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アスタリア王国編
178 親友の恋を祝いましょう
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三国の交流はイベントが目白押しであり息つく暇もない忙しさであるが、ベロニカはエリーナ王女とお茶をするという名目を付け、時間を作ったのである。ジークは王都の視察に赴いているらしい。
場所はエリーナの自室。人払いとお祝いの準備を済まし、丸テーブルを囲んで三人は座る。そしてエリーナとベロニカは顔がデレデレに崩れているリズに視線を向けた。
「リズ、おめでとう!」
「やればできるじゃない」
口々にお祝いの言葉をかけられ、リズは顔を赤くして嬉しそうに笑みを零す。
「ありがとうございます! もう、昨日から夢じゃないかって興奮して、嬉しすぎます! これが三次元の恋なんですね!」
喜びを爆発させているリズを見て、ベロニカは感慨深げにつぶやく。
「あの化石がよく進化したわね。エリーナもしっかりローストチキンになれたみたいだし、食べごろかしら」
「化石じゃありません。冬眠していただけです!」
「勝手に焼かないでください!」
澄ました顔で紅茶をすするベロニカに、二人が抗議する。だがそのムッとした表情も、ひよこがピーチク鳴いているようで、ベロニカからすれば可愛いものだ。
「文句は結婚してから言いなさい」
「うっ……何も言い返せません。末永くお幸せに!」
「ベロニカ様なんて、幸せになってデレちゃえばいいんです!」
二人は一歩先を行くベロニカに、頬を膨らませて祝福の言葉を投げた。ジークの隣りで幸せそうにしているベロニカを見るだけで嬉しいし、一週間後の結婚式が楽しみなのだ。
「うふふ。二人の結婚式も楽しみにしているわよ。エリーナはまず婚約からね」
と、高みの見物を決め込んでいるベロニカに、リズが身を乗り出してキラキラした目を向ける。恋に目覚めた乙女は眩しい。
「ベロニカ様! ジーク様からプロポーズされたんでしょう? どんな感じだったんですか?」
「それ聞きたいです!」
「は、ちょっと!」
予想外のところから直球が来て、ベロニカは顔を赤くして怒った表情を見せる。だが照れ隠しだと分かっている二人はぐっと距離を詰めて、期待を込めた瞳で押す。
「お願いします!」
二人の声が揃った。
「あぁ、もう! わかったわよ! 話してあげるから、心して聞きなさい!」
ベロニカは愛用の扇子を掌で打ち鳴らし、二人はやったと目を合わせて喜び合う。そして姿勢を正し、教えを受けようと耳を傾けた。ベロニカは咳払いをし、耳を赤くしながら話し出す。
「エリーナが西の国へ行ってすぐに、デートをしたのよ。観劇をして、いいレストランで食事をしたわ」
二人が相槌を打てば、ベロニカは思い出しているのか気恥ずかしそうに、続きを口にする。
「それで、帰りに王都が一望できる丘に寄って、夜景を見ていたのよ」
リズが知っている日本の夜景と比べれば、灯りは少なく弱い。だが、人々の暮らしが光る灯りであり、優しい美しさがある。
「それで……ジーク様が私の手を取って、跪かれたの。俺と一緒に、この灯りを守ってくれないかって。俺の側で、導く灯りになってくれないかって」
ベロニカは照れつつも嬉しそうに話していた。頬が緩み、目元は優しく細められている。盛大な惚気に対して、二人は声を合わせて叫ぶ。
「甘~~い!」
ベロニカの幸せな顔に当てられて、こちらまでふわふわした気持ちになってくる。今すぐジークの背を叩いてよくやったと褒めてあげたくなった。
「まぁ、ジーク様にしてはよくできてたわね」
