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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第59話 2人の絆
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セルジオとエリオスは訓練場場内の所定の位置に就いていた。
隣り合わせで北側を正面に対戦相手の第一隊長フェルディを待つ。
エリオスがそっと左手を伸ばし、セルジオの右手を握った。
セルジオはエリオスへ顔を向ける。
「いかがしたのだ?エリオス」
エリオスはセルジオへ優しい微笑みを向けた。
差し出された手が温かい。
セルジオはエリオスに握られた手に目を落とすと今一度エリオスの顔を見た。
ギュッ!!!
エリオスは握るセルジオの右手に力を入れた。
訓練場場外東側に設置された見物席の様子からただの手合わせでない事をエリオスは察した。
訓練施設では5歳を迎えると他貴族騎士団との合同訓練が始まる。
その合同訓練の中に年に2回、王都騎士団総長が主催する御前試合の観戦があった。
セルジオより2歳年長のエリオスは御前試合の観戦を経験していた。
観戦時にオスカーから何度も念を押された事があった。それは手合わせとの違いであった。
騎士団に入団すれば御前試合に否応なく出場する事になる。
試合中は他者の介入は許されない。どちらかが降参するか、戦闘不能にならない限り戦いは終わらない。
例え命を落とす様な傷を受けたとしても自ら意思表示をしない限り、誰も制する事はできないのだ。
エリオスはセルジオの手を握ったまま前方を向いた。
まだ、対戦相手のフェルディは位置に就いてはいないが、あたかも目の前にいるかの様に睨みをきかせる。
ピクリッ・・・・
セルジオは初めて見るエリオスの誰かを睨む目つきに驚き、エリオスの手の中で人差し指をピクリと動かした。
エリオスがセルジオの様子にハッとする。
「あっ、セルジオ様、失礼をしました。少し考え事をしておりました」
ニコリとセルジオへ微笑みを向けると今一度、前方を見据える。
「セルジオ様、手合わせが御前試合に変わった様です。
どちらかが降参するか、戦闘不能とならない限りは制する者はいません。
フェルディ様の双剣の動きは覚えてみえますか?」
前方に向けられたエリオスの眼は朝の訓練時に見かけるフェルディの姿を視ている様であった。
セルジオはエリオスに倣い、前方にフェルディの訓練時の姿を思い浮かべた。
フェルディは双剣術の使い手だった。どちらかと言うと小柄な体躯のフェルディは己の強みと弱みを熟知していた。
速さと柔軟性を活かし、いち早く相手の死角を捉え、巧みに急所を突く白兵戦を強みとしていた。
比較的短い剣を好んで使い、双剣術を体躯に合わせて最大限に活かしていた。
「・・・・」
「・・・・」
セルジオとエリオスは手を繋いだまま、2人で前方を見据えていた。
セルジオがポツリと呟いた。
「エリオス、見えた気がする・・・・」
「セルジオ様、左様ですね・・・・」
2人は顔を見合わす。
エリオスはセルジオの言葉を待った。
セルジオはエリオスの様子に先に口を開いた。
「我らがバルドとオスカーから学んでいる双剣術とは異なる気がする。
フェルディ様の双剣術は面が割れる事がない。
表か裏かのどちらかに面が向いている。
だが、我らの師から学ぶ双剣術は防御以外は・・・・」
セルジオとエリオスはうんっと頷き合った。
「セルジオ様、戦術はいかがしますか?」
2人は再び前方を見据えた。
「フェルディ様の面を常に割く。
私とエリオスは常に対角線上で対峙しよう。後は・・・・」
「速さですね。フェルディ様の動きは速く、剣の軌道が狭いです。
我らと動きが似ています。今までの様に大きな方々との広い軌道の剣をかわす対峙では・・・・我らの方が劣ります」
エリオスが思案気に言った。
セルジオはエリオスの言葉に妙案が浮かんだと言わんばかりに声を弾ませた。
「ならば虚をつこう!」
「一度だけしか通用はしないと思う。虚をつくのだからな。
同じ手は二度は使えぬ。我らの力では木剣同士では敵わない。
木剣は囮にする」
「木剣を囮に・・・・ですか・・・・」
「そうだ。木剣は弾かれるだろう。
そして、一たび手から離れれば木剣を拾う隙を与えてはくれない。
ならばわれらは最初から木剣を囮にすればよい。油断を誘うのだ」
「戦闘をを長引かせれば我らに勝ち目はなくなるな・・・・
早々に決着をつける。5度目だ。5度目で仕留める」
ギュッ!!
