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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第99話 清めの儀式3
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クロードから話を引き継いだアロイスは静かに姿勢を正し、それまでよりも更に神妙な面持ちになった。
チラリとセルジオへ目を向けるとふっと一つ息を吐く。
「初代セルジオ様は、我が水の城塞と水の精霊ウンディーネ様と非常に相性がよろしいのです」
少し遠い目をするとセルジオへ微笑みを向けた。
「セルジオ殿が水の城塞で覚醒されたのもウンディーネ様のお計らいからでした。私が初代様と言葉を交わせたことも同じです」
「私の姿が先祖であるオーロラと生き写しであったのもそうなのでしょう。全ては必然で采配は天、是非は己、審判は他であることは避けられぬこと」
まるで自分自身に言い聞かせる様な物言いにバルドは違和感を覚える。
普段のアロイスは明朗快活に言葉を発する。
それは、騎士団団長として受け取る側に不安や疑念を抱かせないためだ。
だが、今のアロイスから発せられる言葉は、何かを言い淀んでいるように感じられてならない。
バルドは初代セルジオを目覚めさせる方法がセルジオにとって危険な行いであると察し、覚悟をする。
『何があろうとも例え結果がセルジオ様のお心を砕く事になろうとも私は、この命の尽きるまでセルジオ様にお仕えするのみ』
バルドは心の中で、強く誓った。
アロイスはまた一つ大きく息を吸うと普段の歯切れのよい口調で話を続けた。
「清めの儀式の後、初代セルジオ様にお出まし頂きます。少々、いえ、かなり危険な方法です。ウンディーネ様にセルジオ殿の青き泉へ入って頂きます。そして、そこから初代セルジオ様をお連れ頂きます。この方法はセルジオ殿の身体にかなりの負担を掛かることになります。恐らく、胸の辺りに激痛が走ります」
「そして、一旦、青き泉の外に出られた初代セルジオ様にお戻り頂かねばなりません。お出ましになられる際、お戻りになられる際の二度、セルジオ殿には激痛に耐えて頂く事になります」
「上々の運びになるかどうかは五分五分です。上々であれば初代様の抱かれる無念の感情はこの場で聖水に浄化され、初代様は鎮かに青き泉にお戻りになれます。
「しかし、失敗すればセルジオ殿のお心は砕けます。以前、火炎の城塞にて深淵に落ちた時と同様のご様子になられるでしょう。生涯そのまま今、こうしていらっしゃるセルジオ殿とは二度とお会いすることは叶わぬこととなります」
アロイスは一同を見回した。
「それでも、五分五分です。天がセルジオ殿を生かそうとされているからこそ、こうした機会が訪れているのだと私は確信しています」
アロイスは力強く言い切った。
バルドはセルジオの少し大人びた横顔を見つめる。
バルドの視線に気づくとセルジオはコクリッと一つ頷いた。
2人の様子にアロイスはふっと笑う。
五分五分の成功率など微塵も気に留めていないセルジオとセルジオに何があろうと離れることはないバルドの想いに何を躊躇うことがあろう。
アロイスは今一度、一同を見回した。
「そこで、皆さまには私にお力をお貸し頂きたい」
アロイスはまずバルドへ目を向けた。
「バルド殿にはセルジオ殿のお身体を支える役目を担って頂きます。私はウンディーネ様をセルジオ殿の青き泉へお入り頂く役目を担います。その際にセルジオ殿の背後でお身体を支えて頂きたい」
「はっ!承知致しました」
バルドは即答した。
「次にオスカー殿にはラルフと一緒に私の身体を支えて頂きたい。ラルフは私の右手側、オスカー殿には私の左手側に就いて頂く」
「はっ!承知致しました」
オスカーも即答する。
「そして、エリオス殿は」
アロイスはエリオスへ微笑みを向ける。
「エリオス殿にはセルジオ殿の左手を握っていて頂きます。初代セルジオ様がセルジオ殿の青き泉へお戻りになるまで、セルジオ殿の左手を決して離さず、握り続けるのです。エリオス殿、できますか?」
アロイスはいつになく優しい口調でエリオスへ問いかける。
ガタンッ!!
エリオスはその場で立ち上がり、左手を胸の前に置く。
「はっ!!承知致しましたっ!始終、セルジオ様の左手を握り続けますっ!」
修道院の食堂に響き渡る程の大音量で呼応する。
「頼もしい限りです。頼みますね」
アロイスは静かに微笑んだ。最後にセルジオへ目を向ける。
「セルジオ殿、痛みを感じにくいとはいえ、今回は尋常でない痛みとなりましょう。気を失ってはなりません。この度は外側から強制的に時の狭間を作り出す行いです。気を失えば時の狭間のどこぞに飛ばされます。気を失わぬためにエリオス殿に手を握って頂くのです。我らはセルジオ殿の気力に頼る他ございません。まだまだ、お小さいお身体です。苦しく、痛みに耐えられず気が遠のくことがあればエリオス殿の手を握り返すのです。よいですか?気を失ってはなりませんよ」
セルジオはアロイスの深い緑色の瞳をじっと見つめた。
「はい、アロイス様。承知致しました。皆に、これまでも本当に多くの方々に助けて頂きました。その方々へ恩をお返しするためにも、私の覚醒を喜んでくれる方々のお気持ちにも、ここでくじけてはいけないと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします」
ほんの3ヵ月前だ。セルジオと言葉を交わしたのは。
この3ヵ月の間に口にする言葉さえも様変わりしたとアロイスは目を細めた。
「そうですね。皆、いえ、王国の誰もが待ち望んだ青き血が流れるコマンドールの再来です。ここで朽ちる訳にはまいりませんね」
アロイスは目を閉じると大きく息を吸った。
「それでは、皆さま、明朝の清めの儀式で存分に役目を果たそうではありませんかっ!青き血が流れるコマンドールと守護の騎士、そして、ブラウ修道院に水の精霊ウンディーネの加護のあらんことを!」
ガタンッ!!
ガタンッ!!
「我らに水の精霊ウンディーネの加護のあらんことをっ!!」
全員が一斉に席を立ち、アロイスの号令に呼応した。
サアァァァァ・・・・
サアァァァァ・・・・
朝陽が昇る前の薄暗い中、神殿の奥にある水汲み場からのびる岩壁の階段をバルドに抱えられながらゆっくりと下りる。
サアァァァァ・・・・
サアァァァァ・・・・
水の流れる音が次第に大きくなる。
ピチャン・・・・
ピチャン・・・・
天井を見上げると岩壁から氷柱の様に石がのびている。
ブルリッ!!!
セルジオはヒンヤリとした冷たい空気に身震いをした。
「セルジオ様、お寒いですか?」
セルジオを抱えるバルドが被せていたフードでセルジオの身体を覆う。
「大事ない。寒さに震えているようではいけないな」
そう言いながらもセルジオはバルドの首に両腕を回し抱きついた。
セルジオは間近で始終共に生活するバルドから見ても見違える程、年相応の反応をするようになった。
この愛らしい姿を失う事になるかも知れないと思うとバルド自身も身震いを覚える。
「セルジオ様、恐怖を感じる事もできるようになりましたね」
バルドはセルジオを優しく抱きしめた。
「そうなのか?私は恐怖を感じているのか?恐いと思っているのか?」
ブルブルと震えるセルジオをバルドはギュッと抱きしめる。
「はい、これよりの儀式に恐怖を覚えておいでです。よいのですよ。皆、恐ろしいと思っています」
「バルドもか?」
「はい、私も恐ろしく思っています。それでもセルジオ様と共にいれば恐怖に打ち勝てるとも信じています」
バルドはセルジオの頭に口づけをする。
「打ち勝つことを信じる・・・・バルドに口づけされると私もそう思う」
セルジオはバルドの首に回す手に力を入れた。
サアァァァァ・・・・
サアァァァァ・・・・
暗闇の中に蒼い明かりを灯す一角が現れた。
ブラウ修道院祭場が蒼い光を放っている様だ。
「おはようございます。セルジオ様、エリオス様、バルド様、オスカー様」
深々と頭を下げるクロードとミゲル、ヤンの姿があった。
「アロイス様、ラルフ様は清めの儀式が終わり次第、お越し頂きます」
クロードが説明をする。
「こちらのお召し物にお着替え下さい」
ミゲルとヤンから白い衣を受け取る。
「着替え終えましたら、泉にお入り頂きます」
ミゲルに岩壁の傍にある脱衣場に案内された。
温泉の蒸気で温められた脱衣場で着替えをすると4人は静かに泉に入り横一列に並んだ。
