上 下
105 / 216
第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第44話:暴走の理由

しおりを挟む
バルドはゆっくりと椅子から腰を上げると血のついたセルジオの両頬を両手で包みこんだ。

ポタリッ・・・・
ポタリッ・・・・

バルドの深い紫色の瞳から大粒の涙がポタポタとこぼれ落ちる。

バルドはセルジオの両頬に手を添えたままうつむいた。
全身がふるふると震えている。

オスカーはエリオスの両肩に両手を置き、バルドの姿を扉近くで見守っていた。

オスカーはバルドがセルジオを案じる気持ちが痛い程よく解ると感じていた。

『バルド殿・・・・
代われるものなら代わってやりたいと
思っていることでありましょう』

エリオスの肩に置く両手に力が入った。
エリオスがゆっくりと振り向くとオスカーを見上げる。

エリオスは右肩に置かれるオスカーの手にそっと左手を乗せた。

バルドは胸に感じる苦しさをぐっと抑えると
セルジオの両頬を包んでいた両手を外してのひらで涙を拭った。

ガタンッ!!
サッ!

椅子から立ち上がりポルデュラへ顔を向けるとかしづいた。

「ポルデュラ様、失礼を致しました。感謝申します。
セルジオ様をお救い下さり、感謝申します」

普段と変わらないバルドに戻っていた。
ポルデュラは少し哀れな目を向ける。

「バルド、そなた・・・・その様に己を偽らぬともよいのだぞ。
我らの前ではそなたのありのままでおればよい。
まずは腰かけようぞ。
訓練施設から三日間、馬を走らせたからな。
実の所、私も足元がふらついているのじゃ」

ポルデュラはやれやれといった表情を浮かべた。

「エリオス様、オスカーもこちらへこられよ。
セルジオ様のお傍近くで皆で話をするとしようぞ」

ガタゴトッ!
ガタゴトッ!

ポルデュラの申出にオスカーはセルジオの横たわるベッドを囲んで椅子を並べた。

ガチャッ!

そこへベアトレスが水屋からお湯と布を手に戻ってきた。

ベアトレスは皆が顔を揃えている様子に嬉しそうに声をあげる。

「まぁ、西のお屋敷以来の光景ですね。
この様に皆様で一つの部屋に集まりますのは。
まだ、ひと月程しか経ってはおりませんのに
随分と昔のことの様に感じてなりません」

ベアトレスは優しい微笑みを向ける。

「では、私がセルジオ様の頬をお拭き致します。
皆様はお話しをはじめて下さいませ」

ベアトレスは久しぶりにセルジオに触れられることに喜びを感じている様だった。
吐血し眠っているとはいえ、ポルデュラの術で直ぐに目覚めると思っていたからだ。

「ベアトレス、頼んだぞ。では、はじめるかの。
まずはバルドが一番に懸念している
セルジオ様の中に眠る初代様の封印じゃが、安心致せ。
封印は解かれてはおらぬ。
それよりも初代様がセルジオ様の中におられたことで、
青き血の暴走を抑え込んで下さったのじゃ。
恐らく、初代様はお独りで必死であったろうな」

「セルジオ様の中の泉はそのまま青き血となる。
蒼玉に刺激されて泉が大きく波立ったのじゃろう。
そなたらの短剣に取り込んだ三日月形の青白い閃光を見たであろう?
青白き閃光が剣にまとう青き血じゃ」

「剣にまとった青白き閃光はそのまま放つと辺りを切り裂く刃となるのじゃ。
青き血が流れるコマンドールの言い伝えにある
『剣は青き光を放ちて一団を切り裂く』の所じゃ。
泉の波はそのまま閃光となり、泉の外へ発せられた。
セルジオ様の血肉を切り裂いてな。
それ故、吐血されたのじゃ」

「セルジオ様の中から発せられたものじゃ。
本来の傷とはことなるのでな、治癒術では治まらぬ。
風の魔導士たちが回復術で青白き閃光が
セルジオ様の外へ放たれぬ様に抑え込んだ。
術を止めると吐血したのはその為じゃ」

「そこでじゃ、私の銀の風の回復術で泉から波立った
青白き閃光を取り出した。それが三日月形の青白き閃光じゃ。
取り出した青白き閃光を蒼玉の短剣と
セルジオ様の胸に下がる月の雫に吸い込ませた。
初代様はセルジ様の中で波立った青き血を
ご自身の青き血で捕え落としていたのじゃろうな。
今頃、セルジオ様の中で一息ついておられることじゃろう」

「ここまでが青き血の暴走と術の話じゃ。
バルドとオスカーの蒼玉の短剣には
セルジオ様の青き血が取り込まれておるでな。
切れ味が格段に上がっているはずじゃぞ。
用心して使え」

ポルデュラはここまでを一気に話すとセルジオの血で汚れた頬と衣服を取り換えているベアトレスへチラリと目をやった。
ベアトレスはポルデュラの視線に顔を向ける。

「ポルデュラ様、
先程、水屋でお茶の準備もお願いしてきました。
セルジオ様のお世話が終わりましたらお茶を取りに行ってまいります」

ポルデュラの視線への返答だった。

「そうか。ベアトレスは察しがいいな。頼むぞ。喉が渇いた」

「はい、行ってまいります」

ガチャッ!