ツンっと話はこれで終わりと言わんばかりに、ベロニカはすまし顔を作り紅茶をすする。
「プロポーズって素敵ですよね~」
リズは余韻に浸りつつ、いいなぁと漏らす。エリーナも頷いて同意した。そんな聞き手の二人に、ベロニカは仕返しを考えた小悪魔の笑みを浮かべる。二人の背が少し伸びた。
「あら、次は二人の番よ? プロポーズの話は今度にするとして、全て聞かせてもらおうかしら」
「あ、私新しい茶葉を持ってきますねー」
「え、リズひどい!」
「私には侍女として大事な仕事があるんです!」
「今は親友の顔でしょう!?」
ふふふと手を口に当ててあくどい笑みを浮かべるベロニカを前にして、リズが我先にと逃げようとする。立ち上がったリズのスカートをエリーナが掴み、きゃいきゃいと言い合っていた。子犬が鳴きあっているようだ。
可愛い攻防を繰り広げているところに、パシリと扇子が打ち鳴らされた音が響く。二人は動きを止め、そろりと顔をベロニカに向けた。案の定お怒りの笑顔になっている。
「腹をくくりなさい。わたくしの話だけ聞いて、逃げられるはずないでしょう?」
「べ、ベロニカ様お許しを!」
リズは頭を下げ、顔の前で手を合わせて拝み倒す。前もマルクについて根ほり葉ほり聞かれたところなのだ。
「アスタリアのロマンス小説を進呈しますから~!」
エリーナもリズを真似てお願いのポーズをする。恋バナの標的になったが最後。ベロニカの気が済むまで解放されないのは、身に染みて分かっていた。つい先日の茶会でも色々聞かれたのに、まだ聞くのかと戦々恐々とする。
「甘いわね。わたくしがそれぐらいで満足するわけないでしょう? 現実の恋愛は、ロマンス小説よりも甘美なの。さ、とっとと諦めて白状なさい」
もう一度扇子が打ち鳴らされたため、二人は諦めてなるべく手短にと話し始める。だがベロニカが生半可な情報で納得してくれるはずもなく、リズはマルクとのデートの詳細を、エリーナは最近あったクリスとのエピソードを捧げることになるのだった。
気軽な親友同士の恋バナは尽きることなく、時間が許すまで語り尽くすのである。
場所はエリーナの自室。人払いとお祝いの準備を済まし、丸テーブルを囲んで三人は座る。そしてエリーナとベロニカは顔がデレデレに崩れているリズに視線を向けた。
「リズ、おめでとう!」
「やればできるじゃない」
口々にお祝いの言葉をかけられ、リズは顔を赤くして嬉しそうに笑みを零す。
「ありがとうございます! もう、昨日から夢じゃないかって興奮して、嬉しすぎます! これが三次元の恋なんですね!」
喜びを爆発させているリズを見て、ベロニカは感慨深げにつぶやく。
「あの化石がよく進化したわね。エリーナもしっかりローストチキンになれたみたいだし、食べごろかしら」
「化石じゃありません。冬眠していただけです!」
「勝手に焼かないでください!」
澄ました顔で紅茶をすするベロニカに、二人が抗議する。だがそのムッとした表情も、ひよこがピーチク鳴いているようで、ベロニカからすれば可愛いものだ。
「文句は結婚してから言いなさい」
「うっ……何も言い返せません。末永くお幸せに!」
「ベロニカ様なんて、幸せになってデレちゃえばいいんです!」
二人は一歩先を行くベロニカに、頬を膨らませて祝福の言葉を投げた。ジークの隣りで幸せそうにしているベロニカを見るだけで嬉しいし、一週間後の結婚式が楽しみなのだ。
「うふふ。二人の結婚式も楽しみにしているわよ。エリーナはまず婚約からね」
と、高みの見物を決め込んでいるベロニカに、リズが身を乗り出してキラキラした目を向ける。恋に目覚めた乙女は眩しい。
「ベロニカ様! ジーク様からプロポーズされたんでしょう? どんな感じだったんですか?」
「それ聞きたいです!」
「は、ちょっと!」
