12 / 23
第十二話 呂布奉先、ローマを治める <序>
しおりを挟む
「長旅になるのですかな?」
男が問う。
「恐らくは」ラクレスは簡潔に答えた。
短い言葉のやり取りの中ラクレスは男の剣気が微妙に揺らぐのを感じた。
だがその揺らぎが何を意味するのかは分からない。
「見えませぬか。また弱くなりましたな…ラクレス殿」
そう言うと男は残念そうに髭をさすった。
何が見えぬのか問おうとしてラクレスは止めた。
ラクレスが老いたのではない、男がもはや届かぬ所まで昇ったのであろう。
「邪魔したようです。旅の武運を祈ります」
男は目を開け腰をあげた。
戸口までラクレスが送ると、薙刀を手にとり振り返った男は思い出したように問うた。
「呂大夫の倅を鍛えているのか」
突然の言葉にラクレスは真意を計りかねた。口調が変化している。
魂を軋ませるような声である。
男の風貌と言葉がやっとかみ合ったようにも見える。
「今は近傍の丘に登っております」用心しながら答える。
「そやつは剛くなりそうか?」
ラクレスは間を置き、しかしはっきりと言った。
「…伯様は天才です。百年に1人の者となるでしょうな」
「儂の相手ができる程度にか」
男の目は鬼の目であった。
「残念ながら」とラクレスは首を横に振った。
人が鬼獣に勝てるのは物語の中だけだ。
伯がこの鬼獣に勝てるとするならばその時すでに伯も人ではなかろう。
ラクレスは伯にそういう道を歩いてほしくはなかった。
その時部屋で異様な音が響き机が真っ二つに割れた。
ラクレスは部屋での言葉に得心し、目の前の男に深々と別れの作法をとった。
男が問う。
「恐らくは」ラクレスは簡潔に答えた。
短い言葉のやり取りの中ラクレスは男の剣気が微妙に揺らぐのを感じた。
だがその揺らぎが何を意味するのかは分からない。
「見えませぬか。また弱くなりましたな…ラクレス殿」
そう言うと男は残念そうに髭をさすった。
何が見えぬのか問おうとしてラクレスは止めた。
ラクレスが老いたのではない、男がもはや届かぬ所まで昇ったのであろう。
「邪魔したようです。旅の武運を祈ります」
男は目を開け腰をあげた。
戸口までラクレスが送ると、薙刀を手にとり振り返った男は思い出したように問うた。
「呂大夫の倅を鍛えているのか」
突然の言葉にラクレスは真意を計りかねた。口調が変化している。
魂を軋ませるような声である。
男の風貌と言葉がやっとかみ合ったようにも見える。
「今は近傍の丘に登っております」用心しながら答える。
「そやつは剛くなりそうか?」
ラクレスは間を置き、しかしはっきりと言った。
「…伯様は天才です。百年に1人の者となるでしょうな」
「儂の相手ができる程度にか」
男の目は鬼の目であった。
「残念ながら」とラクレスは首を横に振った。
人が鬼獣に勝てるのは物語の中だけだ。
伯がこの鬼獣に勝てるとするならばその時すでに伯も人ではなかろう。
ラクレスは伯にそういう道を歩いてほしくはなかった。
その時部屋で異様な音が響き机が真っ二つに割れた。
ラクレスは部屋での言葉に得心し、目の前の男に深々と別れの作法をとった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
日日晴朗 ―異性装娘お助け日記―
優木悠
歴史・時代
―男装の助け人、江戸を駈ける!―
栗栖小源太が女であることを隠し、兄の消息を追って江戸に出てきたのは慶安二年の暮れのこと。
それから三カ月、助っ人稼業で糊口をしのぎながら兄をさがす小源太であったが、やがて由井正雪一党の陰謀に巻き込まれてゆく。
月の後半のみ、毎日10時頃更新しています。
三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河
墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。
三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。
全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。
本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。
おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。
本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。
戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。
歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。
※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。
※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

奇妙丸
0002
歴史・時代
信忠が本能寺の変から甲州征伐の前に戻り歴史を変えていく。登場人物の名前は通称、時には新しい名前、また年月日は現代のものに。if満載、本能寺の変は黒幕説、作者のご都合主義のお話。


世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
融女寛好 腹切り融川の後始末
仁獅寺永雪
歴史・時代
江戸後期の文化八年(一八一一年)、幕府奥絵師が急死する。悲報を受けた若き天才女絵師が、根結いの垂髪を揺らして江戸の町を駆け抜ける。彼女は、事件の謎を解き、恩師の名誉と一門の将来を守ることが出来るのか。
「良工の手段、俗目の知るところにあらず」
師が遺したこの言葉の真の意味は?
これは、男社会の江戸画壇にあって、百人を超す門弟を持ち、今にも残る堂々たる足跡を残した実在の女絵師の若き日の物語。最後までお楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる