136 / 194
学園編 18歳
130 舞台に幕を引きましょう
しおりを挟む
一瞬、言葉の意味が分からなかった。エリーナはクリスの横顔の向こうにいるシルヴィオに視線を留めた。確か彼はシルヴィオ・ディン・アスタリアだ。
そして弟は母親が違い、赤髪の金目だと聞いていた。
「第三王子だと!? 馬鹿なことを」
「なら、そこの第二王子に訊いてくださいよ。まぁ、直にお会いしたのは十年ぶりでしたが」
突如、話の舞台に引きずり出されたシルヴィオは、椅子から立ち上がり面倒臭そうにクリスへと近づいてきた。
「お前はいつも澄ました顔で、大それたことを行うな。……いかにも、こいつは子供らしさを母親の中に忘れた可愛くない我が弟だ」
シルヴィオが認めたことで新たなざわめきが起こる。エリーナも混乱する頭で、なんとかその事実を飲み込もうとしていた。
「だが証拠がほしいだろう?」
そして意味ありげにクリスに笑いかけ、手を出した。それに対しクリスは仕方がないと首元に手をやり、チェーンを抜き出す。首から外せば、少し長めのチェーンの先には小さな指輪が通されていた。
その指輪だけ外して、シルヴィオの手のひらに乗せれば、彼はそれをつまんで内側を注視する。西の国では、三歳の子供に名を彫った指輪を贈る風習があるのだ。
「クリス・ディン・アスタリア。確かに弟の名が彫ってある、それに王家の紋章もね」
近づいてきた秘書官に指輪を渡し、王も確認をする。表情がますます渋くなった。
「この指輪が偽物という可能性はないのか」
王が疑わしげにそう尋ねれば、シルヴィオが鼻で笑う。
「王家の紋が入った指輪は特殊な配合の金属を使っており、専門家に見せればすぐにわかる。もしこれが盗まれたもので、こいつが偽物ならば、私は弟の顔もわからない愚者となるな」
王は屈辱的な表情で秘書官に指輪を渡す。クリスの元に指輪は戻されば、再びネックレスとして首にかけられた。
「この度縁あってウォード家、ローゼンディアナ家に養子に入っただけのこと。なお、すでに王位継承権は放棄しており、このことに国は一切関与していない」
強い口調でクリスが主張すれば、旗色が悪くなった王は苦々しげに顔を歪めた。そこにシルヴィオが言葉を添える。
「疑わしければ国に書状を送ればいい。年に数度、宛先を教えない手紙とは呼べない報告書しかよこさなかった息子が世話になったと返ってくるでしょうよ」
シルヴィオの私情がこもっており、クリスはバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。「悪かった」と小声で謝り、ついでエリーナに顔を向けた。隠し事がバレた子供みたいに気まずそうで、エリーナの反応を伺っている。
「エリー……こんな僕でも、一緒に来てくれる?」
隠し事が大きすぎて、エリーナはただ呆れるしかない。嘘に傷ついていた自分が馬鹿らしくなった。
「もう、クリスが誰でも、どうでもよくなって来たわ」
その答えにクリスは信じてたよと呟いて、王に向き直った。そして晴れやかな顔で強者の笑みを浮かべた。
「事の経緯についてはしかるべき時に申し開きをするとして、僕の問題はこれで終わりだ。さぁ、ラルフレア王、この馬鹿げた舞台に幕を引こうか」
ラルフレア王国内で、他国の王族を捕らえることはできない。クリスの身分詐称が成立しないとなれば、残されたのは王の反逆罪。
「何をふざけたことを!」
王は王座の肘置きを拳で叩き、口泡を飛ばした。それと同時にジークが衛兵へ命令を下す。
「王を捕らえよ!」
衛兵に囲まれた王は何かを叫ぼうとしたようだが、それより前に口を塞がれ引きずられていった。
そして静まり返った大広間で、ジークは高座に上り皆を見回して高らかに宣言する。
「今、歴史が正された。エリーナ・フォン・ラルフレアは正統な王家の血を引くものであり、王はクーデターを起こし、前王を陥れた反逆者である。全ての疑念を明らかにした後、広く国民に知らしめるため口外は控えてほしい」
堂々と前に立ち、事態を収束させていく。その姿にエリーナはこの先彼が王として進んで行く道が見えた気がして、嬉しく思う。きっとその隣にはベロニカが居るのだ。
そして改めてクリスに向き直り、硬い表情で話を切り出した。
「クリス・ディン・アスタリア殿。今後について話したいのだが、どうだろうか」
突如変わった関係性に、ジークも戸惑いがあるようでぎこちなくそう問いかける。
「クリスでいいよ。僕は構わないけど、場を改めなくてもいいの?」
この場には固唾を飲んで見守っていた卒業パーティーの参加者と侍女達、衛兵達がいる。政治的な話をするなら別室の方がいい。
だがジークは静かに首を横に振り、大広間を見回して皆にも聞かせるように答える。
「ここにいるのは未来を担う者たちだ。新しく作る国のためにも、話を聞いてもらいたい。もちろん、クリス殿たちが合意されるならだが」
「こちらに異存はないよ」
まるで世間話でもするかのように、クリスは気軽に答えた。緊迫感に包まれるなか、話はエリーナとクリス、そして両国の今後について進むのだった。
そして弟は母親が違い、赤髪の金目だと聞いていた。
「第三王子だと!? 馬鹿なことを」
「なら、そこの第二王子に訊いてくださいよ。まぁ、直にお会いしたのは十年ぶりでしたが」
突如、話の舞台に引きずり出されたシルヴィオは、椅子から立ち上がり面倒臭そうにクリスへと近づいてきた。
「お前はいつも澄ました顔で、大それたことを行うな。……いかにも、こいつは子供らしさを母親の中に忘れた可愛くない我が弟だ」
シルヴィオが認めたことで新たなざわめきが起こる。エリーナも混乱する頭で、なんとかその事実を飲み込もうとしていた。
「だが証拠がほしいだろう?」
そして意味ありげにクリスに笑いかけ、手を出した。それに対しクリスは仕方がないと首元に手をやり、チェーンを抜き出す。首から外せば、少し長めのチェーンの先には小さな指輪が通されていた。
その指輪だけ外して、シルヴィオの手のひらに乗せれば、彼はそれをつまんで内側を注視する。西の国では、三歳の子供に名を彫った指輪を贈る風習があるのだ。
「クリス・ディン・アスタリア。確かに弟の名が彫ってある、それに王家の紋章もね」
近づいてきた秘書官に指輪を渡し、王も確認をする。表情がますます渋くなった。
「この指輪が偽物という可能性はないのか」
王が疑わしげにそう尋ねれば、シルヴィオが鼻で笑う。
「王家の紋が入った指輪は特殊な配合の金属を使っており、専門家に見せればすぐにわかる。もしこれが盗まれたもので、こいつが偽物ならば、私は弟の顔もわからない愚者となるな」
王は屈辱的な表情で秘書官に指輪を渡す。クリスの元に指輪は戻されば、再びネックレスとして首にかけられた。
「この度縁あってウォード家、ローゼンディアナ家に養子に入っただけのこと。なお、すでに王位継承権は放棄しており、このことに国は一切関与していない」
強い口調でクリスが主張すれば、旗色が悪くなった王は苦々しげに顔を歪めた。そこにシルヴィオが言葉を添える。
「疑わしければ国に書状を送ればいい。年に数度、宛先を教えない手紙とは呼べない報告書しかよこさなかった息子が世話になったと返ってくるでしょうよ」
シルヴィオの私情がこもっており、クリスはバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。「悪かった」と小声で謝り、ついでエリーナに顔を向けた。隠し事がバレた子供みたいに気まずそうで、エリーナの反応を伺っている。
「エリー……こんな僕でも、一緒に来てくれる?」
隠し事が大きすぎて、エリーナはただ呆れるしかない。嘘に傷ついていた自分が馬鹿らしくなった。
「もう、クリスが誰でも、どうでもよくなって来たわ」
その答えにクリスは信じてたよと呟いて、王に向き直った。そして晴れやかな顔で強者の笑みを浮かべた。
「事の経緯についてはしかるべき時に申し開きをするとして、僕の問題はこれで終わりだ。さぁ、ラルフレア王、この馬鹿げた舞台に幕を引こうか」
ラルフレア王国内で、他国の王族を捕らえることはできない。クリスの身分詐称が成立しないとなれば、残されたのは王の反逆罪。
「何をふざけたことを!」
王は王座の肘置きを拳で叩き、口泡を飛ばした。それと同時にジークが衛兵へ命令を下す。
「王を捕らえよ!」
衛兵に囲まれた王は何かを叫ぼうとしたようだが、それより前に口を塞がれ引きずられていった。
そして静まり返った大広間で、ジークは高座に上り皆を見回して高らかに宣言する。
「今、歴史が正された。エリーナ・フォン・ラルフレアは正統な王家の血を引くものであり、王はクーデターを起こし、前王を陥れた反逆者である。全ての疑念を明らかにした後、広く国民に知らしめるため口外は控えてほしい」
堂々と前に立ち、事態を収束させていく。その姿にエリーナはこの先彼が王として進んで行く道が見えた気がして、嬉しく思う。きっとその隣にはベロニカが居るのだ。
そして改めてクリスに向き直り、硬い表情で話を切り出した。
「クリス・ディン・アスタリア殿。今後について話したいのだが、どうだろうか」
突如変わった関係性に、ジークも戸惑いがあるようでぎこちなくそう問いかける。
「クリスでいいよ。僕は構わないけど、場を改めなくてもいいの?」
この場には固唾を飲んで見守っていた卒業パーティーの参加者と侍女達、衛兵達がいる。政治的な話をするなら別室の方がいい。
だがジークは静かに首を横に振り、大広間を見回して皆にも聞かせるように答える。
「ここにいるのは未来を担う者たちだ。新しく作る国のためにも、話を聞いてもらいたい。もちろん、クリス殿たちが合意されるならだが」
「こちらに異存はないよ」
まるで世間話でもするかのように、クリスは気軽に答えた。緊迫感に包まれるなか、話はエリーナとクリス、そして両国の今後について進むのだった。
0
お気に入りに追加
754
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す
ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる!
*三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。
(本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる