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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第4話 月の雫と蒼玉の短剣

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「セルジオ!そなたが戻る一年後に再びこの場所で会おうぞ!」

フリードリヒはセルジオを抱き寄せると両頬へ口づけをした。

料理長の焼き菓子とパンを囲み、ひとしきり談笑だんしょうするとフリードリヒとウーリは日のある内にエステール伯爵家居城へ戻る為、西の屋敷の厩舎きゅうしゃにきていた。

セルジオ、エリオス、バルド、オスカーの4人が厩舎まで2人を見送りに同道する。

フリードリヒの中には人の魂が黒魔術をかけられあやつられる『黒の影』とは異なる『闇の者』が入っていた。

『闇の者』は人間が抱く『負の感情』に引き寄せられ闇夜の世界から『負の感情』を抱いた者の中にスッと入り込む。

フリードリヒとセルジオの実父であるハインリヒとバルドの対峙たいじの場に居合いあわせたフリードリヒは実の父親が妹であるセルジオを『殺せ』と命じた事に憎しみの感情を抱いていたのだった。

憎しみや怒りの感情は強い『負の感情』となる。その『負の感情』に『闇の者』が入り込んだ。

幸い、根が浅くポルデュラの1度の浄化で事なきを得ていた。

セルジオもフリードリヒの挨拶にならい、兄の両頬へ口づけをする。

「はい、兄上様。
兄上様に多くのことをお伝えできる様にはげんでまいります」

『チクリッ!』

2人の姿を見ていたエリオスは胸に感じた事のない痛みを覚える。

『?なんだ?この胸の痛みは・・・・
出立しゅったつ前に病におかされてはいないか!』

エリオスは自身の身体に不安を覚えた。

「エリオス、セルジオのこと、よろしく頼む。
そなたがそばにいてくれれば案ずることはないな!
そなたはセルジオを守護する騎士であるからな。よろしく頼む!」

フリードリヒはエリオスへも同様に両方頬へ口づけをする。

エリオスはあわてて、フリードリヒから離れ、かしづいた。

「!!!フリードリヒ様!!承知致しました。
セルジオ様の守護の騎士となれる様、お仕えしてまいります」

フリードリヒは優しい眼差しをエリオスへ向けると両肩へ手を置き、再び両頬へ口づけをする。

「その様にかしこまらずともよい。
これより永い付き合いとなるのだからな。
我ら2人とバルド、オスカー、それにポルデュラ様もベアトレスもいる。
皆でセルジオの助けとなろうぞ!」

フリードリヒは伯爵家の第一子である品格ひんかくを幼いながらに備えていた。

「はっ!承知致しました!
我が命に代えましてもセルジオ様の守りとなります!」

エリオスは先程会ったばかりのフリードリヒがポルデュラの浄化の後、まるで別人であるかの様に感じていた。

フリードリヒはうなずくとエリオスをさとす。

「エリオス、初代様はそなたが初代様のたてとなり
命を落としたことを悔やんでおられたと聴く。
なれば、そなたはセルジオの盾となり、命を落としてはならぬぞ!」

「それは今世のセルジオのやみとなるからな。
よいか、エリオス、バルド、オスカー、セルジオの盾となり、
命を落とす事だけは許さぬぞ。無事で戻るのだ。みな無事で戻るのだぞ」

フリードリヒは7歳とは思えない威厳いげんに満ちた言葉を発した。

「はっ!」

4人はフリードリヒの前にかしづき呼応した。

フリードリヒは鞍の調整をした馬にまたがるとウーリにたずなを任せ、セルジオ騎士団城塞、西の屋敷東門をくぐりエステール伯爵家居城へ戻っていった。


「して?セルジオ様の中の初代様が顔を出されたと申すのか?」

フリードリヒを見送った後、部屋へ戻るとバルドは厨房での出来事をポルデュラへ伝えた。

「わかりません。
ただ、目の前にあるものを別の様子でご覧になられていたこと、
普段のセルジオ様の物言ものいいではなかったこと、
我らを認識されていらっしゃらなかったことは確かでございます」

バルドは状況からセルジオの中で何が起こったのかを確かめたいと考えていた。

「ふむ。バルド。
まずはそなたが一番に案じている封印のことじゃがな・・・・
封印は解かれてはおらぬ!これは間違いない!
そして、初代様はセルジオ様の中で鎮まっておられる。
これも確かじゃ」