予想外のところから直球が来て、ベロニカは顔を赤くして怒った表情を見せる。だが照れ隠しだと分かっている二人はぐっと距離を詰めて、期待を込めた瞳で押す。
「お願いします!」
二人の声が揃った。
「あぁ、もう! わかったわよ! 話してあげるから、心して聞きなさい!」
ベロニカは愛用の扇子を掌で打ち鳴らし、二人はやったと目を合わせて喜び合う。そして姿勢を正し、教えを受けようと耳を傾けた。ベロニカは咳払いをし、耳を赤くしながら話し出す。
「エリーナが西の国へ行ってすぐに、デートをしたのよ。観劇をして、いいレストランで食事をしたわ」
二人が相槌を打てば、ベロニカは思い出しているのか気恥ずかしそうに、続きを口にする。
「それで、帰りに王都が一望できる丘に寄って、夜景を見ていたのよ」
リズが知っている日本の夜景と比べれば、灯りは少なく弱い。だが、人々の暮らしが光る灯りであり、優しい美しさがある。
「それで……ジーク様が私の手を取って、跪かれたの。俺と一緒に、この灯りを守ってくれないかって。俺の側で、導く灯りになってくれないかって」
ベロニカは照れつつも嬉しそうに話していた。頬が緩み、目元は優しく細められている。盛大な惚気に対して、二人は声を合わせて叫ぶ。
「甘~~い!」
ベロニカの幸せな顔に当てられて、こちらまでふわふわした気持ちになってくる。今すぐジークの背を叩いてよくやったと褒めてあげたくなった。
「まぁ、ジーク様にしてはよくできてたわね」
ツンっと話はこれで終わりと言わんばかりに、ベロニカはすまし顔を作り紅茶をすする。
「プロポーズって素敵ですよね~」
リズは余韻に浸りつつ、いいなぁと漏らす。エリーナも頷いて同意した。そんな聞き手の二人に、ベロニカは仕返しを考えた小悪魔の笑みを浮かべる。二人の背が少し伸びた。
「あら、次は二人の番よ? プロポーズの話は今度にするとして、全て聞かせてもらおうかしら」
「あ、私新しい茶葉を持ってきますねー」
「え、リズひどい!」
「私には侍女として大事な仕事があるんです!」
「今は親友の顔でしょう!?」
ふふふと手を口に当ててあくどい笑みを浮かべるベロニカを前にして、リズが我先にと逃げようとする。立ち上がったリズのスカートをエリーナが掴み、きゃいきゃいと言い合っていた。子犬が鳴きあっているようだ。
可愛い攻防を繰り広げているところに、パシリと扇子が打ち鳴らされた音が響く。二人は動きを止め、そろりと顔をベロニカに向けた。案の定お怒りの笑顔になっている。
「腹をくくりなさい。わたくしの話だけ聞いて、逃げられるはずないでしょう?」
「べ、ベロニカ様お許しを!」
リズは頭を下げ、顔の前で手を合わせて拝み倒す。前もマルクについて根ほり葉ほり聞かれたところなのだ。
「アスタリアのロマンス小説を進呈しますから~!」
エリーナもリズを真似てお願いのポーズをする。恋バナの標的になったが最後。ベロニカの気が済むまで解放されないのは、身に染みて分かっていた。つい先日の茶会でも色々聞かれたのに、まだ聞くのかと戦々恐々とする。
「甘いわね。わたくしがそれぐらいで満足するわけないでしょう? 現実の恋愛は、ロマンス小説よりも甘美なの。さ、とっとと諦めて白状なさい」
もう一度扇子が打ち鳴らされたため、二人は諦めてなるべく手短にと話し始める。だがベロニカが生半可な情報で納得してくれるはずもなく、リズはマルクとのデートの詳細を、エリーナは最近あったクリスとのエピソードを捧げることになるのだった。
気軽な親友同士の恋バナは尽きることなく、時間が許すまで語り尽くすのである。
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