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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第39話:星の魔導士の予見2
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ウルリヒは鍛造し、魔力を込めたばかりの短剣を眺め、20数年前を思い返していた。
シュタイン王国王家の守護の紋章は八芒星である。その為、守護とするモノやコトには数字の『8:ハチ』が使用される。
城壁の東西南北にそびえる塔や騎士団城塞の塔が八芒星を模しているのはその為だった。
星読みは王国の行く先を視る大切な祭儀であった。星読みを執り行うことができる魔導士も王家直属とする者は8人としていた。
今の時から23年前、ラドフォール公爵家先代当主第五子のダグマルは王家直属8人の星読みの末席に就くこととなった。
この年の新年の星読みでダグマルは初めて王都シュタイン城で新年の星読み祭儀に参加する事が許された。
「王国に禍の兆し現れし時、王に神の加護をもたらす者、
天使の河に流れくる。天使の河より救いあげ、蒼き印の元にて育むべし。
紫と六芒星に守護され、時来れば王国の禍を払い去る。
蒼玉に愛され、月の雫を愛しむ慈愛の心が芽生えし時、
深い紫の光を宿し、先の世の救いとならん」
真っ白な流れる衣を身に付けた星の魔導士ダグマルが天に向け両手を広げる姿に薄紫色の光が注がれているのが微かに視える。
新年の星読み祭儀に参列できるのは王家と18貴族の内、ラドフォール公爵家、エステール伯爵家を筆頭とした5伯爵家に限られていた。
ラドフォール公爵家第二子で前年にラドフォール騎士団団長に就いたウルリヒは実妹のダグマルが堂々と初の星読み祭儀の役目を担う姿を誇らしく思い見つめていた。
「ダグマル、どういう意味なのだ?」
8歳になったばかりの星の魔導士ダグマルにシュタイン王ルドルフが訊ねる。
ダグマルは臆することなくルドルフへ返答をした。
「星より授かりし言の葉の通りです。
明日なのか、先の世の事なのかは定かではありませんが、
王国にふりかかる禍を払い去ることができる者、
王に神の加護をもたらす者がエンジェラ河に流れつくようです」
「その者を守護するものが紫と六芒星。
蒼い印の元は恐らくエステール伯爵家家門の蒼。
エンジェラ河で見つけ次第、
エステール伯爵家セルジオ騎士団で育てよとのことかと・・・・」
「赤子なのか?幼子なのか?
蒼玉に愛されとあるのはラドフォールと深く関わり、
月の雫は・・・・
ラドフォール第三の城塞水の城塞か・・・・もしくは・・・・」
ダグマルは思案気に唇に左手を添えた。
ルドルフが言葉を繋ぐ。
「青き血が流れるコマンドールが再来するのか?」
「・・・・わかりません・・・・
今は何も視えません・・・・
先の世も王の時代なのか?王の次の世なのかも今はわかりません。
ただ、エンジェラ河に王国の救いとなる者が現れることは確かです。
蒼玉の蒼、月の雫の白、ラドフォールの紫が重なりし時、
事の始まりとなりましょう。注視のほどを・・・・」
フワリッ・・・・
ダグマルは真っ白な流れる衣を両手でつまむとルドルフ王の御前で挨拶をし、星読みの祭儀の終わりを促した。
ダグマルは8人の星読みが列する末席に戻る。身体は小さく、年相応の容姿であるものの立ち居振る舞いはあたかも熟練の星読みの様であった。
ダグマルが末席に着くのを確認すると星読み筆頭魔導士が号令をかけ、新年の星読み祭儀は納めとなった。
それから5年後、南の隣国エフェラル帝国からシュタイン王国ルドルフ王へ嫁いだ王妃が出産した第二子、ジェラル・エフェラル・ド・シュタインの5歳の誕生祭が王都シュタイン城で盛大に執り行われた。
誕生祭祭儀での星読みでダグマルは再び王に神の加護をもたらす者、天使の河、蒼き印、紫、六芒星の言の葉を授かった。
そしてすぐ近くに王に神の加護をもたらす者がきていると付け加える。
「王に神の加護をもたらす者、祝祭の時、
天使の河を遡り、王の膝近くに姿を現す。
紫と六芒星を携え、深緑を身に纏う。
蒼き印の元に導き、育むべし。
これより遠ざかりし時、王に神の加護をもたらす者、
その身は王国より永遠に消え去る。
蒼き印の元に導き、育むべし」
ヨロリッ・・・・・
星読みを終えたダグマルの足元がぐらついた。
ガチャリッ!!
トサッ!!
ウルリヒはダグマルに駆け寄り、身体を支える。
「・・・・兄上・・・・」
「ダグマル、大事ないか?
その様に魔力を消耗する程の者なのか?
王に神の加護をもたらす者は、
その様にそなたから力を奪う者なのか?」
「・・・・いえ・・・・そうではありません。
ただ・・・・近くに、
既にこの城のどこかに姿があるのやもしれません。
星が・・・・星がざわついています・・・・」
ダグマルは抱きかかえるウルリヒの手をそっと解くと立ち上がり、ルドルフ王の御前で跪いた。
「ルドルフ王に進言致します。
星が大きく動きを視せております。
5年前の言の葉、今また同じ言の葉を授かりました。
王に神の加護をもたらす者は王のお近くに姿を現すことでしょう」
「そして、この度が最後となります。
この度でその者を蒼き印の元へ
エステール伯爵家セルジオ騎士団へ導かねばなりません。
機を逃せば永遠に王に神の加護をもたらす者は遠ざかります。
王の膝近くにその者は姿を現します」
「その者の証は紫、六芒星、深緑にございます。
機を逃しませぬ様、ジェラル王子誕生祭の間、
私を王のお傍近くにお置き頂きたく存じます。
できますれば我が姉、ラドフォール公爵家第三子、
王都城壁訓練施設におります風の魔導士ポルデュラも
同様に王のお傍近くにお置き頂きたく存じます」
ダグマルが王家直属の星読み8人の末席に就いてから5年。13歳になったダグマルはその実力から王家直属星読みの序列第四位にまでなっていた。
シュタイン王国をこよなく愛し、行く末の安寧を心から願うダグマルの言の葉に他の星読みは勿論のこと、ルドルフ王は全幅の信頼を寄せていた。
ダグマルは懇願する眼差しをルドルフ王へ向ける。
ルドルフ王はダグマルの申出を快く受け入れた。
「ダグマル、よかろう。
ポルデュラと共に我の傍近くにいるがよい。
但し、他国の者の眼もある。
星読みが始終、王の傍近くにあれば禍とみる者もあろう。
まずは衣服を祝祭に合わせよ。
そして、ラドフォール公爵家令嬢として祝宴に参列すればよい。
衣服は我が用意しよう。どうだ?それならばよかろう?」
ルドルフ王はダグマルへ微笑みを向ける。
ダグマルはかしづき、呼応した。
「ルドルフ王、感謝申します。
お傍近くにお置き下さるのであればいかようにも致します」
ダグマルが呼応するとルドルフ王は近習へ指示をした。
ジェラル王子の誕生を祝う饗宴が始まった。宴に彩を加えるため他国の王家や貴族の間で評判のジプシーが招かれた。
ジプシーの一団が芸の披露をする旨、ルドルフ王と王妃、ジェラル王子の前にかしづき、挨拶をする。
ピクリッ!
一団が饗宴の間に姿を現した瞬間、ダグマルはポルデュラのドレスの袖を掴んだ。
「・・・・姉上・・・
見つけました・・・・紫の・・・・あれは魔眼・・・・」
フラリッ・・・・
よろめくダグマルをポルデュラが支える。
「ダグマル、大事ないか?
そなたがそこまで影響を受ける程の魔眼とは・・・
ふむ・・・・ジェラル王子よりも強いが・・・封が施されているな」
「うむ・・・・深淵を覗く眼じゃな・・・・
占い師の封が施されておるな、
小さな陣も敷かれているな。
ふむ・・・・大したものだ」
「ほう、ダグマル見よ。
封を施した者が我らへ気を送っておる。
あの者と少し、話をしてくるかの。
ダグマルは王へ伝えよ。
王に神の加護をもたらす者を見つけたと」
「はっ!姉上、承知しました。
ジプシーの挨拶が終わりましたら王へお伝えします」
「頼んだぞ。私は封を施した者と話をしてくる」
ポルデュラはそう言うとジプシーの一団へ目を向ける。ポルデュラの視線を捕えた封を施した者が一団から離れるとポルデュラと共に饗宴の間から退いた。
【春華のひとり言】
いつもお読み頂きありがとうございます。
今から遡ること23年前、蒼玉の共鳴が始まりとなることを予見したウルリヒの実妹ダグマルの星読みの回でした。
バルドがセルジオに関わる事になったのも23年前の星読みがあったからこそです。
縁とは本当に不思議だなと感じています。
星の魔導士ダグマルが初めて登場する回は
第2章 第29話インシデント26:星の魔導士
となります。
バルドの出生に関わる回は
第3章 第2節 第20話:傷痕と刻印の謎
第3章 第2節 第21話:深紫色の魔眼
となります。
