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お姉様攻略編
第8話 お姉様の懺悔
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お姉様が森で迷った理由。
そしてそれからどうしていたか。
家に帰った後、休息を取ってからそれらを順に訊ね、お姉様はしばらくの間森に近づくことを禁止された。
お父様とお母様は頭ごなしに怒るのではなく冷静に、それでいてしっかりと叱ったのでお姉様は終始項垂れていたけれど、ミカリエラが無事だったことを耳にすると安堵の表情を浮かべた。よっぽど心配だったんだろう。
しかしミカリエラは両足を骨折しており入院することになった。
代わりに信用できる人物としてミカリエラの母親――前メイド長のエイミーが臨時でお姉様の付き人として採用され、それはもう規則正しい生活を強いられている。
叱られたことよりこちらの方がよっぽど罰じゃないだろうか……。
そんな付き人発案による様々な習い事が忙しい中、お姉様から私に会いにきてくれたのが今日の昼のことだ。
いつもは私からばかり会いに行っていたため、まさかお姉様から来てくれるとは思っていなかった私は読もうとしていた本をばさりと落としてお姉様に「そんなゴーストを見たような顔をするのは失礼じゃない!?」と怒られてしまった。
「いえ、真昼間から自分に都合の良い夢を見てしまったなと思って……」
「現実のこととしてすら受け止めていなかったの!? ……まったく、あなたって本当に変な妹だわ」
「ふふ、お姉様に妹だって認識してもらえて嬉しいです。ところで何かご用ですか?」
何の理由もなく私の部屋に来るなんてことはないだろう。
お姉様は目を泳がせて言い淀むと、少し話があるの、とドアを閉めた。
「二人だけで話したいからエイミーにお願いして時間を作ってもらったのよ」
「えっ!? お、お姉様が私と二人だけで……!?」
「今度こそゴーストを見たような顔ね!」
お姉様は呆れ顔で私に勧められるまでもなくイスに座る。
なんというか、前よりも角が取れて表情の幅が広がったというか、ある意味子供らしくなった気がした。うん、お姉様可愛いわ。
そんなことを考えているとお姉様が言った。
「お父様の家系魔法……影召喚にはリスクがあるのに、あなた躊躇わずに使ったそうね」
「あっ、はい、すみません。それしか思いつかなくて――」
「……ありがとう」
無鉄砲と怒られると思っていた私はお姉様を見つめる。聞き間違いではなさそうだ。
お姉様も言い慣れていないのか居心地が悪そうな顔で続けた。
「でも今回のことでよくわかったの。私はそこまでしてもらっていい人間じゃないわ」
「な、なにを言うんですか! そんなこと……」
「だって私、あなたを殺そうと思ったことがあるのよ」
声を絞り出してお姉様は言う。
あ、知ってます、とは言えない。しかしここでまったく何も知らないふりをして驚くのもいけない気がした。
自分から告白してくれたお姉様を早く安心させてあげたいというのが本音だ。
私は困った笑みを浮かべつつもお姉様の手を握る。
「……なんとなくそうじゃないかなって思ってました。けど今はそうじゃないんですよね?」
「ええ、けど――」
「私はそれで十分です。お姉様がどんな人でも私は大好きですよ。だからあの時見つけられて良かった。また家に帰ってきてくれてよかったです」
最初から全部知っていたという真実は話せないけれど、口にしたことは全部本当。
そして今のお姉様にしっかりと気持ちを知っていてほしい。
私は今の家族のまま順風満帆な人生を歩みたいの。
(……そうだ。だから暗殺を阻止するだけでなく、皆にも幸せになってもらわないといけないんだ)
今のお姉様には私から罰を与える必要はないと思っている。
だから許していることと、今の気持ちを伝えた。これからも隣に居られるように。
これが逆効果になることもあるだろうけれど――喋り方はしっかりしていてもお姉様はまだ子供。
罰される方が楽になるなんてことはなく、私から許されたことで緊張の糸が切れたのか泣きながら謝り始めた。――やっぱり小さな子供だ、と再確認した私はまるで妹をあやすように抱き締めて頭を撫でる。
これから私たちが普通の姉妹として育っていけるように、と願いを込めて。
しばらくそうしているとコンコンと部屋のドアがノックされ、泣き疲れてうとうとしていたお姉様は突然しゃんとした。目元はまだ少し赤いが鼻を啜るなんてことはなさそうだ。
私が「どうぞ」と言うと部屋に顔を覗かせたのは柔和な笑みを浮かべたお父様だった。
「ウィナがフルーツケーキが焼けたって言ってたから二人を呼びにきたんだ。でもお邪魔だったかな?」
「いえ! お姉様、一緒におやつにしましょうか」
「う、うん」
ウィナは厨房を任されている料理人だ。彼の作る料理は普段の食事からデザートまで最高なので逃すことはできない。それに泣き疲れたお姉様にも甘いものはばっちり効くだろう。
そんな中、雇い主自ら呼びにきた子煩悩なお父様を見上げる。
二人の娘を前ににこにこしているお父様。
最長のタイムリミットはお祖父様もお父様も同じ。
最短だとお祖父様の方が早いから対応すべきなのはあちらからだけれど――探りを入れやすいのは断然お父様だった。お祖父様はもしかすると怪しんで決行を早めてしまうかもしれない。
つまり。
(今の状況だと次にどうにかすべきは……お父様)
こんな心底家族を愛しているようなお父様が本当に実の娘を殺そうと考えているのだろうか。
しかも覗き見た手紙には見せしめなのだからヘーゼロッテ家により大きな屈辱を与えるべく、一家の中で一番若い者を狙うように、という反吐の出るような指示があったのだ。
一番若いのは私。同じ実の娘でもメラリァお姉様が狙われなくて良かったと思うものの、きっと屈辱を与えた後に同じ道を辿らせようとするだろう。
(アロウズお父様……あなたはどんな気持ちで私たちと暮らしてるの?)
そんな疑問を視線に込めて見上げたけれど、お父様が振り返ることはなかった。
そしてそれからどうしていたか。
家に帰った後、休息を取ってからそれらを順に訊ね、お姉様はしばらくの間森に近づくことを禁止された。
お父様とお母様は頭ごなしに怒るのではなく冷静に、それでいてしっかりと叱ったのでお姉様は終始項垂れていたけれど、ミカリエラが無事だったことを耳にすると安堵の表情を浮かべた。よっぽど心配だったんだろう。
しかしミカリエラは両足を骨折しており入院することになった。
代わりに信用できる人物としてミカリエラの母親――前メイド長のエイミーが臨時でお姉様の付き人として採用され、それはもう規則正しい生活を強いられている。
叱られたことよりこちらの方がよっぽど罰じゃないだろうか……。
そんな付き人発案による様々な習い事が忙しい中、お姉様から私に会いにきてくれたのが今日の昼のことだ。
いつもは私からばかり会いに行っていたため、まさかお姉様から来てくれるとは思っていなかった私は読もうとしていた本をばさりと落としてお姉様に「そんなゴーストを見たような顔をするのは失礼じゃない!?」と怒られてしまった。
「いえ、真昼間から自分に都合の良い夢を見てしまったなと思って……」
「現実のこととしてすら受け止めていなかったの!? ……まったく、あなたって本当に変な妹だわ」
「ふふ、お姉様に妹だって認識してもらえて嬉しいです。ところで何かご用ですか?」
何の理由もなく私の部屋に来るなんてことはないだろう。
お姉様は目を泳がせて言い淀むと、少し話があるの、とドアを閉めた。
「二人だけで話したいからエイミーにお願いして時間を作ってもらったのよ」
「えっ!? お、お姉様が私と二人だけで……!?」
「今度こそゴーストを見たような顔ね!」
お姉様は呆れ顔で私に勧められるまでもなくイスに座る。
