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第三章 天界と食事の神編
第94話 各陣二名の料理人
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待機室は縦にも横にも広い部屋で、随分と豪華だなと思ったが普段はその日に裁く被告人……被告神? を全員まとめて入れておくのだと聞いて納得した。
しかし、そう思うとなんらかの罪を犯したかもしれない神を全員同室で待機させるなんて結構ガバガバなシステムだ。
やっぱり裁判方法以外も前世とはだいぶ違うらしい。
ちなみにこれだけ広くてもレモニカはちょっと狭そうだった。
拠点でも体が寝室に入らなくて「儂ァ自分の家から通う!」って毎日健足で走ってたくらいだもんな……。
しかも結構離れてるのに一時間もかからずに着くんだから恐ろしい。
ただ本人も腹が減るらしく、走って拠点に来てから俺たちと朝飯を食べるのが日課になっていた。今日は昆布の佃煮と焼きシャケと白米と大根の味噌汁っていう健康的なメニューにしたぞ。
佃煮は濃いめの味付けで、今回は長く切ったものではなく四角形に切ったものにした。これを重ねた状態で白米と噛むと柔らかくも歯応えのある食感と、噛めば噛むほど内側から出てくる昆布の旨味を楽しめて最高なんだ。
そうして温まった口の中へ次に放り込むのは焼きシャケ。
佃煮とはまた異なる塩味も白米のパートナーとして申し分ない。皮まで食える。
むしろ皮と身の間のぷるぷるした部分も含めて好きなんだよなぁ。
大根の味噌汁はシメに最適!
……シメる前からちょいちょい間に飲んでおかわりしたが、まあそれだけ楽しめるってことだ。
この大根は食通同盟に加わってくれた大根の神が持ってきてくれたもので、季節に関係なく旬の質を保っているおかげか苦味はない。
まあ大根の旬は秋から冬にかけてだから、丁度その頃ではあるんだけどな。
葉っぱまでしっかりと使ってもらって具沢山になった。
そんな朝飯の記憶を反芻しつつ、どれくらい待っただろうか。
ようやく廊下側に誰かの気配がしたかと思ったら、呼ばれたのは俺やコゲではなくコムギだった。
なんでも裁判を公平にするためにフードファイトの料理担当に各陣から二名ずつ選ばれるのがしきたりらしい。
そして各陣合わせて四名に加えて、専用のコックが十数名いるそうだ。
「コムギ・デリシアは旧食事の神の巫女を名乗っていますね? もし本当に嘘偽りないというなら調理に参加なさい。ただし邪なことは考えないこと。不正をすれば裁判所のコックが黙ってませんからね」
そう言い放ったのは迎えにきた大柄な男神だった。
金色の髪をポニーテールにし、青い目には眼鏡をかけている。しかも丸くてデカいやつだ。体格はレモニカと比べると見劣りするが、俗に言うインテリマッチョといった雰囲気である。
そして少し見上げる形になるとわかりにくいが、何故か耳の上に鉛筆を挟んでいた。
……マジでなんでだ?
昔の大工みたいだけど、ミンティークの例を見るに鉛筆の神だったりするのか?
そんな疑問が湧いた時、答えは相手側からやってきた。
「なお! こちらからはわたくし、投影の神セリヌンティウスがバージル様と共にフードファイトに参加し、調理にはペンの神ミンティークとまな板の神オコノが参加致します! 不審な動きをすればすぐさま言いつけるので覚悟なさい!」
「は、走れメロ……」
「親父ストップ」
俺が何を言おうとしているか唯一察したレイトが止める。素早い。
怪訝な表情をしているセリヌンティウスを視界に入れないようにしながら、俺は咳払いをして仕切り直した。
「不正はしない。コムギは美味い飯を作ってくれるよ」
「ふん、どぉ~でしょうね!」
「ところで二名だったな? コムギと組むもう一名はこっちで決めていいのか?」
セリヌンティウスは「ええ」と頷く。
誰が選ばれても不正は見逃さないぞ、という雰囲気がびしばしと伝わってきた。
こっちは俺とコゲがフードファイトに参加するのが決まっている。
被告がふたりだからあっちもタッグを組むことになったんだろう。
だから調理はそれ以外の神――同行してくれたフライデル、レイト、ソルテラ、レモニカ、ハンナベリー、パーシモンの誰かになる。
ニッケも一応来てくれているが、道中でスケッチし甲斐のある花を見つけたらしく後から再合流予定だ。
レイトは呆れてたけど、俺はちょっとだけニッケの気持ちがわかるぞ。
あの花、エビフライに似ててめちゃくちゃ好奇心が湧いたからな。俺としてはスケッチするより齧ってみたかったが。
「さて、俺もコゲも山ほど食うつもりだから、フードファイトがスムーズにいくように料理上手な奴がいいと思うんだが……」
「お前のフードファイトと日常のメシで鍛えられすぎて誰でもオッケーだろ、これ」
「おいフライデル、儂は無理じゃぞ。キッチンに入った途端他の神を潰しかねん」
あ、サイズの問題でレモニカはアウトだな。
裁判所のキッチンはデカいものの、他にも沢山神々が入ることを考えるとレモニカが行ったり来たりするだけでなんらかの被害が生じかねない。
この世界に暴力はないが、意図しない不慮の事故はあるから要注意だ。
ならベルトを使って作業する手を増やせるフライデルか、と思ったところでソルテラが挙手した。
「私にやらせてちょうだい。――料理人として前に出ることで、鍛冶の神がバージルの傘下から抜けたことをしっかりと示したいの」
「ソルテラ。……そうか、わかった。コムギもそれでいいか?」
念のため確認するとコムギは「はい、もちろんです!」と頷いた。
これにてフードファイトは食事の神シロと旧食事の神コゲ、管理の神バージルと投影の神セリヌンティウス。各派閥の調理は旧食事の神の巫女コムギと鍛冶の神ソルテラ、ペンの神ミンティークとまな板の神オコノに決定したわけだ。
そうしてコムギとソルテラは一足先に待合室から出ていき――しばらくして、俺たちも法廷へと呼ばれたのだった。
しかし、そう思うとなんらかの罪を犯したかもしれない神を全員同室で待機させるなんて結構ガバガバなシステムだ。
やっぱり裁判方法以外も前世とはだいぶ違うらしい。
ちなみにこれだけ広くてもレモニカはちょっと狭そうだった。
拠点でも体が寝室に入らなくて「儂ァ自分の家から通う!」って毎日健足で走ってたくらいだもんな……。
しかも結構離れてるのに一時間もかからずに着くんだから恐ろしい。
ただ本人も腹が減るらしく、走って拠点に来てから俺たちと朝飯を食べるのが日課になっていた。今日は昆布の佃煮と焼きシャケと白米と大根の味噌汁っていう健康的なメニューにしたぞ。
佃煮は濃いめの味付けで、今回は長く切ったものではなく四角形に切ったものにした。これを重ねた状態で白米と噛むと柔らかくも歯応えのある食感と、噛めば噛むほど内側から出てくる昆布の旨味を楽しめて最高なんだ。
そうして温まった口の中へ次に放り込むのは焼きシャケ。
佃煮とはまた異なる塩味も白米のパートナーとして申し分ない。皮まで食える。
むしろ皮と身の間のぷるぷるした部分も含めて好きなんだよなぁ。
大根の味噌汁はシメに最適!
……シメる前からちょいちょい間に飲んでおかわりしたが、まあそれだけ楽しめるってことだ。
この大根は食通同盟に加わってくれた大根の神が持ってきてくれたもので、季節に関係なく旬の質を保っているおかげか苦味はない。
まあ大根の旬は秋から冬にかけてだから、丁度その頃ではあるんだけどな。
葉っぱまでしっかりと使ってもらって具沢山になった。
そんな朝飯の記憶を反芻しつつ、どれくらい待っただろうか。
ようやく廊下側に誰かの気配がしたかと思ったら、呼ばれたのは俺やコゲではなくコムギだった。
なんでも裁判を公平にするためにフードファイトの料理担当に各陣から二名ずつ選ばれるのがしきたりらしい。
そして各陣合わせて四名に加えて、専用のコックが十数名いるそうだ。
「コムギ・デリシアは旧食事の神の巫女を名乗っていますね? もし本当に嘘偽りないというなら調理に参加なさい。ただし邪なことは考えないこと。不正をすれば裁判所のコックが黙ってませんからね」
そう言い放ったのは迎えにきた大柄な男神だった。
金色の髪をポニーテールにし、青い目には眼鏡をかけている。しかも丸くてデカいやつだ。体格はレモニカと比べると見劣りするが、俗に言うインテリマッチョといった雰囲気である。
そして少し見上げる形になるとわかりにくいが、何故か耳の上に鉛筆を挟んでいた。
……マジでなんでだ?
昔の大工みたいだけど、ミンティークの例を見るに鉛筆の神だったりするのか?
そんな疑問が湧いた時、答えは相手側からやってきた。
「なお! こちらからはわたくし、投影の神セリヌンティウスがバージル様と共にフードファイトに参加し、調理にはペンの神ミンティークとまな板の神オコノが参加致します! 不審な動きをすればすぐさま言いつけるので覚悟なさい!」
「は、走れメロ……」
「親父ストップ」
俺が何を言おうとしているか唯一察したレイトが止める。素早い。
怪訝な表情をしているセリヌンティウスを視界に入れないようにしながら、俺は咳払いをして仕切り直した。
「不正はしない。コムギは美味い飯を作ってくれるよ」
「ふん、どぉ~でしょうね!」
「ところで二名だったな? コムギと組むもう一名はこっちで決めていいのか?」
セリヌンティウスは「ええ」と頷く。
誰が選ばれても不正は見逃さないぞ、という雰囲気がびしばしと伝わってきた。
こっちは俺とコゲがフードファイトに参加するのが決まっている。
被告がふたりだからあっちもタッグを組むことになったんだろう。
だから調理はそれ以外の神――同行してくれたフライデル、レイト、ソルテラ、レモニカ、ハンナベリー、パーシモンの誰かになる。
ニッケも一応来てくれているが、道中でスケッチし甲斐のある花を見つけたらしく後から再合流予定だ。
レイトは呆れてたけど、俺はちょっとだけニッケの気持ちがわかるぞ。
あの花、エビフライに似ててめちゃくちゃ好奇心が湧いたからな。俺としてはスケッチするより齧ってみたかったが。
「さて、俺もコゲも山ほど食うつもりだから、フードファイトがスムーズにいくように料理上手な奴がいいと思うんだが……」
「お前のフードファイトと日常のメシで鍛えられすぎて誰でもオッケーだろ、これ」
「おいフライデル、儂は無理じゃぞ。キッチンに入った途端他の神を潰しかねん」
あ、サイズの問題でレモニカはアウトだな。
裁判所のキッチンはデカいものの、他にも沢山神々が入ることを考えるとレモニカが行ったり来たりするだけでなんらかの被害が生じかねない。
この世界に暴力はないが、意図しない不慮の事故はあるから要注意だ。
ならベルトを使って作業する手を増やせるフライデルか、と思ったところでソルテラが挙手した。
「私にやらせてちょうだい。――料理人として前に出ることで、鍛冶の神がバージルの傘下から抜けたことをしっかりと示したいの」
「ソルテラ。……そうか、わかった。コムギもそれでいいか?」
念のため確認するとコムギは「はい、もちろんです!」と頷いた。
これにてフードファイトは食事の神シロと旧食事の神コゲ、管理の神バージルと投影の神セリヌンティウス。各派閥の調理は旧食事の神の巫女コムギと鍛冶の神ソルテラ、ペンの神ミンティークとまな板の神オコノに決定したわけだ。
そうしてコムギとソルテラは一足先に待合室から出ていき――しばらくして、俺たちも法廷へと呼ばれたのだった。
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