合わせてお読み頂けると繋がりが鮮明になるかと思います。
次回もよろしくお願い致します。
シュタイン王国王家の守護の紋章は八芒星である。その為、守護とするモノやコトには数字の『8:ハチ』が使用される。
城壁の東西南北にそびえる塔や騎士団城塞の塔が八芒星を模しているのはその為だった。
星読みは王国の行く先を視る大切な祭儀であった。星読みを執り行うことができる魔導士も王家直属とする者は8人としていた。
今の時から23年前、ラドフォール公爵家先代当主第五子のダグマルは王家直属8人の星読みの末席に就くこととなった。
この年の新年の星読みでダグマルは初めて王都シュタイン城で新年の星読み祭儀に参加する事が許された。
「王国に禍の兆し現れし時、王に神の加護をもたらす者、
天使の河に流れくる。天使の河より救いあげ、蒼き印の元にて育むべし。
紫と六芒星に守護され、時来れば王国の禍を払い去る。
蒼玉に愛され、月の雫を愛しむ慈愛の心が芽生えし時、
深い紫の光を宿し、先の世の救いとならん」
真っ白な流れる衣を身に付けた星の魔導士ダグマルが天に向け両手を広げる姿に薄紫色の光が注がれているのが微かに視える。
新年の星読み祭儀に参列できるのは王家と18貴族の内、ラドフォール公爵家、エステール伯爵家を筆頭とした5伯爵家に限られていた。
ラドフォール公爵家第二子で前年にラドフォール騎士団団長に就いたウルリヒは実妹のダグマルが堂々と初の星読み祭儀の役目を担う姿を誇らしく思い見つめていた。
「ダグマル、どういう意味なのだ?」
8歳になったばかりの星の魔導士ダグマルにシュタイン王ルドルフが訊ねる。
ダグマルは臆することなくルドルフへ返答をした。
「星より授かりし言の葉の通りです。
明日なのか、先の世の事なのかは定かではありませんが、
王国にふりかかる禍を払い去ることができる者、
王に神の加護をもたらす者がエンジェラ河に流れつくようです」
「その者を守護するものが紫と六芒星。
蒼い印の元は恐らくエステール伯爵家家門の蒼。
エンジェラ河で見つけ次第、
エステール伯爵家セルジオ騎士団で育てよとのことかと・・・・」
「赤子なのか?幼子なのか?
蒼玉に愛されとあるのはラドフォールと深く関わり、
月の雫は・・・・
ラドフォール第三の城塞水の城塞か・・・・もしくは・・・・」
ダグマルは思案気に唇に左手を添えた。
ルドルフが言葉を繋ぐ。
「青き血が流れるコマンドールが再来するのか?」
「・・・・わかりません・・・・
今は何も視えません・・・・
先の世も王の時代なのか?王の次の世なのかも今はわかりません。
ただ、エンジェラ河に王国の救いとなる者が現れることは確かです。
蒼玉の蒼、月の雫の白、ラドフォールの紫が重なりし時、
事の始まりとなりましょう。注視のほどを・・・・」
フワリッ・・・・
ダグマルは真っ白な流れる衣を両手でつまむとルドルフ王の御前で挨拶をし、星読みの祭儀の終わりを促した。
ダグマルは8人の星読みが列する末席に戻る。身体は小さく、年相応の容姿であるものの立ち居振る舞いはあたかも熟練の星読みの様であった。
ダグマルが末席に着くのを確認すると星読み筆頭魔導士が号令をかけ、新年の星読み祭儀は納めとなった。
それから5年後、南の隣国エフェラル帝国からシュタイン王国ルドルフ王へ嫁いだ王妃が出産した第二子、ジェラル・エフェラル・ド・シュタインの5歳の誕生祭が王都シュタイン城で盛大に執り行われた。
誕生祭祭儀での星読みでダグマルは再び王に神の加護をもたらす者、天使の河、蒼き印、紫、六芒星の言の葉を授かった。
そしてすぐ近くに王に神の加護をもたらす者がきていると付け加える。
「王に神の加護をもたらす者、祝祭の時、
天使の河を遡り、王の膝近くに姿を現す。
紫と六芒星を携え、深緑を身に纏う。
蒼き印の元に導き、育むべし。
これより遠ざかりし時、王に神の加護をもたらす者、
その身は王国より永遠に消え去る。
蒼き印の元に導き、育むべし」
ヨロリッ・・・・・
星読みを終えたダグマルの足元がぐらついた。
ガチャリッ!!
トサッ!!
ウルリヒはダグマルに駆け寄り、身体を支える。
「・・・・兄上・・・・」
「ダグマル、大事ないか?
