ヘーゼロッテ・ファミリア! ~公爵令嬢は家族3人から命を狙われている~

縁代まと

文字の大きさ
上 下
21 / 56
お父様攻略編

第21話 現在の情報、過去の情報

しおりを挟む
 私とレネは前回と同じように部屋で遊ぶという建前を使った。
 またしてもこちらへ向けられたお母様たちの温かい視線が気になったけれど、子供を見守る親がふたりも揃えばああなる……のかしら?

 なにはともあれ、順調に部屋へと移動できた私たちはそれぞれ得た現段階の情報を出し合った。

 私は突き止めた手紙のやりとりの手段と、お父様の行動パターンについて。
 ひきだしの鍵の場所は特定できていないけれど、鍵のある場所ではなく『鍵のない場所』はわかったので直接入った時に探しやすくなったことも伝える。
 レネは例のツテを使って掻き集めた情報を紙に書き出したものを見せてくれた。
 前にも感じたけどプレゼンの才能あるわね……。

「貴族間の噂話は友人たちから、あと過去の事件に関しては探偵に依頼した分と新聞社に探りを入れた分がある」
「わあ、凄いわね」
「で、これだけじゃ情報が玉石混交だったから、関係ありそうなものを整理して纏め直しておいたよ。ほら、これ」
「ホントに凄いわね!?」

 素直に賞賛するとレネは嬉しそうな、そしてくすぐったそうな顔をした。
 これくらい優秀なら褒められ慣れてそうだけど、そうでもないのかしら?

 そう照れくさそうにされるとこっちもくすぐったくなる。
 照れ隠しついでに「褒められ慣れてないの?」と半分冗談のように訊ねると、レネは「そうかもしれないね」と笑った。

「心から素直に褒められるなんて最近なくてさ」
「こんなにしっかりしてるのに……?」
「最初だけなら心から驚いたり褒めてくれるけど、アルバボロスならそれが普通だ……って段々そういう考えになるらしい。あとは褒めてても裏があったりね」
「レネも大変ね……」

 レネは目を細めると私の顔を見る。

「ヘルガは素直に伝えてくれるから、僕も素直に反応できる。これは褒めることだけじゃなくて、物言いが素直なところ全部に言えるかな。そういうところがなんというか――うん、オアシスみたいな感じがする」
「オアシスは言い過ぎじゃない? そりゃあ貴族云々の世界は砂漠にでもいるみたいな気分だろうけど」
「あはは、そういうところ」

 機嫌良さげに声を出して笑うと、レネは整理した情報の書かれた紙を指した。

「さあ、時間は限られてるから大切なことも済ませないとね。まず噂話レベルでは今のところヘーゼロッテの悪評はない。ただこれは若い世代の話で、親世代かそれより上が口にするのを控えていたらわからないかな」
「公爵家のいざこざなんて口にしたらなにをされるかわからない、って思うかもしれないわよね……」
「そうだね、王家からもストップがかかったのかもしれない。――そう疑ったのは新聞社に保管されていた古い新聞があったからだよ」

 ただし、とレネは話を区切る。

「それは新聞社から提示されたものじゃない。探偵から得た情報だ」

 つまり新聞社はだんまりで隠してたけど、忍び込むなり正規ルートじゃない方法なりで得たってこと……?
 そ、それって普通の探偵なのかしら。

 なんとなく問い詰めちゃいけない気がして私は敢えてスルーした。
 アルバボロス家の人間は嘘をつかないせいか、わざわざ新聞社から得たものじゃないと言ったくらいだ、詳しく訊いたらとんでもない答えが返ってきそうだもの。
 知らぬが仏ってやつよね。

 私は代わりの問いを口にする。

「それで、その新聞って……?」
「現物は持ち出せなかったけど、こんな記事があった。……七十年前の冬にヘーゼロッテ家で火事があったんだ」

 ――七十年前、ヘーゼロッテ家の敷地内にある庭の一部と屋敷の西棟が焼失した。
 当時は街の方からもよく見えるほど黒煙が上がったらしい。
 原因は不明だと新聞には書かれていたけれど、そこで死亡者が一名出たことだけ記されていた。

 そうレネは説明する。
 この世界の新聞は貴族やお金持ち向けに発行されているものが殆どだそうで、庶民向けの簡易的な知らせは保管もされていないそうだ。
 そもそも当時だと個人配達せずに張り出す形になっていたみたい。

