とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~

第24話 インシデント21:思わぬ再会

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「セルジオ様っ!セルジオ様っ!!」

ダラリッ・・・・

バルドに抱きかかえられたセルジオの両腕がダラリと力なくぶら下がる。両肩が脱臼はずれていた。

「セルジオ様!少し痛みます。両肩を接ぎます故、我慢をして下され!」

バルドはセルジオの両腕を身体の側面に勢いよく引く。

ガッガコッッ!!

骨が収まる音がした。両肩をぐのである。かなりの痛みを伴うはずだがセルジオの意識は戻らない。

バルドはセルジオの身体をくまなく確認する。衣服の背中側が大きく裂け、木の枝で切った様な傷から血が滴っている。

足も同様に衣服が所どころ裂け、いたるところから血がにじむ。

バッ!!
ダッダダッ・・・・

バルドは馬の鞍にとめてある麻袋を手にセルジオを抱えサフェス湖湖畔へ走った。

バサッバサッ・・・・
チャポッチャボッ・・・・

セルジオの衣服を脱がせサフェス湖へ入る。サフェス湖の水は思いの外冷たい。湖水で傷口を丁寧に洗うと湖畔へ戻る。

ガサッガサッ・・・・
フッフワッ・・・・

麻袋からマントを取り出しセルジオをマントでくるんだ。

「セルジオ様っ!セルジオ様っ!」

マントにくるまるセルジオの身体をさすり、名前を呼ぶが返事がない。鼓動も呼吸も平常通りだが意識が戻らない。

ドキッドキッドキッ・・・・

バルドは自身の鼓動が早さを増すのを感じていた。居ても立っても居られない思いだった。

ザッザッザッ・・・・

「バルド殿・・・・しばらくの間、様子をみられた方がよいかと思います」

オスカーがエリオスを伴いかたわらに立っていた。

バッババッ!

バルドは2人へ勢いよく顔を向ける。
その表情にエリオスとオスカーが驚いているのが判る。

「バルド殿・・・・この世の終わりの様なお顔をされていますぞ」

ギュッ・・・・
カタッカタッカタッ・・・・

エリオスはオスカーの握る手に力を入れた。エリオスの手は震えていた。セルジオに木の上に留まる様に言われていたエリオスは自ら弓を手放す事ができず、木の上で呆然と一部始終を見ていた。

戦闘が終わるとオスカーが木に登り弓を持ったままのエリオスを降ろした。まるで弓の一部と化した指を一本づつ丁寧に外し、手を取りセルジオを介抱するバルドの元に連れてきた所だった。エリオスのその姿にバルドは落ち着きを取り戻す。

「・・・・失礼をした・・・・左様ですな。
鼓動も呼吸も普段と変わりません。しばし、休んでおれば・・・・!」

バルドはポルデュラの言葉を思い出す。

『西の屋敷へは私が伝えておこう』

西の屋敷はエステール伯爵家の居城の一つでシュタイン王国西の砦を守るセルジオ騎士団の城塞であった。

セルジオ騎士団所属の騎士と従士は西の屋敷に居住し、即戦闘態勢に入る事ができる様、日々訓練を重ねると共に時々の役目がそれぞれあてがわれ任務に就いていた。

「!!西の屋敷へまいりますっ!
我らが本日サフェス湖湖畔にて狩りをする事、
ポルデュラ様よりセルジオ騎士団団長へお伝え頂いております。
セルジオ様が目覚めるまで場所をお借りいたしますっ!」

サッサッ!

バルドは立ち上がる。

「それはっ!それならば安心ですね!我らも同行致します」

バルドとオスカーは顔を見合わせ頷き合った。

ザッザッザッ・・・・

馬止めの場所へ戻ろうとすると森の中から再び『血香けっか』が漂う。バルドとオスカーは再び殺気立つ。オスカーはエリオスを自身の後方へ身をひそめさせた。

『3人かっ!またかっ!』

ガサッ・・・・
ストンッ・・・・

バルドはセルジオを湖畔の草陰に寝かせる。オスカーの後方で身を潜めているエリオスを呼ぶ。

「エリオス様、セルジオ様と共にこちらで身をお隠し下さい。
我ら2人、再び戦闘に入ります。
もし、我ら2人が戻らぬ時はセルジオ様をこのままに西の屋敷へお行きなさい!
そして、ここで起きたままの事を騎士団団長へお伝え下さい!」

エリオスへ伝言を頼むとバルドは森の中へ意識を向け、静かに進んだ。重装備の騎士1人と軽装備の従士2人が姿を現す。

「バルド!オスカー!久しいの!
そなたら、腕はいささかも落ちておらぬな!流石は我が隊の者だ!」

重装備の騎士が歩み寄る。

「ジグラン様!!」

バルドとオスカーは騎士の姿に驚き名を呼んだ。

エステール伯爵家セルジオ騎士団第一隊長ジグラン・ド・ローライド。エリオスの叔母である。

「ルディとジクムントもいるぞ!」

バルドとオスカーがかつて共に戦った従士であった。

「バルド殿、オスカー殿、お久しゅうございます。
益々腕をあげられたのではありませんか?短剣と剣を交えるとは!」

ルディがにこやかに歩み寄る。

「あちらの躯はマデュラの者ですね。躯はわれらで葬ります故、ご案じめさるな」

ジクムントは後始末は任せろと言わんばかりだ。

「・・・・!ポルデュラ様ですな!ジグラン様をこちらへ向かわせて下さったのは」

「左様だ。セルジオ様・・・・おっ、これは失礼。
我ら騎士団団長より頼まれてな。
『湖畔にてセルジオ様、エリオス様が狩りをする故、よろしく頼む』と
ポルデュラ様より使いがあった。そなた行ってくれぬかとな。
バルドとオスカーに会ってこいとの我が騎士団団長の計らいだな」

サッ!

「お久しゅうございます!
我ら2人、負傷し退団した後もこうしてセルジオ騎士団にゆかりのある
役目を頂戴できますこと感謝申します」

バルドとオスカーはジグランにかしずく。

「はははははっ!それはそなたらの力量だ。自信を持てばよい」

「お言葉もったいなく!感謝申します」

ジグランは『勝利をもたらす騎士』と言われていた。その大きく全てを包み込む様な雰囲気ふんいきに仕える従士は自身の力量以上の力が出ると誰もが感じていた。

戦場の最前線さいぜんせんで先陣を切るいさぎよい戦いぶりと馬上で槍を奮う勇ましい姿がいにしえの戦いの女神ミネルヴァを彷彿ほうふつとさせ、従士の戦意を更に上げさせた。

「して・・・・セルジオ様とエリオス殿はいずこにおわすのか?」

ジグランは辺りを見回す。

「はっ!実はジグラン様方の気配が・・・・その・・・
敵方と感じ、湖畔の草陰に隠れておいでです」

バルドは湖畔に目を向ける。

ザッ・・・・
ダダッ・・・・
ガサッ!

