良いのはとてもいいことだ。これからも仲良く過ごしなさい」
私はお祖父様の真意を知っている。
そんな私が真意を知っているとお姉様も把握している。
ふたりして緊張してしまったけれど、それは久しぶりに会う祖父と孫の間になら生じてもおかしくない程度のもので、すぐにハッとして「もちろんです!」と頷いた。
「私、お姉様が結婚したり自分のやりたいことを叶えるまで――いいえ、叶えた後もしっかり見守りますね!」
これはお祖父様へのちょっとした宣戦布告だ。
ささやかだけれど、私がこれからの未来を見据えて生きようとしていることを伝えたかった。そんな思いで発した言葉にお姉様が小さく咳払いをする。
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