上 下
46 / 48
お祖父様攻略編

第46話 アルトフットの観光=○○○

しおりを挟む
 アルトフットは栄えた街で、私が住んでいる街とはまた違った雰囲気だった。

 大通りの石畳は大小様々な大きさを組み合わせて作られており、まるで綺麗にはまったパズルを見ているかのようだ。
 左右に並んでいるのはレンガ色や辛子色をした壁の住宅で、全体的に落ち着いた色合いをしているのにモノトーンではないので温かな気持ちになる。
 ここから細い路地を覗くと石のアーチが所々に見えた。
 上が歩道橋のようになっているらしい。

「この辺りはまだ住宅街なんだ。もう少し進むと色々な店が増えてくるから、もし気になるところがあったら言ってね」
「ありがとう、レネ。……それにしても綺麗な石畳ね、うちは均一な形をしたものばかりだから目新しいわ」

 今まさに自分の真下にも敷き詰められている石たちを見下ろす。
 前世視点で見れば故郷も十分異国情緒溢れてるのだけれど、ここはここで異なる異国情緒に溢れていた。石畳ひとつ取ってもそう思うほどに。
 レネは足元を靴でコンコンと叩く。

「何代か前の領主が舗装したんだ。それまでは未舗装の道だったんだけれど、交易が盛んになると馬車の往来も増えて道が荒れたらしい」
「あぁ、なるほど……」
「ただその頃の領主は芸術家を何人か支援していた……パトロンになっていたそうだから、こういう目を楽しませるものが好きだったんだろうね。僕も好きな部分だ」

 だから褒めてもらえて嬉しいよ、とレネは笑みを浮かべた。
 個人の趣味でも今なお人の目を楽しませていて、しかも交易の助けにもなっているなんて素敵だわ。
 うちの領地にもこんな道が欲しいけれど――費用も馬鹿にならないだろうから、今はまだスラムを更に縮小させて働き手と働き口を増やすことに注力しなきゃいけないので、叶えられるとしても大分先になりそうだった。
 お姉様が家を継ぐのかお父様のような婿養子を取るのかはまだわからないけれど、未来のヘーゼロッテ家の当主が上手くやってくれることを祈るわ。

 その補佐をするために私も学べることは学びたい。
 アルバボロス領からも沢山見て学ぼう。

 ……と思っていたのだけれど、その後現れた様々な店の連なる通りに目を奪われ、レネお勧めの店を巡っている間に私は普通に楽しんでしまっていた。
 名物の製法についてとか訊くべきだったのに! と後悔しているとレネがくすくすと笑った。

「今日はホントに羽を伸ばしてもらうだけのつもりで誘ったから、それでいいんだよ」
「けど……」
「それに今回が最後じゃない。君はちゃんと生き残って、そしてまたここへ遊びに来てくれる。だろ?」

 だからその時にまたしっかりと勉強しようよ、とレネは言う。
 ――そうね。それにレネは私を楽しませようとしてくれてるんだもの、こっちも目一杯楽しむのがマナーってものだわ。
 頷いた私にレネはジュースの専門店でテイクアウトしたオレンジジュースを差し出す。
 お礼を言って受け取り、一口飲むと甘くてとても濃かった。果汁100%で搾りたてだそうだ。

「小さい頃から好きなジュースなんだ。他の味も美味しいから今度また来よう」
「……! ええ、もちろん!」
「よかった。それじゃあ次は……店先で食べれるパン屋はどう?」

 丁度お腹が空いてきた頃合いだわ。
 このタイミングで切り出すなんてレネってば案内のプロね……!
 こくこくと頷くと、その勢いがさっきより激しいのが面白かったのかレネは肩を揺らしてパン屋へと連れて行ってくれた。

     ***

 それから向かったパン屋ではレネの言っていた通り店先にテーブルとイスがあり、焼き立てのパンを買ってすぐ食べれるようになっていた。
 持ち込みもOKだったので先ほどレネが買ってくれたオレンジジュースと一緒にチョココロネを頂いたのだけれど、オレンジとチョコの相性が良くて危うくおかわりするところだったわ。

 この後普通に昼ご飯も食べる予定だから、我慢は必要よね……!

 あと驚いたのが絵画を扱うお店が数軒あったこと。
 しかも高級店だけでなく庶民でも買える値段で絵を扱う店もあった。
 これも数代前の領主がパトロンになったおかげで様々な画家が育ち、それが今も受け継がれているからだという。
 大々的な広報はしてないそうだけど、アルトフットは芸術の街と言っても差し支えないわね。

 レネは「いつかヘルガの絵を描いてもらいたいな」なんて言っていたけれど、一体どこに飾る気なのかしら……。
 私も家族全員で描かれた絵が欲しいから、これも『いつか叶えたい夢』に加えておこう。

 それから手作業で宝石を研磨する作業を見学できる宝石店や、ペット服まで扱っている服屋、なんと店長が直々に狩った動物を使った革製品の店など色々な場所へ顔を出した。
 正直言ってすべての店を見て回りたかったけれど、それじゃ何回日が昇っても足りなさそうだ。

 まあ……これも再び訪れることで、いつかは満たせるかもしれないわね。

 最後にグリルチキンが美味しいという店で食事を終え、退店する際にスタッフさんが「この後もデートを楽しんでくださいね」と笑顔で見送ってくれた。
 その言葉に思わずきょとんとしてしまう。
 デートではない、のだけれど、いや確かに二人でこうして出歩いて遊ぶのはデート……と言えるのかしら?

 私はレネとデートをしてた?

 そう自覚した瞬間、焦燥感とはまた違ったそわそわとした感覚が心の中から湧き出した。
 なんだか罪を犯したような、けれど別に罪なんかじゃない、そんな上手く言葉にできない気持ちだわ。
 とりあえず咳払いをしてレネを見る。

「ご、ごめんなさいね、案内してもらったせいで変な誤解をされちゃって」
「望むところだよ」

 だからどういう意味!?
 レネが度々思わせぶりな態度を取るから心臓がおかしくなりそうだわ。
 貴族の嗜みなんだろうけれど他の女の子にもこんな感じなのかしら、寮には夜に行くから男子生徒以外にどう接してるか見たことないのよね。

 あまり真に受けると痛い目に遭いそうだし、そもそも私の精神は年上だし、だからといって変に指摘して協力者としての関係がギクシャクしてもいけないので、ひとまず「あ、ありがとう」と笑っておいた。

 ……選択肢としては間違ってなかったと思いたいところだわ。

 そんなこんなでレネの案内によるアルトフットの観光は幕を閉じた。
 次の目標は決まっている。
 それに向けて気を引き締め直さないといけないけれど――そう。そんな必要が出るほど羽を伸ばさせてくれたレネには、本当に感謝しかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

処理中です...