とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第124話 第一隊長の真意

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騎士団城塞東門を閉鎖し訓練場に急ぎ向かったコーエンは行く手に二頭の馬が道の真ん中で佇んでいるのを見つけ歩調を緩めた。

城塞東側の土道を通る者はまずいない。しかも今日は南門から東へ向かう者をマデュラ騎士団団員のみと制限していた。

南門で厳重警戒しているにも関わらず騎士団以外の者と鉢合わせになるはずがない。

コーエンは相手の様子を窺いながらゆっくり近づいた。

馬上にバルドとオスカーの姿を捉える。

『バルド殿とオスカー殿であったか・・・・エデルの姿がない所を見ると何か誤解があったか・・・・致し方あるまい、この地はあの方々にとっては敵陣のただ中であるからな・・・・』

動く様子のないバルドとオスカーから血香を感じないと察するとコーエンは従えている二騎に暫くこの場で留まる様に目配せをした。

かつてセルジオ騎士団第一隊長に仕えていたバルドとオスカーの戦いぶりとあるじへの忠誠は戦場で幾度となく眼にしてきた。

少しでもいぶかし気な様子を見せれば、間違いなく戦闘になる。

いくらこちらに分があるとはいえ、バルドとオスカーと対峙する情景を想像しただけで身震いする。

2人に勝てる気がしないのだ。

『ここで戦闘になることがあってはならぬ』

コーエンは自身に言い聞かせると血香を纏わない様に呼吸を整えた。

ゆっくりとした足取りで二頭の馬に近づいていく。

それぞれの馬上にセルジオとエリオスが見て取れる所まで近づくとコーエンはバルドとオスカーの名を呼んだ。

「バルド殿、オスカー殿」

「・・・・」

コーエンの呼びかけに返答がない。

「バルド殿、オスカー殿」

パカッパカッパカッ・・・・

コーエンは鼓動が速さを増すのを抑えながら今一度、バルドとオスカーに呼びかけつつ近づいた。

コーエンは間合いを馬三頭分の所で馬を止めた。

「・・・・」

深みを増した紫色の瞳でじっと見つめるバルドにコーエンは身体が宙に浮いた様に感じ、手綱を握りしめた。

まるで戦場にいるかの様に鼓動が速さを増す。

コーエンは大きく息を吐き、呼吸を整えた。

「バルド殿、オスカー殿、のエデルはいかが致しましたか?」

つとめて冷静にエデルの所在を確認する。

「・・・・」

それでも返答のないバルドとオスカーにコーエンは間合いを馬一頭分つめた。

セルジオがコクンと小さく頷くとバルドが声を上げた。

「コーエン様、我らは王都騎士団総長よりめいを受けたセルジオ騎士団団長名代として各貴族騎士団を巡回しております。この度のおさはセルジオ様にございます。我ら3名はセルジオ様に仕える者にて、どうか、セルジオ様に礼を尽くされて頂きたく存じます」

バルドの言葉にエリオスとオスカーが馬上で左手を胸に当てコーエンに頭を下げる。

コーエンはハッとした。

王都騎士団総長から各貴族騎士団に発せられた布令にはセルジオ騎士団団長の名代として、セルジオが任命されていた。

そして、セルジオ達の滞在中の事書きがセルジオ騎士団団長とラドフォール騎士団団長の連名で各貴族騎士団へ届けられていた。

そこにはセルジオがおさであり、エリオス、バルド、オスカーはセルジオを守護する者だと確かに記されていた。

バルドの言葉にコーエンはセルジオ達を出迎えたマデュラ子爵北領門からの道中を思い返す。

初見での挨拶からセルジオの名を一度たりとも口にしていない事に気付いた。

言葉を投げ掛けたのはバルドとオスカーに向けてであった。

今もそうだ。バルドとオスカーの名を呼んだ。

セルジオとエリオスの姿を視界に入れてはいるもののあくまで会話の中心はバルドとオスカーだった。

団長ブレンの想いを何とか解って欲しいと願う思いの強さがセルジオを子どもとあなどり、バルドとオスカーのみに言葉が発せられていた。

恐らくエデルも同じ様に対応したのだろう。

コーエンはこの場にセルジオ達がいる事の原因が自分達にあると認識すると慌てて馬を下りその場でかしづいた。

「大変、失礼を致しましたっ!バルド殿のお言葉、切にお詫び申し上げます。改めまして、セルジオ騎士団団長名代セルジオ様、守護の騎士エリオス様、バルド殿、オスカー殿、この度のマデュラ騎士団への巡回、滞りなく案内致しますマデュラ騎士団第一隊長コーエンにございます。城塞滞在中のご安全は我ら身を賭して務めます所存にて、何卒ご存分に見聞をされますようお願い申し上げますっ!」

大声で口上を述べるコーエンの姿に随行していた二騎の騎士も慌てて馬から下りてかしづいた。

セルジオは首を回してバルドの顔を見上げる。

バルドが静かに頷くとセルジオは呼応した。

「マデュラ騎士団第一隊長コーエン様、同道の騎士様、改めてよろしくお願い申します。双方ともに誤解があったようにて、この先の案内を頼みます」

セルジオの凛とした言葉にコーエンと随行の騎士は身を引き締めた。

言葉の重さが子どもとは到底思えなかったのだ。

コーエンはぐっと喉に力を入れて呼応する。

「はっ!我ら身に余る光栄にて、誠心誠意務めさせて頂きますっ!」

コーエンは頭上に得体のしれない重圧感をかんじていた。

普段仕えている団長ブレンでさえ、ここまでではない。

押しつぶされそうな感覚を堪えコーエンは両拳を握った。

「団長以下、マデュラ騎士団全団員にて訓練場にて待機しております。このままご案内致しますっ!」

「よろしく頼みます」

セルジオの言葉にコーエンは顔を上げた。

ギクリッ!!

吸い込まれそうな深みを増した紫色のバルドの瞳がコーエンを捕えていた。

コーエンは全てを見透かされている様なバルドの瞳が重圧感の正体だと気付くと咄嗟にうつむく衝動を抑えられなかった。






【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

マデュラ騎士団第一隊長コーエンと鉢合わせるも戦闘にならずに済みました。

言葉にしないと通じない、言葉の選び方でもお互いの状況が変わる。

言葉で伝えるとは難しい事だとつくづく感じます。

誤解が生まれない様に何度でも認識を合わせることが大切ですね。

さてさて、因縁の地であるがため、因縁のはじまりの家門であるためにお互い誤解が生じてしまったセルジオ達一行とマデュラ騎士団の面々。

この誤解を繰り返さない様に第一隊長コーエンと第二隊長エデルが活躍します。

団長ブレンとマデュラ騎士団の真意はセルジオ達に伝わるのか?

次回は因縁の始まりの場所、マデュラ騎士団訓練場での回となります。

次回もよろしくお願い致します。
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