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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第62話 フレイヤの思惑
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「・・・・お帰りになられたか・・・・」
カリソベリル騎士団団長フレイヤは訓練場を後にした実父カリソベリル伯爵とエステール伯爵の姿が回廊を抜け出入口の方へと消えるとポツリと呟いた。
バッ!!!
訓練を再開する様、指示した騎士と従士の方へ勢いよく身体を向けると号令をかけた。
「皆っ!集まれっ!青き血が流れるコマンドールと守護の騎士の元へっ!集まるのだっ!」
ザッザッ!!!
ザザッザザッ!!!
カリソベリル騎士団騎士と従士の総勢80名が団長フレイヤを先頭にセルジオとエリオスの前にかしづいた。
見物席の反対側の場外で待機していたバルトとオスカーは顔を見合わせると慌ててセルジオとエリオスの元へ掛け寄った。
「・・・・」
セルジオとエリオスは目の前でかしづく団長フレイヤをただ黙まりじっと見つめた。
他家貴族騎士団を巡回する際の心得としてバルトとオスカーから言い含められていた。
セルジオとエリオスへ敬意を向け、目前でかしづかれた場合は相手が言葉を発するまでは姿勢を正し凛々しく待っていればよいと諭された。
怖気づき後ろへ下がる事も圧倒され最初に言葉を発する事もましてやその場から離れ逃げる事等あってはならぬと言われていた。
「・・・・」
セルジオとエリオスはバルトとオスカーから諭された通りフレイヤの言葉を待った。
タタッタタッ・・・・
サッ!
サッ!
バルトとオスカーは見物席反対側から駆け寄るとセルジオとエリオスの左右に控える。
フレイヤはバルトとオスカーが所定の位置に就く姿を捉えると大きく息を吸い口上を述べた。
「青き血が流れるコマンドールと守護の騎士へ拝謁致します。我が騎士団へお越し頂きましてからの数々のご無礼、お許し頂きたくこの場にてお詫び申し上げます。また、この度の御前試合での勝利、御祝い申し上げます。おめでとう存じます」
フレイヤが向上を述べると後ろでかしづく騎士と従士も後に続いた。
「おめでとう存じますっ!」
フレイヤが再び言葉を繋いだ。
「お相手を致しました我が騎士団第一隊長フェルディは双剣術の使い手であります。よもやこうも容易く打ち負かされるとは思いもよらぬこと。この後の訓練のあり方を見直す機会となりました事、合わせて御礼申し上げます」
ザッザザッ!!!
フレイヤの言葉に総勢80名の騎士と従士が姿勢を正す。
「・・・・」
セルジオとエリオスは黙ってフレイヤの言葉を聞いていた。
フレイヤの口上に続きがないと見るとセルジオは口を開く。
「カリソベリル騎士団団長フレイヤ様、ならびに騎士と従士の方々、この度の試合、機会を頂き感謝もうします。我ら存分に今ある力を発揮することが叶いました。御礼もうします」
サッ!
サッ!
セルジオとエリオスは左手を胸の前に置き、軽く頭を下げた。
セルジオはそのまま話しを続ける。
「皆様、どうか頭をお上げください。カリソベリル騎士団団長フレイヤ様はじめ騎士と従士の皆様、改めて感謝もうします」
セルジオの言葉にフレイヤはじめ騎士と従士が一斉に呼応した。
「はっ!!」
「我ら滞在の間、この後の訓練もよしなに願います」
「はっ!!」
再び一斉に呼応するとフレイヤが立ち上がった。
ザッ!!
ザザザッ!!!
