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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第10話 北門の開錠

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カコッカコッカコッ・・・・
ピタリッ!!
ブルルルルゥゥ・・・・

白い衣服を身に付けた2人の女性が立っている木々がからまる場所へ近づくと馬が足を止めた。

ストンッ!!

バルドはセルジオを抱きかかえ馬から下りる。
馬のたずなを左手で握ると右手でセルジオと手を繋ぎ2人の女性に歩み寄った。

オスカーもバルドにならい、馬から下りるとエリオスと手を繋ぎバルドの後ろからつき随った。

サァァァァァ~

セルジオはサァァァァと音がしてくる頭上を見上げる。森の木々に覆われた城壁最上部の水路から水が滝のように流れていた。冷たくピンッと張り詰めた空気で辺りは威厳げんかくに満ちているように感じる。

セルジオの姿を見ると太い木々の根、枝葉が絡み合う北門前に立っていた2人の女性とロルフ、ウーシーがひざまづいた。

ウーシーの母、トラウテが口を開く。

「セルジオ様、エリオス様、バルド様、オスカー様、
お待ち申し上げておりました。
我ら北の森の精霊シルフィード様より北門の鍵を預かりし者、
ユリカとトラウテにございます。
これより北門を開け、
ラドフォール公爵家領シュピリトゥスの森へのつなぎを致します」

「・・・・」

何とも言えない雰囲気にのまれて無言で立ちつくしていたセルジオの背中をバルドはそっと触り呼応をほどこす。

「セルジオ様、ご挨拶を・・・・」

セルジオはハッとしトラウテへ返答をした。

「ユリカ、トラウテ、北門の開錠、感謝申す。
ロルフ、ウーシー、道案内を感謝申す」

森の空気とその場の雰囲気に圧倒されているのかセルジオは珍しくぎこちない返答をした。

トラウテは柔らかな微笑みをセルジオに向けるとユリカに目配めくばせをする。ユリカが左手に持つ枝葉を上空へ向けた。

サッ!

枝葉を上空へ向けたユリカの合図にトラウテ、ロルフ、ウーシーは立ち上がり、城壁最上部から水が流れ落ちる木々の前に並んだ。

ロルフとウーシーはトラウテとユリカの横にそれぞれつくとトラウテから手渡された枝葉を両手で持ち目を閉じ膝まづいた。

トラウテとユリカは手にする枝葉を滝の水にさらす。

サラサラと清々しい音がセルジオを包んだ。

ザッザッ ザッザッ
ザッザッ ザッザッ
ザッザッ ザッザッ
ザッザッ ザッザッ

続いて枝葉からしたたる水をセルジオ、バルド、エリオス、オスカーの順に降りかける。

ピクッ!

『つっ冷たい!!!』

セルジオはあまりの水の冷たさに口には出さず頭の中で叫び声を上げた。

ザァァァァァァ

強い風がセルジオとエリオスの身体を包んだ。
赤茶色の落ち葉でなく、深緑色の葉が上空から風に乗り舞い降りてくる。

深緑色の葉はセルジオとエリオスを包みこんだ。

ブルッ!

風に包まれ冷たさが増し、セルジオは思わず身震いをする。

ガサッ・・・・

バルドとオスカーはセルジオとエリオスの手を放し、一に歩離れると深緑色の葉に包まれる様子を見ていた。

チャリィーン・・・・
チャリィーン・・・・

セルジオの耳に小さな鐘の音の様な音が聞こえてくる。
耳を澄ましていると北の森に入った時と同じ声が聞えてきた。

『ふふふ・・・・月のしずくが冷たがっているよ!
大丈夫なのかな?冷たくて震えているよ!』

『まだ、小さな子供だから仕方がないよ』

『だらしがないなぁ~!こんなことで震えるなんて!
この子、本当に月のしずくなの?』

『そうみたいだよ。
ははさまが待っていたって言ってたから、本物の月のしずくなんだよ』

『ふ~ん・・・・それにしても何も感じないよ。
青白い光も青白い炎も湧きあがってないし・・・・間違えじゃないの?』

『しっっ!そんこと!
ははさまに聞かれたら木のみつもらえなくなるよ!』

『そうだよ!ははさまが言うのなら間違いないよ!
この子は本物の月のしずくなんだよ!』

『ふ~ん、でもさっ、こっちの子も月のしずく持ってるよ!
こっちの子が本物じゃないの?こっちの子は冷たさにたえられているよ。
こっちの子が月のしずくだよ』

セルジオの周りで目に見えない何かが言葉を交わしている。どうやら自分とエリオスの事を話しているのだと暫く聞いていてやっとわかった。

セルジオは黙って話しを聞きながらエリオスをチラリと見る。

バチッ!

エリオスと目が合った。エリオスにも声が聞えている様だ。

お互いにクスリッと笑う。その姿に目に見えない声の主たちが騒ぎ出した。

『おいっ!この子たち我らの声が聞えているぞ!』

『えっ!まさかっ!姿は見えていないよね?』

セルジオの眼の前に深緑色の葉が一枚舞った。
セルジオは思わず答える。

「声は聞こえるが、姿はみえていないぞ」

ザァッサァッ

風に乗りセルジオとエリオスの周りを包む深緑色の葉が騒がしく音を立てた。

『こっ!この子たち本物だ!本物の月の雫だ!』

『本物だ!本物だ!ははさまは間違っていなかった!』

『だからっ!最初からそう言っているのに!』

『じゃ~もういいね!本物だから!もういいね!通してあげようよ』

『そうだね!ははさまぁ~終わったよぉ~』

『終わった!終わった!我らの役目は終わったよ』

ザッザアァァァァ・・・・

その声を最後にセルジオとエリオスの身体を取り巻いていた深緑色の葉は上空へ舞い上がり、消えていった。

ウーシーがトラウテへ告げる。

「妖精の清めの儀式ぎしきは終わりました」

トラウテはうなずくとユリカと向き合い、手に持つ枝葉を合わせた。

ピカァァァァァ!!!
ブワッ!

合された枝葉の真ん中に緑色の光の珠が現れたかと思うと大きく膨らんだ。

トラウテとユリカは枝葉で挟む様に大きく膨らんだ緑色の光の珠を城壁上部から流れ落ちる滝へ向けて放った。

スゥゥゥゥ・・・・

緑色の光の珠は滝に吸い込まれていく。

シーン・・・・

静寂せいじゃくが辺りを包む。

ザッ・・・・
ザッザッ・・・・
ザザザァッ・・・・
メキッメキッ・・・・
ギシッギシッギシッ・・・・

緑色の光の珠が吸い込まれた辺りの木々が少しづつ動き出し、木のきしみ合う音が徐々に大きくなる。

セルジオはあまりの威圧感いあつかんに後づさりした。

ドンッ!

バルドの足に当たった。

バルドはセルジオの肩にそっと手を置く。その場に留まりじっくりと観察かんさつするようにと肩に置かれたバルドの手が語っていた。

グッグゥ・・・・
ギゥゥ・・・・
ゴゴゴゴッゴゴゴゴッ・・・・
ザアァァァァ・・・・

大きく音を立て木々が移動する。
しばらくすると木々に覆われていた城壁からアーチ形に空間ができた。
城壁上部から水だけが流れ落ちている。

アーチ形の空間の向こうにも森が見えた。
トラウテとユリカが滝の中に枝葉を入れた。

ザッ!
ザッ!

「北の森の精霊シルフィード様に仕えるトラウテとユリカのかぎを持ちて、
シュピリトゥスの森の精霊シルフ様にお願い申す。
月のしずく蒼玉そうぎょくの短剣を持つ者。
青き血が流れるコマンドールと守護の騎士をお通し願う。
この先、氷の貴公子が治める水の城塞までの道を迷うことなく、
進めるよう導きと共にお願い申す」

トラウテとユリカは唱える言葉と共に枝葉で滝をカーテンを開ける様な仕草しぐさをした。

ザァッサァッザァァァァァ~

トラウテとユリカの動きに合わせて滝が左右に開く。

気付くとウーシーがセルジオの前に立っていた。

「セルジオ様、道中お気をつけてお進みください」

ピィィィーーーー
バサッバサッ・・・・
スッ!

ウーシーの言葉を聞いていたかのようにポルデュラから遣わされたハヤブサのカイがシュピリトゥスの森の方から北門を通り抜け、バルドの肩に舞い降りた。

ウーシーはカイと目を合わせるとセルジオへ再び声をかけた。

「こののちの案内はカイが致します。
ラドフォール騎士団第三の城塞、水の城塞まではシュピリトゥスの森を通ります。
北の森と同様、精霊の森です。
風の精霊シルフィード様のだんな様、風の精霊シルフ様の森です」

ウーシーはセルジオの額に口づけをした。
セルジオは額に暖かい緑色の光を感じる。

「シルフィード様から授かりました緑の光の珠をセルジオ様の額に移しました。
水の城塞に着くまで今と過去、過去と今の景色をご覧になるでしょう。
それはセルジオ様がご覧になられていたことです。
そのありのままをご覧になってください」

そう言うとウーシーはエリオスへも同じ様に額に口づけをする。
エリオスへも同じ言葉をかけた。

トラウテ、ユリカ、ロルフ、ウーシーの4人は滝のカーテンの横に並ぶと深々と頭を下げた。

「さっ、セルジオ様、エリオス様、バルド様、オスカー様、お通り下さいませ。
くれぐれも日のある内にシュピリトゥスの森を抜け、
水の城塞までご到着下さいます様。
精霊の森は光と闇が交差する場所。
日が暮れますと闇の支配が強くなります」

トラウテが北門を抜ける様にさとす。
バルドはセルジオの肩をそっと握った。
セルジオはバルドを見上げる。

バルドはセルジオにうなずくとエリオス、オスカーと共にセルジオの後方でかしずいた。

「トラウテ、ユリカ、ロルフ、ウーシー。道案内のこと感謝申す。
これより我らラドフォール公爵家領シュピリトゥスの森へ入る。
北門の開錠の役目、大儀。
またいつか会いまみえる日を楽しみにしているぞ」

セルジオの挨拶が終わるとバルドらは立ち上がる。
バルドとオスカーはセルジオとエリオスを馬に乗せると2人は馬を引いた。

パカッパカッパカッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・

そのまま北門を通り抜ける。

北門を通り抜ける時、セルジオは城壁を見上げた。城壁と木々と水が入り混じった不思議な光景が目に入る。

『人ならざる者の治める精霊の森と北門の鍵。
兄上様がご覧になられたら何と申すだろう』

なぜか?フリードリヒの事が頭に浮かび、同じ光景を見せたいと思った自分自身に戸惑いを覚えるのであった。
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