セルジオとエリオスは繋ぐ手に力を入れた。
顔を見合わせると頷き合う。
「承知しました。セルジオ様の戦術、全て視えました。
この御前試合、我らの勝利としましょう」
ギュッ!!!
セルジオとエリオスは今一度、強く手を握り合う。
お互いに視えているもの、考えていること、そしてこれからの戦闘の動きも全てが繋ぐ手を通して巡っている感覚だった。
セルジオとエリオスは言葉にできない絆を感じていた。
ザッザッザッ
対戦相手のフェルディが訓練場場内に入り、訓練場中央でセルジオとエリオスの前に南向きに対峙する。
セルジオとエリオスは繋ぐ手を離した。
ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ
続いて4人の審判が訓練場場内の四隅に就くとセルジオ、エリオスとフェルディの間に就いた主審が御前試合開始の号令が発した。
「これよりっ!
エステール伯爵、カリソベリル伯爵の御前にて
セルジオ騎士団、カリソベリル騎士団の試合を一本勝負にて執り行う。
勝敗はどちらかが戦意を消失もしくは戦闘不能となるまでっ!!」
トクンットクンッ・・・・
トクンットクンッ・・・・
セルジオとエリオスはお互いの鼓動の音が穏やかである事を感じる。
バッ!!!
主審が左手に握る木剣を天に向けた。
「真を持ちて、誠を懸ける。
我ら騎士の名に懸けて命の限りを尽くし戦う。
はじめっ!!!!」
バッ!!!
主審が木剣を振り下ろし御前試合が幕が切って落とされた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
何の思惑か解らない御前試合の幕が切っておとされました。
セルジオとエリオスは窮地に陥ることでお互いの絆が深まる事を感じています。
平常心でいられない状況で平常心でいることが求められた騎士の時代。
徐々に乗り越える壁が高くなっているようにも感じられて・・・・
セルジオとエリオス、負けないでっ!
次回もよろしくお願い致します。
隣り合わせで北側を正面に対戦相手の第一隊長フェルディを待つ。
エリオスがそっと左手を伸ばし、セルジオの右手を握った。
セルジオはエリオスへ顔を向ける。
「いかがしたのだ?エリオス」
エリオスはセルジオへ優しい微笑みを向けた。
差し出された手が温かい。
セルジオはエリオスに握られた手に目を落とすと今一度エリオスの顔を見た。
ギュッ!!!
エリオスは握るセルジオの右手に力を入れた。
訓練場場外東側に設置された見物席の様子からただの手合わせでない事をエリオスは察した。
訓練施設では5歳を迎えると他貴族騎士団との合同訓練が始まる。
その合同訓練の中に年に2回、王都騎士団総長が主催する御前試合の観戦があった。
セルジオより2歳年長のエリオスは御前試合の観戦を経験していた。
観戦時にオスカーから何度も念を押された事があった。それは手合わせとの違いであった。
騎士団に入団すれば御前試合に否応なく出場する事になる。
試合中は他者の介入は許されない。どちらかが降参するか、戦闘不能にならない限り戦いは終わらない。
例え命を落とす様な傷を受けたとしても自ら意思表示をしない限り、誰も制する事はできないのだ。
エリオスはセルジオの手を握ったまま前方を向いた。
まだ、対戦相手のフェルディは位置に就いてはいないが、あたかも目の前にいるかの様に睨みをきかせる。
ピクリッ・・・・
セルジオは初めて見るエリオスの誰かを睨む目つきに驚き、エリオスの手の中で人差し指をピクリと動かした。
エリオスがセルジオの様子にハッとする。
「あっ、セルジオ様、失礼をしました。少し考え事をしておりました」
ニコリとセルジオへ微笑みを向けると今一度、前方を見据える。
「セルジオ様、手合わせが御前試合に変わった様です。
どちらかが降参するか、戦闘不能とならない限りは制する者はいません。
フェルディ様の双剣の動きは覚えてみえますか?」
前方に向けられたエリオスの眼は朝の訓練時に見かけるフェルディの姿を視ている様であった。
セルジオはエリオスに倣い、前方にフェルディの訓練時の姿を思い浮かべた。
