とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~

第40話 インシデント37:初代と師の教え

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カンカン!!カッカン!!
カッカン!!カンカン!!

「左脇が開いております!ひじを腰へ向け引くのですっ!」

カンカン!!!カッカッン!
カッーーン!
ガランッ・・・・

木製の剣がちゅうを舞い、地面に落ちる。

「ぐっ!」

バルドの木製の剣の剣先けんさきがセルジオの喉元のどもとへあてられた。

「お命落されましたぞ。セルジオ様!」

「まいりました・・・・」

「セルジオ様、どうしても左脇が開きますな。左肩が痛みますか?
マデュラの刺客を始末したおりに両肩がはずれておりましたから・・・・」

「いや、大事ない。
どこも痛まぬ・・・・痛まぬが・・・・身体に力が入らないのだ」

マデュラの刺客との戦闘せんとうから2週間がとうとしていた。セルジオはセルジオ騎士団城塞西の屋敷で訓練施設と同様のを再開したところだった。

西の屋敷に運び込まれた後、セルジオは一度は目覚めたものの丸2日間、眠り続けた。

その眠りの中で何度も何度も初代セルジオから教え受けた。

初代セルジオの無念と後悔の感情が残ったできごとを初代セルジオの語りと共に見せられた。

その中で初代は決まってセルジオをさとす言葉を残した。

「セルジオ殿、よいか、ここはよくよく聴いて欲しい所だ。
己の力を過信かしんしてはならぬ。
過信かしんはいつしかおごりとなり、
己の気づかぬ内に周りの者を見下みくだす。
『己独りで何でもできる』とな」

弱音よわねを吐けばよい。
今の有り様ありようかくさずバルドに伝えればよい。
助けをえることこそが強さとなろうぞ」

「初代様は、バルドが常々申していることと同じことを申される」

「そうか!バルドは我と同じことを申すか」

「はい、
『団長が強いのではなく、皆の力を合わせる事ができる団長が強いのだ』と
申します。己の弱さを認め、謙虚けんきょになれと」

「そうか!そなたはよい師を持ったな」

「はいっ!私はバルドが師であればこそ、生かされています」

フワッ・・・・
バチリッ・・・・

目覚めると最初にバルドの姿が眼に入った。青白い月明かりに照らされた部屋でバルドはセルジオが横たわるベット脇の椅子に両手を結び額にあて、祈る様に座っていた。

ゴソッ・・・・

「・・・・バルド・・・・大事・・・・ないか・・・」

か細く呼吸とも取れるセルジオの声にバルドはハッと顔を上げる。

「!!セルジオ様っっ!!セルジオ様っっ!!」

バルドは大きな声をあげ椅子から飛びかかる様にベットのへりに膝まづいた。

フワリッ・・・・

セルジオの額にそっと手を置く。セルジオはゆっくりと瞼を閉じ、また開けるを繰り返した。

「セルジオ様、
お目覚め・・・・うっっ・・・・よう・・・・ございました」

セルジオの額に手を置いたままバルドはうつむき涙をこぼした。

「心配をかけわる・・・・
いや、心配してくれ感謝申す。また、バルドに会えてうれしい・・・・」

ゆっくりと呼吸をしながら初代セルジオに諭されたそのままにバルドへ今の有り様ありようを伝える。

その後、エリオスと共にポルデュラの回復術をほどこされ、西の屋敷へ滞在たいざいしてから2週間ぶりに訓練に入ったのだった。

「お身体に力が入りませんか。致し方ありませんね。
ほとんどお身体を動かされずにおりましたし、2週間訓練をしておりませんから。
訓練は続けなければ直ぐに身体はなまります。
ようございました。その事、ご自身の身体で感じ取る事ができましたね。
本日はこれまでと致しましょう」

バルドは訓練場に散らばる木製の剣と短剣を集めにかかった。

「よいのか?感謝申す。身体が重いのだ・・・・」

ドサリッ!

