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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第146話 親子以上の想い

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「ルイーザ殿、感謝申します」

マディラ騎士団城塞繁華街のラルフ商会商館に到着したバルドはルイーザに微笑みを向けた。

「いえ、バルド殿、私は中へは入れません故、こちらでお待ちしております」

ラルフ商会は王国内外との交易許可を得た商会であるため、入館するには許可証が必要となる。

騎士団団員と言えども、その規律は厳密に守られていた。

「左様でございますか?戻る道でしたら問題ありませんが。ルイーザ殿を門前でお待たせするなど気が引けます」

昼過ぎに王都から商船が入港するまで待機しているとルイーザから聞かされていた繁華街はそれほど混雑していなかった。

マディラ騎士団の従士が商館前で待機している姿はかなり目立つ。

思案するバルドの目に筋向いに建ち並ぶ食堂が目に入った。

「ルイーザ殿、筋向いの食堂でお待ち頂くわけにはまいりませんか?」

バルドはいくつかある食堂から平屋建ての食堂を指し示した。

「よろしければ先に昼食を済ませて頂ければと。数ある品の中からポルデュラ様からの茶を探して頂きますので、少々時間を要すると思います。そうして頂けますと私の気も休まりますがいかがですか?」

バルドはあたかも自らが最初からそうしたと思わせる様に道を指し示めしはするが選択は必ず相手にされる話術を使った。

ルイーザはバルドの言葉に迷わず頷いた。

「では、お言葉に甘えて先に昼食を済ませます。そろそろ団員や人夫が昼食を摂る時間ですので、混雑前に丁度よい頃合いです。バルド殿も茶を受け取られましたら是非とも食堂へお越し下さい。今日はエフェラル帝国の珍しい料理なのですよ。どこの食堂でも同じ料理が振舞われます」

ルイーザは嬉しそうに語った。

「承知致しました。茶を受け取りましたら直ぐに食堂に向かいます。セルジオ様も珍しい料理の匂いで目覚めるやもしれませんね」

バルドは首から下げている麻布をトンットンッと優しく二度ほど叩いてみせた。

「では、後程」

バルドは一言添えると入館許可証を門番に見せ、ラルフ商会商館の門をくぐった。

ルイーザはバルドが商館西側の建物に入るのを見届けると筋向いの平屋建ての食堂へ向かった。





王国内外に商館を構えるラルフ商会は概どこも同じ造りだった。

商館中央に水場が設けられ、4階建ての石造りの建物が四方を囲んでいる。

バルドは西側の荷受けの専用の建物に迷わず向かった。

扉を開けると金色の髪を後ろで一つに束ねた薄い青い瞳の男が受付でバルドを出迎えた。

室内には受付の男以外に誰の姿もなく、バルドはほっと息を一つ吐いた。

直ぐに入館許可証と身分証を提示しようとすると抱えていたセルジオの身代わり人形が突如、形を失い砂と化した。

唖然とするバルドに受付の男は動じることなく口を開いた。

「バルド様、お初にお目に掛かります。ラドフォール騎士団、影部隊シャッテンジョルジュにございます。セルジオ様の身代わり人形は役目を終え元の姿に戻りました。砂袋をどうぞこちらへ」

ジョルジュは受付カウンターから出てバルドに歩み寄るとバルドの首から下がる麻袋を外した。

「アロイス様、ポルデュラ様がお待ちです。1時間ほど前に到着されました」

状況説明をしつつ流れる様に隣室にバルドを誘うと壁面の棚に置かれた赤瓶を手に取る。

棚が右側へ動き、地下へと続くラドフォール騎士団、影部隊シャッテンアジトの扉が開かれた。

「仕掛けは他領アジトと同じです。セルジオ様もお目覚めになられ、よろしゅうございました。ベアトレス様が調理されたお食事を召し上がっておいでの頃かと」

バルドはセルジオの名を耳にするとドキリッと己の鼓動が高鳴るのを感じた。

「ジョルジュ様、感謝申します」

バルドは逸る気持ちを抑えながら地下へと続く階段を駆け下りた。

いくつかの仕掛けを解除しつつ先に進み、扉の前に立つと鼓動の高鳴りは益々激しさを増した。

耳の傍に心臓があると思える程、激しく脈づいているのが判る。

バルドは大きく息を吸い呼吸を整えた。

トンットンットンッ

バルドは逸る気持ちを抑え扉が内側から開かれるのを待った。

ギイィィィ

重たい音を立て開かれた扉から漏れた灯りが眩くバルドは目を細めた。

「バルド様、お待ち申し上げておりました。中へどうぞ」

薄茶色の髪に緑の瞳の女が微笑みを携えバルドを招き入れた。

影部隊シャッテンマデュラ子爵領、ラルフ商会商館長を担っておりますアルナと申します。皆さま、お待ちでございます」

そう告げるとアルナは奥の扉へ向かった。バルドはアルナの後を追いつつ礼を述べる。

「アルナ様、感謝申します。ジョルジュ様より皆様1時間ほど待たれたとの事。到着が遅くなり申し訳ありません」

バルドの言葉にアルナは振り向き微笑みを向ける。

「皆様のご到着が早まったのです。風と水の精霊にことの外愛されているセルジオ様が同道されていらしたからだとアロイス様が申されていました」

白い石造りのアーチ形の水路が張り巡らされた回廊を半ば小走りで進みながらアルナは呼応した。

「バルド様もこの一週間、気が気でなかったかと存じます。アロイス様の代わりに繋役をさせて頂きましたからセルジオ様をご案じなさるお気持ちが痛い程伝わってまいりました」

アルナはセルジオの無事な姿を一刻も早く確かめたいと望むバルドの心中を察し、歩く速度を速めた。

そこにはかつて謀略の魔導士と謳われ感情を微塵も表に出さないバルドの姿はなかった。

まるで我が子の無事をひたすら願う騎士とは程遠い民の様だとアルナはセルジオへ向けるバルドの愛情の深さを感じていた。

重厚な扉の前に到着するとアルナは叩くことなく静かに扉を開けた。

バルドは開いた扉の前で佇み、室内の様子を窺った。

最初に目に入ったのは楽しそうに笑うベアトレスの姿だった。

ポルデュラとアロイスが椅子に腰かけ、扉に背を向けた長椅子へ微笑みを向けている。

声も出せずに室内の様子を眺めるバルドにアルナが声を掛けた。

「バルド様、どうぞ中へお入り下さい」

その言葉にアロイスとポルデュラ、ベアトレスが同時にバルドへ目を向けた。

「バルド殿っ!!」

一番にバルドの名を口にしたのはアロイスだった。

アロイスは椅子から立ち上がりバルドに歩み寄る。

「お待ちしておりましたよ。さっ、セルジオ様のお側に」

「・・・・」

言葉が出ずにアロイスを見つめるバルドの耳にセルジオの声が響いた。

「バルド・・・・」

声の方へ目をやると長椅子の肘掛に手を添え、セルジオが立っていた。

バルドの視界は一気に歪み、その場にうな垂れる様に両膝をついた。

ポロポロと涙が両目から零れ落ちている。

アロイスはバルドの姿に微笑みを向けるとセルジオに近づきそっと背中を押した。

セルジオが見上げるとアロイスは一つ頷き、「バルド殿のお側に」と優しく微笑んだ。

セルジオはバルドへ視線を向けるとぐっと両足に力を入れた。

「バルド・・・・バルドッ!!バルドッ!!!!」

バルドの名を叫ぶ様な大声で呼びながらヨタヨタとした足取りで近づく。

バッ!!!

バルドは勢いよく立ち上がりセルジオに駆け寄ると両腕を広げセルジオの前で両膝をついた。

包みこむ様にセルジオを抱き締める。

「バルドッ!!感謝もうす。また、バルドに命を救われたっ!こうしてまたバルドに会えたっ!感謝もうすっ!!!」

バルドの首に両腕を回すセルジオをバルドは無言で抱きしめた。





【春華のひとり言】

改めまして、新年明けましておめでとうございます。

本年(令和6年)もどうぞ、よろしくお願い致します。

今年最初の「とある騎士の遠い記憶」をお読み頂きありがとうございます。

セルジオとバルドの涙ながらの再会の回でした。

無事と解ってはいても姿を見るまでは安心できない。

バルドのセルジオに対する愛情は親子の情以上に深いと感じています。

言葉にならない涙ながらの再会シーンに号泣しながら書きました。

第3章も残す所、3話となりました。最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

次回もよろしくお願い致します。

振返りでお読み頂くと

ラドフォール騎士団、影部隊シャッテンアジトの様子は

第3章第71話 クリソプ騎士団8:影部隊のアジト

に建造物の詳細が描かれています。
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