「と、すればだ・・・・
セルジオ様ご自身が炎とまきぜる音を
間近でご覧になられた事で『前世の記憶』を思い出された。
とするのが妥当だとうであろうな」

「オーロラ様のお名前が出た事も記憶であろうな。
未だ、今世でお2人はお会いになられてはおらぬでな。
エリオス様も同じであろう。
これより、多くのこと、人、、ものと関われば
今回の様に記憶として思い出されることもあろうな」

ポルデュラとバルドは起こる事は全て、セルジオとエリオス、そしてオスカー、ベアトレスと共に話し合い、確認し合う事をおこたらなかった。
隠し立てなくセルジオの状況と状態を知る事で不安を抱かせないことが狙いだった。

ポルデュラはセルジオの額へ手を置く。

「セルジオ様、その時のこと何も覚えておらぬと申されたな」

セルジオはポルデュラの問いに素直に答える。

「はい。
バルドに抱えてもらい、エリオスと共に石窯の中を覗いておりました。
まきぜると・・・・」

その時の情景を思い出しポルデュラに伝えていたセルジオの目が見開く。

「いかがしたか?セルジオ様、
よいぞ!そのままお話し下され。まきぜ何が見えましたかな?」

ポルデュラはセルジオの胸にも手をあてると額と胸に銀色の風のたまを送った。

セルジオは大きく目を見開いたまま話し出す。

「・・・・まきぜると・・・・
かすかに『十字の木枠きわく』が見えました・・・・
炎を囲み・・・・大勢の人だかりが・・・・
「燃えろ!燃えろ!うずたかく燃えろ!」皆が大声で叫んでいます・・・・
はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

セルジオの呼吸が荒くなる。頭を両手で抱える。

ガタッッ!!

バルドはセルジオを抱きかかえようと椅子から立ち上がり、傍に駆け寄った。

ポルデュラがバルドの手を制すると首を横に振る。その場に留まるように厳しい目を向けた。

「して?その後はどうなりましたかな?
セルジオ様、ご案じめさるな。今の世の事ではないのでな。
セルジオ様は今、前世の記憶を思い出されているのじゃ。
されば、ことは100有余年前に終わって・・・・おりますぞ。
案ずることはないのじゃ」

ポルデュラはセルジオの額と胸に置いている手に力を込める。

ザアァァァァ・・・・
フワッ・・・・

銀色の風の珠が勢いを増し、セルジオの金色の髪が逆立ち揺れている。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・ぐっ!!」

セルジオは胸の前で両手を結ぶと意を決したように語り出した。

「ぐっぅ!・・・・炎を囲む皆の顔が!
血に飢えた獣の様な眼で炎をみているのです!!
私を制する者が・・・・大勢で・・・・私を抑え込み・・・・
私は・・・・はぁっ!首を!!その者の首を剣で落した!」

セルジオは両手で頭を抱えたまま更に大きく目を見開き、椅子から立ち上がった。ポルデュラの手が離れる。

ザアァァァァ!!!
グワンッ!

セルジオの身体を大きくなった銀色の風の珠が包む。ポルデュラは呪文を唱え出した。

悔恨かいこんと無念の情にとらわれし、
記憶の根源を銀の風の珠をもちて浄化をする。
りし日の悔恨と無念の情は
銀の風の珠に溶け込み天上へと導かれる。
清浄の地にて星となり、再び地上へ舞い降りることなし。
一切の悔恨と無念の情は星となり、再び地上へ舞い降りることなし。
ありし日の記憶のみこの者の中で眠るものなり」

呪文と共にセルジオを包んでいた大きな銀色の風の珠は舞い上がり天井を抜けていった。

サアァァァァ・・・・

風がおさまるとセルジオは椅子にストンと腰かける。まだ、呆然ぼうぜんと目の前を眺めていた。

パチンッ!!

ポルデュラがセルジオの眼の前で手を叩く。
セルジオはハッとし、ポルデュラの顔を見た。

「セルジオ様、ご気分はいかがですかな?よう頑張りましたな。
セルジオ様の前世の記憶の悔恨と無念の感情が一つ浄化できましたぞ。
思い出されたことをこの様に一つ、一つ浄化をしていけばよい」

「無理にご自身の中へ押し込める事もございませんぞ。
これはセルジオ様の前世の記憶にて、
初代様の悔恨と無念の感情とはまた別のもの。
ご案じめさるな。初代様の封印は解けませぬ!」

ポルデュラは再びセルジオの額に手を置くと優しい風を送る。セルジオは黙ったままゆっくりと目を閉じた。

バルドはセルジオの隣でたたずみ、ポルデュラへ頭を下げる。

「ポルデュラ様、感謝申します!されど、この先の旅路にて、
この様な事が起こりましたらいかようにいたせば・・・・
直ぐにポルデュラ様の元へ戻ることができません」

バルドが珍しく困った顔をポルデュラへ向ける。

「ほう!珍しいこともあるものだな。
バルドのその様に困った顔が見られるとは!
案ずるな。用意はできておる。
ベアトレス、例の物、届いているかの?」

ポルデュラの問いかけにベアトレスは席を立った。

「はい、届いております。お持ち致しますか?」

ポルデュラはニヤリと笑いうなずく。

「うむ。頼む。全て持ってきてくれぬか。
ここで説明もしておこう程に」

「はい、承知致しました」

ベアトレスは隣室のポルデュラとベアトレスが使っている部屋へ入ると正方形で白色の小箱2つと長方形で藍色あいいろの箱2つを手に戻ってきた。

「ポルデュラ様、こちらに」

ベアトレスは4つの箱を丸テーブルへ置いた。

「うむ。ベアトレス、雑作ぞうさをかけたな」

ポルデュラはベアトレスへ微笑みを向ける。

「いえ、大事ございません。
出立しゅったつに間に合いようございました」

ベアトレスはにこやかに返答をすると自身が腰かけていた椅子へ戻った。

「さて、まぁ、バルド。まずは座れ」

ポルデュラは4人の前に4つの箱が乗る丸テーブルを移動させる。

「さて、はじめるかな。
これはそなたらの出立に合わせて作らせた物だ。
双方とも希少きしょうな物でな。我が実家、ラドフォールに依頼をした。
まずは開けてみよ。白色の小箱がセルジオ様とエリオス様じゃ。
藍色の箱がバルドとオスカーじゃ」

そう言うとそれぞれに箱を手渡す。
セルジオはそっと受け取った白色の小箱を開いた。開いた隙間から青白い光が放たれる。
あまりのまぶしさに眼を細めた。

「これは!なんと美しい石でございましょう!
青白い光が強く輝いております」

セルジオはエリオスの小箱を覗く。エリオスは同じ物を手にしていた。

「セルジオ様と同じ物にございます!
なんと!美しい輝きでございましょう」

エリオスも石に見惚みほれる。
ポルデュラは満足そうに話しだした。

「その石は『月のしずく』と申すのだ。
青白い光を放つ物は珍しくてな。なかなか手に入らぬ。
それ故、いにしえより王族が持つ石とされた。
ロイヤル・ブルー・ムーンストーンが石本来の名じゃ」

「青白く光る月が地上に雫となって降りてきた石
とされたことから『月の雫』と呼ばれている。
『月の雫』にはいわれがあっての。
月の魔力を秘めた石としてあがめられてきた」

「そして、青白い光は闇夜を照らす月光、
夜道を先導する灯火ともしびといわれたのじゃ。
その石をエステール伯爵家の裏の紋章ユリの花の中央に埋め込んだ。
首から下げられる様に首飾りに仕立ててある。はめてみよ」

セルジオとエリオスは揃いの首飾りを頭から首にかけた。子供の拳大こぶしだいの大きさにユリの花弁かべんかたどられている。

花弁の中央に大人の親指程の大きさの『月の雫』が埋め込まれていた。

「うむ。よう似合ておるぞ。
『月の雫』の石の言葉は愛の守護、予知と変容、調和と品格をもたらすじゃ」

「この先、前世の記憶がよみがることもあろう。
されど『月の雫』が前世と今世の調和をしてくれようぞ。
危険を予知し大きく成長できる機会を得ることが叶おう。
何より皆の愛でセルジオ様とエリオス様の守りとなろうぞ」

「全てのことは宿命じゃ。
全てを受け入れ、起こるがままを体験いさせばよい。
采配さいはいは天のみぞ知るところだ。
何も案ずることはないぞ」

ポルデュラはセルジオとエリオスの『月の雫』の首飾りに手をかざすと銀色の風の珠を流し込んだ。

「さぁ、これで仕上げはできたぞ。
ポルデュラの守護を『月の雫』へ入れこんだ。
困ったことが起これば『月の雫』を握りしめ、強く願うのじゃ。
思うた通りの助けとなろう」

ポルデュラは2人へ微笑みを向ける。
セルジオとエリオスは向き合うとお互いの首飾りを握りしめた。申し合わせた様に声を揃え呟く。

「『月の雫』と共に互いの守護とならん」
2人はハッと瞳を合わせる。

「はっはっはっはは!これは!これは!流石だの!
これぞ宿世しゅくせの結びのお2人じゃ!」

ポルデュラは感心した様子で2人が握る互いの首飾りに再び銀色の風の珠を送った。

「宿世の結び、今ここに願い叶うものなり。
闇夜やみよに迷うことなく、灯火ともしびつきることなく、
互いのたまがある限り、互いの守護を結ぶものなり」

ポルデュラの呪文と共に2人の握る首飾りが青白い光の勢いを増した。

フゥーーーフッ!

ポルデュラがその手に息吹を吹きかけると青白い光はすぅっと消えた。

「さぁ、これで守りは万全じゃ。
おお、そうじゃ、今一つ、2人に申しておく。
この首飾りは同じ物が後2つある。
手にする者は1つはミハエル様じゃ。もう一つは・・・・」

ポルデュラはセルジオの顔をチラリと見る。

「もう一つは、シュタイン王国第14王女オーロラ様が持たれることとなる。
なれば『互いの守護』は4人となるぞ」

「4つの首飾りが合いまみえる時、
その青白い輝きは更に強さを増すことになる。
ただし、同時に影も濃く、強くなる。
そのことで何が起こるかはわからぬ。
わからぬが、あるがままを受け入れるのじゃ。
一つの物が生まれれば相反する物もまた生まれることを忘れるでないぞ。
よいかの」

ポルデュラは2人と瞳を合わせると頭に手を置いた。

「はっ!ポルデュラ様!感謝申します。
我ら今日の教えを忘れず、これよりも励んでまいります」

セルジオとエリオスは声を揃えてポルデュラへ礼を言った。

バルド、オスカーとベアトレスはその様子を優しい眼差しで見つめていた。

ポルデュラがバルドとオスカーへ顔を向ける。

「さて、では次へまいろうかの!
バルド、オスカー、箱を開けてみよ。
そなたらにも同じ様に守護のしなを作らせた」

バルドとオスカーは藍色あいいろの箱を開けた。

箱の中から覗いた守護の品は藍色のさやにユリの紋章が金細工で装飾され、ヒルトつば柄頭つかがしらあおいサファイヤが埋め込まれた短剣であった。

バルドとオスカーは顔を見合わせる。

「これはっ!・・・・」

2人は声も出ずにポルデュラの顔を見つめる。

「どうだ?驚いたであろう?
エステール伯爵家セルジオ騎士団団長に継承けいしょうされる
サファイヤの剣と同じ姿をした蒼玉そうぎょくの短剣じゃ」

「なに、案ずることはない。
ハインリヒ様と騎士団団長殿には許しを得ておる。
が・・・・な、本来、短剣は2口を1対として持つのだがな、
今回は1口づつとなった。許せ」

ポルデュラは申し訳なさそうにバルドとオスカーの顔をうかがううとふぅとため息をらした。

「いや・・・・なに。団長殿がな・・・・ふむ。
これは私の落ち度なのだがな・・・・」

「そなたらの出立に間に合わせようと許しを得る前に
ラドフォールへ短剣を作る様頼んだのじゃ。3対で6口としてな。
その後で団長殿にサファイヤの剣と姿が同じ蒼玉そうぎょくの短剣を
バルドとオスカー、ダイナに持たせたいと許しを得にいったのだがな・・・・」

「その様な素晴らしい短剣であれば自分とジグランも持ちたいと申されてな。
金細工には手が掛る、しかもこの様な蒼玉、
おっ、蒼玉とは蒼いサファイヤのことだがな。
蒼玉も希少きしょうでな、なかなか手に入らぬ。
致し方なく、それぞれ1口づつとなった。
残りの2口は1口はミハエル様の従士ダイナへ渡す。
もう1口は団長殿に1対2口として持ってもらおうと思うている。
まずは詫びじゃ。すまぬ」

ポルデュラはバルドとオスカーへ頭を下げた。

「!!!ポルデュラ様!滅相めっそうもございません!
我らへこの様な素晴らしい短剣を授けて下さること、
恐れ多いことでございます。我ら1口づつにて1対にございます!
されば身に余る光栄にて感謝申します!」

バルドは蒼玉そうぎょくの短剣を胸に抱きポルデュラへかしづいた。

オスカーもバルドと同様に恐縮きょうしゅくした様子でかしづく。

「ポルデュラ様!感謝申します。
我らへポルデュラ様より直々に短剣を授けて頂けるなど、
身に余る光栄に存じます!バルド殿と1対となり、
短剣に恥じぬ働きを致します!」

オスカーは言葉に力を込めた。

「そうか?許してくれるか・・・・よかった。
短剣は騎士・・いのちの一つであるからの。
そなたらには1対として渡してやりたかったのじゃが・・・・
その様に喜んでもらえたら私も用意した甲斐かいがあった。
感謝するのは私の方じゃ」

ポルデュラはかしづくバルドとオスカーの肩に手を乗せた。バルドとオスカーは従士であったが、ポルデュラは2人を騎士として扱ったのだった。

「ではな!仕上げは4口分しておくぞ!」

「はっ!感謝申します!」

バルドとオスカーは力強く呼応した。

「さて、仕上げの前に蒼玉そうぎょく
いにしえよりのいわれを話しておこう。
サファイヤの中でも特にこの様に深く蒼い石は
聖職者せいしょくしゃが身につけてきたのじゃ」

「人々を迷い、悩みから救う石といわれ、魔除けとしての役目もある。
『黒の影』をあやつる黒魔術と闇夜の世界の『闇の者』は
お互いと共鳴きょうめいすることで力を増すのじゃ」

「『月の雫』の青白い光が合まみえる事で光が
強くなることと同じことじゃがな。
蒼玉そうぎょくはこの『闇の者』を寄せつけぬ力を秘めておる。
オスカーよ、エリオス様に入っておった『闇の者』を覚えておろう?
あのようなやからを寄せつけぬ力を秘めておるのじゃ」

「そして、石の言葉はそなたら2人そのものじゃ。
ゆるぎない心の象徴、慈愛と誠実、そして成功じゃ。
そなたらの主に対する想いと行いそのものであろう?
なればこの短剣を持つことでそなたらの想いと行いはより強く働くのじゃ。
それ故、どうしてもそなたらに蒼玉そうぎょくの短剣を持たせたいと思ったのじゃ」

ポルデュラはかしづいているバルドとオスカーの頬に手を添えると自身の両肩に2人を引き寄せた。

「この者らのあるじに赤子のころより仕え、
これより叙任を迎え騎士となるまで、
そして、そのたまがある限り、
蒼玉そうぎょくの短剣を手にし者を守り、
その進む道を開け。わざわい憑代よりしろから遠ざけ、
慈愛とまことの心の助けとならん。
蒼玉そうぎょくの短剣、手にし者の心、
揺るぐことなく、たまのある限り守護するものなり」

銀色の風の珠が3人を包み込む。

フゥーーーーフッ!
バルドとオスカーが胸に抱く蒼玉そうぎょくの短剣にポルデュラの息吹が吸い込まれた。

「・・・・よしっ!!これで仕上げは終わりじゃ。
この短剣はバルドとオスカーそれぞれのいのちが入っておる。
そのいのちに私のいのちを守護として入れた。
手放すことなく常に身に付けておくのじゃ。
よいか!常に身に付けておくのじゃぞ」

ポルデュラは2人に念をおした。

「はっ!ポルデュラ様!感謝申します!
我ら肌身離さず持っておきます!!」

バルドとオスカーはかしづきながら両手で蒼玉そうぎょくの短剣を胸に抱いた。

旅路の前に手渡す守護の品を4人が受け取る儀式が終わるのを見届けるとベアトレスが口を開いた。

「これで出立の準備は整いましたね。
明後日の出立に合わせて、後は、道中の順を今一度、
話したいと思いますが、いかがですか?」

これから季節は冬になる。その為、雪に覆われる前に北方の領地から巡ることとしていた。

ポルデュラが椅子に座り、お茶のカップを手に取る。

「そうじゃな。今一度、巡る領地の順を合わせておこう。
使い魔もどこぞにいるかが分かる方が動きやすいからな」

丸テーブルからカップをワゴンへ移した。

「はっ!地図をご用意致します」

オスカーが自身の麻袋から地図を出し、丸テーブルへ広げる。

「ふむ。バルド、頼めるか?」

ポルデュラが旅路の行程を説明するようバルドへ目配せした。

「はっ!承知致しました」

バルドは蒼玉そうぎょくの短剣を腰のベルトへ収めると立ち上がり丸テーブルへ近づき説明をはじめるのだった。
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