フレイヤに続き騎士と従士も立ち上がる。
フレイヤが大声を上げた。
「皆っ!これより訓練に入れっ!」
「はっ!!」
ザワッザワッザワッ・・・・
ザッザッザッ・・・・
騎士と従士は各々の日常訓練に入った。
騎士と従士が訓練に入る様を見て取るとフレイヤはセルジオとエリオスへ向き直る。
「セルジオ様、エリオス様、バルド殿、オスカー殿、今後の事にてお話がしたく存じます。我が居室にお越し頂けますか?」
今まで無表情の冷たい感じがしていたフレイヤがまるで別人の様に微笑みを向ける。
セルジオはフレイヤの変化には触れずに素直に申出に従った。
「はい、承知しました」
フレイヤはセルジオへ再び微笑みを向けた。
フレイヤの隣に佇んでいた第一隊長フェルディと第二隊長ジーニーへも同行する様に言う。
「フェルディ、御前試合のこと大儀だった。この後のこと予定通り進める。そなたとジーニーも同道せよ」
「はっ!承知しました」
フェルディとジーニーは呼応する。
「では、参りましょう」
フレイヤを先頭にセルジオ達はフレイヤの居室へ向かった。
バルドとオスカーはセルジオとエリオスに身に付けさせた防具をそのままにしていた。
カリソベリル騎士団に入ってからの経緯とフレイヤの突然の変化に違和感を覚えていたからだ。
まして、騎士団団長の居室へ先程対戦した第一隊長と第二隊長を同道させてとなると襲撃されないとは言いきれない。
バルトとオスカーといえども他家騎士団城塞でセルジオとエリオスの身を確実に守り切ることができるか定かではないと考えたからだった。
カツッカツッカツッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
訓練場回廊を抜け城塞の廊下を進む。
城館の造りのカリソベリル騎士団城塞は天井が高く床や壁は白い石が使われている。
廊下の窓からは陽の光が差込み明るく華やかさを醸し出していた。
ガチャ
キィィィ
両開きの白地に黄色の装飾がされている扉をフレディとジーニーが開くとフレイヤが「どうぞ」と一言告げる。
フレイヤの後にセルジオとエリオスは続いた。
バルドとオスカーはいつでも蒼玉の短剣を抜ける様にマントの下でそっと構え、セルジオとエリオスの後に続いた。
パアァァ
朝陽が窓から差し込み、フレイヤの居室は光り輝いていた。
「どうぞ、セルジオ様、エリオス様、バルト殿、オスカー殿、こちらへお掛け下さい」
部屋の中央にある円卓の南側へ案内される。
警戒を解かないバルトとオスカーにチラリと目をやるとフレイヤはふっと笑った。
「バルト殿、オスカー殿、そろそろ警戒をお解き下さい。まぁ、こちらへお越し下さってからの4日間での我らの所業からすれば致し方ないことではありますが・・・・」
フレイヤは申し訳なさそうにふふふっと笑った。
ストンッ
フレイヤは東側へ腰を下した。
パタンッ!
フレイヤが座るとフレディとジーニーは居室の扉を閉める。
そのまま北側の席へ座った。
バルトとオスカーはフレディとジーニーが腰かけると案内された南側の椅子を引き、セルジオとエリオスを腰かけさせた。
そのままセルジオとエリオスの後ろで待機する。
フレイヤがバルトとオスカーへも座る様に促した。
「バルト殿、オスカー殿、お掛け下さい。このままでは話しを始められません・・・・う~ん、困りましたね」
フレイヤはフレディへ顔を向けると隣室から書簡を持ってくる様に指示する。
「フレディ、例の書簡をこれへ」
「はっ!」
ガタンッ!
フレディは立ち上がり隣室に入ると蒼と紫のリボンが巻かれた書簡を手に戻ってきた。
フレイヤへ書簡を渡す。
ピクリッ!
バルトとオスカーはその書簡を目にすると微かに動いた。
フレイヤがバルトとオスカーへ微笑みを向ける。
「お解りでございましょう。蒼いリボンはセルジオ騎士団、紫のリボンはラドフォール騎士団、両騎士団団長から連名での書簡です。ラドフォールからセルジオ様、エリオス様が滞在時に必要だとの荷と共に届きました。5伯爵家騎士団へ全て届けられているとことです。これでもまだ、私をお信じ頂くことは叶いませんか?」
フレイヤはふふふっと笑った。
バッ!!
バッ!!
バルトとオスカーはセルジオとエリオスの後ろでかしづきフレイヤへ非礼を詫びる。
「フレイヤ様、大変失礼を致しました。我ら主《あるじ》を守護するためのことにて何卒お許し下さいっ!」
フレイヤは優しい眼をセルジオとエリオスへ向ける。
「バルト殿、オスカー殿、どうぞ顔を上げて下さい。この様に麗しいお2人を主とされ、また守護の騎士としての役目もございましょう。我らのこれまでの言動からすればこの場に同道頂くことも許し難いはず。それにも関わらず私の案内する席に座らせて下さったのですから何を咎めることがありましょう。どうぞ、お気になさらず。バルト殿とオスカー殿は守護の騎士としての役目を見事に果たされただけです。さっ、お座り下さい」
「はっ!感謝申しますっ!」
バルトとオスカーへフレイヤに従った。
ガタンッ
ガタンッ
バルトとオスカーはセルジオとエリオスの隣へ腰を下した。
「さて、ではまずセルジオ騎士団、ラドフォール騎士団両団長からの書簡についてからお話ししましょう」
フレイヤは書簡を広げ話し始めた。
書簡の冒頭にはシュタイン王国王都騎士団総長ジェラルの意向が書かれていた。
18貴族騎士団の現状を憂い、この先へ向けて変革をもたらしたいとあった。
今は一枚岩とは言えない状態の18貴族騎士団を王都騎士団総長を頂点に統制を取り、守りを固め他国からの侵略に備える力をつけること。
国内外の情勢と状況をいち早く収集、分析し起こりうる戦闘に万全の態勢で臨める仕組みを整えること。
遠征に赴く際、国内の守備と攻勢を担う貴族間を横断できる新たな組織を作ること。
これらの変革を可能にする方策として各貴族騎士団の内情をつまびらかにすること。
ここまでの書簡の内容を伝えるとフレイヤは次はセルジオ騎士団団長とラドフォール騎士団団長からだと続けた。
「『王都騎士団総長のご懸念とこの先の貴族騎士団のあり方について、まずは5伯爵家騎士団が団結する事が先決だと考える。そのためにセルジオ騎士団団長名代としてセルジオと守護の騎士を各貴族騎士団に巡回させるからよろしく頼む』と、綴られております」
パサッ!
クルクル・・・
フレイヤは読み上げた書簡を丁寧に丸めると蒼いリボンと紫色のリボンを巻き付けた。
そっと机上に書簡を置くとセルジオとエリオスへ眼を向けた。
「私は王都騎士団総長のご懸念と両団長が申されること重々承知しております。まずは我ら王都を囲み守護する5伯爵家騎士団の結束する事が最も重視すべきことだとのお考えにも賛同致します。されど・・・・」
フレイヤは少し哀し気な眼をセルジオへ向けた。
「・・・・この度の御前試合のことでバルト殿とオスカー殿はお気づきでしょう。シュタイン王国を栄えさせ、民の暮らしを守り、他国の侵略などものともしない国造りには富と地位と力が必要です。このことは皆が解っております。されど、事は同じでも行い方を違える場合があるのです。果たして5伯爵家当主と騎士団の行い方は同じでしょうか?少なくとも我がカリソベリル伯爵家と我がカリソベリル騎士団とでは行い方が異なります。ただ、騎士団はあくまでも家名があってのものです。当主の意向と真っ向から反目することは叶いません。されど、我らとて騎士の矜持を違えてまで当主に賛同はできません。さすればこの度の私の様に表向きは当主の意向に賛同した様に見せ、実の所は行いを違えねばならぬ事もでてきます。そして、一度、行いを違えたならば違え続けねばなりません。それも当主に悟られぬ様、内々に確実に続けなければ家名と騎士団は共存できなくなります」
フレイヤはふぅと一つ息を漏らした。
セルジオへ今一度、視線を向ける。
「この度の御前試合で我が父はセルジオ様を亡き者にできればと考えていたと推察しています。手合わせを御前試合にするようある方の意向だからと言われ、やむなく了承しました。エステール伯爵のお姿を目にしました時、推察は確信に変わりました。王都騎士団総長、セルジオ騎士団団長、ラドフォール騎士団団長はこの先に必要なことを新たに設けるとお考えです。されとエステール伯爵ご当主と我が父はこの先に危惧すべき事柄は小さな内に排除が必要と考えています。行い方が真逆なのです」
フレイヤはエリオス、バルト、オスカーへ眼を向けた。
「ここまで行い方が異なればこの先に進むに憂いがでると考えました。そこで、私はこの御前試合に懸けたのです。セルジオ様が真に青き血が流れるコマンドールの再来であるならば自ずと天が導かれると思いました。私の片翼である第一隊長フェルディを対戦者にしましたのも父へのけん制もありましたが、万が一、セルジオ様が傷つき、敗ける事になればそれまでであると思い当主の行い方に従おうと考えていたのです」
フレイヤはここで頭を下げた。
「セルジオ様、エリオス様、バルド殿、オスカー殿、申し訳ございまぜんっ!私は皆様を試しました。セルジオ様が真に青き血が流れるコマンドールの再来であり、エリオス様が守護の騎士であるのかを試しました。この様な不貞、セルジオ騎士団団長とラドフォール騎士団団長がお知りになればさぞ嘆かれることだろうと解っております。されど、我らにも覚悟に値する事実が必要でした。どうぞ、ご容赦下さい」
フレイヤは深々と頭を下げた。フレイヤに続きフェルディとジーニーも頭を下げる。
「・・・・」
セルジオは黙ったまま頭を下げるフレイヤを見つめる。
隣に座るバルトを見上げると優しい微笑みを向けていた。
そっとセルジオへ向けて頷く。
セルジオはフレイヤへ呼応した。
「フレイヤ様、頭をお上げ下さい。私はまだ騎士団への入団もしていません。騎士の叙任を受けてもいません。セルジオ騎士団団長名代との大任を受けてはいますが、3人の守護の騎士がおらねば独りでは何もできないのです。されど見聞の旅に出て3ヶ月が経とうとしています。訓練施設にいただけでは出会う事のなかった方々との出会いから多くの事を知ることができるのだと知ったのです。何もできない、何も知らないことが解ってきたのです。バルトやオスカーが話すこと、ポルデュラ様から言われたことの意味が何となく解ってきているのです。今日は父に会う事もできました。理由はどうあれ訓練施設にいたままでは会う事はできなかったと思います。バルトが言うのです。全てを受け入れる度量を持てねば騎士団団長にはなれぬと言うのです。ですからご案じなさらないで下さい。フレイヤ様にはフレイヤ様の私には私の役目と行い方があると思うのです」
セルジオはバルトと初代セルジオに何度も諭された言葉をフレイヤへ伝えた。
フレイヤは顔を上げる。
「セルジオ様・・・・いえ、青き血が流れるコマンドール、感謝申します」
フレイヤは今一度深く頭を下げた。
セルジオはヨシュカに向けられた悪意ある言葉の後でどう言葉をかければよいかをラドフォール影部隊隊長のラルフに言われた言葉を思い返していた。
『セルジオ様、誰もがうらやむバルド殿とオスカー殿を守護の騎士とされた方の行いをヨシュカや我らだけではなく、シュタイン王国中の者が注視しています。セルジオ様は本当に青き血が流れるコマンドールの再来なのかと様々な思惑を持つ者の眼がセルジオ様を観ています。セルジオ様はエリオス様と共に今のお役目を果たされる事でしか皆を納得させることはできないのです。何も申さなくてもよいのです。これよりの道中の行いで皆に知らしめてやりましょう。セルジオ様は青き血が流れるコマンドールの再来であると!』
人は目の前にある事柄、体験した事柄でしか理解する事はできないとバルトから言われている言葉にもあった。
セルジオはフェルディとの対戦でそれがどういうことなのかを知ったのだとフレイヤへ眼を向けるのであった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
一つ一つの言葉が挑戦し体験する事で理解できるようになるの回でした。
今も昔も根本的な所は変わっていないのかもしれないなと感じています。
見聞の旅でセルジオが心身共に成長していく様が微笑ましく、切なく、愛おしく・・・・
様々な想いを抱えて一緒に旅をしている感じです。
ラドフォール騎士団影部隊ラルフとヨシュカが登場する回は
第3章 第31話 ラドフォール騎士団19:悪意ある言葉
となります。
セルジオが反芻するやり取りがご覧頂けます。
次回もよろしくお願い致します。
カリソベリル騎士団団長フレイヤは訓練場を後にした実父カリソベリル伯爵とエステール伯爵の姿が回廊を抜け出入口の方へと消えるとポツリと呟いた。
バッ!!!
訓練を再開する様、指示した騎士と従士の方へ勢いよく身体を向けると号令をかけた。
「皆っ!集まれっ!青き血が流れるコマンドールと守護の騎士の元へっ!集まるのだっ!」
ザッザッ!!!
ザザッザザッ!!!
カリソベリル騎士団騎士と従士の総勢80名が団長フレイヤを先頭にセルジオとエリオスの前にかしづいた。
見物席の反対側の場外で待機していたバルトとオスカーは顔を見合わせると慌ててセルジオとエリオスの元へ掛け寄った。
「・・・・」
セルジオとエリオスは目の前でかしづく団長フレイヤをただ黙まりじっと見つめた。
他家貴族騎士団を巡回する際の心得としてバルトとオスカーから言い含められていた。
セルジオとエリオスへ敬意を向け、目前でかしづかれた場合は相手が言葉を発するまでは姿勢を正し凛々しく待っていればよいと諭された。
怖気づき後ろへ下がる事も圧倒され最初に言葉を発する事もましてやその場から離れ逃げる事等あってはならぬと言われていた。
「・・・・」
セルジオとエリオスはバルトとオスカーから諭された通りフレイヤの言葉を待った。
タタッタタッ・・・・
サッ!
サッ!
バルトとオスカーは見物席反対側から駆け寄るとセルジオとエリオスの左右に控える。
フレイヤはバルトとオスカーが所定の位置に就く姿を捉えると大きく息を吸い口上を述べた。
「青き血が流れるコマンドールと守護の騎士へ拝謁致します。我が騎士団へお越し頂きましてからの数々のご無礼、お許し頂きたくこの場にてお詫び申し上げます。また、この度の御前試合での勝利、御祝い申し上げます。おめでとう存じます」
フレイヤが向上を述べると後ろでかしづく騎士と従士も後に続いた。
「おめでとう存じますっ!」
フレイヤが再び言葉を繋いだ。
「お相手を致しました我が騎士団第一隊長フェルディは双剣術の使い手であります。よもやこうも容易く打ち負かされるとは思いもよらぬこと。この後の訓練のあり方を見直す機会となりました事、合わせて御礼申し上げます」
ザッザザッ!!!
フレイヤの言葉に総勢80名の騎士と従士が姿勢を正す。
「・・・・」
セルジオとエリオスは黙ってフレイヤの言葉を聞いていた。
フレイヤの口上に続きがないと見るとセルジオは口を開く。
「カリソベリル騎士団団長フレイヤ様、ならびに騎士と従士の方々、この度の試合、機会を頂き感謝もうします。我ら存分に今ある力を発揮することが叶いました。御礼もうします」
サッ!
サッ!
セルジオとエリオスは左手を胸の前に置き、軽く頭を下げた。
セルジオはそのまま話しを続ける。
「皆様、どうか頭をお上げください。カリソベリル騎士団団長フレイヤ様はじめ騎士と従士の皆様、改めて感謝もうします」
セルジオの言葉にフレイヤはじめ騎士と従士が一斉に呼応した。
「はっ!!」
「我ら滞在の間、この後の訓練もよしなに願います」
「はっ!!」
再び一斉に呼応するとフレイヤが立ち上がった。
ザッ!!
ザザザッ!!!
