193 / 194
アスタリア王国編
185 温かな愛に触れましょう
しおりを挟む
「エリー様、クリス様。ごきげんいかがですか」
「ラウル先生!」
エリーナは声を弾ませ、近づいて来たラウルに微笑みかけた。クリスが少し不機嫌そうな顔をする。
「エリー様、本日もお美しいですね」
「先生。そうやってエリーナを誘惑するの止めてくれる?」
妖艶な笑みを浮かべて賛辞を贈るラウルに、クリスが眉間に皺を寄せる。
「クリス様は相変わらず嫉妬深いですね。サリーが心配していましたよ」
呆れ顔のラウル。サリーの名が出てきて、エリーナはパッと顔を明るくした。
「サリーは元気にしてるの?」
「えぇ、本当によく働いてくれます。おかげで何不自由なく生活できていますよ。エリー様は何かお困りのことはありませんか?」
「うふふ、大丈夫よ。もうすぐ王都の屋敷に引っ越すから、そろそろ準備を始めるつもりなの」
本当はクリスがもらっている王都から離れた領地にいくつもりだったのだが、クリスにも公務が割り振られたため、王都の屋敷に移ることになったのだ。さすがに十年好きにしていたツケは簡単に払いきれない。エリーナは王宮生活でも不自由はないのだが、クリスは王宮より屋敷で自由にしたいらしい。
「あぁ、近くの区画でしたよね」
「不本意ながら、近いんだよね」
朗らかに笑うラウルに対して、不服そうなクリス。貴族が住む区画は固まっており、ラウルの屋敷とは近所になる。
「いつでも遊びに来てくださいね。サリーと待っていますから」
「えぇ、第三の実家ですもの」
第一がローゼンディアナ家、第二がオランドール家、第三がラウル家だ。そして第四にラルフレア王家が入っている。
実家が近くなることに危機感を持ったクリスはエリーナの腰に手を回し、引き寄せる。
「エリー。先生のとこに行くときは、絶対僕に言ってね。すぐに迎えをやるから」
「クリス……過保護よ」
エリーナが冷たい視線を向ければ、クリスはうっと言葉に詰まる。嫌いになった? と不安げな目を向けてくるのが可愛い。
「ロマンス小説とプリンを用意しておきますから」
「ぜひ行くわ」
「エリー!」
悲壮な表情をしたクリスを見て、二人はくすくすと笑う。からかわれたと気づいたクリスは、ムッとした表情でそっぽを向いた。ラウルの前では二人とも子どもの表情を覗かせる。いつまでも、ラウルの大人っぽさには敵わない。
そして楽しく談笑をすれば、管弦楽団の曲調が変わりダンスの時間が始まった。エリーナはクリスに手を引かれ、ラウルに別れの挨拶をして広間の中央へと向かう。まずはベロニカとジークが二人きりで踊るのだ。十年以上一緒に踊っている二人の息はぴったりで、圧巻の踊りだった。一曲が終われば拍手が巻き起こり、二曲目が始まれば他の貴族たちも踊りに加わっていく。
エリーナもクリスと踊り、曲の流れに身を任せた。二人にも注目が集まり、少し気恥ずかしくなるが平常心を保って踊り続ける。王族に恥じない踊りを見せ、ダンスの輪から外れれば同じく輪から外れたベロニカたちと目があった。
「ジーク様、ベロニカ様。ご結婚おめでとうございます」
エリーナとクリスが祝福の言葉を述べると、二人は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。来てくれて嬉しいよ」
「エリーナ。あなた式でぼろ泣きしていたでしょう。恥ずかしいったらないわ」
そうは言いつつも嬉しそうで、照れ隠しなのが丸わかりだ。
「だって、とても素晴らしい式だったんですもの。ベロニカ様が幸せそうで、こちらまで感動しましたわ」
今思い出しても泣けてくる。さっそく目を潤ませるエリーナを見て、ベロニカは呆れ顔になった。だがそれはすぐに恥ずかしそうな、何かを考えているような顔になり、エリーナは目を瞬かせて表情に注目する。
そして自分の負けを認めるような顔で笑って、弾んだ声を返した。
「だって、ジークを愛しているのだもの」
飾りっ気のない、まっすぐな言葉に隣で聞いていたジークが真っ赤になり、エリーナも「きゃぁ」と顔を赤くして胸をときめかせる。
愛している。その短い言葉には今までの長い月日と、万感の想いが込められている。エリーナの胸にずしりと響き、クリスを見上げた。クリスから何度もその言葉をもらったのに、まだエリーナは伝えられていない。胸が締め付けられた。
「エリーナ。次はあなたの番よ。わたくし以上に幸せにならないと、許さないんだから!」
「はい! ベロニカ様!」
エリーナは涙を浮かべ、満面の笑みを浮かべる。そして結婚披露宴は懐かしいみんなと幸せを分かち合い、無事終わりを告げたのだった。
