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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~
第34話 インシデント31:伯爵家当主の心得
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パタンッ!
バルドがハインリヒの執務室から退くと扉の脇に人影があった。
チャッ!
咄嗟に腰の短剣に手が伸びる。
「バルド殿・・・・お久しゅうございます」
そこにはエステール伯爵家次期当主フリードリヒとフリードリヒの教育係兼護衛役のウーリが立っていた。
「バルド殿がお越しと聞きまして、
フリードリヒ様がお会いしたいとこちらでお待ち致しておりました」
ウーリが言う。
フリードリヒ・ド・エステール。エステール伯爵家第一子でありセルジオの2歳年長の実兄である。銀色の髪に薄い青い瞳でその面立ちは母であるアレキサンドラによく似ている。
貴族の嗜みとして剣術、弓術等の武術と馬術は必須で身に付けるものだった。その為、騎士でなくとも護身術として一通りの訓練は受ける。その中に訓練施設での訓練者との立会があった。
実妹であるセルジオと初対面となる訓練立会の日を心待ちにしているフリードリヒはバルドがエステール伯爵家へ都度の報告へ赴く際、必ずと言っていい程、セルジオの話を聴かせて欲しいとハインリヒの執務室前で待っていた。
しかし、今日はハインリヒが人払いをした事で執務室前で待っているとは思っていなかったのだ。
「フリードリヒ様、お久しゅうございます。剣術の訓練はいかがですか?
双剣の構えでは右腕の動きは難なくできる様になりましたか?」
バルドは膝をおり、フリードリヒに声を掛けた。
ポタリッ・・・・
ポタリッ・・・・
ぎこちなくバルドへ向けられたフリードリヒの顔は青ざめ、目から涙がこぼれ落ちる。両手で口元を覆い、ふるふると震えていた。
「・・・・フリードリヒ様・・・・フリードリヒ様のお部屋へ参りましょう」
ウーリがフリードリヒの手を引き、バルドへ目配せをする。
「バルド殿、
お話はフリードリヒ様のお部屋にてお願い致したく、ご同行頂けますか?」
ウーリがバルドへ伺いを立てる。
ウーリ・ド・セスタイト。エステール伯爵家所領内北方果樹園を管理するセスタイト准男爵家第四子である。エステール伯爵家の近習騎士として仕えており、フリードリヒが生まれてからは教育係兼護衛役の任を得ていた。
温和な性格であるが文武両道の美しい姿でセルジオ騎士団への入団を懇願したが第四子であることから断念し、以来エステール伯爵家近習騎士として仕えていた。バルドはウーリにとって憧れの存在であった。その為、フリードリヒがバルドと話ができる様に手を尽くす事をいとわなかった。
ハインリヒが人払いをしたにも関わらず執務室前で待機していられたのはウーリの計らいだった。
だが、今回は途中何度もフリードリヒをハインリヒ執務室前から遠ざけようとしたが、機を逸した。知らなくてもよいこと、聞かなくてもよいことを聴かせてしまったとバルドへ向ける目が語りかけていた。
『どこから聴いておられたのか?
自身の父親が自身の妹を殺める企をし、失敗。
それでも諦めてはいない事実を知ったら・・・・』
バルドはフリードリヒもまた『心の傷』を負ったのではないかと案じていた。
フリードリヒの部屋へ向かいながらバルドはフリードリヒに微笑みを向ける。
「承知致しました。小一時間程でございましたら構いません。
セルジオ様との馬術訓練のお話等できましたらと思っておりました」
バルドは普段と変わらない語調で話す。
「・・・・」
フリードリヒは声なく流す涙が止まらない。石材の床にポタポタと涙が落ちる。
「バルド殿、
フリードリヒ様は馬術訓練時の鞍をご準備されました。
お部屋にてご覧頂けますか?」
ウーリは初めからフリードリヒの部屋で話す予定であったかの様な口ぶりで言う。
「それは!是非とも拝見させて頂きます。
馬との調整もございますれば、いずれ西の屋敷へ同行させて頂きます」
訓練時に使用する軍馬はセルジオ騎士団城塞、西の屋敷内厩舎で管理されていた。その為、鞍の調整は西の屋敷へ出向き行う。
「それは心強いお計らい感謝申します。
西の屋敷まで、なかなか出向けずいかがしたものかと思っておりました」
ウーリは嬉しそうに答える。
フリードリヒは止まらぬ涙を流しながら2人のやり取りを無言で聞いていた。
キイィィィ
バタンッ!
フリードリヒの居室に入る。フリードリヒ付女官シグリが出迎えた。
「お戻りなさいませ。お茶のご用意ができております」
シグリは深く頭を下げる。
「シグリ殿、感謝申す。悪いが頼まれてくれるか?
以前ポルデュラ様に頂いた乾燥したバラの花びらがあったであろう?
その花びらを茶に入れてはくれぬか?」
ウーリがシグリへ言う。
「はい、承知致しました。
確か・・・・アレキサンドラ様がお持ちのはずでございます。
頂いてまいります」
「!!そうか、アレキサンドラ様がお持ちでいらしたか・・・・
では、致し方ないな・・・・」
「いかがいたしますか?頂いてまいりますか?」
シグリが再び尋ねる。
「いや、やめておこう。
諸々ご心配をされるであろうから・・・・やめておこう」
ウーリは残念そうな顔をする。
「それでしたら、花は異なりますがカモミールを持参しております。
こちらをお使い下さい」
バルドは西の屋敷を出る際にポルデュラから『守りになるであろうから持っていけ』と乾燥したカモミールを手渡されていた。
「これは!バルド殿、感謝申します。シグリ、早速、煎じてくれるか?」
ウーリはバルドからカモミールが入った小袋を受け取りシグリへ渡す。
「バルド殿、紹介が遅れました。フリードリヒ様付の女官シグリにございます。
シグリ、こちらはバルド殿。セルジオ様の師でいらっしゃる」
バルドにシグリを紹介する。
「お初にお目に掛かります。シグリ・ド・ハウライトにございます。
バルド様のお話はウーリ殿より伺っております」
洗練された柔らかな物腰は貴族出身である事を裏付ける。
サッ!
「こちらこそ、お初にお目に掛かります。バルドにございます。
突然にお邪魔を致しましたこと、失礼を致します」
バルドは左拳を胸にあて、右手で腰の短剣を握ると騎士の挨拶をした。
「シグリ殿は、我がセスタイト家と親戚筋でございまして、
エステール伯爵家北方の果樹園一帯を我が家と共に管理しております。
私とシグリ殿は母方の従兄妹でございます」
ウーリは自身とシグリの関係をバルドに説明した。バルド自身はシュタイン王国と諸貴族、エステール伯爵家領内の内情は精通している。が、敢えてバルドの方から話す事はしない。自身の情報と夫々から聴く内容に差がないかを確認する為であった。
バルドの情報は常に最新の『事実』のみだが、人の話す内容には話し手の人となりが現れる。虚栄をはる者、過去の栄光を現在の事の様に話す者、過少評価する者、そして『謀』をしている者だ。
ウーリは誠実さがその言葉からも現れていた。嘘偽りなく、バルドに知って欲しい思いが伝わってくる。
バルドはウーリとシグリの人となりを微笑ましく感じた。つい先刻のハインリヒとの殺気に満ちた戦闘ともいえるやり取りから解放された気持ちになる。
「左様でございましたか。
どうりでお顔立ちがどことなく似ていらっしゃると感じておりました」
バルドは2人に微笑みを向けた。
「シグリ殿もお茶をご一緒にいかがですか?」
バルドはカモミールのお茶をシグリにも味わってもらいたいと思った。
「それは、よろしゅうございますね。
シグリ、バルド殿もこう申されている。ご一緒いたさぬか?」
ウーリがシグリに椅子を薦める。
「感謝申します。嬉しゅうございますが、この度は失礼を致します。
また、機会がございましたらご一緒させて頂きます」
シグリはフリードリヒの様子が気掛かりだった。涙を流しながら部屋へ入ってきたかと思えば一言も話さず窓の外をぼんやりと眺めている。こちらでのやり取りなど全く耳に入らない様子が伺える。
「フリードリヒ様、
今宵はアレキサンドラ様と夕食を共にとの事でございましたが、
ご辞退致しますか?」
シグリはバルドとウーリを飛び越えフリードリヒへ声を掛ける。
シグリの言葉が全く耳に入っていない様子だ。
見かねたウーリがシグリへ首を横に振り返答を制した。
「シグリ、アレキサンドラ様との夕食はそのままに。
バルド殿とお話しをすれば気も晴れるというもの。
時間通りアレキサンドラ様のお部屋へお迎えに伺う故、案ずるな」
ウーリはシグリの心配そうに向ける眼差しを退ける。
「承知致しました」
シグリは一言答えるとフリードリヒの居室を退いた。
「フリードリヒ様、バルド殿が持参されたカモミールのお茶が入りました。
さっ、さっ、こちらでお話しを伺われてはいかがですか?」
ウーリが窓辺にいるフリードリヒの背中に声を掛ける。
「・・・・」
窓の外を眺めたまま返事はない。
「フリードリヒ様、私へお話しがございますか?」
バルドが窓辺のフリードリヒに近づく。
ガバッ!