フレイヤに続き騎士と従士も立ち上がる。
フレイヤが大声を上げた。
「皆っ!これより訓練に入れっ!」
「はっ!!」
ザワッザワッザワッ・・・・
ザッザッザッ・・・・
騎士と従士は各々の日常訓練に入った。
騎士と従士が訓練に入る様を見て取るとフレイヤはセルジオとエリオスへ向き直る。
「セルジオ様、エリオス様、バルド殿、オスカー殿、今後の事にてお話がしたく存じます。我が居室にお越し頂けますか?」
今まで無表情の冷たい感じがしていたフレイヤがまるで別人の様に微笑みを向ける。
セルジオはフレイヤの変化には触れずに素直に申出に従った。
「はい、承知しました」
フレイヤはセルジオへ再び微笑みを向けた。
フレイヤの隣に佇んでいた第一隊長フェルディと第二隊長ジーニーへも同行する様に言う。
「フェルディ、御前試合のこと大儀だった。この後のこと予定通り進める。そなたとジーニーも同道せよ」
「はっ!承知しました」
フェルディとジーニーは呼応する。
「では、参りましょう」
フレイヤを先頭にセルジオ達はフレイヤの居室へ向かった。
バルドとオスカーはセルジオとエリオスに身に付けさせた防具をそのままにしていた。
カリソベリル騎士団に入ってからの経緯とフレイヤの突然の変化に違和感を覚えていたからだ。
まして、騎士団団長の居室へ先程対戦した第一隊長と第二隊長を同道させてとなると襲撃されないとは言いきれない。
バルトとオスカーといえども他家騎士団城塞でセルジオとエリオスの身を確実に守り切ることができるか定かではないと考えたからだった。
カツッカツッカツッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
訓練場回廊を抜け城塞の廊下を進む。
城館の造りのカリソベリル騎士団城塞は天井が高く床や壁は白い石が使われている。
廊下の窓からは陽の光が差込み明るく華やかさを醸し出していた。
ガチャ
キィィィ
両開きの白地に黄色の装飾がされている扉をフレディとジーニーが開くとフレイヤが「どうぞ」と一言告げる。
フレイヤの後にセルジオとエリオスは続いた。
バルドとオスカーはいつでも蒼玉の短剣を抜ける様にマントの下でそっと構え、セルジオとエリオスの後に続いた。
パアァァ
朝陽が窓から差し込み、フレイヤの居室は光り輝いていた。
「どうぞ、セルジオ様、エリオス様、バルト殿、オスカー殿、こちらへお掛け下さい」
部屋の中央にある円卓の南側へ案内される。
警戒を解かないバルトとオスカーにチラリと目をやるとフレイヤはふっと笑った。
「バルト殿、オスカー殿、そろそろ警戒をお解き下さい。まぁ、こちらへお越し下さってからの4日間での我らの所業からすれば致し方ないことではありますが・・・・」
フレイヤは申し訳なさそうにふふふっと笑った。
ストンッ
フレイヤは東側へ腰を下した。
パタンッ!
フレイヤが座るとフレディとジーニーは居室の扉を閉める。
そのまま北側の席へ座った。
バルトとオスカーはフレディとジーニーが腰かけると案内された南側の椅子を引き、セルジオとエリオスを腰かけさせた。
そのままセルジオとエリオスの後ろで待機する。
フレイヤがバルトとオスカーへも座る様に促した。
「バルト殿、オスカー殿、お掛け下さい。このままでは話しを始められません・・・・う~ん、困りましたね」
フレイヤはフレディへ顔を向けると隣室から書簡を持ってくる様に指示する。
「フレディ、例の書簡をこれへ」
「はっ!」
ガタンッ!
フレディは立ち上がり隣室に入ると蒼と紫のリボンが巻かれた書簡を手に戻ってきた。
フレイヤへ書簡を渡す。
ピクリッ!
バルトとオスカーはその書簡を目にすると微かに動いた。
フレイヤがバルトとオスカーへ微笑みを向ける。
「お解りでございましょう。蒼いリボンはセルジオ騎士団、紫のリボンはラドフォール騎士団、両騎士団団長から連名での書簡です。ラドフォールからセルジオ様、エリオス様が滞在時に必要だとの荷と共に届きました。5伯爵家騎士団へ全て届けられているとことです。これでもまだ、私をお信じ頂くことは叶いませんか?」
フレイヤはふふふっと笑った。
バッ!!
バッ!!