そう言うとセルジオは珍しくその場に座り込んだ。
木製の剣と短剣を整えていたバルドは慌ててセルジオに駆け寄る。

「!!セルジオ様っ!いかがなさいましたか!」

「いや、すまぬ・・・・身体が重く、支えられないのだ・・・・少し休む・・・・」

そう言うと膝を抱え膝頭ひざがしらへ額をのせた。

バルドは初めて見るセルジオの姿に驚きを覚える。

『お珍しい。今まで、弱音よわねを吐かれたこと等一度たりともなかった。
どちらかと言えばどんなにおつらかろうと訓練を続けていらしたのに・・・・
訓練場で座り込むなど・・・・』

バルドはセルジオの変化を喜ばしいことだと考えていた。年相応の反応が出せれば封印された心で感じ取ることができないまでも感情とはどういったものかを知ることができると思っていた。

ただ、騎士として、騎士団団長としての在り方ありかたで甘えが許されない部分は、機会を逃さず従来通り伝えることが自身の役目だとも思っていた。

騎士団訓練場での作法もその一つだった。訓練場に座り込むセルジオの姿に少し強めに注意をする。

「セルジオ様!
ここは訓練場にて腰を下す事は命を落とす事になります。
一度、お部屋へ戻りましょう」

「わかった・・・・」

それでもセルジオは腰を上げようとしない。

「セルジオ様っ!お立ちくださいっ!
ここはセルジオ騎士団西の屋敷の訓練場です。
どこから攻撃されるかわかりませんぞ!さっ、お立ちくださいっ!」

バルドはセルジオの目の前に立ち、手をかすそぶりもなく声を荒げた。

セルジオは膝を抱えた姿勢のままバルドを見上げる。

「・・・・バルド・・・・
すまぬが・・・・抱えてくれないか?身体が重く起き上がれないのだ・・・・」

そう言うと両腕をバルドへ差し出した。

バルドは驚きの声を上げる。未だかつてセルジオからバルドへ抱えて欲しいなどと聞いた事がなかったのだ。

「!!セルジオ様っ!いかがなさいました!
セルジオ様から抱えてくれなどと申された事は未だかつてございませんから・・・・
バルドはいささか面喰めんくらいます!」

バルドの言葉にもセルジオは立ち上がない。

「・・・・恥ずかしいのだ・・・・私も、恥ずかしいのだ!
されど・・・・初代様が申されたのだ。
『バルドには今の己の有り様ありようを隠さず伝えよ』と!
これが今の有り様ありようなのだ。抱えてくれないか?バルド・・・・」

セルジオは恥ずかしそうに再びバルドに両腕を差し出した。

「・・・・ふっ、左様でしたか。初代様がそのように申されましたか」

バルドは膝をつきセルジオを抱きかかえた。目頭めがしらが熱くなる。

「いつでもお申し付け下さい。セルジオ様!
しばらくは赤子あかごの頃の様にバルドのふところでお過ごしになりますか?」

「・・・・大事ない!・・・・今だけだ!恥ずかしいのだぞ!」

セルジオはバルドの首に両腕を巻き付け首元に顔をうずめる。

「・・・・感謝申す。バルド!私を抱えてくれ感謝申す」

首元に顔をうずめたままバルドに礼を言う。

「セルジオ様、バルドは嬉しゅうございます。
セルジオ様が今の有り様ありようをお話下さり、嬉しゅうございます」

バルドはセルジオを抱え訓練場を後にした。

トンットンットンッ

バルドはセルジオを左腕に抱え、セルジオ騎士団第一隊長ジグランから借りている部屋の扉をたたくとそのまま部屋へ入った。

ガコッ!
キイイィ・・・・

優しいバラの香りが部屋の空気を包んでいる。

「ポルデュラ様、セルジオ様が身体が重いと申されまして・・・・」

部屋に戻るとポルデュラはエリオスに銀色の光と風の珠で回復術をほどこしていた。
バルドの言葉にやれやれと言った顔を向ける。

「そう申したであろう?訓練を始めるには2日ののちがよいと。
ほう・・・・これはまた!めずらしい事もあるものよ。
セルジオ様がバルドにおとなしく抱えられて戻るとは!」

「さては、眠りの中で初代様からさとされたか?セルジオ様」

「・・・・はい、ポルデュラ様。その通りにございます」

トサッ!

バルドはセルジオを椅子に腰かけさせた。

「そうか、よいよい。その方がよいぞ。
その内、大きくなれば抱えてほしくとも重うて抱えてもらえぬは。
はっはっはっはっ。しばしお待ち下され。
エリオス様の回復術かいふくじゅつが終わりましたら
セルジオ様にも回復術を施します故」

「ベアトレス、
セルジオ様とバルドにもバラの花の茶を飲ませてやってくれ」

「承知しました。セルジオ様、ようございました。
バルド様に抱えられているお姿も久しぶりに拝見はいけんしました」

ベアトレスはふふふと笑い少し前を思い返す様な素振そぶりをした。

カップにバラの花の茶を注ぎセルジオとバルドへすすめる。

回復術を受けているエリオスが横たわるベッドの横で椅子に座るオスカーがセルジオへ優しく語りかける。

「セルジオ様、エリオス様も私に抱えられます。
眠る時は今でも抱えておらねば眠れぬほどでございますよ。
セルジオ様、馬にご自身でまたがれる様になるまではよいのです」

オスカーはにこやかに話した。

「!!そうなのか!エリオスもオスカーに抱えられていのか!」

「はい、眠る時もですが、風が冷たく寒さが身にしみます時も・・・・
あっ、馬にまたがる時はいつも抱え上げてもらいます」

「うん?馬は・・・・少し抱えるの意味合いが違う気もするが・・・・」

セルジオは何かを思案しあんする時に左斜め上へ視線を向けるクセがあった。バルドはそのセルジオのクセが愛おしかった。

左斜め上に視線を向けるセルジオを目にする時、初代セルジオの無念の感情を封印した時のポルデュラの言葉を思い出すのだ。

『心の土壌は日々の行いで肥沃ひよくとなろう』

その仕草は年相応の子供らしさを感じる。

トンットンットンッ・・・・

バルドがセルジオに微笑みを向けていると開け放したままの部屋の扉をジグランが叩いた。

「これは、皆様おそろいで。
何やら楽しそうですな。私も含めて下さいませぬか」

「ジグラン様っ!」

ササッ!

バルドとオスカーはかしづく。

トンッ!タッ!
ササッ!

セルジオも椅子から降り、ジグランの前にかしづいた。

「セルジオ様、エリオス殿。お加減かげんはいかがですか?
随分ずいぶんとよくなられているご様子にて安心致しました」

「はい、お陰様かげさまを持ちまして、
この様に起き上がれるまでになりました。感謝申します」

セルジオはいつもの様に年齢に似つかわしくない大人びた返答をする。セルジオの言葉遣いはバルドにそっくりだった。

エリオスはベッドから起き上がり、自分もかしづこうとするがポルデュラから制され、そのまま回復術を続けた。

「ジグラン様、遅れましたが、
団長へご挨拶に伺いたく、お目通めどおりできればと存じます」

バルドがセルジオ騎士団団長への執成とりなしを頼んだ。

「バルド、流石さすがさっしがいいな。
その事で参ったのだ。いや、実は先程、
セルジオ様とバルドの訓練場での手合わせを団長がご覧になっていてな。
『そろそろ、セルジオと会えるか』と申されていた。
団長は団長で姪御めいごに気を使われている様であった故、
私が執成とりなしに来たのだ」

ジグランはニコリとセルジオへ微笑みを向けた。

「これは!大変失礼を致しました。
即刻そっこく、お目通り叶えば伺います」

セルジオはいつもの大人びた表情と受け答えでジグランへ返答をする。

エリオスの回復術をしているポルデュラが後ろを振り返り、ジグランへ向けて言葉を発した。

「ジグラン様、悪いが小一時間程、後でもよいか?
セルジオ様へ回復術をほどこしたい。
まだ、やめておけと申しているのに無理に稽古けいこに出られたのでな。
身体に力が入らぬのだ。頼む。団長殿へその様に伝えてくれぬか?」

ポルデュラはセルジオの身体を気遣った。

「承知致しました。
それでは小一時間の後、団長の居室にてお待ち致しております。
エリオス殿とオスカーも参られよ。
こののち一月ひとつきの西の屋敷での滞在のこと諸々もろもろ話しがある故」

「承知致しました。小一時間の後、団長居室へ伺います」

オスカーが回復術を施されているエリオスに代わり答える。

「うむ。待って・・・いるぞ」

ジグランはふふふと笑い去っていった。

パタンッ!

ジグランが扉を閉めるとバルドはオスカーと顔を見合わせる。

「・・・・オスカー殿・・・・ジグラン様のあの微笑みは・・・・」

「左様にございますね。『ためし』をされるのでございましょうね」

「また、お人が悪るうございますね。
いささか早くございませんか・・・・6歳と4歳ですぞ」

「歳など関係ないのでございましょう。
マデュラの刺客との戦闘せんとうの事で、お2人の力量りきりょうと・・・・」

「セルジオ様の『青白い炎』をご覧になりたいのですね・・・・
困ったお人だ」

「左様にて。されど致し方なきこと。
ジグラン様のあの微笑みは『準備してこい』とのお心使いにて」

オスカーはふふふと笑った。

2人の会話にポルデュラが割って入る。

「まぁ、よいではないか!見せてやれ!団長殿はご自身の眼で確かめたいのだ。
セルジオ様がまことに『伝説の騎士:青き血が流れるコマンドール』の
再来なのかをな。よいではないか!この際認めてもらえ」

「バルド、この先を考えているのであろう?
エリオス様とオスカーと共にシュタイン王国を巡る気であろう?
団長殿にはそなたが考えた『最善の策』の手助けとなってもらえ。
よい頃合いだ」

ポルデュラは銀色の光の珠をエリオスの鳩尾みぞおちへあてそっと中へ押し込んだ。

「さっ、エリオス様、回復術は終わりました。
いかがかな?腹部ふくぶが暖かく力が湧いてきませんかな?」

「・・・・はい!
この辺りから何かが湧き出てくる感じが致します。温かい!」

エリオスは鳩尾みぞおちの辺りを押える。

「人は身体の中に7つの珠をもっておるのだがな。
その場所には3つ目の珠がある。活力と己を信じる力を呼び起こすものなのだ。
後はバラの茶を飲まれよ。身体が軽くなる故」

「はい、ポルデュラ様、感謝申します」

エリオスは素直にベアトレスが差し出したバラの花の茶を口に含んだ。

「さて、セルジオ様、回復術と7つの珠を整えましょう。
小一時間後にちょっとした試験しけんが待っております。
身体の力を取り戻していどまねばなりません。よろしいか?」

「はい、ポルデュラ様、お願い致します」

ブワッ!!
フルゥゥゥ・・・・

セルジオがベッドに横たわるとポルデュラはエリオスの時よりも大きな銀色の光と風の珠を回転させた。

「では、まいりますぞ!
少し熱く感じるやもしれません。我慢がまんできますかな?」

「はい!大事ございません!」

セルジオはバルドをチラリと見ると天井を一瞥いちべつし目を閉じた。
その姿は何かを覚悟している様に見える。

『セルジオ様!』

バルドは胸の前で両手を結び自らの力も合わせる様にポルデュラがほどこすの回復術を見守るのだった。

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