「ラウル先生!」
エリーナは声を弾ませ、近づいて来たラウルに微笑みかけた。クリスが少し不機嫌そうな顔をする。
「エリー様、本日もお美しいですね」
「先生。そうやってエリーナを誘惑するの止めてくれる?」
妖艶な笑みを浮かべて賛辞を贈るラウルに、クリスが眉間に皺を寄せる。
「クリス様は相変わらず嫉妬深いですね。サリーが心配していましたよ」
呆れ顔のラウル。サリーの名が出てきて、エリーナはパッと顔を明るくした。
「サリーは元気にしてるの?」
「えぇ、本当によく働いてくれます。おかげで何不自由なく生活できていますよ。エリー様は何かお困りのことはありませんか?」
「うふふ、大丈夫よ。もうすぐ王都の屋敷に引っ越すから、そろそろ準備を始めるつもりなの」
本当はクリスがもらっている王都から離れた領地にいくつもりだったのだが、クリスにも公務が割り振られたため、王都の屋敷に移ることになったのだ。さすがに十年好きにしていたツケは簡単に払いきれない。エリーナは王宮生活でも不自由はないのだが、クリスは王宮より屋敷で自由にしたいらしい。
「あぁ、近くの区画でしたよね」
「不本意ながら、近いんだよね」
朗らかに笑うラウルに対して、不服そうなクリス。貴族が住む区画は固まっており、ラウルの屋敷とは近所になる。
「いつでも遊びに来てくださいね。サリーと待っていますから」
「えぇ、第三の実家ですもの」
第一がローゼンディアナ家、第二がオランドール家、第三がラウル家だ。そして第四にラルフレア王家が入っている。
実家が近くなることに危機感を持ったクリスはエリーナの腰に手を回し、引き寄せる。
「エリー。先生のとこに行くときは、絶対僕に言ってね。すぐに迎えをやるから」
「クリス……過保護よ」
エリーナが冷たい視線を向ければ、クリスはうっと言葉に詰まる。嫌いになった? と不安げな目を向けてくるのが可愛い。
「ロマンス小説とプリンを用意しておきますから」
「ぜひ行くわ」
「エリー!」
悲壮な表情をしたクリスを見て、二人はくすくすと笑う。からかわれたと気づいたクリスは、ムッとした表情でそっぽを向いた。ラウルの前では二人とも子どもの表情を覗かせる。いつまでも、ラウルの大人っぽさには敵わない。
そして楽しく談笑をすれば、管弦楽団の曲調が変わりダンスの時間が始まった。エリーナはクリスに手を引かれ、ラウルに別れの挨拶をして広間の中央へと向かう。まずはベロニカとジークが二人きりで踊るのだ。十年以上一緒に踊っている二人の息はぴったりで、圧巻の踊りだった。一曲が終われば拍手が巻き起こり、二曲目が始まれば他の貴族たちも踊りに加わっていく。
エリーナもクリスと踊り、曲の流れに身を任せた。二人にも注目が集まり、少し気恥ずかしくなるが平常心を保って踊り続ける。王族に恥じない踊りを見せ、ダンスの輪から外れれば同じく輪から外れたベロニカたちと目があった。
「ジーク様、ベロニカ様。ご結婚おめでとうございます」
エリーナとクリスが祝福の言葉を述べると、二人は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。来てくれて嬉しいよ」
「エリーナ。あなた式でぼろ泣きしていたでしょう。恥ずかしいったらないわ」
そうは言いつつも嬉しそうで、照れ隠しなのが丸わかりだ。
「だって、とても素晴らしい式だったんですもの。ベロニカ様が幸せそうで、こちらまで感動しましたわ」
今思い出しても泣けてくる。さっそく目を潤ませるエリーナを見て、ベロニカは呆れ顔になった。だがそれはすぐに恥ずかしそうな、何かを考えているような顔になり、エリーナは目を瞬かせて表情に注目する。
そして自分の負けを認めるような顔で笑って、弾んだ声を返した。
「だって、ジークを愛しているのだもの」
飾りっ気のない、まっすぐな言葉に隣で聞いていたジークが真っ赤になり、エリーナも「きゃぁ」と顔を赤くして胸をときめかせる。
愛している。その短い言葉には今までの長い月日と、万感の想いが込められている。エリーナの胸にずしりと響き、クリスを見上げた。クリスから何度もその言葉をもらったのに、まだエリーナは伝えられていない。胸が締め付けられた。
「エリーナ。次はあなたの番よ。わたくし以上に幸せにならないと、許さないんだから!」
「はい! ベロニカ様!」
エリーナは涙を浮かべ、満面の笑みを浮かべる。そして結婚披露宴は懐かしいみんなと幸せを分かち合い、無事終わりを告げたのだった。
0
お気に入りに追加
754
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる