148 / 194
アスタリア王国編
140 不安を口に出しましょう
しおりを挟むキョウはひとり佇んでいた。今し方、哀れな冒険者たちを送り出していた。彼らの力ない後ろ姿が見えなくなるまでだった。
キョウは干し肉を手に持っている。それはつい先ほど冒険者たちから巻き上げたものだった。肉はわずかばかりに塩の味が付いているだけで、固くてあまり美味しいとは言えなかった。
歯でかみしめる音が響く。
湿った迷宮の中で、その乾いた食べ物の音が不思議に耳に響いた。
そんな彼に背後からダミアンは近づいた。
「アニキ、どうしてアニキはこんなところでこんなことをしているんですか?」
それは彼が以前からずっと不思議に思っていたことだった。他の仲間たちも同様のことを考えている者たちは数多くいる。
ダミアンのそんな問いかけに、手にしていた干し肉を一切れ差し出した。
それをダミアンは受け取ると、勢いよくかぶりついた。
「美味いか?」
「いえ、マズいっす…!」
正直な感想をダミアンは述べた。
口に入っているものを咀嚼してキョウが続ける。
「…なんで、こんなにまずいものを食べてでも、こんな危ない場所にみんな来るんだろうな…」
「それはやっぱり名声とかもしかしたら財宝とか…そういったものが目当てなんじゃないですか?」
「じゃあ、お前はどうしてここにいる?」
「それは…」
そこでダミアンは言いよどんだ。
どうして彼がそれを言わなかったのか、キョウは彼が抱える事情を知っていた。彼は地上では追われている立場なのだ。
彼は盗賊だった。
とは言っても、生きていく為にその日必要な食べ物を盗んだりといった程度のものである。
官憲に追われて、この迷宮へと逃げて、それから《深きより忍び寄るものたち》にいつのまにかなっていた。
そして、それは彼だけではないのだ。
ここにいるみながそれぞれ色々な事情を抱えていた。
投げかけられた問いに答えづらいのはキョウにも分かっていた。
「俺は…気づいたらここにいたんだ。ここがどこで今がいつなのかも分からなかった。過去の記憶はないでもなかったが、それも曖昧だ。とりあえず生きていくにはどうしたらいいのかを考えていたら、偶然にも《深きより忍び寄るものたち》が現れた」
そして、それをキョウは襲った。
10人程度だったが、相手の武器を奪い、その武器で全員を倒し、そして、彼らの財産とも言うべきすべてを奪った。
それ以来通りすがる人々を襲っていた。
ただ、それも生きるためだ。
生きる以上のものは、とりあえず、いらなかった。
「…いや、それは何回も聞いているんで分かっています。そういう意味ではなくて、どうしてアニキは地上へ出て行かないのかってことです」
それがダミアン以下には疑問だった。
キョウは頭を抱えると、こう続けた。
「…まあ、なんだろうな。俺もそうしたいが、その機会というのが中々訪れねぇ。その内、そういうときがあればそうするかも知れないな」
なんとも、ハッキリとしない物言いである。
「なんですか、そりゃあ…?」
「まあ、半分はそういうことだ」
「ではもう半分は?」
「俺はなんかこれは勘だけどな」
「はい」
「なんか、この場所でやることがあるような気がするんだよ…」
キョウはそんな台詞を冗談とは思えないほどの真顔で言っていたのだった。
「アニキーっ!」
セバスの声が聞こえた。何かしらの報告かも知れない。
その場にいた二人は向き直る。
「新しい冒険者がやってきました! 人数は三人です!」
やれやれ今日は忙しい日だ。面倒くさいからといって逃してもいいが、生憎と今は休憩よりも、強奪したい気分だったのだ。
キョウは干し肉を手に持っている。それはつい先ほど冒険者たちから巻き上げたものだった。肉はわずかばかりに塩の味が付いているだけで、固くてあまり美味しいとは言えなかった。
歯でかみしめる音が響く。
湿った迷宮の中で、その乾いた食べ物の音が不思議に耳に響いた。
そんな彼に背後からダミアンは近づいた。
「アニキ、どうしてアニキはこんなところでこんなことをしているんですか?」
それは彼が以前からずっと不思議に思っていたことだった。他の仲間たちも同様のことを考えている者たちは数多くいる。
ダミアンのそんな問いかけに、手にしていた干し肉を一切れ差し出した。
それをダミアンは受け取ると、勢いよくかぶりついた。
「美味いか?」
「いえ、マズいっす…!」
正直な感想をダミアンは述べた。
口に入っているものを咀嚼してキョウが続ける。
「…なんで、こんなにまずいものを食べてでも、こんな危ない場所にみんな来るんだろうな…」
「それはやっぱり名声とかもしかしたら財宝とか…そういったものが目当てなんじゃないですか?」
「じゃあ、お前はどうしてここにいる?」
「それは…」
そこでダミアンは言いよどんだ。
どうして彼がそれを言わなかったのか、キョウは彼が抱える事情を知っていた。彼は地上では追われている立場なのだ。
彼は盗賊だった。
とは言っても、生きていく為にその日必要な食べ物を盗んだりといった程度のものである。
官憲に追われて、この迷宮へと逃げて、それから《深きより忍び寄るものたち》にいつのまにかなっていた。
そして、それは彼だけではないのだ。
ここにいるみながそれぞれ色々な事情を抱えていた。
投げかけられた問いに答えづらいのはキョウにも分かっていた。
「俺は…気づいたらここにいたんだ。ここがどこで今がいつなのかも分からなかった。過去の記憶はないでもなかったが、それも曖昧だ。とりあえず生きていくにはどうしたらいいのかを考えていたら、偶然にも《深きより忍び寄るものたち》が現れた」
そして、それをキョウは襲った。
10人程度だったが、相手の武器を奪い、その武器で全員を倒し、そして、彼らの財産とも言うべきすべてを奪った。
それ以来通りすがる人々を襲っていた。
ただ、それも生きるためだ。
生きる以上のものは、とりあえず、いらなかった。
「…いや、それは何回も聞いているんで分かっています。そういう意味ではなくて、どうしてアニキは地上へ出て行かないのかってことです」
それがダミアン以下には疑問だった。
キョウは頭を抱えると、こう続けた。
「…まあ、なんだろうな。俺もそうしたいが、その機会というのが中々訪れねぇ。その内、そういうときがあればそうするかも知れないな」
なんとも、ハッキリとしない物言いである。
「なんですか、そりゃあ…?」
「まあ、半分はそういうことだ」
「ではもう半分は?」
「俺はなんかこれは勘だけどな」
「はい」
「なんか、この場所でやることがあるような気がするんだよ…」
キョウはそんな台詞を冗談とは思えないほどの真顔で言っていたのだった。
「アニキーっ!」
セバスの声が聞こえた。何かしらの報告かも知れない。
その場にいた二人は向き直る。
「新しい冒険者がやってきました! 人数は三人です!」
やれやれ今日は忙しい日だ。面倒くさいからといって逃してもいいが、生憎と今は休憩よりも、強奪したい気分だったのだ。
0
お気に入りに追加
754
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

気だるげの公爵令息が変わった理由。
三月べに
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。
王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。
そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。
「生きる楽しみを教えてくれ」
ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。
「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」
つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。
そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。
学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。
「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」
知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。
「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」
「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」
そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。
「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」
ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。
(なろうにも、掲載)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる