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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第22話:師弟の絆2

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エステール伯爵家セルジオ騎士団団長の名代みょうだいとしてラドフォール騎士団第三の城塞、水の城塞を訪れたセルジオらを歓迎するうたげにぎやかに続いていた。

セルジオとエリオスは魔導士が8割を占めるラドフォール騎士団の騎士と従士に戦場での役割と魔術訓練の様子などを熱心に聴いていた。

普段、ポルデュラから受ける傷の手当てをする治癒ちゆの術式や身体の中にある7つのたまに直接作用し体力を回復させる術式は作用させる力に差はあるもののラドフォール騎士団に所属する魔導士の基本となる魔術だと知った。

セルジオとエリオスを傍らから離さず、魔術の術式を披露ひろうするラドフォール騎士団第一隊長エルマーと第二隊長オトマールにセルジオはあれこれと質問をする。

「エルマー殿!
この様な切り傷はいかほどの時で治療ちりょうできるのですか?」

先刻の青き血の目覚めで負った左腕のすり傷を見せる。
エルマーはどれどれとセルジオのか細い左腕にそっと手をえた。

「!!!セルジオ様!
このすり傷のまま湯殿で湯を浴びたのですか?
湯が傷にしみたのではありませんか?我が水の城塞の湯は塩泉にて・・・・
この様なすり傷には湯がしみるのです」

エルマーはセルジオの左上腕ひだりじょうわんがすりけ、うっすらと赤黄色の汁がにじんでいることに痛みを感じてはいないのかと驚いた表情を向けた。

セルジオは湯殿で自ら着替えをし、衣の袖をバルドにめくり上げてもらったものの後は全て独りで湯を浴び、湯につかっていたためセルジオが腕に傷を負っていることを知る者はいなかったのだ。

セルジオは平然とした表情で答える。

「いいえ、湯がしみることはありませんでした。私は痛みを強くは感じないのです」

セルジオの言葉にエルマーが更に驚いた表情を見せるとセルジオは少し哀し気な眼をした。

「私は・・・・痛みが・・・・わからないのです・・・・己の痛みも・・・・」

セルジオは隣にいるエリオスの顔をチラリと見る。

「・・・・エリオスの痛みもわからないのです・・・・」

セルジオは辺りを見回しバルドの姿を探す。
テーブルを一つ挟んだ先にアロイスとオスカーと楽し気に話しているバルドを見つけた。

「・・・・バルドの・・・・我が師の痛みも
オスカーの痛みも・・・・誰の痛みもわからない・・・・のです」

セルジオは実兄フリードリヒに会って以来、己と他者を比較ひかくすることを覚えていた。そして、己が他者と違うこと、『心を持たない』ことで通常感じられることを感じることができないことを認識しだしていたのだ。

セルジオが哀しそうにバルドを見ている姿を目にするとエリオスはいたたまれない気持ちになる。突如とつじょ立ち上がった。

ガタンッ!

セルジオの話に聞き入っていたラドフォール騎士団の騎士と従士は突然に立ち上がったエリオスに一斉に視線を注いだ。

エリオスはセルジオとエリオスを取り囲む人だかりを分け入り、テーブルに沿って歩みだした。

「失礼をいたします。お通し下さいっ!
失礼をいたします。お通し下さいっ!」

シーーーン・・・・

突然のエリオスの行動ににぎわっていた食堂棟は静まり返る。

人だかりを抜け、大きな長方形のテーブルを
ぐるりと回るとバルドの元へ走り寄った。

辺りが突然静まり返ったことでアロイス、バルド、オスカーがセルジオとエリオスがいた一つテーブルを挟んだ先に目を向ける。

セルジオの左上腕に手を添えるエルマーと取り囲む10数人の騎士と従士がアロイスの座る右手奥を見ているのが目に入った。

ガタンッッ!!!

オスカーが椅子から勢いよく立ち上がった。
エリオスの姿がセルジオの隣にないことに気付いたのだ。

「エリオス様っ!?」

オスカーが珍しく大きな声でエリオスの名を呼ぶ。

「ここだっ!」

アロイスの右隣にエリオスが立っていた。

「ほっ・・・・エリオス様・・・・
セルジオ様のお隣にお姿がないので驚きました」

オスカーはエリオスの姿を確認するとほっと息を吐いた。続けてエリオスへ問いかける。

「エリオス様、いかがなさいましたか?
皆様で魔術のお話しをされていたのではございませんか?」

バッ!
ガッ!

エリオスはオスカーの問いかけに返答もせずアロイスの隣で椅子に座っているバルドの右腕を唐突に両手でつかんだ。

「バルド殿!申し訳ありませんっ!」

バルドの右腕を掴み、そのまま自身の額をバルドの腕に乗せる。

「セルジオ様に湯殿で衣をっ!
お身体の確認もせずに衣をかぶせましたっ!
セルジオ様がっ!セルジオ様がっ!」

エリオスは顔を上げると悲痛な面持おももちでバルドの顔を見ている。エリオスの眼には涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうだ。

「エリオス様、いかがなさいましたか?
その様に取り乱されて・・・・さっ、落ちついてお話しください。
セルジオ様がいかがなさいましたか?」

バルドはエリオスの身体を直立されるとそっと両肩に手を置き、問いかけた。

先程までにぎわっていた食堂棟は静まり返り、エリオスとバルドへ視線が注がれる。

セルジオはエルマーと顔を見合わせ、どうしたことかと首をかしげる。エルマーは手を添えていたセルジオの左腕をそっと離した。

エリオスはバルドの深い紫色の瞳と自身の深い青色の瞳をしっかりと合わせると呼吸を整え、深く息を吸った。背筋を正し、バルドの問いに答える。

「湯殿で着替えをしました時、
セルジオ様のお身体に傷があることの確認もせずに
衣でお身体をおおいました。
セルジオ様は左腕に傷を負っておいでですっ!
赤くっ!すり傷を負っておいでですっ!
バルド殿っ!申し訳けありませんっ!」

エリオスはバルドへ深々と頭を下げた。
両手を強く握り、ふるふると全身を震わせていた。

セルジオの傷に気付かず、しかも戦闘せんとうの後で身体に傷を負っていないかの確認もせず、体面たいめんだけを考え湯殿でセルジオの身体を衣で覆ったことをエリオスは自分のあやまちだと感じたのだ。

バルドはそっとエリオスを抱き寄せ、優しい声音こわねで語りかける。

「エリオス様、その様にご自身を責めずとも大事ございません。
セルジオ様の左腕のすり傷は存じておりました。
衣が大きく袖から手がでぬと仰せの時に確認致しました」

うたげが終わりましてからポルディラ様より頂きました
薬草をあてようと思っておりましたので大事ございません。
痛々しく見えますが、セルジオ様は痛みをさほど感じられないのです。
深手ふかででなければ直ぐの治療でなくともよいと私が判断しました。
ご心配とご心痛をおかけしましたこと私の方こそ、
びねばなりません。エリオス様、ご心配をおかけし申し訳ございません」

バルドは抱き寄せたエリオスの後頭部をそっとなでるとぎゅっと抱きしめる。

「エリオス様、
セルジオ様を大切に、ご自身のことよりも大切にお思い下さるのは
大変嬉しゅうございます。されど・・・・
初代様と同じ痛みを・・・・苦しみと悔恨かいこん
セルジオ様に残されることだけはなさらないで下さい」

「エリオス様ご自身のことをエリオス様ご自身のお命を第一にお思い下さい。
先ほども御身おんみていして
セルジオ様に降りかかる火矢の前に出られました。
この度は、精霊の、火の精霊サラマンダー様のお計らいと
アロイス様がいらして下さったことで傷一つ残らずに済みましたが、
戦場であればお命を落とされていたことでしょう」

「戦場でなくともこれより『青き血』が真に目覚めたセルジオ様を
うとましく思い、『青き血が流れるコマンドール』の真の再来と
うたわれるセルジオ様を亡き者なきものにしようと
たくらやからがあまた現れます」

「その様な時、セルジオ様の御身を守る為にエリオス様は
ご自身の御身をたてにされてはなりません。
セルジオ様をお想いであればセルジオ様の為に
お命を落としてはなりません」

「セルジオ様のたてになられることが
『守護の騎士』の役目ではございません。
セルジオ様が仮にお命を落とされてもセルジオ様の
『ご意志を継ぐ者』こそが守護の騎士なのです」

「エリオス様がセルジオ様の盾となり、傷を負い、
ましてお命を落とそうものならセルジオ様のお心は・・・・
封印されているお心はくだけ散ります。
砕けた心の種は二度と芽吹めぶくく事はございません」

「痛みを感じられずともセルジオ様はセルジオ様です。
エリオス様がセルジオ様に赤子の頃より時を同じく、
寄り添って下さる事でお心の土壌どじょう
肥沃ひよくとなっております」

「先ごろはお顔に微笑みも表れました。
先刻など、矢を背中に受けたエリオス様がお命を
落とされたのではと思われたのでしょう、
カルラ様へ怒りに近いお顏を向けられました」

「馬の早がけで手に血豆ができた時、
エリオス様の痛みがわからぬと哀し気なお顏をされていました。
セルジオ様もエリオス様と同じ様にエリオス様を大切に
想っておいでなのです」

「セルジオ様は痛みがなくとも治療をせねばならないことは
存じてみえます。ならばエリオス様はセルジオ様の治療を
『手当を』と申された時に手助けをして頂けませんか?」

「セルジオ様はご自身のお心が封印されていることで
我らに負担をかけると思っておいでです。
お心が封印されていようが、痛みを感じることがなかろうが
セルジオ様はセルジオ様にお変わりないことを、
我らに負担などないことをセルジオ様にわかって頂きませんか?」

バルドは抱きしめたエリオスをそっと離す。
エリオスのセルジオとよく似た深く青い瞳をじっと見つめて微笑みを向けた。

「今の話は・・・・マデュラの刺客と対峙たいじしました後に
オスカー殿から私へ頂いた言の葉ことのはです。
あるじを大切に想うならば死んではならぬ』と
さとされました」

バルドはふふふと笑いオスカーを見る。
オスカーは涙を浮かべバルドへ微笑みを向けていた。

バルドはエリオスへ向き直る。

「エリオス様、感謝申します。
セルジオ様の傷のことをお教え頂き、感謝申します。
後ほど、ポルディラ様より頂いた薬草で
セルジオ様の手当をして下さいませんか?
戦場で傷を負った際の手当の訓練です。お願いできますか?」

バルドはホロリと涙を流したエリオスの頬を左手親指でそっとぬぐった。

「・・・・バルド殿、承知しました。
セルジオ様の傷の手当の仕方を教えて下さい」

エリオスは頬を拭ったバルドの左手を右手で触るとグッと強く握った。
バルドはにこりと微笑むとうなずく。

「承知致しました。エリオス様、よろしくお願い致します」

シーンと静まり返った水の城塞食堂棟の空気をアロイスから二つテーブル挟んだ席で水の城塞騎士と自ら率いる火焔かえんの城塞騎士とで話をしていたアロイスの妹カルラが一変させる。

「兄上っ!エステールの・・・・
いやっ、『青き血が流れるコマンドール』と守護の騎士、
その師の方々は深い絆で結ばれておりますねっ!!
絆の深さは我が火焔かえんの城塞の者どもが
シュタイン王国随一ずいいちと思っておりましたっ!
熱くたぎる火の精霊サラマンダー様の守護を受ける我らより、
深く熱い絆を持つ騎士団があるとは思ってもみませんでしたっ!」

ガタンッ!!

カルラは自らが腰かけていた椅子の上に立ちあがった。
手にしていた白い葡萄の果汁が入った銀の杯を高々と挙《あ》げる。

「水の城塞、火焔かえんの城塞、
ラドフォールの誇り高き騎士たちよっっ!!
ここに深く強い絆を持つエステールの師弟していがおられるっ!
互いが互いを思い、思いを通わせ、信じるからこそ
言の葉ことのはいのち宿やどる」

「命が宿る言の葉ことのはは深く強く結ぶ絆となるっ!
たとえその身が離れていようと思いは繋がっているのだっ!」

「ラドフォールの誇り高き騎士達よっ!
ここに誓おうではないかっ!
ゆがみが生じつつあるシュタイン王国を100有余年前と
同様に我らラドフォールとエステールが互いが互いを思い、
力を合わせ今一度生じた歪みを正すとっ!!
この誓いに賛同さんどうする者は杯を手に立ち上がれっ!」

ガタッガタッガタッ!
ザッザッ!!!

食堂棟に集う200名近い騎士と従士が銀の杯を手に一斉に立ち上がった。

カルラはニヤリと笑うとアロイスへ目を向ける。

「兄上っ!
誇り高きラドフォール騎士団に、エステールの深き絆を持つ師弟に、
そして、青き血が流れるコマンドールの真の再来に、
祝福の言の葉ことのはをっ!」

アロイスはカルラを一瞥いちべつすると食堂棟を見回す。
ふっと少しうつむき笑うと自らも銀の杯を手に椅子の上に立った。

ガタンッ!!

バッ!!

杯を手にする騎士と従士の身体が一斉にアロイスへ向く。

アロイスはすぅっと大きく息を吸った。
ラドフォール騎士団食堂棟に響き渡る澄んだ声を上げる。

「ラドフォールの誇り高き騎士達よっ!
今宵こよい我が水の城塞に真に目覚めた
青き血が流れるコマンドールが降り立ったっ!
100有余年の時を経て月のなき闇夜に月の雫が再び降り立つっ!
言い伝え通りの時をここに向かえたのだっ!
これよりっ!ラドフォールとエステールは互いに
その持てる力を合わせ共闘するっ!今宵こよいここに誓おうっ!
シュタイン王国に生じた歪みを正すっ!!我らの手でっ!」

アロイスは銀の杯を高々とかかげた。 

ゥオオオオオーーーー!!!
オオオオオーーーーー!!!

地響きがする程の大音響の雄たけびが食堂棟に響き渡る。

アロイスは雄たけびの中で目を閉じると再度銀の杯をかかげた。

「ラドフォールとエステールの騎士と従士に幸いあれっ!!!」

「幸いあれっ!!!」

食堂棟につどう者の士気が一つに高まった。

セルジオとエリオスは見よう見まねで銀の杯を掲げていた。
セルジオは腹に何とも言えない熱いものを感じていた。今まで感じた事のない感覚に戸惑いながらもその場にいる者達に賛同をしたのだった。


パタンッ!

セルジオらは水の城塞での滞在部屋へアロイスの案内で入った。
セルジオ騎士団西の屋敷と外観と配置はほぼ同じだが、内装は異なっていた。リビアン山の中腹に位置する水の城塞は西の屋敷よりも気温が低い。そして温泉が湧き出る事から蒸気を空洞の床下に通す暖房設備が使われていた。

アロイスの号令でラドフォール騎士団と士気を高め合ったところで、うたげはお開きとなった。

バルドはセルジオらと過ごす部屋へ案内をしたアロイスを居室まで送り届け、戻った所だった。

静かに滞在する部屋の扉を閉める。
西の屋敷で借りていた第一隊長ジグランの居室と同じ位置ではあるものの内装は軍事を主にしておらず、どちらかと言えばくつろぎ、身体を休めることを主体としていた。

大人が3人は横になれる大きさのベッドが二台、西の屋敷では書斎と武具が置かれた奥の部屋に並んでいる。

セルジオらの滞在の為にアロイスが新しく作らせたものだった。

中央には長椅子を挟んでテーブルが置かれ、簡易な食事でもできる様にしつらえてあった。

バルドが扉を閉めると部屋の中は薄暗く、長椅子のテーブルの上に置かれた燭台のロウソク1本が燈っているだけだった。

ゴソッゴソッ・・・・

奥の部屋でオスカーに抱えられベッドで横になっていたセルジオがムクリと起き上がる。

「・・・・バルド、戻ったのか?・・・・」

隣で眠っているエリオスを起こさないように小声でバルドの名を呼ぶとベッドから降り、奥の部屋からバルドの元へ歩み寄った。

バルドは膝を折り、セルジオへ向け両手を広げる。
セルジオは広げられたバルドの両腕に吸い込まれるようにすっと収まった。

「セルジオ様、眠れませんか?エリオス様は?」

「・・・・眠れぬのは・・・・いつものことだ。
エリオスはオスカーに抱えられて眠っている。
オスカーがバルドが戻るまで私も一緒にと抱えていてくれたのだ・・・・
でも・・・・眠れずにいた・・・・」

少し哀し気にバルドの深い紫色の瞳を見つめる。
バルドはセルジオの深く青い瞳をじっと見返した。

ソッ・・・・

訓練場で打ったセルジオの左頬へ右手を添える。

「セルジオ様、頬の痛みはえましたか?
強く打ちました・・・・れてはいませんね・・・・」

そっと、左頬をさする。
セルジオはバルドのされるがままに直立し答える。

「大事ない。痛みもれもない。
左腕もエリオスがオスカーと共に手当をしてくれた」

左腕の袖を右手でめくり、手当の後をバルドへ見せる。

「エリオスは・・・・
上手いものだ。なんでも直ぐにできるようになる」

セルジオはポルデュラの薬草があてられ包帯がきれいに巻かれた左腕に目をやる。

「左様にございますね。
きれいに包帯が巻かれています。きつくはございませんか?」

バルドはセルジオの左手を取ると包帯のきつくはないか血の気を確認した。

「大事ない。きつくもなく、痛みもない・・・・」

バルドはセルジオを再び抱き寄せると頭をなでた。

「ようございました。
痛みもなく、傷の手当てもしていただけ、ようございました。
夜も更けております。そろそろ、お休み下さい。
眠れずともよいのです。身体を横にするだけでよいのです」

バルドはセルジオを抱き上げた。
テーブルの上の燭台に燈る1本のロウソクの
火を吹き消す。

「ふっ・・・・。セルジオ様、いかがなさいますか?
エリオス様のお隣でお休みになりますか?
それとも別のベッドでお休みになりますか?」

バルドはセルジオに横になる場所の選択をさせる。眠りが浅く、眠れたとしてもよく動くセルジオがエリオスの睡眠を邪魔するのではと考えていると感じたからだ。

セルジオはバルドの左腕に抱えられながらバルドの顔をじっと見ると首に両腕を巻き付け首元に顔をうずめた。

恥ずかしそうに小声でバルドに耳打ちする。

「・・・・バルド・・・・
頼みが・・・・頼みがあるのだ・・・・」

バルドは自身の左肩に顔をうずめるセルジオの背中を右手でさする。

「はい、何なりとお申し付け下さい。いかがされましたか?」

セルジオの背中をとんっとんっと優しく叩く。マデュラの乳母に命を狙われた後、赤子のセルジオをバルドは自身の懐に常に抱えていた。
セルジオを寝かしつける時に今のように背中を優しく叩いていたのだ。

「・・・・バルド・・・・そのように・・・・
赤子の頃のように・・・・バルドの懐で・・・・
眠りたい・・・・のだ」

セルジオはバルドの首に巻き付ける両腕にぎゅっと力を入れた。

とんっとんっとんっ・・・・・
とんっとんっとんっ・・・・・

「左様なことでしたか。承知しました。
広いベッドにしますか?それとも赤子の頃の様に長椅子に致しますか?」

バルドはセルジオの背中を優しく叩きながら問いかけた。

「・・・・ベッドでよい。
その方がバルドも横になれるであろう?・・・・」

とんっとんっとんっ・・・・
とんっとんっとんっ・・・・

バルドが優しく叩くセルジオの背中がだんだんと暖かくなる。セルジオは微睡まどろみ始めた。

「はい、承知しました。
セルジオ様はお優しいですね。私の事もお考え下さり、感謝申します」

コクリッ・・・・

バルドの左肩に顔をうずめたまま小さくうなずくとセルジオの両腕から徐々に力が抜けた。

「・・・・セルジオ様、眠れずともよいのです。
何のご心配も無用です。あるがままに、
セルジオ様の思うがままにお生き下さい」

バルドはセルジオを抱えたままベッドへ横たわる。

とんっとんっとんっ・・・・・
とんっとんっとんっ・・・・・

すぅっと寝息を立てだしたセルジオの背中をしばらくの間とんっとんっと叩きつづける。

赤子だったセルジオを思い出し、4年弱の成長を感じながらバルドはまぶたを閉じるのだった。



【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

師弟の絆2の回でした。

セルジオが生まれてから片時も離れず成長を見守るバルドは一言では語れない想いがあるのだと感じています。

命懸で守る者、命懸で守れらる者、その絆の深さを改めて強く感じた回でした。

『師弟の絆』は第2章第19話となります。

ほんの数カ月前ですが、合わせてお読み頂くとセルジオの成長がご覧頂けます。

明日もよろしくおねがいいたします。


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