その様に魔力を消耗する程の者なのか?
王に神の加護をもたらす者は、
その様にそなたから力を奪う者なのか?」
「・・・・いえ・・・・そうではありません。
ただ・・・・近くに、
既にこの城のどこかに姿があるのやもしれません。
星が・・・・星がざわついています・・・・」
ダグマルは抱きかかえるウルリヒの手をそっと解くと立ち上がり、ルドルフ王の御前で跪いた。
「ルドルフ王に進言致します。
星が大きく動きを視せております。
5年前の言の葉、今また同じ言の葉を授かりました。
王に神の加護をもたらす者は王のお近くに姿を現すことでしょう」
「そして、この度が最後となります。
この度でその者を蒼き印の元へ
エステール伯爵家セルジオ騎士団へ導かねばなりません。
機を逃せば永遠に王に神の加護をもたらす者は遠ざかります。
王の膝近くにその者は姿を現します」
「その者の証は紫、六芒星、深緑にございます。
機を逃しませぬ様、ジェラル王子誕生祭の間、
私を王のお傍近くにお置き頂きたく存じます。
できますれば我が姉、ラドフォール公爵家第三子、
王都城壁訓練施設におります風の魔導士ポルデュラも
同様に王のお傍近くにお置き頂きたく存じます」
ダグマルが王家直属の星読み8人の末席に就いてから5年。13歳になったダグマルはその実力から王家直属星読みの序列第四位にまでなっていた。
シュタイン王国をこよなく愛し、行く末の安寧を心から願うダグマルの言の葉に他の星読みは勿論のこと、ルドルフ王は全幅の信頼を寄せていた。
ダグマルは懇願する眼差しをルドルフ王へ向ける。
ルドルフ王はダグマルの申出を快く受け入れた。
「ダグマル、よかろう。
ポルデュラと共に我の傍近くにいるがよい。
但し、他国の者の眼もある。
星読みが始終、王の傍近くにあれば禍とみる者もあろう。
まずは衣服を祝祭に合わせよ。
そして、ラドフォール公爵家令嬢として祝宴に参列すればよい。
衣服は我が用意しよう。どうだ?それならばよかろう?」
ルドルフ王はダグマルへ微笑みを向ける。
ダグマルはかしづき、呼応した。
「ルドルフ王、感謝申します。
お傍近くにお置き下さるのであればいかようにも致します」
ダグマルが呼応するとルドルフ王は近習へ指示をした。
ジェラル王子の誕生を祝う饗宴が始まった。宴に彩を加えるため他国の王家や貴族の間で評判のジプシーが招かれた。
ジプシーの一団が芸の披露をする旨、ルドルフ王と王妃、ジェラル王子の前にかしづき、挨拶をする。
ピクリッ!
一団が饗宴の間に姿を現した瞬間、ダグマルはポルデュラのドレスの袖を掴んだ。
「・・・・姉上・・・
見つけました・・・・紫の・・・・あれは魔眼・・・・」
フラリッ・・・・
よろめくダグマルをポルデュラが支える。
「ダグマル、大事ないか?
そなたがそこまで影響を受ける程の魔眼とは・・・
ふむ・・・・ジェラル王子よりも強いが・・・封が施されているな」
「うむ・・・・深淵を覗く眼じゃな・・・・
占い師の封が施されておるな、
小さな陣も敷かれているな。
ふむ・・・・大したものだ」
「ほう、ダグマル見よ。
封を施した者が我らへ気を送っておる。
あの者と少し、話をしてくるかの。
ダグマルは王へ伝えよ。
王に神の加護をもたらす者を見つけたと」
「はっ!姉上、承知しました。
ジプシーの挨拶が終わりましたら王へお伝えします」
「頼んだぞ。私は封を施した者と話をしてくる」
ポルデュラはそう言うとジプシーの一団へ目を向ける。ポルデュラの視線を捕えた封を施した者が一団から離れるとポルデュラと共に饗宴の間から退いた。
【春華のひとり言】
いつもお読み頂きありがとうございます。
今から遡ること23年前、蒼玉の共鳴が始まりとなることを予見したウルリヒの実妹ダグマルの星読みの回でした。
バルドがセルジオに関わる事になったのも23年前の星読みがあったからこそです。
縁とは本当に不思議だなと感じています。
星の魔導士ダグマルが初めて登場する回は
第2章 第29話インシデント26:星の魔導士
となります。
バルドの出生に関わる回は
第3章 第2節 第20話:傷痕と刻印の謎
第3章 第2節 第21話:深紫色の魔眼
となります。
合わせてお読み頂けると繋がりが鮮明になるかと思います。
次回もよろしくお願い致します。
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