なんというか、前よりも角が取れて表情の幅が広がったというか、ある意味子供らしくなった気がした。うん、お姉様可愛いわ。
そんなことを考えているとお姉様が言った。
「お父様の家系魔法……影召喚にはリスクがあるのに、あなた躊躇わずに使ったそうね」
「あっ、はい、すみません。それしか思いつかなくて――」
「……ありがとう」
無鉄砲と怒られると思っていた私はお姉様を見つめる。聞き間違いではなさそうだ。
お姉様も言い慣れていないのか居心地が悪そうな顔で続けた。
「でも今回のことでよくわかったの。私はそこまでしてもらっていい人間じゃないわ」
「な、なにを言うんですか! そんなこと……」
「だって私、あなたを殺そうと思ったことがあるのよ」
声を絞り出してお姉様は言う。
あ、知ってます、とは言えない。しかしここでまったく何も知らないふりをして驚くのもいけない気がした。
自分から告白してくれたお姉様を早く安心させてあげたいというのが本音だ。
私は困った笑みを浮かべつつもお姉様の手を握る。
「……なんとなくそうじゃないかなって思ってました。けど今はそうじゃないんですよね?」
「ええ、けど――」
「私はそれで十分です。お姉様がどんな人でも私は大好きですよ。だからあの時見つけられて良かった。また家に帰ってきてくれてよかったです」
最初から全部知っていたという真実は話せないけれど、口にしたことは全部本当。
そして今のお姉様にしっかりと気持ちを知っていてほしい。
私は今の家族のまま順風満帆な人生を歩みたいの。
(……そうだ。だから暗殺を阻止するだけでなく、皆にも幸せになってもらわないといけないんだ)
今のお姉様には私から罰を与える必要はないと思っている。
だから許していることと、今の気持ちを伝えた。これからも隣に居られるように。
これが逆効果になることもあるだろうけれど――喋り方はしっかりしていてもお姉様はまだ子供。
罰される方が楽になるなんてことはなく、私から許されたことで緊張の糸が切れたのか泣きながら謝り始めた。――やっぱり小さな子供だ、と再確認した私はまるで妹をあやすように抱き締めて頭を撫でる。
これから私たちが普通の姉妹として育っていけるように、と願いを込めて。
しばらくそうしているとコンコンと部屋のドアがノックされ、泣き疲れてうとうとしていたお姉様は突然しゃんとした。目元はまだ少し赤いが鼻を啜るなんてことはなさそうだ。
私が「どうぞ」と言うと部屋に顔を覗かせたのは柔和な笑みを浮かべたお父様だった。
「ウィナがフルーツケーキが焼けたって言ってたから二人を呼びにきたんだ。でもお邪魔だったかな?」
「いえ! お姉様、一緒におやつにしましょうか」
「う、うん」
ウィナは厨房を任されている料理人だ。彼の作る料理は普段の食事からデザートまで最高なので逃すことはできない。それに泣き疲れたお姉様にも甘いものはばっちり効くだろう。
そんな中、雇い主自ら呼びにきた子煩悩なお父様を見上げる。
二人の娘を前ににこにこしているお父様。
最長のタイムリミットはお祖父様もお父様も同じ。
最短だとお祖父様の方が早いから対応すべきなのはあちらからだけれど――探りを入れやすいのは断然お父様だった。お祖父様はもしかすると怪しんで決行を早めてしまうかもしれない。
つまり。
(今の状況だと次にどうにかすべきは……お父様)
こんな心底家族を愛しているようなお父様が本当に実の娘を殺そうと考えているのだろうか。
しかも覗き見た手紙には見せしめなのだからヘーゼロッテ家により大きな屈辱を与えるべく、一家の中で一番若い者を狙うように、という反吐の出るような指示があったのだ。
一番若いのは私。同じ実の娘でもメラリァお姉様が狙われなくて良かったと思うものの、きっと屈辱を与えた後に同じ道を辿らせようとするだろう。
(アロウズお父様……あなたはどんな気持ちで私たちと暮らしてるの?)
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