とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~

第10話 インシデント6:始りのはなし1

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ポルデュラの居室でテーブルを囲み、3人はポルデュラ特製のバラの茶と焼き菓子でしばしゆったりとした時を過ごしていた。
バルドが頃合いを見計らい、策を講じた後始末の状況を伝え始める。

「ポルデュラ様、先程、水屋の者達には
私から仔細しさいを話すと申し伝えておきました」

バルドは情報の発信源を限定した事を伝える。

「左様か。そなたより頼まれたラドフォール公爵への
言伝ことづては済んでおるぞ。安心いたせ」

ポルデュラもバルドから依頼された役目をすぐさま行動した事を伝えた。

「感謝申します。
私は水屋への言伝の後、エステール伯爵家へ赴き、
ハインリヒ様へ直接お話ししてまいります。
また後ほどこちらへ伺います」

バルドは今後の自らの行動を伝えた。
ベアトレスは2人の声が少し遠くで話している様で話の内容が耳に残らないと感じていた。

『意識が遠のいているのでしょうか?私は・・・・』

そう思いながらお茶を口に含むとバラの香りが鼻腔びくうを通り抜け、そのかぐわしさに目を閉じる。

『あぁ、何と心地がよいのでしょう。
まるでバラのそのに来たような・・・・』

バラの茶の香りにうっとりとしているベアトレスへ微笑みを向けポルデュラが言う。

「お茶が気に入ったか?ベアトレス。
バラの香で気持ちが華やぐであろう?」

ポルデュラはすっかりベアトレスが気に入った様だ。

「はい、何とも香しく身も心も
バラの息吹いぶきで目覚めるかの様です」

ベアトレスは先程まで足元がふらついていた身体がうそのように精気を取り戻している事を感じていた。

「それはよかった。
この花びらにはポルデュラの回復術がほどこしてあるでな。
そなたに効いた様だの」

ポルデュラは『お茶の用意』の意味を種明かしした。

バラの茶はラドフォール公爵家特製の茶で、ラドフォール公爵家魔導士が回復の魔術を施した物だ。
バラの香で人が持つ自然治癒力を目覚めさせ、その効力を高める作用が施してある。
ベアトレスが『精気せいきが戻る』と感じたのはその為だった。

ベアトレスはポルデュラの種明かしを聞き納得する

「はい、実はポルディラ様のお部屋へ伺う前、
足元がふらつき、危うくセルジオ様から手を離してしまう所を
バルド様へ助けて頂きました。
今は、足先から力が蘇る様で身体に力が湧き出でてくるようです」

ポルデュラ嬉しそうに微笑んだ。

「そうか、そうか、足元から力が湧いてくるか。なによりだな」

「はい。ポルデュラ様、感謝申します。
先程のお2人のお話も気が遠のいていたのか、
どこか遠くからの声の様に聞え、
お話の内容が全く耳に残りませんでした。
今は、こうしてポルディラ様のお話もすっかり耳に残ります」

「はっはっはっはっ!!」

ベアトレスの言葉にポルデュラが突然高らかに笑う。

「ベアトレス、話しが遠くに聞え、
内容が耳に残らないのは当然のことなのだ。
我らは耳に残らぬ様に話しておったからな」

ポルデュラはバルドと顔を見合わせ、目配せをする。ポルデュラとバルドの話し方の説明をうながしたのだ。

「ベアトレス様、戦場での話し方にございます。
他へ漏れぬ様、漏らさぬ様、言葉を交わす相手との間でのみ
言霊ことだま』で話します。
ポルデュラ様は風の魔導士、その言霊ことだま
風に溶け込ませ、粉々にくだきます。
それ故、耳には残らず、話しをしていることのみしかわかりません」

バルドは丁寧に説明をした。
バルドの説明を聞くとベアトレスは少し寂しい気持ちになった。

『私は・・・・
やはりお2人の足手まといになるのではないか・・・・』

心の内で思っているとバルドはポルデュラの目線にうなずいた。そろそろ本題に入れとのポルデュラからの合図だった。

「ベアトレス様、これより先程の騒ぎの前のお話しを致します」

バルドはお茶のカップをテーブルに置き、厳しい顔つきになる。

「事態が大きく変わりました。
ポルデュラ様に同席して頂き、
エステール伯爵家とマデュラ子爵家の
因縁『始まりのはなし』から、
そして先程ポルデュラ様が封印された
『青白き炎』の中にお出ましになられたお方の事、
セルジオ様と我ら2人のこれからの役目とお話ししてまいります」

バルドは話の全体像を伝えた。

「途中、ご気分が悪くなれられる様でしたら休憩を取ります。
ご案じなさいますな」

バルドはベアトレスの心と身体にかかる負担が最小限で納まる心遣いをした。

「『始まりのはなし』はエステール伯爵家全ての者が
存じているものではございません。
ごく少数の者のみに100有余年語り継がれております。
故にこの度、ベアトレス様のお耳に入れます事は
生涯、口外できぬことと思し召し下さい」

バルドはまず話の内容が限定された少数の者のみ知りうる秘密事であると念を押した。そして続ける。

「まずはシュタイン王国国王、シュタイン王国王都騎士団総長、
王都近衛師団団長、ラドフォール公爵家ご当主と騎士団団長、
ラドフォール公爵家魔導士ポルデュラ様」

「エステール伯爵家内では、ご当主様、セルジオ騎士団団長セルジオ様、
こちらへおいでのセルジオ様の叔父上様にございます。
第一隊長を務めます准貴族ローライド准男爵家、
第二隊長ラドライト准男爵家のみでございます。
私が知り得ておりますのはセルジオ様の従士として
訓練施設に赴く際にご当主ハインリヒ様より直接伺いました」

ここまでのバルドの話にベアトレスは足の震えを覚える。その様子にポルデュラが優しく諭す。

「案ずるでない!ベアトレス。
そなたが知らずばセルジオ様をお守りできぬ故、
バルドが話しておるのだ。
そなたにできる事は、聴き漏らさぬ様、
話しを全て受け止める事のみ。されば何も案ずることはないぞ」

ポルデュラは厳しい中にも優しい言葉を選びベアトレスを話に集中させる。

「ポルディラ様・・・承知致しました。
今は、お話しを全て聴き漏らさぬ事のみ集中致します」

ベアトレスは自身の両手を胸の前で握りしめ目を閉じ、呼吸を整える。

「バルド様、お話の途中にて失礼を致しました。どうぞ、お続け下さい!!」

ベアトレスは長椅子で珍しくすやすやと眠るセルジオの様子を伺う。そして、力強い視線をバルドに向けた。

「では、続けます。
まずはエステール伯爵家とマデュラ子爵家の因縁の始まりから・・・・」

バルドは静かに話しだした。

それは感情を持つ事が『悪』となった騎士達の『始まりのはなし』であった。
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