ベアトレスはセルジオの頬を拭いた布と湯桶を手に部屋を退いた。
ポルデュラはベアトレスが部屋から退くのを見届けると再び話し出した。

「次にじゃ。私がなぜここにいるかじゃが。
バルドは3日に一度、文をくれていたであろう。
水の城塞でセルジオ様が青き血に真に目覚めたとあった。
しかも火焔の城塞カルラが仕える火の精霊サラマンダー様の声に従ってじゃ」

「そうなれば火焔の城塞に入る頃に蒼玉の共鳴が起きるとふんだのじゃ。
バルドが水の城塞修道院を出発する際に文をくれたからな。
火焔の城塞に入るであろう時と合わせて3日前に訓練施設を出たのじゃ」

「エリオス様が放って下さった使い魔は火焔の城塞、
外の城門で受け取った。
シュピリトゥス森は風の精霊シルフ様がおられるからな。
私が仕える精霊じゃ。
セルジオ様の様子を風が知らせてくれたのじゃ。
すぐさま、エリオス様へ風の気を送った。
セルジオ様の治療は風の魔導士、回復術を施す様にとな」

ポルデュラは隣に座るエリオスの胸に左手を置くとそっと銀色の風の珠をおくる。

フワリッ・・・・

「エリオス様、
さぞや驚かれたころじゃろう?
エリオス様が私の送った風の気に気付いてくれなんだら
セルジオ様は、危険な状態じゃった。
よくぞ、お独りで堪えられましたな」

エリオスは小さく頷いた。

「はい・・・・バルド殿もオスカーもおらず
胸が張り裂けそうに痛みました。
それでもポルデュラ様のお声が頭の中で響き、
為すべき事ができました。
お助け下さり感謝申します」

エリオスは胸に置かれたボルデュラの左手を両手でギュッと握った。

「大事ないぞ。
その胸の痛みは今、治療をした。
セルジオ様が発した青白き閃光をお身体で受けたのじゃ。
セルジオ様と共鳴したと言う事じゃな」

ポルデュラはエリオスへ優しい微笑みを向けると胸に置いた左手を離した。

扉の方を見る。ベアトレスがお茶を持ち、戻ってくるのを待っているのだ。

「ふむ。さて、次はじゃが・・・・」

ガチャッ!

ポルデュラが話しをはじめると扉が開いた。
ベアトレスがお茶と焼き立ての焼き菓子を木製のワゴンで運び入れる。

「皆様、お待たせ致しました。
丁度、焼き菓子が焼き上がった頃合いでした。
さっ、皆様、まずはお茶で喉を潤して下さいませ。
ポルデュラ様とのお話の後でウルリヒ様、
カルラ様へもご報告がありますでしょう?
夕食の時間が遅くなるやもしれませんから
焼き菓子を召し上がって下さいませ」

ペアとレスは皆が一堂に揃っているのが嬉しいのかにこやかにお茶の準備をする。
ポルデュラは待ってましたと言わんばかりにカップを手に取った。


「ベアトレス、よい頃合いじゃ。
続きは喉を潤してからにいたそう」

ポルデュラは嬉しそうにカップを口元へ運ぶ。

バルドはポルデュラの後ろのベッドで横たわるセルジオへ目を向けた。

セルジオが目を開けているように見え、バルドは勢いよく椅子から立ち上がった。

ガタンッ!

「!!!セルジオ様!!!」

バルドの声に皆の視線が一斉にセルジオに注がれる。

「・・・・」

セルジオは目を開いてはいるものの何の反応も示さずにぼんやりと天井を見つめていた。








【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

青き血が暴走した理由わけが明らかになりました。

小さな身体に次から次に押し寄せる宿命に堪えなければならないのはバルドですね。

オスカーが言う「代われるものなら代わってやりたい」は愛あればこそだなと感じています。

それでも、代われないのであればトコトン寄り添う覚悟が必要ですよね。

愛し方も表裏一体だなと感じた次第です。

次回もよろしくお願い致します。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...