「バルド!!父上は!!!父上は・・・・あぁぁぁぁぁぁ」
近づくバルドへ抱きつき、顔を見上げ叫び声と共に涙を流した。
バルドはそっとフリードリヒの背中に手を置く。
「フリードリヒ様、聴いておられましたか。どこから聴いておられましたか?」
「あぁぁぁぁぁ・・・・」
フリードリヒはバルドの腹部に顔をうずめて泣いている。
「左様にございますか。全てお聴きになっていらしたのですね。
お父上様は、ハインリヒ様はご自身のお役目故、最善の策を講じられたまでにございます」
バルドはフリードリヒへ諭す様に話しだした。
「エステール伯爵家はシュタイン王国5伯爵家の筆頭。第一位にございます。
遡れば王家の血筋にてラドフォール公爵家と並び
自領国よりも王家とシュタイン王国を第一と考えねばなりません」
「建国より100有余年。今また世はさざ波の如く揺らぎ、
歪みが起こりつつあります。
国が興り、街が賑わい、人が増えれば自ずと争いも増えます。
それぞれに皆が『自国の繁栄』を願えば願う程争いが起こる事は
古来より変わらぬ事でございます。
生きていくための糧が必要になるからです」
「自国の人々が豊かに安心して暮らせる様、務める事が王家の役割にございます。
そして、その王家をお支えし、時には自らが他国との矢面に立ち、
お守りする事が伯爵家筆頭第一位であるエステール伯爵家の役割にございます」
「100有余年前のフリードリヒ一世様は、エステール伯爵家領内の治め方
『機能』の礎を築かれました。
准貴族に管理地を与えられ、管理する事柄を分けられました。
同じ物や事が重なり取った取らない、
多い少ない等の争いが起こらない為でございます」
「また、分ける事で天災や不作があっても飢えが防げます。
これをシュタイン王国全体で各貴族の家々で機能できる様、
王家と共にはたらきかけ100有余年要した事になります」
「そして、人が増えすぎず、減り過ぎず、国内に住まえる民を守り、
皆が安んじて暮らせる様に外からの備えに各貴族に騎士団を編成されました。
これが今の各貴族騎士団となります」
「各貴族と准貴族の第一子がお家を継承し、第二子が騎士団を束ねる団長となる。
分ける事で家内での争いを起こさない仕組みを創られました」
「王家と共に国外との交流、折衝、国内の治安と民の暮らしを守り、
育てることがエステール伯爵家第一子であるご当主の役目にございます。
王家と共に国外からの侵略、国内のもめ事を治め、
人と物等の移動が安んじて行える様守りを固める事が
エステール伯爵家第二子である騎士団団長の役目にございます」
「ご当主も騎士団団長も王国と民を守る事は同じです。
されど、守る事と守る者がいささか異なります。
騎士団団長は己の命より騎士団の存続を優先させます。
騎士団がなければ国も民も守る事はできません。
ご当主もまた己の命とご一族の命より国と民を優先させます。
国と民がなければ領国は機能致しません。
これが伯爵家筆頭第一位エステール『伯爵家の心得』となります」
フワリッ
バルドはここでフリードリヒの頭をそっとなでる。
フリードリヒはバルドに抱きつきながらも顔を上げ、バルドを見上げ聴いていた。
「フリードリヒ様、
ハインリヒ様はご立派なエステール伯爵家のご当主でいらっしゃいます。
お役目を果たされんが為、仕方なく初代セルジオ様の封印が
解かれた時はセルジオ様を殺めろと申されました。
これは国を守る為にございます」
バルドはニコリと笑った。
「されど、ご案じなさいますな!ポルデュラ様は申されました
『今世で封印が解かれる事はない』と!私はポルデュラ様を信じております。
封印は解かれません。解かれる事はございません。
ならばセルジオ様を殺める必要もございません。ご案じなさいますな」
バルドはフリードリヒを優しく抱き寄せる。
「バルド・・・・すまなかった。
父上のお言葉からセルジオを・・・・『殺せ』と・・・・耳を疑ったのだ。
恐ろしかった。父上が恐ろしかった!普段のお声とは別の方の様であった・・・・
私はこの先・・・・父上とどのように言葉を交わせばよいのであろう・・・・」
フリードリヒはバルドを見上げ問いかける。
「今までと違いなくでよろしいかと存じます。
フリードリヒ様、人は一側面だけではございません。
表も裏もあり、浅くも深くもあります。
されば迷いも偽りもごまかしもございます」
「その『魔』に入り込む闇の者もおります。
その様な時は人ではなく事柄をよくよくご覧下さい。
今回の事であれば『セルジオ様を殺せ』は事柄ではございません。
これは行く先の行いです。
『初代様の封印が解かれる』事が事柄にございます。
事柄の行く先で行いが変わります。
『封印が解かれたらならば殺せ』『解かれぬならば何も起こらない』
いかがでございますか?」
バルドはゆっくりと優しくフリードリヒの頭をなでる。
「・・・・よく解らぬ。
解らぬが・・・・バルドの言わんとしている事は解った様に思う。
父上を恐れる事も憎む事も恨む事もせずともよい。
起こる事の一方向だけ耳に入れてはならぬ。ということだな?」
フリードリヒは涙を拭いながらバルドへ答える。
「左様にございます。フリードリヒ様は次のご当主になられるお方です。
そして・・・・フリードリヒ一世様と同じお名前を持つお方です。
初代セルジオ様を心から愛しまれたお方と同じ名でございます。
フリードリヒ様はこの先、国の内も外も多くの事を見聞され、
ご当主となられます。
今日の事もいずれお父君のお考えが解る時がくることでしょう。
楽しみですね。ウーリ殿」
バルドは2人の様子を立ちすくみ見ているウーリに声を掛ける。
「・・・・はっ!左様にございます。
これは!バルド殿、お茶が冷めてしまいました!
入れ直しを・・・・シグリ!シグリ!お茶を入れ直してはくれぬか?」
バルドの話に聞き入っていた事をバツが悪そうにシグリを呼ぶ。
「ウーリ殿、カモミールは冷めても美味しく頂けます故、
そのままにて。私はそろそろ失礼を致します」
バルドはフリードリヒの手を引き、お茶の席につく。
「・・・・左様にございますか?では、私もご一緒に頂きます」
ウーリも席についた。
「フリードリヒ様、ウーリ殿、お伝えしたい事がございます。
セルジオ様、エリオス様とこれより一月程、
西の屋敷にてご厄介になります。馬の鞍の調整にいらして下さい。
騎士団の城塞を見聞もできましょう」
バルドはお茶をすすりながら西の屋敷への滞在を伝えた。
「それは!またよい頃合いでございますね。近々伺います」
ウーリがフリードリヒと微笑み合う。
バルドはハインリヒの背後の黒い影が頭をよぎっていた。
『これよりの一月でポルデュラ様と策を講じねばならぬな』
3人でお茶をすすり微笑みながらも西の屋敷へ思いを馳せるバルドであった。
バルドがハインリヒの執務室から退くと扉の脇に人影があった。
チャッ!
咄嗟に腰の短剣に手が伸びる。
「バルド殿・・・・お久しゅうございます」
そこにはエステール伯爵家次期当主フリードリヒとフリードリヒの教育係兼護衛役のウーリが立っていた。
「バルド殿がお越しと聞きまして、
フリードリヒ様がお会いしたいとこちらでお待ち致しておりました」
ウーリが言う。
フリードリヒ・ド・エステール。エステール伯爵家第一子でありセルジオの2歳年長の実兄である。銀色の髪に薄い青い瞳でその面立ちは母であるアレキサンドラによく似ている。
貴族の嗜みとして剣術、弓術等の武術と馬術は必須で身に付けるものだった。その為、騎士でなくとも護身術として一通りの訓練は受ける。その中に訓練施設での訓練者との立会があった。
実妹であるセルジオと初対面となる訓練立会の日を心待ちにしているフリードリヒはバルドがエステール伯爵家へ都度の報告へ赴く際、必ずと言っていい程、セルジオの話を聴かせて欲しいとハインリヒの執務室前で待っていた。
しかし、今日はハインリヒが人払いをした事で執務室前で待っているとは思っていなかったのだ。
「フリードリヒ様、お久しゅうございます。剣術の訓練はいかがですか?
双剣の構えでは右腕の動きは難なくできる様になりましたか?」
バルドは膝をおり、フリードリヒに声を掛けた。
ポタリッ・・・・
ポタリッ・・・・
ぎこちなくバルドへ向けられたフリードリヒの顔は青ざめ、目から涙がこぼれ落ちる。両手で口元を覆い、ふるふると震えていた。
「・・・・フリードリヒ様・・・・フリードリヒ様のお部屋へ参りましょう」
ウーリがフリードリヒの手を引き、バルドへ目配せをする。
「バルド殿、
お話はフリードリヒ様のお部屋にてお願い致したく、ご同行頂けますか?」
ウーリがバルドへ伺いを立てる。
ウーリ・ド・セスタイト。エステール伯爵家所領内北方果樹園を管理するセスタイト准男爵家第四子である。エステール伯爵家の近習騎士として仕えており、フリードリヒが生まれてからは教育係兼護衛役の任を得ていた。
温和な性格であるが文武両道の美しい姿でセルジオ騎士団への入団を懇願したが第四子であることから断念し、以来エステール伯爵家近習騎士として仕えていた。バルドはウーリにとって憧れの存在であった。その為、フリードリヒがバルドと話ができる様に手を尽くす事をいとわなかった。
ハインリヒが人払いをしたにも関わらず執務室前で待機していられたのはウーリの計らいだった。
だが、今回は途中何度もフリードリヒをハインリヒ執務室前から遠ざけようとしたが、機を逸した。知らなくてもよいこと、聞かなくてもよいことを聴かせてしまったとバルドへ向ける目が語りかけていた。
『どこから聴いておられたのか?
自身の父親が自身の妹を殺める企をし、失敗。
それでも諦めてはいない事実を知ったら・・・・』
バルドはフリードリヒもまた『心の傷』を負ったのではないかと案じていた。
フリードリヒの部屋へ向かいながらバルドはフリードリヒに微笑みを向ける。
「承知致しました。小一時間程でございましたら構いません。
セルジオ様との馬術訓練のお話等できましたらと思っておりました」
バルドは普段と変わらない語調で話す。
「・・・・」
フリードリヒは声なく流す涙が止まらない。石材の床にポタポタと涙が落ちる。
「バルド殿、
フリードリヒ様は馬術訓練時の鞍をご準備されました。
お部屋にてご覧頂けますか?」
ウーリは初めからフリードリヒの部屋で話す予定であったかの様な口ぶりで言う。
「それは!是非とも拝見させて頂きます。
馬との調整もございますれば、いずれ西の屋敷へ同行させて頂きます」
訓練時に使用する軍馬はセルジオ騎士団城塞、西の屋敷内厩舎で管理されていた。その為、鞍の調整は西の屋敷へ出向き行う。
「それは心強いお計らい感謝申します。
西の屋敷まで、なかなか出向けずいかがしたものかと思っておりました」
ウーリは嬉しそうに答える。
フリードリヒは止まらぬ涙を流しながら2人のやり取りを無言で聞いていた。
キイィィィ
バタンッ!
