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お父様攻略編
第14話 お母様の目から見た一族
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思わぬ質問だったのかお母様は「アルバボロス家について?」ときょとんとした。
うーん、さすがに単刀直入すぎたかも。
でも大丈夫、魔法適正を調べられる彼らの家系魔法が気になって仕方ないとか、お母様の親友だから気になるとか色々と理由は作ってき――
「……! わかったわ、あなたレネ君が気になるのね!」
――たのだけれど、まさかの勘違いをされてしまった。
いや、色んな意味で気にはなるけれど、多分お母様の想像してるものとは違う。
しかし否定すると時間を食いそうな予感がひしひしとした。とりあえず咳払いをしてから「そんなところです」と視線を逸らしておく。
それが恥ずかしがっているように見えたのか、お母様は「ヘルガもそんな年頃なのね」と微笑ましげに笑った。
居た堪れないわ…!
「そうねぇ……友人から見たアルバボロス家になってしまうけれどいいかしら?」
「はい、大丈夫です。どんな家系なんですか? その、自分の家系魔法で得た情報を大切にするとか、嘘が嫌いとかは聞いたんですが……」
「あらあら、レネ君に聞いたのかしら」
また微笑ましげな顔で見られた。
……これは否定しなくても結局時間を食うパターンなんじゃないかしら。
しかしお母様はすぐに声を潜めて言った。
「これはお父様には聞かせられないわね。なるべく手短に話してあげるわ」
「……! お願いします!」
お母様はベッドから足を下ろして座ると、私を抱き寄せて膝の上にのせる。
「アルバボロスの家系魔法は他人の持つ魔法特性を調べられるもの。もちろん細かいところまではわからないけれど、魔法……特に家系魔法は大人の世界ではとても大きな個人情報なのよ」
「なるほど……」
「それを明らかにして管理することを国から任されてきたせいか、たしかにヘルガの言った特徴を持つ人が多いわね」
その特徴の方向性は個人によるという。
たとえば『得た情報を大切にする』ということひとつ挙げても責任感から神経質になって管理を徹底する人、集めた情報を管理することそのものにうっとりする人、得た情報は必ず自分が管理していないと気が済まない人などらしい。
最後のはちょっと鍋奉行っぽい。
それに家系魔法を使わなくても情報収集に長けた一族のようで、そういった面も特徴を強化することに繋がっているみたいね。
アルバボロスは個人情報を任された一族。
それ故に反感や不信感を買うこともあったらしいけれど――徹底した清廉潔白さを貫き、反論はすべて跳ね返してきたそうだ。
「ただちょっと……」
「ただちょっと?」
「誤解を受けやすい見た目をしているのよね、娯楽小説の悪役みたいというか……私は好きなんだけれどロジェッタはよく気にしていたわ」
ロジェッタというのはお母様の親友、つまりレネの母親だ。
私はレネ、そしてパーティー会場で会った彼の両親の姿を思い返す。
整っているけれど、切れ長の目で狐のような印象を与える顔つき。
そして笑顔なのに何故か不信感を感じてしまう表情作り。
……レネを見た時は単に大人びた子だと思ったけれど、たしかに悪人顔といえば悪人顔かもしれない。
「でも本当に『ちょっと』よ。アルバボロスといえばって感じで例に挙げられやすいけれど、これは見た目でしか揚げ足を取れない人たちが印象操作してきた結果だから、ヘルガも惑わされないようにね」
「は、はい」
敢えてここで口にしたのは私に誤解してほしくなかったかららしい。
たしかに親友たちを見た目で誤解されるのは嫌よね。
返事を聞いたお母様は笑みを浮かべて私の頭をぽんぽんと撫でる。
「いい子ね。自分の目で見てしっかり判断してちょうだい。……そして私の目から見たアルバボロスだけれど、この国で一番信頼できる一族よ」
これも参考程度の気持ちで聞いてね、と前置きしてからお母様は続けた。
「信用第一のお役目だということもあるし、それにアルバボロスは今まで歴史上で一度も誰かを裏切ったことがないの」
「一度も!?」
「ええ。濡れ衣を着せられたことはあるけれど、一族総出で確実な証拠を掴んで名誉挽回したそうよ。そんなエピソードのおかげである他に――なにより、私個人として信用してるの」
お母様は昔のことを思い出しているのか目を細める。
「ロジェッタはいつでも正直な言葉をくれたし、それは綺麗なものばかりじゃなかった。そして私が困っていたら親友として助けてくれた。お役目柄なかなか会えないことも多かったけれど、彼女との思い出は大切なものばかりよ」
これって信用する理由になるでしょう? とお母様は言った。
私はお母様を見上げる。
……多分、私が思っている以上に貴族社会っていうのは騙し合いや試されることが多い。そんな世界でここまで心を許し合って、そして時間を開けていても仲良くし続けられる存在っていうのはきっと大切なものだろう。
お母様がここまで大切にしている友人の一族。
もちろん良い人なのはロジェッタ夫人個人によるものかもしれないから、この話を聞いて無条件にレネを信じるわけにはいかない。
でも、信じてみてもいいかもしれないという答えは得ることができた。
(そして私の問題に巻き込んでしまうことに関しては……これは彼と話し合って決めるべきことだわ)
今度会ったらもっとしっかりと話してみよう。
その上で危険性をきちんと伝える。
この話に至るまでに様々なことを開示しなくちゃいけないから、それを迷っていたのもあるけれど、お母様の話で決心がついたわ。
「お母様、ありがとうございます」
「ふふ、少しは参考になった?」
私は笑みを浮かべて頷いた。
「はい、とても!」
うーん、さすがに単刀直入すぎたかも。
でも大丈夫、魔法適正を調べられる彼らの家系魔法が気になって仕方ないとか、お母様の親友だから気になるとか色々と理由は作ってき――
「……! わかったわ、あなたレネ君が気になるのね!」
――たのだけれど、まさかの勘違いをされてしまった。
いや、色んな意味で気にはなるけれど、多分お母様の想像してるものとは違う。
しかし否定すると時間を食いそうな予感がひしひしとした。とりあえず咳払いをしてから「そんなところです」と視線を逸らしておく。
それが恥ずかしがっているように見えたのか、お母様は「ヘルガもそんな年頃なのね」と微笑ましげに笑った。
居た堪れないわ…!
