2 / 23
第二話 呂布奉先、ローマを治める <序>
しおりを挟む
ラクレスの緑色の瞳が深さを増した。
じとり、と場が特別な空気に変わっていく。
二人が履く羊革をなめして作った靴はまるで動いていない。
しかし少しずつ2人の剣気は大きく、鋭くなり相手に向かっていく。
この微妙な 空間の歪み。武に暗い者には分かるまい。
伯は思う。大きな剣気の波は周りの物の質、量をも変える。
ラクレスの剣気は一定ではない。寄せては返す波のようである。こちらが行こうと思えば退き、逆に退こうと思えば来る。
決して相手の剣気と交わろうとはしない。その境目ぎりぎりの所で伯もまた機を伺っている。
剣気の進退に合わせ、ラクレスの存在は大きくも小さくもなる。
これを感じられない者であれば、ラクレスに一呼吸の間に打ち倒されているだろう。
今うちこめば十中十かわされる。
故に撃たない。
今うちこめば良くて相打ち。
故に動かない。
今うちこめばどうなるか。
故に動けない。
逡巡する伯をからかうように、ラクレスから発せられる剣気が突然消えた。
頭で考える前に体が勝手に反応する。
重心を前に落とし滑るようにラクレスに踏み込む。
瞬間。
ラクレスの姿は陽炎のようにゆらぎ、消えた。
足首の動きだけで伯の左方へ飛んでいる。50を過ぎたと聞く男の動きではない。
完全に間合いを外された伯は、しかしその動きに付き合うことはしなかった。
ラクレスの側面からの打ち込みを前を向いたまま弾き返す。
乾いた音が鳴るのと同時にラクレスは二度目の跳躍を行い完全に伯の後方に出た。
剣を弾き返された反動を利用した恐るべき体捌きである。
無防備な後頭部に向けラクレスは竹を割るように剣を振り下ろす。
その剣が頭部を捉えたと見えた瞬間、伯は右足を軸に反転していた。
ラクレスの剣は軸をずらした伯の頭髪をかすめ、交差するように振られた伯の剣先がラクレスの額の上でぴたりと止められた。
「お見事です。伯様」
やはり怒ったようにラクレスは言った。
じとり、と場が特別な空気に変わっていく。
二人が履く羊革をなめして作った靴はまるで動いていない。
しかし少しずつ2人の剣気は大きく、鋭くなり相手に向かっていく。
この微妙な 空間の歪み。武に暗い者には分かるまい。
伯は思う。大きな剣気の波は周りの物の質、量をも変える。
ラクレスの剣気は一定ではない。寄せては返す波のようである。こちらが行こうと思えば退き、逆に退こうと思えば来る。
決して相手の剣気と交わろうとはしない。その境目ぎりぎりの所で伯もまた機を伺っている。
剣気の進退に合わせ、ラクレスの存在は大きくも小さくもなる。
これを感じられない者であれば、ラクレスに一呼吸の間に打ち倒されているだろう。
今うちこめば十中十かわされる。
故に撃たない。
今うちこめば良くて相打ち。
故に動かない。
今うちこめばどうなるか。
故に動けない。
逡巡する伯をからかうように、ラクレスから発せられる剣気が突然消えた。
頭で考える前に体が勝手に反応する。
重心を前に落とし滑るようにラクレスに踏み込む。
瞬間。
ラクレスの姿は陽炎のようにゆらぎ、消えた。
足首の動きだけで伯の左方へ飛んでいる。50を過ぎたと聞く男の動きではない。
完全に間合いを外された伯は、しかしその動きに付き合うことはしなかった。
ラクレスの側面からの打ち込みを前を向いたまま弾き返す。
乾いた音が鳴るのと同時にラクレスは二度目の跳躍を行い完全に伯の後方に出た。
剣を弾き返された反動を利用した恐るべき体捌きである。
無防備な後頭部に向けラクレスは竹を割るように剣を振り下ろす。
その剣が頭部を捉えたと見えた瞬間、伯は右足を軸に反転していた。
ラクレスの剣は軸をずらした伯の頭髪をかすめ、交差するように振られた伯の剣先がラクレスの額の上でぴたりと止められた。
「お見事です。伯様」
やはり怒ったようにラクレスは言った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

奇妙丸
0002
歴史・時代
信忠が本能寺の変から甲州征伐の前に戻り歴史を変えていく。登場人物の名前は通称、時には新しい名前、また年月日は現代のものに。if満載、本能寺の変は黒幕説、作者のご都合主義のお話。

徳川家康。一向宗に認められていた不入の権を侵害し紛争に発展。家中が二分する中、岡崎に身を寄せていた戸田忠次が採った行動。それは……。
俣彦
歴史・時代
1563年。徳川家康が三河国内の一向宗が持つ「不入の権」を侵害。
両者の対立はエスカレートし紛争に発展。双方共に関係を持つ徳川の家臣は分裂。
そんな中、岡崎に身を寄せていた戸田忠次は……。

旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。

わが友ヒトラー
名無ナナシ
歴史・時代
史上最悪の独裁者として名高いアドルフ・ヒトラー
そんな彼にも青春を共にする者がいた
一九〇〇年代のドイツ
二人の青春物語
youtube : https://www.youtube.com/channel/UC6CwMDVM6o7OygoFC3RdKng
参考・引用
彡(゜)(゜)「ワイはアドルフ・ヒトラー。将来の大芸術家や」(5ch)
アドルフ・ヒトラーの青春(三交社)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる