とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第48話 青き泉の深淵へ

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バルドはセルジオを抱え、円卓に上がると六芒星の魔法陣が敷かれた中央でセルジオと向かい合わせに座った。

円卓上に敷かれた六芒星の魔法陣の6つの頂点にそれぞれがつく。

南の頂点に火のカルラ、北の頂点に水のアロイス、東の頂点に土のウルリヒ、西の頂点に風のポルデュラがついた。水と土の中央北東の頂点に正義のオスカー、エリオスは愛として南西の頂点、火と風の中央についた。

「これよりバルドを初代セルジオ様がおられるセルジオ様の青き泉へ送るっ!
両手を六芒星の中央に向けて広げよっ!」

ババッ!

6つの頂点につくそれぞれが円卓に敷かれた六芒星の魔法陣の中央へ向けて両手を広げた。

ウゥゥゥゥン・・・・
ウゥウゥゥン・・・・

ポルデュラの発する声なのか?それとも何かが振動している音なのかバルドは身体全体にじんじんと押し寄せる熱い波動を感じた。

「バルド、セルジオ様の瞳とそなたの瞳を合せるのじゃ。
セルジオ様の瞳の中へ潜りこむ想像をするのじゃ」

ポルデュラがバルドへ指示を出した。

バルドはポルデュラに言われた様にセルジオの深く青い瞳に己の深い紫色の瞳を合わせる。

円卓の外側からバルドとセルジオが座る中央へ波紋の様に幾重にも重なり、押し寄せる波動にバルドは身体に圧迫を感じた。

バルドは徐々に強まる波動の圧迫感の中でセルジオを自身の膝の上に乗せると後頭部にそっと左手を添えた。
右手でセルジオの左頬を覆うと顔を上向きにする。

セルジオと瞳を合わせると額に優しく口づけをした。再びセルジオの瞳と己の瞳を合わせる。

「セルジオ様、今、お迎えにまいります。
セルジオ様がおられる青き泉の奥深くまでお迎えにまいります」

優しい眼差しを向けるとカッと自身の眼を見開いた。

ウゥゥゥゥン・・・・
ウゥウゥゥン・・・・

波動の重なる間隔が狭まる。

シャラァン・・・・

ポルデュラが右手を掲げ宙を2回ほど回転させると銀色の鎖の様なものが現れた。

グルンッ!
ジャランッ!

円卓中央に向けて銀色の鎖を放つとバルドとセルジオの身体に巻き付けた。

「バルド、セルジオ様の深淵で戻る方向が解らなくなったならこの銀色の鎖を引くのじゃ。
そなたが戻るまで我らはこのままここで待っておるぞっ!行けっ!バルドっ!」

ウワンッ!
バタリッ!

ポルデュラの言葉に波動が大きく波立つとバルドはセルジオを抱えたまま円卓の中央に倒れた。

「後はバルドがセルジオ様と共に戻るまで我らは持久戦じゃ。このまま続けるぞ」

「はっ!」

ポルデュラの言葉に6人は呼応した。

ウゥゥゥゥン・・・・
ウゥウゥゥン・・・・

バルドとセルジオが倒れる円卓の中央に向けて6人はそのまま波動を送り続けた。



バルドは身体がフワフワと宙に浮かんでいる様に感じていた。

サアァァァァ・・・・

優しい風が肩をなでる。

フワリッ・・・・

甘いユリの花の香が風に乗って漂っている。

「うっ・・・・」

バルドはうっすらとまぶたを開けた。

視界が定まっていないのか瞼を開けた瞳にぼんやりと金色と蒼い色が映った。

「うっ・・・・」

どうやら身体はうつ伏せの状態にあるようだ。

『うっ、頭が割れそうに痛む・・・・
ここは・・・・うっ・・・・
何をしていたのだったか・・・・』

頭の痛みに堪えながら思い返していた。

サアァァァァ・・・・

再び風が肩を抜けるとユリの花の甘い香りが鼻腔を刺激する。頭の痛みが少し和らいだ気がした。

「バルド、目が覚めたか?」

ピクリッ!

ぼんやりと映る金色と蒼い色の塊から自身の名を呼ばれバルドの身体は無意識にピクリッと動いた。

一旦、目を閉じる。

『何をしていたのだったか・・・・はっ!!』

ラドフォール騎士団火焔の城塞、円卓の間で円卓上に敷かれた六芒星の魔法陣の中央にセルジオを抱え座った事を思い出したのだ。

ガバッ!

バルドは勢いよく起き上がった。

「うっ!頭がっ!」

それでなくても激しい頭痛を覚えていたのに急激に起き上がったせいでより深く頭に痛みが走った。

「バルド、よく来たな。そなたを待っていたぞ」

額に手をあて声のする方へ顔を向ける。

背中まである金色の髪を後ろで一つに束ね、重装備の鎧に蒼いマントを身に付けた騎士が深い青い瞳でバルドへ優しい微笑みを向けていた。

大樹によりかかり、立てた右ひざの上にゆるりと右腕を乗せている。

伸ばした左足の太腿にセルジオを乗せてた、初代セルジオだった。

ザッ!

バルドは慌てて、初代セルジオの前でかしずいた。

「その様にかしこまらずともよい。ラドフォール領ではよく会うな」

初代セルジオはバルドへかしづくことを止める様に言うと辺りを見回した。

姿勢はそのままに顔を左へ向ける。

バルドは初代セルジオの視線を追った。

キラッキラッ・・・・
キラッキラッ・・・・

河の水面がキラキラと輝いている。

「エンジェラ河だ。そなたとえにしが深い河でもあろう?」

サアァァァァ・・・・

後ろで一つに束ねた初代セルジオの金色の髪が河からの風に美しくなびいた。

「ここは、この場所は・・・・
我の時代のエリオスが命を散らした場所なのだ・・・・
我の悔恨が一番に残った、エリオスを独りで死なせてしまった場所なのだ・・・・」

そう言うと初代セルジオは哀しそうな眼をバルドへ向けた。

バルドはいたたまれない思いになる。今なら初代セルジオの悔恨がよく解るからだった。

バルドは初代セルジオの哀しい眼が見ていられず顔を伏せる。

初代セルジオは、バルドのその仕草を見るとふっと一つ笑った。

「バルド、そなた変わったな。
かつては我の悔恨を過信が過ぎた愚行だと申していたであろう?
今は、その様に我の悔恨を解ってくれるのな」

初代セルジオは優しい眼差しをバルドへ向ける。

「愛しむ者があるとは喜びであり、憂いであり、
苦しみでもあるな・・・・我の様にはなるなよ。
想いを残すことこそ愚行だからな」

初代セルジオはふふふっと小さく笑った。

「さて、バルド。先へ進むか。
セルジオの深淵に行ってもらうぞ」

ガチャッ!

初代セルジオはセルジオを抱きかかえ、立ち上がった。

初代セルジオの腕の中にいるセルジオは円卓上にいた時と同様に目は開いているが、虚ろで精気が感じられない。

初代セルジオが立ち上がると辺りが薄暗くなった。
エンジェラ河だと言われた方を見ると青い泉に変わっていた。空には青白い月が浮かんでいる。

初代セルジオは青い泉の方へセルジオを右腕に抱え歩き出した。

「バルド、着いてまいれ。
セルジオの深淵に案内いたそう」

「はっ!」

バルドはここへ来て初めて声を発した。自身の声がやけに響く。立ち上がろうとすると身体が重たく思う様に動けない。

バルドへ目を向けた初代セルジオが「そうであった」と一言もらすとバルドへ近づき左手を差し出した。

「掴まれ、ここはセルジオの泉だ。
本来、そなたは立ち入ることはできぬ場所だ。
ラドフォールの魔術とそなたの魔眼の力で一時、泉の扉を開けたに過ぎぬ。
そう永くは留まることはできぬからな。そなたも戻れなくなる」

サッ!

バルドは差し出された初代セルジオの左手を握ると重たい身体を起こした。

「初代様、感謝申します・・・・」

バルドは初代セルジオの左手を握ったままその手を見つめる。

「うん?どうしたバルド」

初代セルジオが動きを止めたバルドへ語りかける。

「・・・・いえ、
初代様に触れることができたので・・・・不思議に思いました」

バルドは初代セルジオの顔を見る。

「ははは・・・・そうであったな。
外で我の姿は目にしても我に触れる事はできないからな。
ここは特別な場所だからな。我はここに封印されている。
セルジオの青き泉にな」

初代セルジオは愉快そうに笑った。

「この場所でセルジオ様は初代様と青き血の制御に訓練をされているのですか?」

バルドは眠りの中で初代セルジオから青き血の制御の訓練を受けているとセルジオから聞かされていた。
その場所の説明と訓練の様子の話を毎朝、目覚めたベッドでセルジオから聞く事が日課になっていたのだ。

「そうだ。この場所で訓練をしている。
随分と上達していたのだがな・・・・
セルジオは真面目過ぎるのだ。
師であるそなたによく似ている」

初代セルジオはバルドへ微笑みを向けた。

初代セルジオに着いて歩みを進める。青き血は青き泉そのものだと説明された。

ザッザッ・・・・
ザッザッ・・・・

青き泉の水面を歩く。なぜ沈まないのか不思議な感覚だった。いつしか頭痛も身体の重さも感じなくなっていた。

ピタリッ!

