とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第76話 奴隷の城館2

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木々が生い茂った小道を小一時間程、荷馬車で進むと石壁が現れた。

荷馬車は石壁に沿って東に進んだ。

「・・・・そろそろだな」

ギアスが手綱を操る弟に声を掛ける。

ガタッガタッガタッ・・・・
ガタッガタッガタッ・・・・

ギアスの弟は、荷馬車の速度を落とした。

ガタッガタッガタンッ!!

石壁に赤色と白色のケシの花を模した刻印が左右に描かれている一角で荷馬車は止まった。

ギアスは荷馬車を下りると腰の小袋から掌大の黒い珠を二つ取り出した。

石壁に近づき黒い珠を左右にあるケシの刻印の中央に埋め込む。

ガゴンッ!!!
ガゴンッガゴンッガゴンッ!!!
ズズンッ!!!

荷馬車が一台通れる程に石壁が開かれた。

「よしっ!行くぞ!」

ギアスが急いで荷馬車に乗ると弟は開いた石壁の隙間へ荷馬車をすべらせた。

荷馬車が通り抜けると石壁は重たそうな音を立てて自然に閉じられた。

カタッカタッカタッ・・・・
カタッカタッカタッ・・・・

石壁の中の道は整備され荷馬車の運びがいい。

「兄さん、離れの館の道は整備されていて進みやすいよ」

ギアスの弟は軽快に回る車輪の音に耳を澄ませる。

「・・・・そうだな。まぁ、森の小道はあえて整備されていないからな。この先には何もありはしないという目くらましでもあるからな」

ギアスは無表情で弟に呼応した。

整備はされているが木々で覆われた薄暗い小道を進むと一気に視界が開けた。

白っぽい石造の3階建て城館が見えた。

「兄さん、あそこだね。俺、離れの館はなんだ。綺麗な石造の城だね」

ギアスは弟の方へ目を向けずに「そうだな」とだけ呼応した。

城館が近づくと鉄製の柵で囲われた一か所がアーチ形の門になっていた。

門の中には軽装備の門番が槍を携え門内に立っていた。

ギアスが荷馬車を下り、鉄柵越しに門番に声をかける。

「荷運びのギアスがご主人の命によりまいりました。積荷は木箱が六つ。内二つはクリソプ男爵からご主人への贈り物です。余興にお使い下さいと言伝を承っています」

軽く頭を下げ、門番に積荷の説明をする。

「荷運びのギアス、役目ご苦労だった。荷は、裏手口から入れてくれ。このまま東へ進むと訓練場がある。訓練場を右手に北へ向かえ。水路が見えたら西へ真っ直ぐ。その先に従士3人がいる。荷はそこで下し、そのまま北の門から出ればいい。荷を下したら茶を一杯飲んで行け」

門番は淡々とした表情でギアスへ荷下ろしの場所と出口を指し示した。

「承知しました。あり難く頂きます」

ギアスは丁寧に頭を下げると再び荷馬車に乗った。

カタッカタッカタッ・・・・
カタッカタッカタッ・・・・

門番に言われた通りに道を進む。

カンッカンッカカッ!!!
カンッカンッ!!!

木剣を交える音が聞こえてきた。

訓練場では30人程の子供が5人の従士から手ほどきを受けていた。

ギアスの弟はチラチラと訓練場へ目を向けた。

訓練中の子供の中にはまだ立ち上がることもできない赤子が数人いた。

「・・・・兄さん、あんな小さな子まで訓練するんだね。貴族の子は大変だ」

ギアスの弟は訓練場へ顔を向ける。

ギアスは慌てて弟を制した。

「お前っ!よせっ!見るなっ!!」

ビクリッ!!!

