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お父様攻略編
第17話 ヘルガとレネの作戦会議
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レネと協力することになり、まず初めにしたのは『今行なう行動として適切なものは何か?』を二人で考えることだった。
今のところお父様の一族側の動向は手紙からしか伺い知れない。
計画実行を早めろとせっつかれているとするなら定期的に確認すべきなのだけれど、お父様のうっかりを待っていては次は半年後になる可能性も高かった。
「受け身ばかりじゃなくてこっちから動くことも必要かもしれないね。まず調べるべきはひきだしの鍵が普段はどこにしまわれているのか、そして君の父親がどういう時に自室にいるのか。後者はデータを取ってパターンを抽出してみよう」
「それは私に任せて。探りを入れてみる」
「頼もしいね! あとは父親の様子をしっかり窺っておくこと……は常にやってるか」
レネはヘラの頬をくすぐっていた手を止めて少し考える。
「父親の一族がどこの誰かも洗いたいな……今は偽っていてもヘーゼロッテに恨みを持つ没落貴族って条件があれば探れるかも。ただ……」
「ただ?」
「アルバボロスの記録帳を漁れば何か出てくるかもしれないけれど、私用での閲覧は固く禁じられてるんだ。子供のいたずらとして処理されるぎりぎりを攻めればどうにかなるかもしれない。けど――」
アルバボロス家の子供としてそれはしたくない、と。
そう困った顔をするレネに私はすぐ首を縦に振った。
「あなたが私のために動いてくれるのはアルバボロスだからこそでしょ。なのにそんなあなたがアルバボロスの矜持を曲げる必要なんてこれっぽちもないわ」
「ヘルガ……」
「他の方法を考えましょう。たしかに敵の正体がふわっとしたままなのは危険よね」
レネはこくりと頷くと次の行にペンを進める。
「アルバボロスの特権は活かせないけど、僕個人のツテを使って探ってもらおう」
「も、もう個人のツテなんてあるの!?」
「スクールに通ってるからそっちでちょっとね。人脈作りの一環さ、こう見えて信頼できる人間はもう何人か抱き込んでるんだよ」
これって貴族の当たり前なのかアルバボロスの当たり前なのかどっちかしら……。
うちに兄か弟がいればわかったかもしれないけれど、私もお姉様も家庭教師に指導してもらってるからよくわからない。お茶会を自分で開くようになればわかる時が来るだろうか。
「僕が直接行くと目立つけど、そのツテの中には平民も居るから探偵業の人間に過去の事件や風評を探ってもらおう。あとは――そうだな……新聞社か。表に出せない事件でも情報としては入ってきてるかも」
「わ、それはありそうね!」
「それとヘルガ、その手紙っていうのはどういう方法で送られてくるか、そして父親からの返事はどうやって出されてるかわかるかい?」
私は「予想も含むけれど」と前置きして答える。
「手紙には切手が無かったの。それに宛名もお父様の名前のみ。だから多分正規ルートじゃないわ」
「専用の配達人がいるってことかな……?」
「ええ。そしてたぶんそれはヘラと同じ影の動物だと思う。意識を移して直接届けてるんじゃないかしら」
第三者を使うより便利な魔法で直接届けた方がリスクが軽い。
そう考えた可能性がある、と私はレネに伝えた。
「もちろんその一族にお父様以外で家系魔法持ちがいなかったら無理だけど……もしいないなら唯一その力を持ってるお父様を送り込んだりしないでしょう? 家系魔法は封じられてしまうのだし」
「たしかに。だとするとヘルガの言う通り可能性は高くなってくるね」
「こっちの調査は私が担当するわ」
頷いたレネは手帳にいくつかの事柄を書きつけ、そのページを切り取って差し出す。
「現時点の要点だけ纏めておいたから、一応どうぞ」
「自分用にメモってたんじゃないの!?」
「僕は大体のことは覚えてるからね!」
まだ現時点で決まっていることは少ないとはいえ、気が利くというか利きすぎるというか。
しかし混乱しやすい調査なのでありがたく貰っておいた。
「ツテに関しては次に会う時までにどうにかしておくよ」
「そういえばどうやって会うの? レネ一人だけでここへ来るのも、逆に私からそっちへ行くのもまだ難しいかしら」
「交流の盛んな貴族間なら無くもないけど、うちの家業柄どうかな……でも母様がヘルガのお母さんと交流を再開したのはその辺りの問題が緩和したからだろうし、この点に関しては――」
レネはきりっとした表情をすると言った。
「子供であることを活かそうかな」
「こ、子供であることを?」
「そう。ヘルガのところに遊びに行きたいって母様に駄々をこねる」
「子供であることを活かしてるわ!」
普段が大人びすぎてるけど年齢的にはセーフだ。存分に駄々をこねてもらって、高頻度で会えるようになればどうにかなるかもしれない。
会えない間はヘラに手紙を届けてもらう手も考えたけれど、それはアルバボロス家に不法侵入するってことになるから、大人たちに見つかると色々と面倒らしい。たしかに理由を話している間にお父様に伝わったら大変だ。
そういうわけで、しばらくの間は互いに情報を集めてお茶会の際に擦り合わせるということになった。
レネとは自室で遊んでいたことにし、適当な時間が経ったところでお母様たちの元へと戻った。
