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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第23話:封印の在処
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久しぶりに赤子の頃と同じようにバルドの懐に抱えられ、とんっとんっとんっと背中を優しく叩かれながらセルジオは眠りについた。
真っ白な雲が広がる空をふわふわと漂いゆっくり、ゆっくり、下降していく感覚にセルジオは目を開ける。
ゆっくり静かに降り立った場所は初代セルジオの追憶の中で初代セルジオに初めて会った所だった。
セルジオは立ち上がり辺りを見回す。初代セルジオがエンジェラ河と言っていた川岸からそよそよと風が吹いてくる。
初代セルジオの時代のエリオスが絶命した大樹が左手に見えた。大樹の周りには白いユリの花が咲き誇っている。
そのずっと先、川岸が見えなくなる森の中に広場が見える。森の木々を円形に刈り取り、広場の中央には薪がきれいに積み上げられていた。
セルジオはくるりと身体の向きを変える。川岸の右手に目をやると山肌を削った崖の上に森が見えた。
大きなクルミの樹がある。赤茶色に染まった落ち葉に彩られ森の中はひんやりとした空気が漂っているように感じられる。
「うん?川岸の左手は初夏なのに・・・・
右手は秋なのか・・・・うん??
でも、左手の森の中は秋のようだ・・・・」
セルジオは右に首を傾げ、思案する時の仕草の左斜め上に目をやる。目線の先に初代セルジオが微笑みを向けセルジオの左側に立っていた。
「!!!初代様!
いつの間にお出ましになられましたか!驚きました!」
セルジオは何の前触れもなく突然現れた初代セルジオの姿に驚きの声を上げた。
初代セルジオはふふふっと優しく微笑むとセルジオの頭にそっと手を置く。
「セルジオ殿、
よく参られた。お気づきであろう?
ここは我の追憶の中・・・・そなたと初めて会った場所だ・・・・」
初代はセルジオの頭に手を置いたまま、懐かしそうに辺りを見回した。
「・・・・我の・・・・
我の悔恨が特に残った場所と我が・・・・」
初代セルジオはセルジオの右手にある大きなクルミの樹を眺めると目を潤ませた。
「・・・・我が・・・・一番に愛した場所なのだ・・・・
オーロラとの・・・・オーロラとエリオスと・・・・ミハエルと・・・・」
セルジオは初代セルジオの言葉がつまると頭に置かれた初代セルジオの手を左手でそっと掴む。
初代セルジオがセルジオを見下すとポタリッと一粒の涙が落ちた。
ポチャーン・・・・
初代セルジオが落した涙に辺りの景色が一変する。
青く深い泉の水面に初代セルジオとセルジオは立っていた。エンジェラ河も川岸に広がる森も大きな樹の周りで咲き誇る白いユリの花も山肌を削った崖も実をつけた大きなクルミの樹もなくなっている。
濃紺の空に浮かぶ青白い月の光が青く深い泉の水面に佇む初代セルジオとセルジオを照らしていた。
セルジオは初代セルジオを見上げると呟く様にそっと問いかける。
「初代様・・・・ここは私の・・・・私の中ですか?
さきほど・・・・『青き血』が目覚めたのです・・・・
その時に・・・・見た光景と同じです・・・・
ここは私の中ですか?」
初代は膝を折るとセルジオを抱き寄せる。
「よくわかったな。そうだ。
ここはそなたの中だ。そなたの奥深くにある泉だ」
初代セルジオはセルジオの後頭部を優しくなでると話しを続けた。
「人は皆、人はどのような者でも己の中に
泉を宿している。
その泉の色や大きさはそれぞれだがな」
「泉の持つ力も使命もそれぞれだ。
己の中に珠があるであろう?
己の中にある泉と珠を
自在に操ることができるのが魔導士だ」
「魔導士がよく申すであろう?
誰でも魔導士になることはできると。
己の中にある泉と珠を知り、
理解し、活かすことができれば誰でも魔導士になれる。
力の差はあってもな」
初代セルジオはセルジオをギュッと抱きしめる。哀し気な声音で話を続けた。
「そなたの泉と珠は
我と何一つ違わぬ程、似通っている。
全く同じと申したほうがよいな」
初代セルジオは抱きしめていたセルジオをはなすと立ち上がった。
顔を上げ、濃紺の空に浮かぶ青白い月を視る様に促す。
セルジオは初代セルジオに素直に従った。
2人で青白い月を見上げる。
「あの青白い月がここにある珠の一つだ」
初代セルジオは左手を握ると胸にあてた。
「見ていろ」
初代セルジオは一言告げると目を閉じた。胸にあてた左拳に力を込める。
ポチャーン・・・・
ブワッ・・・・
濃紺の空に浮かぶ青白い月から深く青い水滴が青く深い泉の水面に一滴落ちると波紋が広がった。
初代セルジオは目を開け左拳を解くとセルジオを見下す。
「一滴落ちたであろう?
青白い月から落ちる深く青い水滴が『青き血』だ。
『青き血』はそのまま『月の雫』となる。
それ故、青き血は月の雫とも謳われていた」
初代セルジオは腰に携えているエステール伯爵家の騎士団団長が継承するサファイヤの剣を鞘から抜いた。
シャン!
サファイヤの剣の柄を両手で握り、胸の前で剣先を空へ向ける。
目を閉じ、呪文のように呟いた。
「青き血よ!月の雫よ!
我が手にある剣に宿り、青白き光を称えよ!
青白き光、閃光となりて我が手にある剣に力を与えよ!
一団を切り裂く青白き閃光よっ!我が剣に宿どれっ!」
グワンッ!!!
バアァァァァ!!!
初代セルジオが手にするサファイヤの剣が青白い光を帯びる。セルジオはその青白い光の眩しさに目を細めた。
初代セルジオは青白い光を帯びたサファイヤの剣を水面に向かい左右に振り下ろした。
キィィィン!!!
キィィィン!!!
青白く三日月の形をした閃光が水面を走る。三日月形の青白い閃光が走った水面は真二つに割れた。
ザンッ!
サンッ!
真二つに割れた水面が波立ち、大きな波紋が広がっていく。
カシャン!
初代セルジオはサファイヤの剣を鞘へおさめた。セルジオを見下す。
「セルジオ殿は、シュタイン王国に伝わる伝説の騎士、
青き血が流れるコマンドールの逸話を存じているであろう?
『その者、青白き炎を携え、剣を振るう。
剣は青き光を放ち一撃にて一団を切り裂く。
黄金に輝く髪、深く青い瞳、透き通る肌には青き血が流れる。
その名を持って国を守り、その名を持って国に安寧をもたらす』」
セルジオは初代セルジオを真っ直ぐに見つめ呼応する。
「はい、存じております」
「今、見せた水面を切り裂いた青白き閃光が
『剣は青き光を放ち一撃にて一団を切り裂く』の所だ」
初代セルジオは自身を真っ直ぐに見上げるセルジオの頭に再び手を置いた。
「セルジオ殿は、これを・・・・
この力をこれから制御せねばならん。
今はまだ『青き血』に目覚めただけに過ぎない。
『青白き炎』も己の意志で湧き立たせているのではなかろう?
ただ、訓練の場面や戦闘の場面になると
自然に『青白き炎』が湧き立つだけであろう?」
「それでは、そなたの周りにいる者、
そなたを守護するバルドやエリオス、オスカーをも傷つけることとなる。
『青き血』も『青白き炎』も己の意志で活かせねば
ただの強い力を持つ魔の者達と変わらない」
「強き力は活かし方で正義にも悪にもなる。
『黒魔術』とて同じ事だ。正義として活かせばその力は正義となる。
悪として活かせば悪となる」
「何事も強き力は表裏一体なのだ。
そして、『正義も悪』もその時々で変わる。
ある時は正義となり、ある時は悪となる。
力を使う事と場所と背景で正義にも悪にもなりうるのが強き力だ。
それ故、宿命を授かった者、強き力を授かった者は己を強く持たねばならん。
私欲や私情でその力を使ってはならん・・・・」
初代セルジオはここまで話すと哀し気な目を向けた。
「我は・・・・使い方を誤った。
それ故、エリオスが死にオーロラが死んだ。
使い方を活かし方を誤れば己ではなく、
己の周りにいる者が命を落とす・・・・
すまぬな・・・・セルジオ殿。我が誤ったのだ。
それ故、そなたの『心も封印』せねばならなくなった・・・・」
初代セルジオは足元の水面に目を落とした。
セルジオは初代セルジオの視線を追う。
深く青い泉の水面下に金色に輝く髪、金糸に縁取られた蒼いマントを纏い重装備の鎧を身に付けた初代セルジオが銀色に輝く丸い珠の中に膝を抱えて眠っている姿が目に入った。
抱える膝の胸の辺りに金色の丸い珠が呼吸をする様に明滅している。初代セルジオを包む銀色の丸い珠に文字の様なものがゆらゆらと揺れ、鎖の様に連なって見える。
「ポルデュラ殿の銀色の風の珠で封印された
我とそなたの『心』だ」
「そなたの泉の中にそなたの心と共に我の悔恨は封印された。
銀色の風の珠に封印の呪文が刻まれているからな。
何があろうとも我には封印は解く事はできない。
こうやって、そなたがそなたの泉まで、
我が封印されている所近くまできてくれたならこのように話す事もできる」
「されば案ずるな。
『青き血』が目覚めたことで、案じていたのであろう?
我の封印が解かれ、そなたを守護するバルドやエリオス、
オスカーに危害を与えるのではないかとな」
「案ずるな。そなたはそなたの泉、
青白き炎と青き血を制御できる様、励むだけでよい。
これからの日々は大きく変わるぞ。
そなたが『青き血』に真に目覚めたことに
シュタイン王国は喜びを表すだろう」
「だが、反対に疎ましく思う者もある。
何事も同じなのだ。善きこと、よき思いがあれば
その反対も同じ様に生まれる。
喜びが大きければ相反する思いも大きくなる」
「さればセルジオ殿、そなたを守護する者たちを
そなたが大切に思う者を守りたいのであれば
そなたはまず己の力を磨け。それ以外は考えるな」
「頭で思い浮かべるだけでは何も変わらぬ。
そなたが動かねば、動き出さねば変わることはできぬ。
我も助けとなろう。セルジオ殿、青白き炎と
青き血の制御の訓練は外と内とで行えばよい」
「外ではバルドに従え、内では我に従え、
さすれば制御は早いうちにできる。
よいか、己を信じるのだぞ。
そして、バルドとエリオス、オスカーを信じるのだぞ。
我の封印は解かれぬ。そなたに封印の在処を伝えたかったのだ」
初代セルジオは優しくセルジオへ微笑みを向けた。
青白い月の光を背にした初代セルジオの微笑みが眩しく感じる。
セルジオは初代セルジオの深く青い瞳を見つめて返事をした。
「初代様、私は!私は己を信じます!
そして、バルドとエリオス、オスカーを信じます。
皆を傷つけるのではないかと皆の足手まといになるのでは
ないかと思うことはやめます。皆を信じます。
初代様、初代様の封印の在処を
私の心の封印の在処をお教え下さり感謝もうします」
初代セルジオはにっこりと微笑みを向けた。
目の前の景色が変わる。この場に降りてきた時と同じ真っ白な雲が広がる空でふわふわ漂う。遠くから声が聞える。背中にとんっとんっとんっと優しい音が響いている。
「・・・・セル・・・・ジ・・・オ・・・・さま・・・・
セルジオ様、セルジオ様・・・・」
セルジオはゆっくりと瞼を開ける。目の前に白い衣服に包まれた広い懐があった。
ゴソッ・・・・・
セルジオは小さな右手で白い衣服に包まれた懐を触る。暖かく心地がよい。瞼を開け閉めしていると頭の上から声が聞えた。
「セルジオ様?目が覚めてしまわれましたか?
今少し、お休み下さい。まだ夜明け前です。
お寒くはありませんか?」
ゴソッ・・・・・
首を上に向けると背中をとんっとんっとんっと叩くバルドと目が合った。
ゴソッ・・・・・
何も言わずに上に向けた首を元に戻すとバルドの懐に近づいた。
「お寒いのですね。
夜明け前が一番暗く、夜明け前が一番寒くなるのです」
バルドは呟く様にセルジオに語りかけるとローブでセルジオを包みこんだ。自身の懐にセルジオを抱き寄せる。
「これで、お寒くはないでしょう。夜が明けるまでお休み下さい」
とんっとんっとんっ・・・・・
バルドの懐に抱えられ、身体を丸めると先程目にした初代セルジオの封印の姿が浮かんだ。
『初代様の封印は、
こうやってバルドの懐で眠っているようであったな・・・・
お寒くはないのだろうな』
ゴソッ・・・・・
バルドの懐に額をつけるとセルジオはまた微睡むのであった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
『青き血』に真に目覚めたことで初代セルジオと自身の心が封印されている所在(在処)が初代セルジオから明かされました。
初代セルジオの悔恨《かいこん》とセルジオの心がポルデュラによって封印された回は
第2章 第7話インシデント3 前世の封印
になります。
読み返してみてとそこからまた読み直ししてしまいました。
どれだけ好きなんだ!と独り言ちした次第です。
明日もよろしくお願い致します。
真っ白な雲が広がる空をふわふわと漂いゆっくり、ゆっくり、下降していく感覚にセルジオは目を開ける。
ゆっくり静かに降り立った場所は初代セルジオの追憶の中で初代セルジオに初めて会った所だった。
セルジオは立ち上がり辺りを見回す。初代セルジオがエンジェラ河と言っていた川岸からそよそよと風が吹いてくる。
初代セルジオの時代のエリオスが絶命した大樹が左手に見えた。大樹の周りには白いユリの花が咲き誇っている。
そのずっと先、川岸が見えなくなる森の中に広場が見える。森の木々を円形に刈り取り、広場の中央には薪がきれいに積み上げられていた。
セルジオはくるりと身体の向きを変える。川岸の右手に目をやると山肌を削った崖の上に森が見えた。
大きなクルミの樹がある。赤茶色に染まった落ち葉に彩られ森の中はひんやりとした空気が漂っているように感じられる。
「うん?川岸の左手は初夏なのに・・・・
右手は秋なのか・・・・うん??