「あ~驚いたっ!そんなに怒鳴らなくてもいいだろう?見たらダメなのか?」

「お貴族様の屋敷では何も見ないにこしたことはないんだっ!行く道だけに目を向けろっ!人の顔も目も見るなっ!道だけを見ていろっ!そうでないと・・・・」

ギアスは声を落とす。

「お貴族様の習わしだ。他家の者の行いは見ない事が作法なんだ。覚えておけよ。俺たちはお貴族様の屋敷へ出入りできるような人間じゃないんだ。ご主人のお陰でこうして屋敷へも入る事ができるんだぞ。忘れるなよ」

ギアスは道の先へ目を向けたまま弟を諭した。

「・・・・わかったよ。俺は知らないことばかりだな。兄さんは物知りだな」

ギアスの弟は少し誇らしげに呼応した。

訓練場を右手に北へ進むと水路が見えた。西へ進むと3人の軽装備の従士が裏手口の前で番をしていた。

荷馬車の近づく音がすると1人が裏手口の扉をドンドンと3回強く叩いた。

ギギギィィ・・・・

ガタンッガタンッ・・・・

ガラガラガラ・・・・
ガラガラガラ・・・・
ガラガラガラ・・・・

侍従に引かれた台車が3台、裏手口から出てきた。

3人の従士が荷馬車に近づく。

1人がギアスとギアスの弟をジロリと見た。

「荷運びのギアスだな。荷はここで受け取る。台車に木箱を2つづつ乗せろ。クリソプ男爵からのの2箱はこの台車へ」

積荷が落ちない様に囲いのある台車を指定される。

「承知しました」

ギアスとギアスの弟は荷馬車から下りるとすぐさま積荷を台車へ乗せ換えた。

3人の従士が乗せ換えを手伝い、あっという間に荷下ろしは終わった。

台車3台に乗せられた積荷は裏手口から静かに城塞の中へ入っていった。

侍従の1人がトレーに2つの木製のコップと報酬が入った小袋を乗せてギアスへ歩み寄った。

「ギアス殿、ご苦労様でした。どうぞ、お茶を召し上がって下さい。お連れの方はこちらの白い花が刻印されている方をどうぞ。こちらは今回の報酬です。ご主人様がクリソプ男爵様からの贈り物を大層お喜びでございました。ギアス殿とお連れの方が捕獲にご助力頂いたとか。御礼を申し上げる様、承っております」

侍従はトレーを片手に丁寧に頭を下げた。

「いえ・・・・我らが今あるのはご主人のお陰様にて。ご主人のお役に立てることが我らの唯一の喜びです」

ギアスは、侍従に呼応するとトレーから白い花が刻印されているコップを手に取り、弟に手渡した。

「お前のだ。あり難く頂けよ。ご主人、の茶だ。我らが口にする事はまずない茶だからな」

ギアスの弟は嬉しそうにコップと手に取るとお茶をすすった。

「あぁ、なんて香しいんだろう。こんなに美味しい茶はだ」

「・・・・」

ギアスも白い花の刻印がされていないコップを手に取りお茶をすする。

そっと弟の様子を窺った。

侍従が目を細める。

「ギアス殿、次は3ヶ月後となります。ご主人様がその旨ギアス殿にもお伝えする様にと。では、私はこれにて失礼を致します」

侍従はギアスと弟が飲み終わったコップをトレーに乗せると2人に一礼して裏手口へ消えた。

「では、失礼いたします」

ギアスは3人の従士に頭を下げると荷馬車に乗り、手綱を取った。

「お前は荷台に乗れ。朝早かったからそろそろ眠気がくるころだろう?」

ギアスの弟は大きな欠伸あくびを何度もしていた。

「兄さんは眠たくないの?俺は・・・・何だろう・・・・突然に眠たくなってきた・・・・」

「お前は朝早いといつもそうだろう?いいから荷台で眠っておけ。行くぞ」

弟がフラフラと荷台に乗り込むとギアスは荷馬車を走らせた。

カタカタカタカタッ・・・・

道の整った離れの館のアーチ形の北門を抜ける。

荷台に乗った弟の寝息が聞こえ、ギアスは小さく息を吐いた。






【春華のひとり言】

今日もお読み頂きまして、ありがとうございます。

奴隷の城館に入りました。

クリソプ男爵からの2箱の贈り物は、セルジオとエリオス。

贈り物を受け取った「ご主人」は誰なのか?

クリソプ騎士団編、次回からクライマックスに入ります。

次回もよろしくお願い致します。
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