 情報が明朗なはずの貴族向けの新聞ですらこんなフンワリした書き方なのは……やっぱりなにかあったのかしら?
 現世の新聞なんて読んだことがないから予想しかできないけれど。

「あと、気になるのはこの情報がお父様絡みかお祖父様絡みかわからないところね」
「だね。他の情報……この事件を中心に集めた情報によると『火事の日に大きな音を聞いた』『火事の件はしばらく噂話になったが、その直後に第一王女の結婚の一報が舞い込んで掻き消された』ということがあったみたいだ」

 前者は他にも似たようなことを言っている庶民の老人がいた、とレネは言う。
 印象的な事件だったため体験者の中にはピンポイントで覚えている人がちらほらいたようだ。
 そしてその人たちはそれが『口止めされるようなこと』だとは思っていない。
 実際に箝口令が敷かれたかどうかはわからないけれど、少なくとも庶民の間にそんな手は入っていないようだった。

「ただ僕的には数の多い庶民の口を塞ぐなら上書きの方が効くと思う」
「……? え、その、つまり」
「王女の結婚、タイミング良いなって思ってね」

 ……なんだか思ってたよりキナ臭いかも。

 王族絡みだったら困ったことになるわ。
 そう心配しているとレネが「王族がなにかをしたわけじゃなくて、王族にツテのある一族から頼まれた可能性もあるよ」とフォローした。
 でもフォローになってない気がするわ。
 だって王族に噂の上書きをしたいから手伝ってほしいなんて頼める人は限られるもの。そう、例えば公爵家とか。

 ヘーゼロッテ家もアルバボロス家も家系図を辿ると王族に繋がる。
 たしか私の高祖父の一番目の兄の血筋が今の王族の直系のはず。後日お母様から聞いたけれど、アルバボロス家の血筋は二番目の兄だったかしら……?
 そう考えると私とレネは遠い親戚だ。
 血筋に想いを馳せていると、レネも別の角度から血筋について考えていたようだった。

「当時ならもっと近い血筋だから、ヘーゼロッテ家の醜聞が王家に響くと思って王女の結婚発表を意図的にそのタイミングで出したのかもしれないね」
「例えば、その、ヘーゼロッテ家の当主に頼まれて……?」
「その説も否定はしきれない」

 はっきりとさせるにはまだ情報が足りなかった。
 けれど事件に関してはお父様かお祖父様、どちらかに関わりがあるような気がするわ。覚えておきましょう。

 その後、あまり信憑性のない情報も一応聞いたけれど、たしかに微妙だった。
 誰よヘーゼロッテ家の敷地にある池に首長竜がいてロッシーと呼ばれてるなんて噂を流したのは。むしろ見たいわ。

 そしてヘーゼロッテ家のことだけではなく、影を操る家系魔法を持つ一族についてもレネは調べてくれていた。

 アロウズお父様の表向きの出身はここから遠く離れた地……国さえ異なる地の侯爵家だと私も聞いている。
 国を跨ぐためアシュガルドで得られる情報は希薄で、今はレネが現地に向かわせた探偵の報告待ちだそうだ。
 やっぱりそれって本当にただの探偵……?

「他国も含めると取り潰しになった家については年代を絞ってもわりと多くてね、これはもう少し時間がかかりそうなんだ」
「わかったわ、続報を待ってるわね。それまでに私も鍵を見つけておくわ!」
「それなんだけど」

 やる気を漲らせているとレネが自身を指差した。

「今、僕と一緒に探しに行かない?」
「今!?」
「鍵の在処を探すのはヘルガの役目だけど、ふたりいるタイミングなら一緒に探した方が良いに決まってる。まあ実際には僕が廊下で見張っておく形になると思うけど」

 たしかにお父様が部屋に不在な時間帯だし、レネに見張っててもらえるのは正直ありがたい。
 でも彼が私に協力してくれてるってすぐにバレちゃうかも。
 それじゃレネが危ないわ。

 答えを出し渋っているとレネは突然「手に触れても大丈夫?」と問い掛けてきた。
 よくわからないまま頷くとレネは私の手を握って真っ直ぐこちらを見る。

「僕は大丈夫だよ。そして君を死なせもしない。今だけでもいいから信用してくれないかい?」
「……ふふ、信用はもうしてるわ。心配だっただけ。でもこれもあなたに信用が足りないと思わせちゃうことかもしれないわね……」

 私は手を握り返し、レネが安心できるよう笑みを返した。

「わかったわ、一緒に鍵を探しましょう、レネ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...