なぜか母親二人が視線を交わしてにっこりしていたのが気になるけれど、悪感情からではないらしい。
……お母様の勘違い的に嫌な予感がしたものの、何も言われていないのに言い訳をするのも逆効果な場面なので黙っておいた。
今のところお父様の一族側の動向は手紙からしか伺い知れない。
計画実行を早めろとせっつかれているとするなら定期的に確認すべきなのだけれど、お父様のうっかりを待っていては次は半年後になる可能性も高かった。
「受け身ばかりじゃなくてこっちから動くことも必要かもしれないね。まず調べるべきはひきだしの鍵が普段はどこにしまわれているのか、そして君の父親がどういう時に自室にいるのか。後者はデータを取ってパターンを抽出してみよう」
「それは私に任せて。探りを入れてみる」
「頼もしいね! あとは父親の様子をしっかり窺っておくこと……は常にやってるか」
レネはヘラの頬をくすぐっていた手を止めて少し考える。
「父親の一族がどこの誰かも洗いたいな……今は偽っていてもヘーゼロッテに恨みを持つ没落貴族って条件があれば探れるかも。ただ……」
「ただ?」
「アルバボロスの記録帳を漁れば何か出てくるかもしれないけれど、私用での閲覧は固く禁じられてるんだ。子供のいたずらとして処理されるぎりぎりを攻めればどうにかなるかもしれない。けど――」
アルバボロス家の子供としてそれはしたくない、と。
そう困った顔をするレネに私はすぐ首を縦に振った。
「あなたが私のために動いてくれるのはアルバボロスだからこそでしょ。なのにそんなあなたがアルバボロスの矜持を曲げる必要なんてこれっぽちもないわ」
「ヘルガ……」
「他の方法を考えましょう。たしかに敵の正体がふわっとしたままなのは危険よね」
レネはこくりと頷くと次の行にペンを進める。
「アルバボロスの特権は活かせないけど、僕個人のツテを使って探ってもらおう」
「も、もう個人のツテなんてあるの!?」
「スクールに通ってるからそっちでちょっとね。人脈作りの一環さ、こう見えて信頼できる人間はもう何人か抱き込んでるんだよ」
これって貴族の当たり前なのかアルバボロスの当たり前なのかどっちかしら……。
うちに兄か弟がいればわかったかもしれないけれど、私もお姉様も家庭教師に指導してもらってるからよくわからない。お茶会を自分で開くようになればわかる時が来るだろうか。
「僕が直接行くと目立つけど、そのツテの中には平民も居るから探偵業の人間に過去の事件や風評を探ってもらおう。あとは――そうだな……新聞社か。表に出せない事件でも情報としては入ってきてるかも」
「わ、それはありそうね!」
「それとヘルガ、その手紙っていうのはどういう方法で送られてくるか、そして父親からの返事はどうやって出されてるかわかるかい?」
私は「予想も含むけれど」と前置きして答える。
「手紙には切手が無かったの。それに宛名もお父様の名前のみ。だから多分正規ルートじゃないわ」
「専用の配達人がいるってことかな……?」
「ええ。そしてたぶんそれはヘラと同じ影の動物だと思う。意識を移して直接届けてるんじゃないかしら」
第三者を使うより便利な魔法で直接届けた方がリスクが軽い。
そう考えた可能性がある、と私はレネに伝えた。
「もちろんその一族にお父様以外で家系魔法持ちがいなかったら無理だけど……もしいないなら唯一その力を持ってるお父様を送り込んだりしないでしょう? 家系魔法は封じられてしまうのだし」
「たしかに。だとするとヘルガの言う通り可能性は高くなってくるね」
「こっちの調査は私が担当するわ」
頷いたレネは手帳にいくつかの事柄を書きつけ、そのページを切り取って差し出す。
「現時点の要点だけ纏めておいたから、一応どうぞ」
「自分用にメモってたんじゃないの!?」
「僕は大体のことは覚えてるからね!」
まだ現時点で決まっていることは少ないとはいえ、気が利くというか利きすぎるというか。
しかし混乱しやすい調査なのでありがたく貰っておいた。
「ツテに関しては次に会う時までにどうにかしておくよ」
「そういえばどうやって会うの? レネ一人だけでここへ来るのも、逆に私からそっちへ行くのもまだ難しいかしら」
「交流の盛んな貴族間なら無くもないけど、うちの家業柄どうかな……でも母様がヘルガのお母さんと交流を再開したのはその辺りの問題が緩和したからだろうし、この点に関しては――」
レネはきりっとした表情をすると言った。
「子供であることを活かそうかな」
「こ、子供であることを?」
「そう。ヘルガのところに遊びに行きたいって母様に駄々をこねる」
「子供であることを活かしてるわ!」
普段が大人びすぎてるけど年齢的にはセーフだ。存分に駄々をこねてもらって、高頻度で会えるようになればどうにかなるかもしれない。
会えない間はヘラに手紙を届けてもらう手も考えたけれど、それはアルバボロス家に不法侵入するってことになるから、大人たちに見つかると色々と面倒らしい。たしかに理由を話している間にお父様に伝わったら大変だ。
そういうわけで、しばらくの間は互いに情報を集めてお茶会の際に擦り合わせるということになった。
レネとは自室で遊んでいたことにし、適当な時間が経ったところでお母様たちの元へと戻った。
なぜか母親二人が視線を交わしてにっこりしていたのが気になるけれど、悪感情からではないらしい。
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