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アスタリア王国編
149 転生者と話しましょう
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転生者についてリズに迅速に伝え、昼食が終わった後に話をすることにした。クリスは本日、王都の視察をしなければいけないらしい。食べたいプリンがあればレシピを聞いておいてねと言い残して、名残惜しそうに出て行った。
料理人を呼び出すにも相応の理由がいるため、エリーナが西の国と遠い異国の料理について知りたがっていることにしてマルクを指名する。なぜかエリーナがプリン研究に熱心であることが伝わっており、すんなり認められた。王宮の厨房に近い客間を借り、簡単なお茶会形式にする。
マルクはこぎれいな服を着ていて、周りをきょろきょろと見ながら部屋に入って来た。こういう場には慣れないのだろう。リズにお茶を出され、へこへこと頭を下げている。
そしてマルクが委縮するからとリズ以外の侍女を下がらせれば舞台は整った。リズが侍女の役目を解き、同じテーブルにつく。それを見たマルクが、期待に籠った眼差しを向けて口を開いた。
『あの、日本人なんですか?』
エリーナには聞き取れない言葉なので不思議そうな表情を浮かべたが、リズは目を見開いて破顔する。
『はい! 前世は城崎さやかという日本人でした! 今はリズとして侍女をしています』
それは安心して、心底嬉しそうな顔でエリーナは会わせてよかったと微笑んだ。
『俺はマルク。前世は奥田修平。本当に日本人がいるなんて……夢みたいだ』
マルクはリズをまじまじと見つめ、夢見心地で呟く。
『私もびっくりしました。なんだか嬉しいですね』
二人は同郷の者同士親しみやすいのか、すぐに打ち解け始める。そこにエリーナが面白くなさそうな顔で口をはさんだ。
「そろそろわたくしにも分かる言葉で話してくださる?」
すると二人ははっと気づき、申し訳なさそうにエリーナに軽く頭を下げたのだった。そして顔を上げたマルクはおやっと小首を傾げる。今まで同じ日本人に会える興奮で気づかなかったものが目に入ったのだ。マルクの右手に座っているエリーナは、品のよいドレスを着ている。
「俺、王女殿下に呼ばれたと伺ったんですが、リズさんは侍女で……エリーナさんは……」
話すうちにマルクの顔色はどんどん悪くなっていった。てっきりマルクは王女殿下が転生者なのかと思っていたのだ。だが、思い返せば先ほどまでも周りの侍女はエリーナに対して恭しく接しており、さらに思い出せばエリーナという名は前にも聞いたことがある。
嫌な予感がし始めたマルクに、リズがさらりと真実を突きつけた。
「エリーナ様はラルフレア王国の王女様ですよ。今回はクリス様と御一緒にこちらにいらしたんです」
リズは何をいまさらと言いたそうであるが、マルクは衝撃のあまり口を大きくあんぐりと開けた。エリーナを凝視して、さぁっと血の気が引いていく。
「え、嘘だろ。何で王女様が一人でいた、いらっしゃったんですか」
「え? どういうことですか?」
一人という部分にひっかかったリズが、鋭い視線をエリーナに向ける。エリーナは転生者を見つけたとだけ伝えており、詳しい状況については話していなかった。説明を求められ、エリーナが簡単に経緯を話すとリズは目を吊り上げる。
「何してるんですか! 今は王女の身なんですよ! しかもクリス様が知ったらどうなるか……マルクさんが消されます」
「うえっ、俺が消されるの!?」
自分が被害を受けると聞いて、マルクが顔を引きつらせる。エリーナを溺愛しているクリスのことだ。エリーナをたしなめはしても、その咎は全て相手に行くのが当然だ。
「……もうこんなことはしないわよ」
リズの説教は耳に痛い。リズはサリーの次にエリーナにものが言える侍女であり、王女付きとしては適任である。
「全力で隠滅しますけど、気を付けてくださいね」
リズははぁと溜息をついて、お茶をすすった。エリーナも一息とお茶をすすり、二人の所作を見ながら慣れない手つきでマルクもお茶を飲む。そしておそるおそるエリーナに視線を向け、遠慮がちに口を開いた。
「ということは、エリーナ様が噂のプリン姫でいらっしゃったんですね……」
その破壊力のある言葉に、エリーナはむせそうになるのを寸前で堪え、リズはむせた。「だ、だめ……」と口を押えて肩を震わせている。そんな姿を侍女仲間に見られたら厳重注意ものである。
「プ、プリン姫ってなに」
持ち直したエリーナが頬を引きつらせて訊き返した。訊いてしまったが答えを聞きたくない。マルクは口を滑らせたと口を押えるがもう遅い。エリーナの目は説明を迫っている。
「あ、いえ……ラルフレアの王女様がいらっしゃるということで、食の好みについて予めラルフレア側に伺っていたんです。そしたら分厚い指示書が返って来て、戦々恐々として料理長が読み進めたんです……。そんで、最初のページに好き嫌いはなく食べられないものもないと書かれていて安心したんですが、その後ろに続くプリンに関する報告がすごくて……」
プリンという言葉にエリーナとリズが真顔になる。その指示書を作ったのが誰なのか、すぐにわかってしまった。
「今までに試したプリンとエリーナ様の反応。温度と湿度による材料の配合の違いや、産地による味の違いと、膨大な研究成果が書かれていました。そのため特にデザート担当者が青ざめて、王女殿下好みのプリンとクリームチーズプリンの研究をひたすらしていました。なので、プリン姫というのはプリンへの情熱に対する尊敬を込めた愛称と言いますか……」
マルクはその時のことを思い出しているのだろう、少し遠い目をしていた。プリンに対してそんな指示書が送られてきたら、それは恐怖だろう。ちなみに研究の結果エリーナ専用プリンのレシピには、プリン姫のクリームチーズプリンと書かれている。
エリーナはその話を聞いて、今度デザート係に労いの言葉をかけようと決めた。
「今度お礼を言うから、まずはどんなプリンでもおいしく食べるって、担当の人に伝えておいて……」
心を込めて作られたプリンを否定などするはずもない。実際とてもおいしかった。
「はい。たぶん、安心して泣くと思います……」
乾いた笑みを浮かべるマルクに、二人はそこまで!? と指示書に恐怖を感じるのだった。
そして話は転生者二人のことへ移っていく。
料理人を呼び出すにも相応の理由がいるため、エリーナが西の国と遠い異国の料理について知りたがっていることにしてマルクを指名する。なぜかエリーナがプリン研究に熱心であることが伝わっており、すんなり認められた。王宮の厨房に近い客間を借り、簡単なお茶会形式にする。
マルクはこぎれいな服を着ていて、周りをきょろきょろと見ながら部屋に入って来た。こういう場には慣れないのだろう。リズにお茶を出され、へこへこと頭を下げている。
そしてマルクが委縮するからとリズ以外の侍女を下がらせれば舞台は整った。リズが侍女の役目を解き、同じテーブルにつく。それを見たマルクが、期待に籠った眼差しを向けて口を開いた。
『あの、日本人なんですか?』
エリーナには聞き取れない言葉なので不思議そうな表情を浮かべたが、リズは目を見開いて破顔する。
『はい! 前世は城崎さやかという日本人でした! 今はリズとして侍女をしています』
それは安心して、心底嬉しそうな顔でエリーナは会わせてよかったと微笑んだ。
『俺はマルク。前世は奥田修平。本当に日本人がいるなんて……夢みたいだ』
マルクはリズをまじまじと見つめ、夢見心地で呟く。
『私もびっくりしました。なんだか嬉しいですね』
二人は同郷の者同士親しみやすいのか、すぐに打ち解け始める。そこにエリーナが面白くなさそうな顔で口をはさんだ。
「そろそろわたくしにも分かる言葉で話してくださる?」
すると二人ははっと気づき、申し訳なさそうにエリーナに軽く頭を下げたのだった。そして顔を上げたマルクはおやっと小首を傾げる。今まで同じ日本人に会える興奮で気づかなかったものが目に入ったのだ。マルクの右手に座っているエリーナは、品のよいドレスを着ている。
「俺、王女殿下に呼ばれたと伺ったんですが、リズさんは侍女で……エリーナさんは……」