フェルディは双剣術の使い手だった。どちらかと言うと小柄な体躯のフェルディは己の強みと弱みを熟知していた。
速さと柔軟性を活かし、いち早く相手の死角を捉え、巧みに急所を突く白兵戦を強みとしていた。
比較的短い剣を好んで使い、双剣術を体躯に合わせて最大限に活かしていた。
「・・・・」
「・・・・」
セルジオとエリオスは手を繋いだまま、2人で前方を見据えていた。
セルジオがポツリと呟いた。
「エリオス、見えた気がする・・・・」
「セルジオ様、左様ですね・・・・」
2人は顔を見合わす。
エリオスはセルジオの言葉を待った。
セルジオはエリオスの様子に先に口を開いた。
「我らがバルドとオスカーから学んでいる双剣術とは異なる気がする。
フェルディ様の双剣術は面が割れる事がない。
表か裏かのどちらかに面が向いている。
だが、我らの師から学ぶ双剣術は防御以外は・・・・」
セルジオとエリオスはうんっと頷き合った。
「セルジオ様、戦術はいかがしますか?」
2人は再び前方を見据えた。
「フェルディ様の面を常に割く。
私とエリオスは常に対角線上で対峙しよう。後は・・・・」
「速さですね。フェルディ様の動きは速く、剣の軌道が狭いです。
我らと動きが似ています。今までの様に大きな方々との広い軌道の剣をかわす対峙では・・・・我らの方が劣ります」
エリオスが思案気に言った。
セルジオはエリオスの言葉に妙案が浮かんだと言わんばかりに声を弾ませた。
「ならば虚をつこう!」
「一度だけしか通用はしないと思う。虚をつくのだからな。
同じ手は二度は使えぬ。我らの力では木剣同士では敵わない。
木剣は囮にする」
「木剣を囮に・・・・ですか・・・・」
「そうだ。木剣は弾かれるだろう。
そして、一たび手から離れれば木剣を拾う隙を与えてはくれない。
ならばわれらは最初から木剣を囮にすればよい。油断を誘うのだ」
「戦闘をを長引かせれば我らに勝ち目はなくなるな・・・・
早々に決着をつける。5度目だ。5度目で仕留める」
ギュッ!!
セルジオとエリオスは繋ぐ手に力を入れた。
顔を見合わせると頷き合う。
「承知しました。セルジオ様の戦術、全て視えました。
この御前試合、我らの勝利としましょう」
ギュッ!!!
セルジオとエリオスは今一度、強く手を握り合う。
お互いに視えているもの、考えていること、そしてこれからの戦闘の動きも全てが繋ぐ手を通して巡っている感覚だった。
セルジオとエリオスは言葉にできない絆を感じていた。
ザッザッザッ
対戦相手のフェルディが訓練場場内に入り、訓練場中央でセルジオとエリオスの前に南向きに対峙する。
セルジオとエリオスは繋ぐ手を離した。
ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ
続いて4人の審判が訓練場場内の四隅に就くとセルジオ、エリオスとフェルディの間に就いた主審が御前試合開始の号令が発した。
「これよりっ!
エステール伯爵、カリソベリル伯爵の御前にて
セルジオ騎士団、カリソベリル騎士団の試合を一本勝負にて執り行う。
勝敗はどちらかが戦意を消失もしくは戦闘不能となるまでっ!!」
トクンットクンッ・・・・
トクンットクンッ・・・・
セルジオとエリオスはお互いの鼓動の音が穏やかである事を感じる。
バッ!!!
主審が左手に握る木剣を天に向けた。
「真を持ちて、誠を懸ける。
我ら騎士の名に懸けて命の限りを尽くし戦う。
はじめっ!!!!」
バッ!!!
主審が木剣を振り下ろし御前試合が幕が切って落とされた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
何の思惑か解らない御前試合の幕が切っておとされました。
セルジオとエリオスは窮地に陥ることでお互いの絆が深まる事を感じています。
平常心でいられない状況で平常心でいることが求められた騎士の時代。
徐々に乗り越える壁が高くなっているようにも感じられて・・・・
セルジオとエリオス、負けないでっ!
次回もよろしくお願い致します。
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