呂布奉先、ローマを治める <序>

ヲヲクラゲ

文字の大きさ
上 下
21 / 23

第二十一話 呂布奉先、ローマを治める <序>

しおりを挟む
 どん、と奥間の戸板が勢いよく開き二つの人影が現れた。

 「隠れて聞いてりゃあ俺だけ除け者にしやがって!」先頭の人影がまくし立てる。

 「隠れていたつもりかこの馬鹿者が!」

 いつにもまして不機嫌そうな顔でラクレスは叱責した。

 紙燭の明りでもはっきりとわかる。

 人影は可比能と季蝉だった。

 ラクレスが言うように呂布は部屋に入ったときから奥の間に息をひそめた珍客の存在を認めていた。

 ただ呂大夫とラクレスが気付いていないわけもなく放っておいたのだ。


 呂大夫を見るとおかしそうに二人のやりとりを肴に酒を飲みはじめている。

 可比能の表情は心底悔しがっているようだった。
 
 身振りも交えてラクレスに喰ってかかる。

 可比能の後ろに控えた季蝉の落ち着いた表情とは対象的である。

 「やい、くそ親父!俺も連れていけ!」

 「だめだ」

 「なんでだよ!」

 「死ぬからだ」

 「死なねえよ!子供扱いしやがって!つれてけ!」

 「だめだ」

 「死んでもかまわねぇ!」

 「足手まといだ」

 堂々巡りである。

 「呂大夫様の前だぞ、わきまえんか!隠れて話を聞くことを暗に許されただけでも有り難く思え!」
 「嫌だね!だいたい…」

 その言葉が終わらぬうちにラクレスの拳が可比能の頬をとらえた。

 派手な音が室内に響き可比能は元いた奥の間まで文字通り飛んでいった。


 「我が息子ながら痴れ者というに他なりません…お許しを…」

 深々とラクレスは呂大夫に頭をさげた。

 奥の暗闇から弱々しい可比能の声が聞こえる。

 言葉の最後は涙声に変わっていた。

 「ちきしょう…なんで連れてってくれねえんだよ…俺が…鮮卑に捨てられた子供だからかよ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日日晴朗 ―異性装娘お助け日記―

優木悠
歴史・時代
―男装の助け人、江戸を駈ける!― 栗栖小源太が女であることを隠し、兄の消息を追って江戸に出てきたのは慶安二年の暮れのこと。 それから三カ月、助っ人稼業で糊口をしのぎながら兄をさがす小源太であったが、やがて由井正雪一党の陰謀に巻き込まれてゆく。 月の後半のみ、毎日10時頃更新しています。

『影武者・粟井義道』

粟井義道
歴史・時代
📜 ジャンル:歴史時代小説 / 戦国 / 武士の生き様 📜 主人公:粟井義道(明智光秀の家臣) 📜 テーマ:忠義と裏切り、武士の誇り、戦乱を生き抜く者の選択 プロローグ:裏切られた忠義  天正十年——本能寺の変。  明智光秀が主君・織田信長を討ち果たしたとき、京の片隅で一人の男が剣を握りしめていた。  粟井義道。  彼は、光秀の家臣でありながら、その野望には賛同しなかった。  「殿……なぜ、信長公を討ったのですか?」  光秀の野望に忠義を尽くすか、それとも己の信念を貫くか——  彼の運命を決める戦いが、今始まろうとしていた。

徳川家康。一向宗に認められていた不入の権を侵害し紛争に発展。家中が二分する中、岡崎に身を寄せていた戸田忠次が採った行動。それは……。

俣彦
歴史・時代
1563年。徳川家康が三河国内の一向宗が持つ「不入の権」を侵害。 両者の対立はエスカレートし紛争に発展。双方共に関係を持つ徳川の家臣は分裂。 そんな中、岡崎に身を寄せていた戸田忠次は……。

奇妙丸

0002
歴史・時代
信忠が本能寺の変から甲州征伐の前に戻り歴史を変えていく。登場人物の名前は通称、時には新しい名前、また年月日は現代のものに。if満載、本能寺の変は黒幕説、作者のご都合主義のお話。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

蘭癖高家

八島唯
歴史・時代
 一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。  遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。  時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。  大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを―― ※挿絵はAI作成です。

新・大東亜戦争改

みたろ
歴史・時代
前作の「新・大東亜戦争」の内容をさらに深く彫り込んだ話となっています。第二次世界大戦のifの話となっております。

処理中です...