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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~

第12話 インシデント8:青白き炎の騎士

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ポルデュラはバルドが話をしている間、長椅子で眠っているセルジオの様子を何度も確認していた。

『この話に封印が解かれる事はないと思うが・・・
あまりに強い『無念』であったからの』

封印したばかりの『青白き炎の騎士:青き血が流れるコマンドール』初代セルジオが幼子の中で鎮まってくれている事を願っていた。

バルドは話を聞き漏らさない様、厳しい表情を浮かべ緊張をしているベアトレスにお茶をすすめる。

「ベアトレス様、お身体とお心に力が入り過ぎておいでです。
少し、お茶を含まれてゆるりとお聴き下さい」

この状態では話の最後まで集中力が続かないであろう心使いだった。
ベアトレスはバルドのその言葉に呼吸を忘れていた事に気付く。

「・・・・バルド様、申し訳ございません。
私・・・・呼吸をする事も忘れておりました」

「はっはっはっはっ!」

ポルデュラが大きな声で笑う。

「ベアトレス、そなたは、ほんに微笑ましいの。
何度も申すが、そなたであったからこそセルジオ様は
今、ここでこの様に安んじて眠る事ができているぞ」

3人はセルジオの寝顔へ目を向ける。バルドはベアトレスへ向き直り再び話しはじめた。

「先程、ポルデュラ様がセルジオ様の奥深くに封印されましたのが、
シュタイン王国にいにしえより伝わる伝説の騎士
『青き血が流れるコマンドール』の再来とうたわれた
エステール伯爵家騎士団団長セルジオ・ド・エステール様でございます。
エステール伯爵家騎士団団長で初めて
『セルジオ』名を名乗ったことで初代セルジオ様とお呼びしております」

バルドは古のシュタイン王国伝説の騎士の話に及んだ。

シュタイン王国が建国されるはるか前、諸部族が地域を領有していた時代。弱小部族が強力部族に統合され、封建関係ほうけんかんけいを結び領主として地域支配をしていた。そして徐々に勢力図が拡大されいく。

この拡大に戦士として活躍したのが今の騎士達であった。その中にわずか150程の騎士で数千の騎士を圧倒した者がいた。他の追随を許さず、常勝じょうしょうを重ねシュタイン王国の領有地獲得に貢献した。

その騎士団を率いていた人物は『青き血が流れるコマンドール』と呼ばれ、その姿と剣を見ただけで敵方は背走はいそうしたと語り継がれ伝説の騎士となった。

「『その者、青白き炎を携え、剣を振るう。
剣は青き光を放ち一撃にて一団を切り裂く。
黄金に輝く髪、深く青い瞳、透き通る肌には青き血が流れる。
その名を持って国を守り、その名を持って国に安寧をもたらす』
これがシュタイン王国に古より伝わる
『青き血が流れるコマンドール』伝説の騎士の話にございます」

バルドはまるで見てきたかの様に伝説の騎士の話をした。

「そして、その伝説の騎士が手にしていた剣が
エステール伯爵家騎士団団長に継承けいしょうされている
『サファイヤの剣』だと伝えられております」

遠い時代から少しづつ今、この場に近づいてくるかの様な話し方にベアトレスは物語の中にいる様な錯覚を覚え、怖しさを感じる。

『まるで・・・その場にいる様な・・・』

その様子を察したポルデュラはベアトレスの手を優しく握った。

「安んずるな、ベアトレス。バルドの話は特別なのだ。
この者、従士であって魔術は使えぬが
謀略ぼうりゃくの魔導士』と呼ばれていたのだぞ。
バルドの深い紫色の瞳に魅入られると誰もがバルドの話に引き込まれる。
私でさえ、その場にいるように錯覚する。
ベアトレスが怖しさを覚えたとて致し方ない事だ」

ポルデュラは微笑み、握っているベアトレスの両手に和らぎの風をおくった。

「これで、少しは怖さが和らぐであろう。さっ、バルド続きを頼む」

バルドはうなずき、話を続けた。

「こうして『サファイヤの剣』は
今もエステール伯爵家騎士団団長に継承されております。
これよりは騎士団の名前の由来の話にございます」

シュタイン王国の18家名貴族は各々の家名で騎士団を擁立ようりつする。エステール伯爵家も初代セルジオの時代100有余年前までは『エステール騎士団』と家名をそのままに騎士団名としていた。

それが現在の『セルジオ騎士団』となったのは初代セルジオの死をその死のいきさつを忘れない為に当時のエステール伯爵家当主フリードリヒ一世がシュタイン王へ申出たからだった。

初代セルジオの実兄であるフリードリヒ一世は初代セルジオの死を許せず、マデュラ子爵家への報復ほうふく目論もくろむ程怒り心頭であった。

当時はまだ建国間もない頃であり、国の中は荒れていた。内紛が他国からの侵略の格好の餌食えじきとなる。シュタイン王からさとされたフリードリヒ一世は騎士団名に『セルジオ』の名を付ける事でマデュラ子爵家への報復を断念した。そして、マデュラ子爵家へ『ギャロット』の名を用いる事を禁じる事を取り付けて手打ちとした。