フリードリヒの居室に入る。フリードリヒ付女官シグリが出迎えた。
「お戻りなさいませ。お茶のご用意ができております」
シグリは深く頭を下げる。
「シグリ殿、感謝申す。悪いが頼まれてくれるか?
以前ポルデュラ様に頂いた乾燥したバラの花びらがあったであろう?
その花びらを茶に入れてはくれぬか?」
ウーリがシグリへ言う。
「はい、承知致しました。
確か・・・・アレキサンドラ様がお持ちのはずでございます。
頂いてまいります」
「!!そうか、アレキサンドラ様がお持ちでいらしたか・・・・
では、致し方ないな・・・・」
「いかがいたしますか?頂いてまいりますか?」
シグリが再び尋ねる。
「いや、やめておこう。
諸々ご心配をされるであろうから・・・・やめておこう」
ウーリは残念そうな顔をする。
「それでしたら、花は異なりますがカモミールを持参しております。
こちらをお使い下さい」
バルドは西の屋敷を出る際にポルデュラから『守りになるであろうから持っていけ』と乾燥したカモミールを手渡されていた。
「これは!バルド殿、感謝申します。シグリ、早速、煎じてくれるか?」
ウーリはバルドからカモミールが入った小袋を受け取りシグリへ渡す。
「バルド殿、紹介が遅れました。フリードリヒ様付の女官シグリにございます。
シグリ、こちらはバルド殿。セルジオ様の師でいらっしゃる」
バルドにシグリを紹介する。
「お初にお目に掛かります。シグリ・ド・ハウライトにございます。
バルド様のお話はウーリ殿より伺っております」
洗練された柔らかな物腰は貴族出身である事を裏付ける。
サッ!
「こちらこそ、お初にお目に掛かります。バルドにございます。
突然にお邪魔を致しましたこと、失礼を致します」
バルドは左拳を胸にあて、右手で腰の短剣を握ると騎士の挨拶をした。
「シグリ殿は、我がセスタイト家と親戚筋でございまして、
エステール伯爵家北方の果樹園一帯を我が家と共に管理しております。
私とシグリ殿は母方の従兄妹でございます」
ウーリは自身とシグリの関係をバルドに説明した。バルド自身はシュタイン王国と諸貴族、エステール伯爵家領内の内情は精通している。が、敢えてバルドの方から話す事はしない。自身の情報と夫々から聴く内容に差がないかを確認する為であった。
バルドの情報は常に最新の『事実』のみだが、人の話す内容には話し手の人となりが現れる。虚栄をはる者、過去の栄光を現在の事の様に話す者、過少評価する者、そして『謀』をしている者だ。
ウーリは誠実さがその言葉からも現れていた。嘘偽りなく、バルドに知って欲しい思いが伝わってくる。
バルドはウーリとシグリの人となりを微笑ましく感じた。つい先刻のハインリヒとの殺気に満ちた戦闘ともいえるやり取りから解放された気持ちになる。
「左様でございましたか。
どうりでお顔立ちがどことなく似ていらっしゃると感じておりました」
バルドは2人に微笑みを向けた。
「シグリ殿もお茶をご一緒にいかがですか?」
バルドはカモミールのお茶をシグリにも味わってもらいたいと思った。
「それは、よろしゅうございますね。
シグリ、バルド殿もこう申されている。ご一緒いたさぬか?」
ウーリがシグリに椅子を薦める。
「感謝申します。嬉しゅうございますが、この度は失礼を致します。
また、機会がございましたらご一緒させて頂きます」
シグリはフリードリヒの様子が気掛かりだった。涙を流しながら部屋へ入ってきたかと思えば一言も話さず窓の外をぼんやりと眺めている。こちらでのやり取りなど全く耳に入らない様子が伺える。
「フリードリヒ様、
今宵はアレキサンドラ様と夕食を共にとの事でございましたが、
ご辞退致しますか?」
シグリはバルドとウーリを飛び越えフリードリヒへ声を掛ける。
シグリの言葉が全く耳に入っていない様子だ。
見かねたウーリがシグリへ首を横に振り返答を制した。
「シグリ、アレキサンドラ様との夕食はそのままに。
バルド殿とお話しをすれば気も晴れるというもの。
時間通りアレキサンドラ様のお部屋へお迎えに伺う故、案ずるな」
ウーリはシグリの心配そうに向ける眼差しを退ける。
「承知致しました」
シグリは一言答えるとフリードリヒの居室を退いた。
「フリードリヒ様、バルド殿が持参されたカモミールのお茶が入りました。
さっ、さっ、こちらでお話しを伺われてはいかがですか?」
ウーリが窓辺にいるフリードリヒの背中に声を掛ける。
「・・・・」
窓の外を眺めたまま返事はない。
「フリードリヒ様、私へお話しがございますか?」
バルドが窓辺のフリードリヒに近づく。
ガバッ!
「バルド!!父上は!!!父上は・・・・あぁぁぁぁぁぁ」
近づくバルドへ抱きつき、顔を見上げ叫び声と共に涙を流した。
バルドはそっとフリードリヒの背中に手を置く。
「フリードリヒ様、聴いておられましたか。どこから聴いておられましたか?」
「あぁぁぁぁぁ・・・・」
フリードリヒはバルドの腹部に顔をうずめて泣いている。
「左様にございますか。全てお聴きになっていらしたのですね。
お父上様は、ハインリヒ様はご自身のお役目故、最善の策を講じられたまでにございます」
バルドはフリードリヒへ諭す様に話しだした。
「エステール伯爵家はシュタイン王国5伯爵家の筆頭。第一位にございます。
遡れば王家の血筋にてラドフォール公爵家と並び
自領国よりも王家とシュタイン王国を第一と考えねばなりません」
「建国より100有余年。今また世はさざ波の如く揺らぎ、
歪みが起こりつつあります。
国が興り、街が賑わい、人が増えれば自ずと争いも増えます。
それぞれに皆が『自国の繁栄』を願えば願う程争いが起こる事は
古来より変わらぬ事でございます。
生きていくための糧が必要になるからです」
「自国の人々が豊かに安心して暮らせる様、務める事が王家の役割にございます。
そして、その王家をお支えし、時には自らが他国との矢面に立ち、
お守りする事が伯爵家筆頭第一位であるエステール伯爵家の役割にございます」
「100有余年前のフリードリヒ一世様は、エステール伯爵家領内の治め方
『機能』の礎を築かれました。
准貴族に管理地を与えられ、管理する事柄を分けられました。
同じ物や事が重なり取った取らない、
多い少ない等の争いが起こらない為でございます」
「また、分ける事で天災や不作があっても飢えが防げます。
これをシュタイン王国全体で各貴族の家々で機能できる様、
王家と共にはたらきかけ100有余年要した事になります」
「そして、人が増えすぎず、減り過ぎず、国内に住まえる民を守り、
皆が安んじて暮らせる様に外からの備えに各貴族に騎士団を編成されました。
これが今の各貴族騎士団となります」
「各貴族と准貴族の第一子がお家を継承し、第二子が騎士団を束ねる団長となる。
分ける事で家内での争いを起こさない仕組みを創られました」
「王家と共に国外との交流、折衝、国内の治安と民の暮らしを守り、
育てることがエステール伯爵家第一子であるご当主の役目にございます。
王家と共に国外からの侵略、国内のもめ事を治め、
人と物等の移動が安んじて行える様守りを固める事が
エステール伯爵家第二子である騎士団団長の役目にございます」
「ご当主も騎士団団長も王国と民を守る事は同じです。
されど、守る事と守る者がいささか異なります。
騎士団団長は己の命より騎士団の存続を優先させます。
騎士団がなければ国も民も守る事はできません。
ご当主もまた己の命とご一族の命より国と民を優先させます。
国と民がなければ領国は機能致しません。
これが伯爵家筆頭第一位エステール『伯爵家の心得』となります」
フワリッ
バルドはここでフリードリヒの頭をそっとなでる。
フリードリヒはバルドに抱きつきながらも顔を上げ、バルドを見上げ聴いていた。
「フリードリヒ様、
ハインリヒ様はご立派なエステール伯爵家のご当主でいらっしゃいます。
お役目を果たされんが為、仕方なく初代セルジオ様の封印が
解かれた時はセルジオ様を殺めろと申されました。
これは国を守る為にございます」
バルドはニコリと笑った。
「されど、ご案じなさいますな!ポルデュラ様は申されました
『今世で封印が解かれる事はない』と!私はポルデュラ様を信じております。
封印は解かれません。解かれる事はございません。
ならばセルジオ様を殺める必要もございません。ご案じなさいますな」
バルドはフリードリヒを優しく抱き寄せる。
「バルド・・・・すまなかった。
父上のお言葉からセルジオを・・・・『殺せ』と・・・・耳を疑ったのだ。
恐ろしかった。父上が恐ろしかった!普段のお声とは別の方の様であった・・・・
私はこの先・・・・父上とどのように言葉を交わせばよいのであろう・・・・」
フリードリヒはバルドを見上げ問いかける。
「今までと違いなくでよろしいかと存じます。
フリードリヒ様、人は一側面だけではございません。
表も裏もあり、浅くも深くもあります。
されば迷いも偽りもごまかしもございます」
「その『魔』に入り込む闇の者もおります。
その様な時は人ではなく事柄をよくよくご覧下さい。
今回の事であれば『セルジオ様を殺せ』は事柄ではございません。
これは行く先の行いです。
『初代様の封印が解かれる』事が事柄にございます。
事柄の行く先で行いが変わります。
『封印が解かれたらならば殺せ』『解かれぬならば何も起こらない』
いかがでございますか?」
バルドはゆっくりと優しくフリードリヒの頭をなでる。
「・・・・よく解らぬ。
解らぬが・・・・バルドの言わんとしている事は解った様に思う。
父上を恐れる事も憎む事も恨む事もせずともよい。
起こる事の一方向だけ耳に入れてはならぬ。ということだな?」
フリードリヒは涙を拭いながらバルドへ答える。
「左様にございます。フリードリヒ様は次のご当主になられるお方です。
そして・・・・フリードリヒ一世様と同じお名前を持つお方です。
初代セルジオ様を心から愛しまれたお方と同じ名でございます。
フリードリヒ様はこの先、国の内も外も多くの事を見聞され、
ご当主となられます。
今日の事もいずれお父君のお考えが解る時がくることでしょう。
楽しみですね。ウーリ殿」
バルドは2人の様子を立ちすくみ見ているウーリに声を掛ける。
「・・・・はっ!左様にございます。
これは!バルド殿、お茶が冷めてしまいました!
入れ直しを・・・・シグリ!シグリ!お茶を入れ直してはくれぬか?」
バルドの話に聞き入っていた事をバツが悪そうにシグリを呼ぶ。
「ウーリ殿、カモミールは冷めても美味しく頂けます故、
そのままにて。私はそろそろ失礼を致します」
バルドはフリードリヒの手を引き、お茶の席につく。
「・・・・左様にございますか?では、私もご一緒に頂きます」
ウーリも席についた。
「フリードリヒ様、ウーリ殿、お伝えしたい事がございます。
セルジオ様、エリオス様とこれより一月程、
西の屋敷にてご厄介になります。馬の鞍の調整にいらして下さい。
騎士団の城塞を見聞もできましょう」
バルドはお茶をすすりながら西の屋敷への滞在を伝えた。
「それは!またよい頃合いでございますね。近々伺います」
ウーリがフリードリヒと微笑み合う。
バルドはハインリヒの背後の黒い影が頭をよぎっていた。
『これよりの一月でポルデュラ様と策を講じねばならぬな』
3人でお茶をすすり微笑みながらも西の屋敷へ思いを馳せるバルドであった。
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