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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第38話:大地の城塞
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カーーーーン!
カーーーーン!
カーーーーン!
カーーーーン!
カチャリッ!
熱した鋼を叩く音が止むと辺りが静まりかえった。
ブゥゥンンーーーー
ブゥゥンンーーーー
鋼に左手を這わせる。何とも言えない音を立て振動する。
鋼に土の魔力を込めているのだ。
今込めている魔力は、この短剣を手にする者が持つ泉の波動を剣に宿らせる道筋を生みだすもの。
鋼に込める魔力は様々だった。剣を持つ者の力を増幅させる魔力もあれば、剣自体を強化する魔力もある。何種類もの魔力を一口の剣や短剣に込める場合もある。
剣を活かすも殺すも剣を手にする者の『心』で左右されるのだ。
魔力を込めると再び鋼を叩く。込める魔力が多い程、鋼を叩く回数も多くなる。
カーーーーン!
カーーーーン!
ピクリッ・・・・
カチャンッ!
ギシッ・・・・
鋼を叩いていた人物は何かを感じ取ると手を止め、鍛冶工房から屋外へ出た。
「これは・・・・
カルラの・・・・火焔の城塞からか・・・・」
一瞬目を閉じ、呼吸を整えると火焔の城塞がある西の空へ目を向けた。
「・・・・蒼玉か?・・・・
蒼玉の共鳴か・・・・誰だ?・・・・
おっ、そう言えばポルデュラが申していたな。
青き血が流れるコマンドールと
守護の騎士らがラドフォールに来ていると・・・・」
西の空へじっと目をこらす。細い線の様に蒼い光が見えたかと思うとアウィン山から火焔の城塞までの辺りの上空に蒼い光が大きくドーム状に広がった。
「やはり・・・・
蒼玉の共鳴か・・・・大したものだなポルデュラよ。
ダグマルの予見通りではないか・・・・
それにしても、守護の騎士らの蒼玉がここまで力を宿しているとは・・・・
これほどまでに蒼玉の力を引き出せるのは・・・・
バルド・・・・紫の魔眼か・・・・」
独りブツブツと呟いている。
ガチャッ!
そこへ重装備の騎士2人が慌てて走り寄りかしづいた。
「ウルリヒ様、
土の魔導士が火焔の城塞から何やら響いてくると・・・・」
サッ!
ウルリヒは左手を払い、騎士の言葉を遮った。
「わかっている。
蒼玉だ、蒼玉の共鳴だ。他言はするな。
蒼玉の短剣を手にした者と月の雫を手にする者の持つ泉と石の波動が大きいのだ・・・・
しかし、これ程とは・・・・これは火焔の城塞まで迎えに出向かねばなるまいな」
ウルリヒ・ド・ラドフォール。
ラドフォール騎士団先代団長。ラドフォール騎士団第一の城塞、大地の城塞を治める土の魔導士だ。地の精霊ノームに仕える。ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞を治めるカルラ、第三の城塞、水の城塞を治める現ラドフォール騎士団団長アロイスの叔父にあたる。
ウルリヒもまた、ラドフォール公爵家の血統を色濃く引き継ぎ銀色の髪、深い緑色の瞳を持っていた。
腰まである銀色の髪を後ろで一つに束ね、長身で細身の姿はラドフォール公爵家独特の美しさを醸し出している。
自ら剣の鋳造と鍛造を担っており、その細身の姿からは想像もつかない程の力強さを持ち合わせていた。
ラドフォール騎士団第一の城塞、大地の城塞は鉄鉱石の採掘と武具の製造を統治している。
武具の中でも剣と短剣の製造が許されているのはシュタイン王国内でラドフォール公爵家のみだった。
各貴族騎士団が新たな剣と短剣が必要な場合は、各貴族騎士団団長から王都騎士団総長への申請が必要となる。
申請が通ると王都騎士団総長からラドフォール騎士団団長へ剣と短剣の製造が依頼される仕組となっていた。
各貴族騎士団が所有する武具と馬の管理をすることでシュタイン王国は各貴族騎士団の統制をとっているのだ。
『管理と統制』の仕組に小さな歪が生まれればそれは内紛の兆しとなる。
そこで、王都騎士団総長はセルジオ騎士団団長へ密命を下した。
「小さな歪の根源を探り、その根源を取り除け」と。
セルジオ達が今回の旅路で担った『裏』の役目はその小さな歪の根源が何かを探るものだった。
バルドとオスカーにポルデュラから授けられた蒼玉の短剣はウルリヒが鍛造したものだった。
自ら鍛造した蒼玉の短剣を手にするバルド、オスカーと月の雫の首飾りを身に付けるセルジオとエリオスの波動がアウィン山に眠る蒼玉と共鳴し、上空に浮かぶ蒼いドーム状の光を浮かび上がらせた。
ウルリヒは蒼い光が浮かぶ上空をじっと見つめていた。
感じていた土の振動がおさまると上空に浮かんでいた蒼い光が溶ける様に静かに消えた。
「おさまったか・・・・ベアテ、フェルスこれへ」
ウルリヒは異変を伝えに来た重装備の騎士2人を呼んだ。
「はっ!」
ベアテとフェルスはウルリヒの後ろでかしづく。
ウルリヒはくるりと後ろに向くと2人を見下した。
「短剣の鍛造が終わり次第、火焔の城塞に向かう。準備いたせ」
「はっ!・・・・
ウルリヒ様、今からでございますか?
既に日暮れ時にございますが、これより火焔の城塞に赴きますか?」
フェルスがかしづいたままの姿勢で確認をする。陽が落ちればラドフォール公爵領に広がるシュピリトゥス森は闇の精霊の力が強くなる。
地の精霊ノームに仕えるウルリヒと言えども安全とは言えない。まして、配下の者を同行させるのであれば安全にシュピリトゥス森を抜けられる保証はなかった。
「・・・・」
ウルリヒは再び西の上空へ目をやった。
蒼い光は姿を消し、西の上空は普段目にする日暮れ時の淡い朱色に戻っていた。
「ふむ・・・・そうか、日暮れ時だな・・・・蒼い光に惑わされた。
わかった。明朝、出発する。フェルスは残れ。
ベアテだけ私に同行せよ」
「うむ・・・・蒼玉の共鳴があったとなると・・・・滞在が伸びるな。
2週間、城を留守にする。私が留守の間はフェルスに全てを一任する。
フェルス、東からの来訪者は通すな。我が城塞に一歩もいれてはならぬぞ。よいか」
「はっ!承知しました」
「ベアテは、私に同行せよ。そなたの風の魔力が必要になる」
「はっ!承知しました」
「準備にかかれっ!日の出と共に出発する」
「はっ!」
2人はその場から退いた。
ウルリヒは2人とが退くと西の空を再び見上げた。
「蒼と白と紫か・・・
ここから始まるのだな・・・・早々に短剣を仕上げるとするかっ!」
ウルリヒは独り呟くと鍛冶工房へ戻った。
カーーーーン!!
カーーーーン!!
カチャリッ!
ブゥゥンンーーーー
ブゥゥンンーーーー
カーーーーン!
カーーーーン!
ウルリヒが鍛冶工房へ戻ると鋼を打つ音と魔力を込める音が響き渡った。
その音は先程より力が込められている様だった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂き、ありがとうございます。
ラドフォール騎士団、第一の城塞、大地の城塞を治める先代団長のご紹介の回でした。
ラドフォール騎士団3つの城塞を治める主要人物が揃いました。
ウルリヒが呟いた意味深な言葉。
「ここから始まるのだな・・・・」
何が始まるのか?気になります。
明日もよろしくお願い致します。
カーーーーン!
カーーーーン!
カーーーーン!
カチャリッ!
熱した鋼を叩く音が止むと辺りが静まりかえった。
ブゥゥンンーーーー
ブゥゥンンーーーー
鋼に左手を這わせる。何とも言えない音を立て振動する。
鋼に土の魔力を込めているのだ。
今込めている魔力は、この短剣を手にする者が持つ泉の波動を剣に宿らせる道筋を生みだすもの。
鋼に込める魔力は様々だった。剣を持つ者の力を増幅させる魔力もあれば、剣自体を強化する魔力もある。何種類もの魔力を一口の剣や短剣に込める場合もある。
剣を活かすも殺すも剣を手にする者の『心』で左右されるのだ。
魔力を込めると再び鋼を叩く。込める魔力が多い程、鋼を叩く回数も多くなる。
カーーーーン!
カーーーーン!
ピクリッ・・・・
カチャンッ!
ギシッ・・・・
鋼を叩いていた人物は何かを感じ取ると手を止め、鍛冶工房から屋外へ出た。
「これは・・・・
カルラの・・・・火焔の城塞からか・・・・」
一瞬目を閉じ、呼吸を整えると火焔の城塞がある西の空へ目を向けた。
「・・・・蒼玉か?・・・・
蒼玉の共鳴か・・・・誰だ?・・・・
おっ、そう言えばポルデュラが申していたな。
青き血が流れるコマンドールと
守護の騎士らがラドフォールに来ていると・・・・」
西の空へじっと目をこらす。細い線の様に蒼い光が見えたかと思うとアウィン山から火焔の城塞までの辺りの上空に蒼い光が大きくドーム状に広がった。
「やはり・・・・
蒼玉の共鳴か・・・・大したものだなポルデュラよ。
ダグマルの予見通りではないか・・・・
それにしても、守護の騎士らの蒼玉がここまで力を宿しているとは・・・・
これほどまでに蒼玉の力を引き出せるのは・・・・
バルド・・・・紫の魔眼か・・・・」
独りブツブツと呟いている。
ガチャッ!
そこへ重装備の騎士2人が慌てて走り寄りかしづいた。
「ウルリヒ様、
土の魔導士が火焔の城塞から何やら響いてくると・・・・」
サッ!
ウルリヒは左手を払い、騎士の言葉を遮った。
「わかっている。
蒼玉だ、蒼玉の共鳴だ。他言はするな。
蒼玉の短剣を手にした者と月の雫を手にする者の持つ泉と石の波動が大きいのだ・・・・
しかし、これ程とは・・・・これは火焔の城塞まで迎えに出向かねばなるまいな」
ウルリヒ・ド・ラドフォール。
ラドフォール騎士団先代団長。ラドフォール騎士団第一の城塞、大地の城塞を治める土の魔導士だ。地の精霊ノームに仕える。ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞を治めるカルラ、第三の城塞、水の城塞を治める現ラドフォール騎士団団長アロイスの叔父にあたる。
ウルリヒもまた、ラドフォール公爵家の血統を色濃く引き継ぎ銀色の髪、深い緑色の瞳を持っていた。
腰まである銀色の髪を後ろで一つに束ね、長身で細身の姿はラドフォール公爵家独特の美しさを醸し出している。
自ら剣の鋳造と鍛造を担っており、その細身の姿からは想像もつかない程の力強さを持ち合わせていた。
ラドフォール騎士団第一の城塞、大地の城塞は鉄鉱石の採掘と武具の製造を統治している。
武具の中でも剣と短剣の製造が許されているのはシュタイン王国内でラドフォール公爵家のみだった。
各貴族騎士団が新たな剣と短剣が必要な場合は、各貴族騎士団団長から王都騎士団総長への申請が必要となる。
申請が通ると王都騎士団総長からラドフォール騎士団団長へ剣と短剣の製造が依頼される仕組となっていた。
各貴族騎士団が所有する武具と馬の管理をすることでシュタイン王国は各貴族騎士団の統制をとっているのだ。
『管理と統制』の仕組に小さな歪が生まれればそれは内紛の兆しとなる。
そこで、王都騎士団総長はセルジオ騎士団団長へ密命を下した。
「小さな歪の根源を探り、その根源を取り除け」と。
セルジオ達が今回の旅路で担った『裏』の役目はその小さな歪の根源が何かを探るものだった。
バルドとオスカーにポルデュラから授けられた蒼玉の短剣はウルリヒが鍛造したものだった。
自ら鍛造した蒼玉の短剣を手にするバルド、オスカーと月の雫の首飾りを身に付けるセルジオとエリオスの波動がアウィン山に眠る蒼玉と共鳴し、上空に浮かぶ蒼いドーム状の光を浮かび上がらせた。
ウルリヒは蒼い光が浮かぶ上空をじっと見つめていた。
感じていた土の振動がおさまると上空に浮かんでいた蒼い光が溶ける様に静かに消えた。
「おさまったか・・・・ベアテ、フェルスこれへ」
ウルリヒは異変を伝えに来た重装備の騎士2人を呼んだ。
「はっ!」
ベアテとフェルスはウルリヒの後ろでかしづく。
ウルリヒはくるりと後ろに向くと2人を見下した。
「短剣の鍛造が終わり次第、火焔の城塞に向かう。準備いたせ」
「はっ!・・・・
ウルリヒ様、今からでございますか?
既に日暮れ時にございますが、これより火焔の城塞に赴きますか?」
フェルスがかしづいたままの姿勢で確認をする。陽が落ちればラドフォール公爵領に広がるシュピリトゥス森は闇の精霊の力が強くなる。
地の精霊ノームに仕えるウルリヒと言えども安全とは言えない。まして、配下の者を同行させるのであれば安全にシュピリトゥス森を抜けられる保証はなかった。
「・・・・」
ウルリヒは再び西の上空へ目をやった。
蒼い光は姿を消し、西の上空は普段目にする日暮れ時の淡い朱色に戻っていた。
「ふむ・・・・そうか、日暮れ時だな・・・・蒼い光に惑わされた。
わかった。明朝、出発する。フェルスは残れ。
ベアテだけ私に同行せよ」
「うむ・・・・蒼玉の共鳴があったとなると・・・・滞在が伸びるな。
2週間、城を留守にする。私が留守の間はフェルスに全てを一任する。
フェルス、東からの来訪者は通すな。我が城塞に一歩もいれてはならぬぞ。よいか」
「はっ!承知しました」
「ベアテは、私に同行せよ。そなたの風の魔力が必要になる」
「はっ!承知しました」
「準備にかかれっ!日の出と共に出発する」
「はっ!」
2人はその場から退いた。
ウルリヒは2人とが退くと西の空を再び見上げた。
「蒼と白と紫か・・・
ここから始まるのだな・・・・早々に短剣を仕上げるとするかっ!」
ウルリヒは独り呟くと鍛冶工房へ戻った。
カーーーーン!!
カーーーーン!!
カチャリッ!
ブゥゥンンーーーー
ブゥゥンンーーーー
カーーーーン!
カーーーーン!
ウルリヒが鍛冶工房へ戻ると鋼を打つ音と魔力を込める音が響き渡った。
その音は先程より力が込められている様だった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂き、ありがとうございます。
ラドフォール騎士団、第一の城塞、大地の城塞を治める先代団長のご紹介の回でした。
ラドフォール騎士団3つの城塞を治める主要人物が揃いました。
ウルリヒが呟いた意味深な言葉。
「ここから始まるのだな・・・・」
何が始まるのか?気になります。
明日もよろしくお願い致します。
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