静々とクロードが4人の前に立つ。
「父と子と精霊の御名において、青き血が流れるコマンドールと守護の騎士に幸あらんことを。これより清めの儀式を執り行います」
クロードが儀式の開始を謳った。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
いよいよ、清めの儀式が執り行われます。
初代セルジオを呼び出す準備を整え、待機するアロイスとラルフ。
初代セルジオの無念の感情がいかほどもものであったのかを知ることになる一同。
次回もよろしくお願い致します。
チラリとセルジオへ目を向けるとふっと一つ息を吐く。
「初代セルジオ様は、我が水の城塞と水の精霊ウンディーネ様と非常に相性がよろしいのです」
少し遠い目をするとセルジオへ微笑みを向けた。
「セルジオ殿が水の城塞で覚醒されたのもウンディーネ様のお計らいからでした。私が初代様と言葉を交わせたことも同じです」
「私の姿が先祖であるオーロラと生き写しであったのもそうなのでしょう。全ては必然で采配は天、是非は己、審判は他であることは避けられぬこと」
まるで自分自身に言い聞かせる様な物言いにバルドは違和感を覚える。
普段のアロイスは明朗快活に言葉を発する。
それは、騎士団団長として受け取る側に不安や疑念を抱かせないためだ。
だが、今のアロイスから発せられる言葉は、何かを言い淀んでいるように感じられてならない。
バルドは初代セルジオを目覚めさせる方法がセルジオにとって危険な行いであると察し、覚悟をする。
『何があろうとも例え結果がセルジオ様のお心を砕く事になろうとも私は、この命の尽きるまでセルジオ様にお仕えするのみ』
バルドは心の中で、強く誓った。
アロイスはまた一つ大きく息を吸うと普段の歯切れのよい口調で話を続けた。
「清めの儀式の後、初代セルジオ様にお出まし頂きます。少々、いえ、かなり危険な方法です。ウンディーネ様にセルジオ殿の青き泉へ入って頂きます。そして、そこから初代セルジオ様をお連れ頂きます。この方法はセルジオ殿の身体にかなりの負担を掛かることになります。恐らく、胸の辺りに激痛が走ります」
「そして、一旦、青き泉の外に出られた初代セルジオ様にお戻り頂かねばなりません。お出ましになられる際、お戻りになられる際の二度、セルジオ殿には激痛に耐えて頂く事になります」
「上々の運びになるかどうかは五分五分です。上々であれば初代様の抱かれる無念の感情はこの場で聖水に浄化され、初代様は鎮かに青き泉にお戻りになれます。
「しかし、失敗すればセルジオ殿のお心は砕けます。以前、火炎の城塞にて深淵に落ちた時と同様のご様子になられるでしょう。生涯そのまま今、こうしていらっしゃるセルジオ殿とは二度とお会いすることは叶わぬこととなります」
アロイスは一同を見回した。
「それでも、五分五分です。天がセルジオ殿を生かそうとされているからこそ、こうした機会が訪れているのだと私は確信しています」
アロイスは力強く言い切った。
バルドはセルジオの少し大人びた横顔を見つめる。
バルドの視線に気づくとセルジオはコクリッと一つ頷いた。
2人の様子にアロイスはふっと笑う。
五分五分の成功率など微塵も気に留めていないセルジオとセルジオに何があろうと離れることはないバルドの想いに何を躊躇うことがあろう。
アロイスは今一度、一同を見回した。
「そこで、皆さまには私にお力をお貸し頂きたい」
アロイスはまずバルドへ目を向けた。
「バルド殿にはセルジオ殿のお身体を支える役目を担って頂きます。私はウンディーネ様をセルジオ殿の青き泉へお入り頂く役目を担います。その際にセルジオ殿の背後でお身体を支えて頂きたい」
「はっ!承知致しました」
バルドは即答した。
「次にオスカー殿にはラルフと一緒に私の身体を支えて頂きたい。ラルフは私の右手側、オスカー殿には私の左手側に就いて頂く」
「はっ!承知致しました」
オスカーも即答する。
「そして、エリオス殿は」
アロイスはエリオスへ微笑みを向ける。
「エリオス殿にはセルジオ殿の左手を握っていて頂きます。初代セルジオ様がセルジオ殿の青き泉へお戻りになるまで、セルジオ殿の左手を決して離さず、握り続けるのです。エリオス殿、できますか?」
アロイスはいつになく優しい口調でエリオスへ問いかける。
ガタンッ!!