「初代セルジオ様の死後、エステール伯爵家騎士団名は
『セルジオ騎士団』となりました。
そして、騎士団団長の名前『セルジオ』も継承される事となりました」

初代セルジオから100有余年代替わりしてもエステール伯爵家第二子は『セルジオ』の名を継承する事となった。

「これにはいささか不都合がございます。
代替わり前の従士から騎士団へ入団された折りに
『セルジオ様』がお二人いらっしゃる事になります」

「そこで、叙任式じょにんしきを迎えられるまで
騎士団の中では男子であれば『ファルク』
女子であれば『ファルカ』とお呼び致します。
これはエステール伯爵家表の紋章ハヤブサの意となります。
ただ、訓練施設をお出になるまでは『セルジオ様』の名をそのままお呼び致します」

バルドは『セルジオの名の由来』を丁寧に話した。

「ここまでがシュタイン王国とエステール伯爵家、
継承されてきた剣と名の話となります」

バルドはお茶を口に含む。一呼吸すると再び話し出す。

「・・・・ポルデュラ様が封印された初代セルジオ様は
『伝説の騎士:青き血が流れるコマンドール』と呼ばれておりました。
そのお姿と戦われる時に発せられる『青白き炎』が
伝説の騎士であると皆が申したからにございました」


「お出ましになられた時も『青白き炎』を携えておいででしたので・・・私も目にしましたのは初めてでございました」

バルドはつい先ほどの事が遠い昔のできごとであったかのように感じていた。

「ポルデュラ様が初代セルジオ様のお出ましを
予感されていましたのも私が警戒しておりましたのも
初代セルジオ様のご無念の死から100有余年伝え聞いておりました事が
重なった事とラドフォール公爵家星の魔導士ダグマル様の
星の予兆によるものにございます」

バルドはいよいよ本題に入る。

「初代セルジオ様の時代、
エステール伯爵家ご当主がフリードリヒ一世様にございます。
そして、こちらへいらっしゃるセルジオ様の兄上様、
次期エステール伯爵家ご当主の名が『フリードリヒ』様にございます」

「これより先、セルジオ様が騎士団へ入団されるまでに
エステール伯爵領内10家名の准貴族騎馬騎士を配下に置かれます。
その第一隊長が准貴族ローライド准男爵家第二子『エリオス』様、
第二隊長がラドライト准男爵家第二子『ミハエル』様にございます」

「また、マデュラ子爵家第二子、次期マデュラ騎士団団長『イゴール』様、
お三方はただ今、この訓練施設にいらっしゃいます。
そして、シュタイン王国第14王女でいらっしゃいます
オーロラ・ラドフォール・ド・シュタイン様が昨年お産まれになりました」

「100有余年前の初代セルジオ様が無念のご最後を
遂げられた時と同じ『名』を持つ者が重なりました。
マデュラ子爵家は当時の『ギャロット』様の名は
以後名乗らない事となっておりますので、名は違いますが、
訓練施設にて同時期にまみえる事が初代セルジオ様以後、初めての事となります」

ベアトレスは不思議な思いを抱いていた。

『星の魔導士ダグマル様の予兆はともかく、
名が重なる事のみで?この様な出来事が起こるのでしょうか?』

心の中で抱いた言葉はポルデュラに伝わる。

「ベアトレス、不思議に思うやも知れぬが、
『名』というものは『魂』そのものなのだ。
肉体が滅びても『魂』は滅びぬ」


「新たな肉体を得、生まれ変わるまで神々の元へ召される。
現世の行いいかんで召される神の元が異なるだけじゃ。
ただ、私が封印した初代セルジオ様は『魂』は生まれかわられたが、
『無念』の思いをご自身の中に残されたままであった。
それが、バルドが先程申した『感情』だ」

ポルデュラはバルドの話に『感情』の話を付け加え、ベアトレスに説明をする。

バルドはセルジオの寝顔に目をやり、ポツリとつぶやく。

「『感情』は過ぎれば恐ろしいものにございます」

バルドは自身のつぶやきにはっとすると話しを続けた。

「こちらでお休みのセルジオ様は間違いなく
初代セルジオ様の生まれ変わりにございます。
そして、この先『伝説の騎士:青き血が流れるコマンドール』と
うたわれる事となりましょう」

バルドの何とも言えない表情にベアトレスは困惑する。

「バルド様、
『伝説の騎士』とうたわれる事は
その様に悲しいことなのでございますか?」

ベアトレスの言葉にバルドは自分自身の胸の内に困惑した。

「いえ、悲しい事ではございませんが・・・・
この先、尋常じんじょうではないご苦難に見舞われるであろうと思うと・・・」

バルドは言葉をにごす。

「案ずるな!バルド!
そなたとベアトレスがお傍に仕えておれば大事あるまい。
私もおるでな。安心いたせっ!」

ポルデュラはいつになくにこやかに2人に力強い言葉をかけた。

「左様でございますな!失礼を致しました」

バルドはセルジオに微笑みを向ける。

『我らが必ずセルジオ様をお守り致します』

バルドの心の声はポルデュラに伝わる。

「さっ、もう一杯お茶を飲まぬか?
しばし休憩といたそう。これからの事はその後でじっくり話すといたそう」

ポルデュラは2人を気づかい、新しいバラの花びらをポットへ散らした。
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