あのころの君へ

春華(syunka)

文字の大きさ
上 下
1 / 4

プロローグ:回顧

しおりを挟む
「これっ、貰ってくれるかな?」

「これは?なに?」

紙袋を覗くと画用紙より一回り大きめの厚い段ボールで丁寧に梱包された物が入っていた。

「うん。昨年の・・・・その・・・・」

少年は紙袋の中身を伝えることを躊躇ためらう。

「昨年のなに?開けてみてもいい?」

断りを入れてからガサガサと厚い段ボールを縛っている紐をほどいた。

「これって、これから必要なんじゃないの?
全国コンクールに出すって聞いたけど・・・・」

白い額に収められた人物画が顔を覗かせた。

「うん、いいんだ。
元々、書きあがったら華ちゃんに渡そうと思ってたんだ。
だから・・・・貰ってくれる?」

「でも、先生は知ってるの?
全国コンクールに出すんでしょう?
全校集会で校長先生も言ってたじゃない?
貰えないよ」

手渡された紙袋ごと、目の前にいる少年に返そうと手を伸ばした。

「いいんだよっ!
華ちゃんに貰って欲しいんだっ!
もう、会えないじゃない!
華ちゃん、引越するから会えないじゃない!
だからっ!持ってて!」

ぐいっ!

少年は紙袋を強引に手渡すと全速力で走り去った。

「・・・・ん・・・・任・・・・主任っ!
神崎さんっ!聞いてますか?」

ハッ!

机の上に並べられた一枚の日本画の作品写真に目が留まり、遠い記憶の中を彷徨さまよっていた。

(しまった。打合せ中だった)

慌てて隣で作品の配列を確認する同僚の顔を見る。

「ごめんなさい。少しぼんやりしました」

机を挟んで座るオーナーにお詫びをする。

「とんでもないわ。
こちらこそ、付き合わせてしまってごめんなさいね。
手にしていらっしゃる写真の作品が神崎さんのお好みかしら?」

オーナーがにこやかに問いかける。

「そうですね。
日本画は好きです。
陽の光が優しく感じられて・・・・」

柔らかな陽の光が射し込む窓辺を背景にキャンパスへ真剣な眼差しを向ける少し赤みのある緩やかな巻き毛の女性が描かれた日本画の作品写真に再び目を落とした。

作品タイトルは『君へ』、作者は『高階和也』

「神崎さんにお会いした時、
はじめての感じがしなかったの。
どこかでお会いした事がある気がしていたのよ。
この作品の女性に似ていたのだと後から気が付いたわ」

オーナーは上品な微笑みを向ける。

オーナーの言葉に同僚がどれ?と手にする作品写真を覗きこんだ。

まじまじと写真と私を交互に見ると

「似てなくもないですね。
雰囲気は全く違いますけど!
作品の女性は穏やかで柔らかな感じですけど・・・・
神崎さんは切れ味がよい剣のイメージですからね。
剣も両刃のソードですね。
ソードマスターと言ってもいい位の雰囲気ですから」

少し悪戯っぽく同僚が言う。

「まぁ、
会社での神崎さんは切れ味がよい剣の様な方なの?
私にはこの日本画の女性の様に感じるわ」

「そうなんですよね。
会社では切れ味抜群なんです。
オーナーからも一言お願いします。
もう少し穏やかで柔らかな感じを醸し出して欲しいと」

やいのやいのと私のイメージで盛り上がっている2人の声を耳にしながら手にしている日本画の作品写真を見る。

(作者、高階和也・・・・
あぁ、そうだ。和君って呼んでいたんだっけ・・・・)