エリオスはその場で立ち上がり、左手を胸の前に置く。
「はっ!!承知致しましたっ!始終、セルジオ様の左手を握り続けますっ!」
修道院の食堂に響き渡る程の大音量で呼応する。
「頼もしい限りです。頼みますね」
アロイスは静かに微笑んだ。最後にセルジオへ目を向ける。
「セルジオ殿、痛みを感じにくいとはいえ、今回は尋常でない痛みとなりましょう。気を失ってはなりません。この度は外側から強制的に時の狭間を作り出す行いです。気を失えば時の狭間のどこぞに飛ばされます。気を失わぬためにエリオス殿に手を握って頂くのです。我らはセルジオ殿の気力に頼る他ございません。まだまだ、お小さいお身体です。苦しく、痛みに耐えられず気が遠のくことがあればエリオス殿の手を握り返すのです。よいですか?気を失ってはなりませんよ」
セルジオはアロイスの深い緑色の瞳をじっと見つめた。
「はい、アロイス様。承知致しました。皆に、これまでも本当に多くの方々に助けて頂きました。その方々へ恩をお返しするためにも、私の覚醒を喜んでくれる方々のお気持ちにも、ここでくじけてはいけないと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします」
ほんの3ヵ月前だ。セルジオと言葉を交わしたのは。
この3ヵ月の間に口にする言葉さえも様変わりしたとアロイスは目を細めた。
「そうですね。皆、いえ、王国の誰もが待ち望んだ青き血が流れるコマンドールの再来です。ここで朽ちる訳にはまいりませんね」
アロイスは目を閉じると大きく息を吸った。
「それでは、皆さま、明朝の清めの儀式で存分に役目を果たそうではありませんかっ!青き血が流れるコマンドールと守護の騎士、そして、ブラウ修道院に水の精霊ウンディーネの加護のあらんことを!」
ガタンッ!!
ガタンッ!!
「我らに水の精霊ウンディーネの加護のあらんことをっ!!」
全員が一斉に席を立ち、アロイスの号令に呼応した。
サアァァァァ・・・・
サアァァァァ・・・・
朝陽が昇る前の薄暗い中、神殿の奥にある水汲み場からのびる岩壁の階段をバルドに抱えられながらゆっくりと下りる。
サアァァァァ・・・・
サアァァァァ・・・・
水の流れる音が次第に大きくなる。
ピチャン・・・・
ピチャン・・・・
天井を見上げると岩壁から氷柱の様に石がのびている。
ブルリッ!!!
セルジオはヒンヤリとした冷たい空気に身震いをした。
「セルジオ様、お寒いですか?」
セルジオを抱えるバルドが被せていたフードでセルジオの身体を覆う。
「大事ない。寒さに震えているようではいけないな」
そう言いながらもセルジオはバルドの首に両腕を回し抱きついた。
セルジオは間近で始終共に生活するバルドから見ても見違える程、年相応の反応をするようになった。
この愛らしい姿を失う事になるかも知れないと思うとバルド自身も身震いを覚える。
「セルジオ様、恐怖を感じる事もできるようになりましたね」
バルドはセルジオを優しく抱きしめた。
「そうなのか?私は恐怖を感じているのか?恐いと思っているのか?」
ブルブルと震えるセルジオをバルドはギュッと抱きしめる。
「はい、これよりの儀式に恐怖を覚えておいでです。よいのですよ。皆、恐ろしいと思っています」
「バルドもか?」
「はい、私も恐ろしく思っています。それでもセルジオ様と共にいれば恐怖に打ち勝てるとも信じています」
バルドはセルジオの頭に口づけをする。
「打ち勝つことを信じる・・・・バルドに口づけされると私もそう思う」
セルジオはバルドの首に回す手に力を入れた。
サアァァァァ・・・・
サアァァァァ・・・・
暗闇の中に蒼い明かりを灯す一角が現れた。
ブラウ修道院祭場が蒼い光を放っている様だ。
「おはようございます。セルジオ様、エリオス様、バルド様、オスカー様」
深々と頭を下げるクロードとミゲル、ヤンの姿があった。
「アロイス様、ラルフ様は清めの儀式が終わり次第、お越し頂きます」
クロードが説明をする。
「こちらのお召し物にお着替え下さい」
ミゲルとヤンから白い衣を受け取る。
「着替え終えましたら、泉にお入り頂きます」
ミゲルに岩壁の傍にある脱衣場に案内された。
温泉の蒸気で温められた脱衣場で着替えをすると4人は静かに泉に入り横一列に並んだ。
静々とクロードが4人の前に立つ。
「父と子と精霊の御名において、青き血が流れるコマンドールと守護の騎士に幸あらんことを。これより清めの儀式を執り行います」
クロードが儀式の開始を謳った。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
いよいよ、清めの儀式が執り行われます。
初代セルジオを呼び出す準備を整え、待機するアロイスとラルフ。
初代セルジオの無念の感情がいかほどもものであったのかを知ることになる一同。
次回もよろしくお願い致します。
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