「そうねぇ……友人から見たアルバボロス家になってしまうけれどいいかしら?」
「はい、大丈夫です。どんな家系なんですか? その、自分の家系魔法で得た情報を大切にするとか、嘘が嫌いとかは聞いたんですが……」
「あらあら、レネ君に聞いたのかしら」
また微笑ましげな顔で見られた。
……これは否定しなくても結局時間を食うパターンなんじゃないかしら。
しかしお母様はすぐに声を潜めて言った。
「これはお父様には聞かせられないわね。なるべく手短に話してあげるわ」
「……! お願いします!」
お母様はベッドから足を下ろして座ると、私を抱き寄せて膝の上にのせる。
「アルバボロスの家系魔法は他人の持つ魔法特性を調べられるもの。もちろん細かいところまではわからないけれど、魔法……特に家系魔法は大人の世界ではとても大きな個人情報なのよ」
「なるほど……」
「それを明らかにして管理することを国から任されてきたせいか、たしかにヘルガの言った特徴を持つ人が多いわね」
その特徴の方向性は個人によるという。
たとえば『得た情報を大切にする』ということひとつ挙げても責任感から神経質になって管理を徹底する人、集めた情報を管理することそのものにうっとりする人、得た情報は必ず自分が管理していないと気が済まない人などらしい。
最後のはちょっと鍋奉行っぽい。
それに家系魔法を使わなくても情報収集に長けた一族のようで、そういった面も特徴を強化することに繋がっているみたいね。
アルバボロスは個人情報を任された一族。
それ故に反感や不信感を買うこともあったらしいけれど――徹底した清廉潔白さを貫き、反論はすべて跳ね返してきたそうだ。
「ただちょっと……」
「ただちょっと?」
「誤解を受けやすい見た目をしているのよね、娯楽小説の悪役みたいというか……私は好きなんだけれどロジェッタはよく気にしていたわ」
ロジェッタというのはお母様の親友、つまりレネの母親だ。
私はレネ、そしてパーティー会場で会った彼の両親の姿を思い返す。
整っているけれど、切れ長の目で狐のような印象を与える顔つき。
そして笑顔なのに何故か不信感を感じてしまう表情作り。
……レネを見た時は単に大人びた子だと思ったけれど、たしかに悪人顔といえば悪人顔かもしれない。
「でも本当に『ちょっと』よ。アルバボロスといえばって感じで例に挙げられやすいけれど、これは見た目でしか揚げ足を取れない人たちが印象操作してきた結果だから、ヘルガも惑わされないようにね」
「は、はい」
敢えてここで口にしたのは私に誤解してほしくなかったかららしい。
たしかに親友たちを見た目で誤解されるのは嫌よね。
返事を聞いたお母様は笑みを浮かべて私の頭をぽんぽんと撫でる。
「いい子ね。自分の目で見てしっかり判断してちょうだい。……そして私の目から見たアルバボロスだけれど、この国で一番信頼できる一族よ」
これも参考程度の気持ちで聞いてね、と前置きしてからお母様は続けた。
「信用第一のお役目だということもあるし、それにアルバボロスは今まで歴史上で一度も誰かを裏切ったことがないの」
「一度も!?」
「ええ。濡れ衣を着せられたことはあるけれど、一族総出で確実な証拠を掴んで名誉挽回したそうよ。そんなエピソードのおかげである他に――なにより、私個人として信用してるの」
お母様は昔のことを思い出しているのか目を細める。
「ロジェッタはいつでも正直な言葉をくれたし、それは綺麗なものばかりじゃなかった。そして私が困っていたら親友として助けてくれた。お役目柄なかなか会えないことも多かったけれど、彼女との思い出は大切なものばかりよ」
これって信用する理由になるでしょう? とお母様は言った。
私はお母様を見上げる。
……多分、私が思っている以上に貴族社会っていうのは騙し合いや試されることが多い。そんな世界でここまで心を許し合って、そして時間を開けていても仲良くし続けられる存在っていうのはきっと大切なものだろう。
お母様がここまで大切にしている友人の一族。
もちろん良い人なのはロジェッタ夫人個人によるものかもしれないから、この話を聞いて無条件にレネを信じるわけにはいかない。
でも、信じてみてもいいかもしれないという答えは得ることができた。
(そして私の問題に巻き込んでしまうことに関しては……これは彼と話し合って決めるべきことだわ)
今度会ったらもっとしっかりと話してみよう。
その上で危険性をきちんと伝える。
この話に至るまでに様々なことを開示しなくちゃいけないから、それを迷っていたのもあるけれど、お母様の話で決心がついたわ。
「お母様、ありがとうございます」
「ふふ、少しは参考になった?」
私は笑みを浮かべて頷いた。
「はい、とても!」
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