打合せ中だと我に返ると盛り上がる2人の会話に時折相槌を打った。

8階建てのテナントビル1階にオープンするギャラリーに展示する作品の配置を一点づつオーナーと確認をする。

「ありがとう。これで配置は完璧ね」

オーナーはギャラリーのオープンが待ちきれない様子で両手を結んで楽し気に微笑んだ。

「作品の設置と展示は、手配済ですからご安心下さい。
明後日の午前7時から設置作業に入ります。
我々も立会させて頂きます」

オーナーの夢の一つであった若手作家を支援するギャラリーのオープンは2週間後に迫っていた。

「そうして頂けると助かるわ。
神崎さんが立会して下さるなら安心だもの」

「その様に仰って頂けると幸いです。
ありがとうございます」

「そうだわっ!!
お伝えしておくわね。
神崎さんからギャラリーの運営はアートディレクターに
任せた方がよいと言われていた件ね、
引き受けて下さる方が見つかったの。
明後日の設置から入って頂ける事になったわ。
当日にご紹介するわね。
今は、東京にお住まいなのだけれど
ディレクターの仕事の分量でこちらへ引越して下さるの。
住まいはいくらでも手配できるからと伝えてあるわ」

「そうでしたか。
オーナーのお眼鏡に叶う方がいらしてよかったですね」

ギャラリーオープンまでの最終スケジュールを確認し、同僚の佐藤とギャラリーを後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まぶたの裏の愛しい人よ

瀬野凜花
ライト文芸
公園で出会った、初恋の男の子の柊斗くん。 でも、2人とも引っ越しをして会えなくなってしまった。 会いたいよ。 エブリスタ様でも投稿しています。

疎遠になった幼馴染の距離感が最近になってとても近い気がする 〜彩る季節を選べたら〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
ライト文芸
「一緒の高校に行こうね」 恋人である幼馴染と交わした約束。 だが、それを裏切って適当な高校に入学した主人公、高原翔也は科学部に所属し、なんとも言えない高校生活を送る。 孤独を誇示するような科学部部長女の子、屋上で隠し事をする生徒会長、兄に対して頑なに敬語で接する妹、主人公をあきらめない幼馴染。そんな人たちに囲まれた生活の中で、いろいろな後ろめたさに向き合い、行動することに理由を見出すお話。

春日遅々

阿波野治
ライト文芸
十九歳の女の子・エミルの春休みの一日。 始まらないし終わらないお話。

降霊バーで、いつもの一杯を。

及川 輝新
ライト文芸
主人公の輪立杏子(わだちきょうこ)は仕事を辞めたその日、自宅への帰り道にあるバー・『Re:union』に立ち寄った。 お酒の入った勢いのままに、亡くなった父への複雑な想いをマスターに語る杏子。 話を聞き終えたマスターの葬馬(そうま)は、杏子にこんな提案をする。 「僕の降霊術で、お父様と一緒にお酒を飲みませんか?」 葬馬は、亡くなった人物が好きだったお酒を飲むと、その魂を一時的に体に宿すことができる降霊術の使い手だったのだ。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

独り日和 ―春夏秋冬―

八雲翔
ライト文芸
主人公は櫻野冬という老女。 彼を取り巻く人と犬と猫の日常を書いたストーリーです。 仕事を探す四十代女性。 子供を一人で育てている未亡人。 元ヤクザ。 冬とひょんなことでの出会いから、 繋がる物語です。 春夏秋冬。 数ヶ月の出会いが一生の家族になる。 そんな冬と彼女を取り巻く人たちを見守ってください。 *この物語はフィクションです。 実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。 八雲翔

三度目の庄司

西原衣都
ライト文芸
庄司有希の家族は複雑だ。 小学校に入学する前、両親が離婚した。 中学校に入学する前、両親が再婚した。 両親は別れたりくっついたりしている。同じ相手と再婚したのだ。 名字が大西から庄司に変わるのは二回目だ。 有希が高校三年生時、両親の関係が再びあやしくなってきた。もしかしたら、また大西になって、また庄司になるかもしれない。うんざりした有希はそんな両親に抗議すべく家出を決行した。 健全な家出だ。そこでよく知ってるのに、知らない男の子と一夏を過ごすことになった。有希はその子と話すうち、この境遇をどうでもよくなってしまった。彼も同じ境遇を引き受けた子供だったから。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

処理中です...