とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~

第30話 インシデント27:謀略の魔導士

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バルドはシュタイン王国王家直属、星の魔導士ダグマルの予見を活かす方法を騎士団団長とジグランに語り出した。

はかりごとを。セルジオ様をあやめたと、
殺めたむくろは全て炎で焼き尽くしたと。
されば『魂の光』と『心の影』は一体となりほうむったと。
ここまでがダグマル様の予見通りに動いたこととなります」

騎士団団長はそう易々やすやすとエステール伯爵家現当主ハインリヒをだませはしないだろうと言う顔をバルドへ向ける。

「して、その後はいかがするのだ?
兄上をはかりごとにかけられたとして、
長くはもつまい。直ぐに露見ろけんするぞ」

「はい、私はおいとまを頂きます。
ダグマル様の予見通りに動いたとは言え、
あるじを殺めた事は許される事ではございません」

「まして初代セルジオ様の生まれ変わりと言われています
次期セルジオ騎士団団長をあやめたのです。
されば国外への追放を願い出ます。
ハインリヒ様も我が子を殺めた者を手元に置くには
王家や他の貴族からの目もございましょう。
私一人を追放する事で収めとして頂きたいと言上ごんじょう致します」

「ふむ。そなたの追放が叶ったとしよう。
されど真実ではセルジオは生きているではないか。セルジオはいかがするのだ?」

「はい、密かにお連れ致します!一旦、国を出て頂きます。
これもセルジオ様の見聞けんぶんを広げる為によい事と考えております。
そして、封印が解かれたとしても戦わなければよい事です。
『青白い炎』を湧き立たせますのは戦う時のみ。
そのお姿さえ他から見られなければ解りますまい」

「されど、セルジオの姿は目を引くぞ。
隠した所で、金色に輝く髪、深く青い瞳は隠せまい」

「髪は短く切ります。切れば目立ちません。
幸い、調略ちょうりゃくにはいささか覚えがございます故、
他国へ馴染むに時は要しません。商人でも農家でもかまいません。
セルジオ様が生きながらえる様に私が何としてもお支え致します」

「ふむ。その様子、既に当てがあるのか!
そなた、そこまで考えセルジオ様にお仕えしてきたのか!」

ジグランが驚きを隠せない表情をみせる。

「・・・・お仕えしましたばかりの頃は思いもよりませんでした。
されど、マデュラの乳母を始末しました折、ハインリヒ様が申されました。
『封印が解かれし時はセルジオを殺せ・・』と」

「・・・・兄上は『殺せ・・』と申したか・・・・」

騎士団団長が哀し気な目をした。

「はい、『殺せ・・』と申されました。
国のわざわいになる者も事も容赦ようしゃはせぬと仰せになりました」

「その際に決めましてございます。
もし、封印が解かれたとしたら国外へ、ハインリヒ様の手の届かぬ所へお連れしようと!」

バルドは力強く騎士団団長とジグランに言い切った。

「準備は整えております。
どの道に進もうともセルジオ様のお命はお守り致します。
私の命にて事が済めばそれもよし、済まぬ様であれば別の手を、
別の道をと3つの道を整えております」

バルドはここで騎士団団長とジグランにかしづく。

「わっはっはっはっ!バルド!
そなた、ほんに『謀略ぼうりゃくの魔導士』だなっ!
星読みダグマル様を手玉てだまにとるつもりか!
そなたを敵に回せば恐ろしい事この上ないな!
いやはや、かなわぬ!そうか、国外へ逃亡するか!
ダグマル様の予見を利用しようなどと誰も思いつきもしまい!
して、行先はどこなのだ?」

騎士団団長がそれとなく当てのある逃亡先を聞く。

「申せません。
団長とジグラン様に申せば火の粉がかかるやも知れません!されば申せません!」

「そうか。解った。大方おおかたの予想はつく。海を超えるつもりであろう?
そなたの事だ、行った事も見たこともない国を選ぶはずはなかろう。
セルジオをみすみす危険にさらすことになるからな。
されば、そなたが調略ちょうりゃくの任で赴いた事がある国、
地で兄上の手が届かぬ所といえば我ら2人であれば解らずでもないぞ」

「繋ぎは切らずに保つか。流石だな!ジグラン、どうだ?そなたの隊の者は!
予想を遥かに超える策を我らに堂々と話しおるわ」

騎士団団長は嬉しそうにジグランを見る。

「いやはや、私は呆れて物がいえませぬ。
我が配下の者として留めておかずば宝の持ち腐れにございます!
早う、団へ戻って欲しい限りですな!」

ジグランは目に涙を浮かべ、バルドへ微笑む。

「・・・・私は・・・・何と幸せな者でありましょう!」

バルドはかしづき、震えていた。

「バルド!案ずるな!
そなたの想いもセルジオへの忠誠もよく解っておる。
ただ、セルジオもそなたもセルジオ騎士団にとってなくてはならぬ者だ。
他国へ等行かせるものか!大丈夫だ!セルジオの盾には私がなる故、安心いたせ」

騎士団団長は力強く言う。

「兄上は、そなたに念を押すであろう。『封印解かれし時はセルジオを殺せ』とな。
返事だけしておればよい」

「ただ、私から頼みがある。
今回の事、ジグランと配下2人の騎士がマデュラの刺客を始末した事にしてもらえないか」

「そなたらは危うい所を助けられたと。
セルジオが気を失ったのは逃げる途中で転び、頭を打ったとしておこうぞ。
これはジグランからエリオスとオスカー、ポルデュラ様へも伝えておく。
セルジオは刺客の始末には関わってはおらぬ。
その様に兄上ハインリヒ様へ伝えてはくれまいか」

騎士団団長はかしづくバルドの手を取り懇願こんがんする様に話した。
バルドは顔を上げる。

「はっ!承知致しました。
我らマデュラの刺客からセルジオ様、エリオス様をお守りする為に西の屋敷へ向け、
ただただ走り逃れたと。そこにジグラン様、ルディ殿、ジクムント殿が現れお助け頂いたと。
その様に言上致します!」

主に『いつわり』の報告をする事等、騎士や従士にとってあってはならない事だ。
それでもセルジオを守る為にえて偽りを言わせる。騎士団団長は騎士の戒律かいりつに反する事をバルドに指示したのだ。

「そなたにとって、己の命と引き換えにする事よりもえがたい事だな・・・
されど、これが『最善の策』だ。頼むぞ!バルド!」

ジグランはバルドの肩に手を置き、さとす。

「はっ!セルジオ様、ジグラン様、我が主の為に数々のお計らいを感謝申します。
この先、主の盾をなれる様、お仕え致します。
その為ならば何を恐れる事がございましょう!
おのが信念は主に忠誠を誓う事のみにて!
これより、エステール伯爵家へ行ってまいります!」

バルドは胸に熱くたぎるものを感じる。『怒り』とはまた別の感情。『闘志とうし』を感じていた。

「戻りを待っているぞっ!」

騎士団団長とジグランは力強い言葉でバルドをエステール伯爵家へと送り出すのだった。

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