バルトとオスカーはセルジオとエリオスの後ろでかしづきフレイヤへ非礼を詫びる。
「フレイヤ様、大変失礼を致しました。我ら主《あるじ》を守護するためのことにて何卒お許し下さいっ!」
フレイヤは優しい眼をセルジオとエリオスへ向ける。
「バルト殿、オスカー殿、どうぞ顔を上げて下さい。この様に麗しいお2人を主とされ、また守護の騎士としての役目もございましょう。我らのこれまでの言動からすればこの場に同道頂くことも許し難いはず。それにも関わらず私の案内する席に座らせて下さったのですから何を咎めることがありましょう。どうぞ、お気になさらず。バルト殿とオスカー殿は守護の騎士としての役目を見事に果たされただけです。さっ、お座り下さい」
「はっ!感謝申しますっ!」
バルトとオスカーへフレイヤに従った。
ガタンッ
ガタンッ
バルトとオスカーはセルジオとエリオスの隣へ腰を下した。
「さて、ではまずセルジオ騎士団、ラドフォール騎士団両団長からの書簡についてからお話ししましょう」
フレイヤは書簡を広げ話し始めた。
書簡の冒頭にはシュタイン王国王都騎士団総長ジェラルの意向が書かれていた。
18貴族騎士団の現状を憂い、この先へ向けて変革をもたらしたいとあった。
今は一枚岩とは言えない状態の18貴族騎士団を王都騎士団総長を頂点に統制を取り、守りを固め他国からの侵略に備える力をつけること。
国内外の情勢と状況をいち早く収集、分析し起こりうる戦闘に万全の態勢で臨める仕組みを整えること。
遠征に赴く際、国内の守備と攻勢を担う貴族間を横断できる新たな組織を作ること。
これらの変革を可能にする方策として各貴族騎士団の内情をつまびらかにすること。
ここまでの書簡の内容を伝えるとフレイヤは次はセルジオ騎士団団長とラドフォール騎士団団長からだと続けた。
「『王都騎士団総長のご懸念とこの先の貴族騎士団のあり方について、まずは5伯爵家騎士団が団結する事が先決だと考える。そのためにセルジオ騎士団団長名代としてセルジオと守護の騎士を各貴族騎士団に巡回させるからよろしく頼む』と、綴られております」
パサッ!
クルクル・・・
フレイヤは読み上げた書簡を丁寧に丸めると蒼いリボンと紫色のリボンを巻き付けた。
そっと机上に書簡を置くとセルジオとエリオスへ眼を向けた。
「私は王都騎士団総長のご懸念と両団長が申されること重々承知しております。まずは我ら王都を囲み守護する5伯爵家騎士団の結束する事が最も重視すべきことだとのお考えにも賛同致します。されど・・・・」
フレイヤは少し哀し気な眼をセルジオへ向けた。
「・・・・この度の御前試合のことでバルト殿とオスカー殿はお気づきでしょう。シュタイン王国を栄えさせ、民の暮らしを守り、他国の侵略などものともしない国造りには富と地位と力が必要です。このことは皆が解っております。されど、事は同じでも行い方を違える場合があるのです。果たして5伯爵家当主と騎士団の行い方は同じでしょうか?少なくとも我がカリソベリル伯爵家と我がカリソベリル騎士団とでは行い方が異なります。ただ、騎士団はあくまでも家名があってのものです。当主の意向と真っ向から反目することは叶いません。されど、我らとて騎士の矜持を違えてまで当主に賛同はできません。さすればこの度の私の様に表向きは当主の意向に賛同した様に見せ、実の所は行いを違えねばならぬ事もでてきます。そして、一度、行いを違えたならば違え続けねばなりません。それも当主に悟られぬ様、内々に確実に続けなければ家名と騎士団は共存できなくなります」
フレイヤはふぅと一つ息を漏らした。
セルジオへ今一度、視線を向ける。
「この度の御前試合で我が父はセルジオ様を亡き者にできればと考えていたと推察しています。手合わせを御前試合にするようある方の意向だからと言われ、やむなく了承しました。エステール伯爵のお姿を目にしました時、推察は確信に変わりました。王都騎士団総長、セルジオ騎士団団長、ラドフォール騎士団団長はこの先に必要なことを新たに設けるとお考えです。されとエステール伯爵ご当主と我が父はこの先に危惧すべき事柄は小さな内に排除が必要と考えています。行い方が真逆なのです」
フレイヤはエリオス、バルト、オスカーへ眼を向けた。
「ここまで行い方が異なればこの先に進むに憂いがでると考えました。そこで、私はこの御前試合に懸けたのです。セルジオ様が真に青き血が流れるコマンドールの再来であるならば自ずと天が導かれると思いました。私の片翼である第一隊長フェルディを対戦者にしましたのも父へのけん制もありましたが、万が一、セルジオ様が傷つき、敗ける事になればそれまでであると思い当主の行い方に従おうと考えていたのです」
フレイヤはここで頭を下げた。
「セルジオ様、エリオス様、バルド殿、オスカー殿、申し訳ございまぜんっ!私は皆様を試しました。セルジオ様が真に青き血が流れるコマンドールの再来であり、エリオス様が守護の騎士であるのかを試しました。この様な不貞、セルジオ騎士団団長とラドフォール騎士団団長がお知りになればさぞ嘆かれることだろうと解っております。されど、我らにも覚悟に値する事実が必要でした。どうぞ、ご容赦下さい」
フレイヤは深々と頭を下げた。フレイヤに続きフェルディとジーニーも頭を下げる。
「・・・・」
セルジオは黙ったまま頭を下げるフレイヤを見つめる。
隣に座るバルトを見上げると優しい微笑みを向けていた。
そっとセルジオへ向けて頷く。
セルジオはフレイヤへ呼応した。
「フレイヤ様、頭をお上げ下さい。私はまだ騎士団への入団もしていません。騎士の叙任を受けてもいません。セルジオ騎士団団長名代との大任を受けてはいますが、3人の守護の騎士がおらねば独りでは何もできないのです。されど見聞の旅に出て3ヶ月が経とうとしています。訓練施設にいただけでは出会う事のなかった方々との出会いから多くの事を知ることができるのだと知ったのです。何もできない、何も知らないことが解ってきたのです。バルトやオスカーが話すこと、ポルデュラ様から言われたことの意味が何となく解ってきているのです。今日は父に会う事もできました。理由はどうあれ訓練施設にいたままでは会う事はできなかったと思います。バルトが言うのです。全てを受け入れる度量を持てねば騎士団団長にはなれぬと言うのです。ですからご案じなさらないで下さい。フレイヤ様にはフレイヤ様の私には私の役目と行い方があると思うのです」
セルジオはバルトと初代セルジオに何度も諭された言葉をフレイヤへ伝えた。
フレイヤは顔を上げる。
「セルジオ様・・・・いえ、青き血が流れるコマンドール、感謝申します」
フレイヤは今一度深く頭を下げた。
セルジオはヨシュカに向けられた悪意ある言葉の後でどう言葉をかければよいかをラドフォール影部隊隊長のラルフに言われた言葉を思い返していた。
『セルジオ様、誰もがうらやむバルド殿とオスカー殿を守護の騎士とされた方の行いをヨシュカや我らだけではなく、シュタイン王国中の者が注視しています。セルジオ様は本当に青き血が流れるコマンドールの再来なのかと様々な思惑を持つ者の眼がセルジオ様を観ています。セルジオ様はエリオス様と共に今のお役目を果たされる事でしか皆を納得させることはできないのです。何も申さなくてもよいのです。これよりの道中の行いで皆に知らしめてやりましょう。セルジオ様は青き血が流れるコマンドールの再来であると!』
人は目の前にある事柄、体験した事柄でしか理解する事はできないとバルトから言われている言葉にもあった。
セルジオはフェルディとの対戦でそれがどういうことなのかを知ったのだとフレイヤへ眼を向けるのであった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
一つ一つの言葉が挑戦し体験する事で理解できるようになるの回でした。
今も昔も根本的な所は変わっていないのかもしれないなと感じています。
見聞の旅でセルジオが心身共に成長していく様が微笑ましく、切なく、愛おしく・・・・
様々な想いを抱えて一緒に旅をしている感じです。
ラドフォール騎士団影部隊ラルフとヨシュカが登場する回は
第3章 第31話 ラドフォール騎士団19:悪意ある言葉
となります。
セルジオが反芻するやり取りがご覧頂けます。
次回もよろしくお願い致します。
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