初代セルジオが歩みを止めた。

「これがセルジオの中に封印された我とセルジオの心だ」

止まった青き泉の水面下へ眼を落とすと膝を抱え、銀色の鎖の様な物に巻かれ、眠っている初代セルジオの姿があった。

胸の中央に金色に輝く丸い珠が見える。

「胸の辺りに輝く金色の珠が我と共に封印されたセルジオの心だ」

初代セルジオは申し訳なさそうな眼を右腕に抱えるセルジオへ向けた。

「セルジオは己の深淵に落ちた。この青き泉の奥深くへ落ちたのだ。
どこまでも広く、どこまでも深い青き泉のどこにセルジオがいるのかは解らぬ」

初代セルジオはバルドへ少し厳しい眼を向けた。

「外ではそなたが戻るまで魔術をかけ続けている。
そう永くは留まれぬ。
6人の結束に歪が入れば六芒星の魔法陣は解かれる。
そうなればそなたもセルジオも永遠にここからは出られなくなる]

「そして、深淵に落ちたこの身体の持ち主もろとも朽ち果て、消滅する。
来世は訪れることはなくなると言う事だ。
そなたの魔眼も解放されたばかりだ。使い慣れてはいない」

「時間が掛かればかかるほど、そなたの負担も相当なものになる。
ここに降りてきただけでも常人には耐えられるものではないからな。
セルジオを見つけたら即刻連れ戻せ。
躊躇も猶予もないと言い聞かせて連れ戻せ」

「ポルデュラ殿が繋いでくれているこの銀色の鎖を引け。
我がここまで引き上げよう。
よいか、バルド。セルジオを見つけたら何が何でも離さず、
無理やりにでも連れ戻すのだぞ。よいな」

初代セルジオはバルドへ深淵からのセルジオの奪還方法を伝えた。

「はっ!初代様。感謝申します。
セルジオ様を見つけましたら即刻、
この腰に巻かれている銀色の鎖を引きます」

シャランッ!

腰に巻かれている銀色の鎖を手にすると初代セルジオが右腕に抱えているセルジオの腰にもいつの間にか巻かれていた。

「うむ。では一つ、そなたに我から授けよう」

初代セルジオを左手をバルドの首の後ろへ回すとバルドを自身の胸に引き寄せた。
バルドの額にくちびるを押しあてた。

「青き血よ、青き泉よ。
深淵で彷徨さまようセルジオの珠とこの者の魔眼を引き合わせよ」

カリッ!

初代セルジオは文言を唱えるとバルドの額を少しかじり傷を付けた。

バルドの額に赤い血がうっすらと浮き上がった。

パアァァ・・・

バルドの額に六芒星の刻印が現れる。
バルドは左足太腿と右足首にある六芒星の刻印が熱を帯びたのを感じた。

「バルド、頼むぞ。
セルジオを深淵より連れ戻し、今世を全うさせてやってくれっ!」

初代セルジオはバルドの右肩に手を置くとぐっと後ろへ押した。

バシャンッ!

バルドは青き泉に背中から落ちた。

確かに泉に落ちたはずなのに水の中の様な気がしない。呼吸も変わらずできる。

徐々に沈み、セルジオを右腕に抱えた初代セルジオの姿が遠くなる。

青白き月を背景にした2人のセルジオの姿が何とも美しいと思いながら青き泉を深く深く潜っていくバルドであった。




【春華のひとり言】

いつももお読み頂きありがとうございます。

セルジオの救出にバルドが向かいました。

初代セルジオの悔恨の念が今なら痛い程解ると思うバルドは改めて自身の想いの深さを知りました。

死と生が背中合わせの時代だからこその深い愛情なのかな?と思ったりもします。

会いたい時に会いたい人に会う事が叶う。穏やかな世だからこそ忘れてしまわない様にしたいなと感じた次第です。

次回もよろしくお願い致します。
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