エリオスが立ち上がり、バルドらの方を見ていたが、突如湖畔を北へ向け走り出した。草陰に姿が見えなくなる。

「エリオス様!!いかがなさいましたか!」

ザサッ・・・・
ダダッダッ・・・

オスカーが慌ててエリオスを追いかける。

「オッオエェェェ・・・・」

バシャバシャ・・・・

オスカーが追いつくとエリオスは草陰で両手と両膝を付き、嘔吐おうとしていた。

「!!!エリオス様っっ!大事ございませんか!」

オスカーはエリオスの背中を優しくさする。

「ゴホッゴホッ・・・・ゴボッボッ・・・・オッオエェェェ・・・・」

何度も咳き込み、嘔吐おうとを繰り返す。

ガサッ!
とぶっとぷっとぷつ・・・・
サッ!
バルドが横から木製のコップに入れた砂糖水を差し出した。

「エリオス様、こちらをお飲み下さい。楽になります」

オスカーはそっと木製のコップをエリオスの口元に運ぶ。

コクリッ・・・・
コクリッ・・・・

「ゴホッホッ・・・・ゴホッ・・・・」

コクリッ・・・・

体勢を起こし、ゆっくりと砂糖水を飲ませる。
咳き込みと嘔吐は止まった。

「エリオス様、よくぞえられました!!
初めて人を殺めたのですっ!よく今まで耐えられましたっ!」

バルドはエリオスをたたえた。
バルドはオスカーと顔を見合わせる。

「セルジオ様の『最善の策』に訓練と変わらず実戦で動かれて、
今日はお二人の初陣ういじんにございますね」

オスカーもバルドにならいエリオスをたたえる。

「そうかっ!そなたその様な働きぶりをしたのか!後ほど、聞かせてくれまいか」

ジグランも合わせてエリオスを称賛しょうさんした。

ガサッ・・・・

エリオスは立ち上がりジグランに挨拶をする。

「・・・・失・・礼を致しました。ゴホッ。
お見苦しい姿にて申し訳ございません。
ジグラン様、お初にお目に掛かります。エリオス・ド・ローライドにございます」

「聞きしに勝る勇姿だの。オスカー、よくぞ育ててくれた。礼を申す」

「ジグラン様、エリオス様は赤子の頃より変わりません。
元々のご器量きりょうにございますれば
私は道しるべになれたならばとお仕えしたまでのこと」

「左様か。オスカー、謙遜けんそんをするな!
そなたが師であればことのエリオスの今であろう?
それにしても来年が楽しみだな。来年の今頃には入団であったな。
オスカーも引続き付従い騎士団にてエリオスの護衛ごえいになえばよいな。
また、西の屋敷にて楽しくやろうぞっ!」

ジグランはエリオスが訓練施設を出る7歳になった後もエリオスに従士として仕える様、オスカーへ告げる。

訓練施設同行の従士は教育係としての役目を終えると各家の従士に戻る事が常であった。まして負傷で騎士団を退団した従士を再び騎士団へ招き入れる等、例がないことであった。オスカーは驚く。

「ジグラン様、その様なおたわむれを!
私は不覚ふかくにも傷を負い騎士団を退団した身でございます。
再び騎士団へ戻れるとは思いもよらぬ事・・・・」

「オスカー、そなた不服ふふくか?嫌なのか?
再び騎士団へ戻り、役目を担う事が嫌なのか?」

滅相めっそうもございません。
いえ、前例なきこと故、ジグラン様のおたわむれかと思い・・・」

「私がたわむれで言葉を発する事があるか?
ないであろう?何!前例がなければつくればよい。
そながた前例のはじまりとなればよかろう?のう、バルドよっ!」

突然、話を振られたバルドは慌てる。

「はっ!・・・・ジグラン様の思し召しとあらば我らはどこへでもまいります」

「嬉しいのぉ。これでそなたとも2年後には共に西の屋敷にて剣を交える事が叶うな」

ジグランはバルドへ微笑みを向ける。

「はっ!・・・はっ?・・・
私もでございますか?・・・私もですかっっ!」

バルドは驚いた顔でオスカーと目を合わせる。

「左様、左様、団長と話していたのだ。
これからは訓練施設同行従士は7歳で入団する騎士の卵らと共に西の屋敷へ居住させ、
護衛役と教育係として14歳の叙任式じょにんしきを迎えるまでを見届けることが役目であろうとな」

ジグランは2人へ満面の笑みを向けた。
バルドとオスカーは顔を見合わせ、お互いの口元が緩むのを見るとジグランへ向き直りかしずいた。

ザッ!

「はっ!我ら!
我が主が無事に叙任を迎えるまで全身全霊をかけ!お仕え致します!」

バルドとオスカー2人の喜びの声が森に響いた。
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