話すうちにマルクの顔色はどんどん悪くなっていった。てっきりマルクは王女殿下が転生者なのかと思っていたのだ。だが、思い返せば先ほどまでも周りの侍女はエリーナに対して恭しく接しており、さらに思い出せばエリーナという名は前にも聞いたことがある。
嫌な予感がし始めたマルクに、リズがさらりと真実を突きつけた。
「エリーナ様はラルフレア王国の王女様ですよ。今回はクリス様と御一緒にこちらにいらしたんです」
リズは何をいまさらと言いたそうであるが、マルクは衝撃のあまり口を大きくあんぐりと開けた。エリーナを凝視して、さぁっと血の気が引いていく。
「え、嘘だろ。何で王女様が一人でいた、いらっしゃったんですか」
「え? どういうことですか?」
一人という部分にひっかかったリズが、鋭い視線をエリーナに向ける。エリーナは転生者を見つけたとだけ伝えており、詳しい状況については話していなかった。説明を求められ、エリーナが簡単に経緯を話すとリズは目を吊り上げる。
「何してるんですか! 今は王女の身なんですよ! しかもクリス様が知ったらどうなるか……マルクさんが消されます」
「うえっ、俺が消されるの!?」
自分が被害を受けると聞いて、マルクが顔を引きつらせる。エリーナを溺愛しているクリスのことだ。エリーナをたしなめはしても、その咎は全て相手に行くのが当然だ。
「……もうこんなことはしないわよ」
リズの説教は耳に痛い。リズはサリーの次にエリーナにものが言える侍女であり、王女付きとしては適任である。
「全力で隠滅しますけど、気を付けてくださいね」
リズははぁと溜息をついて、お茶をすすった。エリーナも一息とお茶をすすり、二人の所作を見ながら慣れない手つきでマルクもお茶を飲む。そしておそるおそるエリーナに視線を向け、遠慮がちに口を開いた。
「ということは、エリーナ様が噂のプリン姫でいらっしゃったんですね……」
その破壊力のある言葉に、エリーナはむせそうになるのを寸前で堪え、リズはむせた。「だ、だめ……」と口を押えて肩を震わせている。そんな姿を侍女仲間に見られたら厳重注意ものである。
「プ、プリン姫ってなに」
持ち直したエリーナが頬を引きつらせて訊き返した。訊いてしまったが答えを聞きたくない。マルクは口を滑らせたと口を押えるがもう遅い。エリーナの目は説明を迫っている。
「あ、いえ……ラルフレアの王女様がいらっしゃるということで、食の好みについて予めラルフレア側に伺っていたんです。そしたら分厚い指示書が返って来て、戦々恐々として料理長が読み進めたんです……。そんで、最初のページに好き嫌いはなく食べられないものもないと書かれていて安心したんですが、その後ろに続くプリンに関する報告がすごくて……」
プリンという言葉にエリーナとリズが真顔になる。その指示書を作ったのが誰なのか、すぐにわかってしまった。
「今までに試したプリンとエリーナ様の反応。温度と湿度による材料の配合の違いや、産地による味の違いと、膨大な研究成果が書かれていました。そのため特にデザート担当者が青ざめて、王女殿下好みのプリンとクリームチーズプリンの研究をひたすらしていました。なので、プリン姫というのはプリンへの情熱に対する尊敬を込めた愛称と言いますか……」
マルクはその時のことを思い出しているのだろう、少し遠い目をしていた。プリンに対してそんな指示書が送られてきたら、それは恐怖だろう。ちなみに研究の結果エリーナ専用プリンのレシピには、プリン姫のクリームチーズプリンと書かれている。
エリーナはその話を聞いて、今度デザート係に労いの言葉をかけようと決めた。
「今度お礼を言うから、まずはどんなプリンでもおいしく食べるって、担当の人に伝えておいて……」
心を込めて作られたプリンを否定などするはずもない。実際とてもおいしかった。
「はい。たぶん、安心して泣くと思います……」
乾いた笑みを浮かべるマルクに、二人はそこまで!? と指示書に恐怖を感じるのだった。
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