でも、左手の森の中は秋のようだ・・・・」
セルジオは右に首を傾げ、思案する時の仕草の左斜め上に目をやる。目線の先に初代セルジオが微笑みを向けセルジオの左側に立っていた。
「!!!初代様!
いつの間にお出ましになられましたか!驚きました!」
セルジオは何の前触れもなく突然現れた初代セルジオの姿に驚きの声を上げた。
初代セルジオはふふふっと優しく微笑むとセルジオの頭にそっと手を置く。
「セルジオ殿、
よく参られた。お気づきであろう?
ここは我の追憶の中・・・・そなたと初めて会った場所だ・・・・」
初代はセルジオの頭に手を置いたまま、懐かしそうに辺りを見回した。
「・・・・我の・・・・
我の悔恨が特に残った場所と我が・・・・」
初代セルジオはセルジオの右手にある大きなクルミの樹を眺めると目を潤ませた。
「・・・・我が・・・・一番に愛した場所なのだ・・・・
オーロラとの・・・・オーロラとエリオスと・・・・ミハエルと・・・・」
セルジオは初代セルジオの言葉がつまると頭に置かれた初代セルジオの手を左手でそっと掴む。
初代セルジオがセルジオを見下すとポタリッと一粒の涙が落ちた。
ポチャーン・・・・
初代セルジオが落した涙に辺りの景色が一変する。
青く深い泉の水面に初代セルジオとセルジオは立っていた。エンジェラ河も川岸に広がる森も大きな樹の周りで咲き誇る白いユリの花も山肌を削った崖も実をつけた大きなクルミの樹もなくなっている。
濃紺の空に浮かぶ青白い月の光が青く深い泉の水面に佇む初代セルジオとセルジオを照らしていた。
セルジオは初代セルジオを見上げると呟く様にそっと問いかける。
「初代様・・・・ここは私の・・・・私の中ですか?
さきほど・・・・『青き血』が目覚めたのです・・・・
その時に・・・・見た光景と同じです・・・・
ここは私の中ですか?」
初代は膝を折るとセルジオを抱き寄せる。
「よくわかったな。そうだ。
ここはそなたの中だ。そなたの奥深くにある泉だ」
初代セルジオはセルジオの後頭部を優しくなでると話しを続けた。
「人は皆、人はどのような者でも己の中に
泉を宿している。
その泉の色や大きさはそれぞれだがな」
「泉の持つ力も使命もそれぞれだ。
己の中に珠があるであろう?
己の中にある泉と珠を
自在に操ることができるのが魔導士だ」
「魔導士がよく申すであろう?
誰でも魔導士になることはできると。
己の中にある泉と珠を知り、
理解し、活かすことができれば誰でも魔導士になれる。
力の差はあってもな」
初代セルジオはセルジオをギュッと抱きしめる。哀し気な声音で話を続けた。
「そなたの泉と珠は
我と何一つ違わぬ程、似通っている。
全く同じと申したほうがよいな」
初代セルジオは抱きしめていたセルジオをはなすと立ち上がった。
顔を上げ、濃紺の空に浮かぶ青白い月を視る様に促す。
セルジオは初代セルジオに素直に従った。
2人で青白い月を見上げる。
「あの青白い月がここにある珠の一つだ」
初代セルジオは左手を握ると胸にあてた。
「見ていろ」
初代セルジオは一言告げると目を閉じた。胸にあてた左拳に力を込める。
ポチャーン・・・・
ブワッ・・・・
濃紺の空に浮かぶ青白い月から深く青い水滴が青く深い泉の水面に一滴落ちると波紋が広がった。
初代セルジオは目を開け左拳を解くとセルジオを見下す。
「一滴落ちたであろう?
青白い月から落ちる深く青い水滴が『青き血』だ。
『青き血』はそのまま『月の雫』となる。
それ故、青き血は月の雫とも謳われていた」
初代セルジオは腰に携えているエステール伯爵家の騎士団団長が継承するサファイヤの剣を鞘から抜いた。
シャン!
サファイヤの剣の柄を両手で握り、胸の前で剣先を空へ向ける。
目を閉じ、呪文のように呟いた。
「青き血よ!月の雫よ!
我が手にある剣に宿り、青白き光を称えよ!
青白き光、閃光となりて我が手にある剣に力を与えよ!
一団を切り裂く青白き閃光よっ!我が剣に宿どれっ!」
グワンッ!!!
バアァァァァ!!!
初代セルジオが手にするサファイヤの剣が青白い光を帯びる。セルジオはその青白い光の眩しさに目を細めた。
初代セルジオは青白い光を帯びたサファイヤの剣を水面に向かい左右に振り下ろした。
キィィィン!!!
キィィィン!!!
青白く三日月の形をした閃光が水面を走る。三日月形の青白い閃光が走った水面は真二つに割れた。
ザンッ!
サンッ!
真二つに割れた水面が波立ち、大きな波紋が広がっていく。
カシャン!
初代セルジオはサファイヤの剣を鞘へおさめた。セルジオを見下す。
「セルジオ殿は、シュタイン王国に伝わる伝説の騎士、
青き血が流れるコマンドールの逸話を存じているであろう?
『その者、青白き炎を携え、剣を振るう。
剣は青き光を放ち一撃にて一団を切り裂く。
黄金に輝く髪、深く青い瞳、透き通る肌には青き血が流れる。
その名を持って国を守り、その名を持って国に安寧をもたらす』」
セルジオは初代セルジオを真っ直ぐに見つめ呼応する。
「はい、存じております」
「今、見せた水面を切り裂いた青白き閃光が
『剣は青き光を放ち一撃にて一団を切り裂く』の所だ」
初代セルジオは自身を真っ直ぐに見上げるセルジオの頭に再び手を置いた。
「セルジオ殿は、これを・・・・
この力をこれから制御せねばならん。
今はまだ『青き血』に目覚めただけに過ぎない。
『青白き炎』も己の意志で湧き立たせているのではなかろう?
ただ、訓練の場面や戦闘の場面になると
自然に『青白き炎』が湧き立つだけであろう?」
「それでは、そなたの周りにいる者、
そなたを守護するバルドやエリオス、オスカーをも傷つけることとなる。
『青き血』も『青白き炎』も己の意志で活かせねば
ただの強い力を持つ魔の者達と変わらない」
「強き力は活かし方で正義にも悪にもなる。
『黒魔術』とて同じ事だ。正義として活かせばその力は正義となる。
悪として活かせば悪となる」
「何事も強き力は表裏一体なのだ。
そして、『正義も悪』もその時々で変わる。
ある時は正義となり、ある時は悪となる。
力を使う事と場所と背景で正義にも悪にもなりうるのが強き力だ。
それ故、宿命を授かった者、強き力を授かった者は己を強く持たねばならん。
私欲や私情でその力を使ってはならん・・・・」
初代セルジオはここまで話すと哀し気な目を向けた。
「我は・・・・使い方を誤った。
それ故、エリオスが死にオーロラが死んだ。
使い方を活かし方を誤れば己ではなく、
己の周りにいる者が命を落とす・・・・
すまぬな・・・・セルジオ殿。我が誤ったのだ。
それ故、そなたの『心も封印』せねばならなくなった・・・・」
初代セルジオは足元の水面に目を落とした。
セルジオは初代セルジオの視線を追う。
深く青い泉の水面下に金色に輝く髪、金糸に縁取られた蒼いマントを纏い重装備の鎧を身に付けた初代セルジオが銀色に輝く丸い珠の中に膝を抱えて眠っている姿が目に入った。
抱える膝の胸の辺りに金色の丸い珠が呼吸をする様に明滅している。初代セルジオを包む銀色の丸い珠に文字の様なものがゆらゆらと揺れ、鎖の様に連なって見える。
「ポルデュラ殿の銀色の風の珠で封印された
我とそなたの『心』だ」
「そなたの泉の中にそなたの心と共に我の悔恨は封印された。
銀色の風の珠に封印の呪文が刻まれているからな。
何があろうとも我には封印は解く事はできない。
こうやって、そなたがそなたの泉まで、
我が封印されている所近くまできてくれたならこのように話す事もできる」
「されば案ずるな。
『青き血』が目覚めたことで、案じていたのであろう?
我の封印が解かれ、そなたを守護するバルドやエリオス、
オスカーに危害を与えるのではないかとな」
「案ずるな。そなたはそなたの泉、
青白き炎と青き血を制御できる様、励むだけでよい。
これからの日々は大きく変わるぞ。
そなたが『青き血』に真に目覚めたことに
シュタイン王国は喜びを表すだろう」
「だが、反対に疎ましく思う者もある。
何事も同じなのだ。善きこと、よき思いがあれば
その反対も同じ様に生まれる。
喜びが大きければ相反する思いも大きくなる」
「さればセルジオ殿、そなたを守護する者たちを
そなたが大切に思う者を守りたいのであれば
そなたはまず己の力を磨け。それ以外は考えるな」
「頭で思い浮かべるだけでは何も変わらぬ。
そなたが動かねば、動き出さねば変わることはできぬ。
我も助けとなろう。セルジオ殿、青白き炎と
青き血の制御の訓練は外と内とで行えばよい」
「外ではバルドに従え、内では我に従え、
さすれば制御は早いうちにできる。
よいか、己を信じるのだぞ。
そして、バルドとエリオス、オスカーを信じるのだぞ。
我の封印は解かれぬ。そなたに封印の在処を伝えたかったのだ」
初代セルジオは優しくセルジオへ微笑みを向けた。
青白い月の光を背にした初代セルジオの微笑みが眩しく感じる。
セルジオは初代セルジオの深く青い瞳を見つめて返事をした。
「初代様、私は!私は己を信じます!
そして、バルドとエリオス、オスカーを信じます。
皆を傷つけるのではないかと皆の足手まといになるのでは
ないかと思うことはやめます。皆を信じます。
初代様、初代様の封印の在処を
私の心の封印の在処をお教え下さり感謝もうします」
初代セルジオはにっこりと微笑みを向けた。
目の前の景色が変わる。この場に降りてきた時と同じ真っ白な雲が広がる空でふわふわ漂う。遠くから声が聞える。背中にとんっとんっとんっと優しい音が響いている。
「・・・・セル・・・・ジ・・・オ・・・・さま・・・・
セルジオ様、セルジオ様・・・・」
セルジオはゆっくりと瞼を開ける。目の前に白い衣服に包まれた広い懐があった。
ゴソッ・・・・・
セルジオは小さな右手で白い衣服に包まれた懐を触る。暖かく心地がよい。瞼を開け閉めしていると頭の上から声が聞えた。
「セルジオ様?目が覚めてしまわれましたか?
今少し、お休み下さい。まだ夜明け前です。
お寒くはありませんか?」
ゴソッ・・・・・
首を上に向けると背中をとんっとんっとんっと叩くバルドと目が合った。
ゴソッ・・・・・
何も言わずに上に向けた首を元に戻すとバルドの懐に近づいた。
「お寒いのですね。
夜明け前が一番暗く、夜明け前が一番寒くなるのです」
バルドは呟く様にセルジオに語りかけるとローブでセルジオを包みこんだ。自身の懐にセルジオを抱き寄せる。
「これで、お寒くはないでしょう。夜が明けるまでお休み下さい」
とんっとんっとんっ・・・・・
バルドの懐に抱えられ、身体を丸めると先程目にした初代セルジオの封印の姿が浮かんだ。
『初代様の封印は、
こうやってバルドの懐で眠っているようであったな・・・・
お寒くはないのだろうな』
ゴソッ・・・・・
バルドの懐に額をつけるとセルジオはまた微睡むのであった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
『青き血』に真に目覚めたことで初代セルジオと自身の心が封印されている所在(在処)が初代セルジオから明かされました。
初代セルジオの悔恨《かいこん》とセルジオの心がポルデュラによって封印された回は
第2章 第7話インシデント3 前世の封印
になります。
読み返してみてとそこからまた読み直ししてしまいました。
どれだけ好きなんだ!と独り言ちした次第です。
明日もよろしくお願い致します。
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