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学園編 18歳
121 恋する気持ちを伝えましょう
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エリーナは急いでローゼンディアナ家に帰った。湯あみを済ませ、体を綺麗にして精神を統一する。まるで決戦に挑むような凛々しい顔つきのエリーナに、サリーは心配そうな視線を向けていた。クリスが好きなラベンダー色のドレスを着て、髪は自然のままに流しクリスからもらった髪飾りを付ける。決戦に挑むにしては頼りないが、エリーナは飾らない姿でいくことにしたのだ。
サリーにクリスの居場所を聞くと書斎にいるらしい。
(最初にクリスと会った時のことを思い出すわね)
クリスと最初に会ったのも書斎だった。祖父に新しい家族が来ると言われ、弟だと思い込んだエリーナは面を食らった記憶がある。その後悪役令嬢として嫌がらせに躍起になったが、全て躱されたのも今になってはいい思い出だ。
サリーの付き添いを断り、一人で書斎に向かった。ドアの前で深呼吸をしてからノックをする。返事の声に心臓が飛び跳ね、落ち着かせてから書斎に入った。
「エリー、おかえり」
「ただいま、クリス」
蝋燭と本、インクの香りにクリスの匂いが混ざる。それだけで胸が締め付けられた。
「少しいいかしら」
「いいよ」
クリスはペンを置いて、顔をエリーナに向けた。その視線にさらされるだけで頬が赤くなり、耳元に心臓があるぐらいバクバクと高鳴る。呼吸が浅くなり、緊張していると思うとさらに緊張する。それでもなんとか、言葉を絞り出した。
「あ、あのね。卒業パーティーのエスコートのことなんだけど、クリスにお願いしたいの」
心臓がうるさく、口の中が渇く。クリスの反応が怖くて、じっと祈るような思いでクリスの答えを待った。クリスは「そうだね」と少し迷うそぶりを見せてから、頷く。
「婚約者もいないし、僕がしたほうがいいだろうね」
婚約者の代わりと思われたようで、エリーナは慌てて否定する。
「ち、違うの。私はクリスがいいの。クリスにエスコートをしてほしいのよ!」
言い募るエリーナに、クリスは不思議そうな顔で小首を傾げた。欠片も気持ちが伝わっておらず、エリーナは羞恥をかなぐり捨てて恋する想いを口にした。
「だから、私は、私は……クリスが好きなの! 卒業パーティーはクリスといたいの!」
たどたどしく、エリーナは偽りのない想いを告白する。ロマンス小説や乙女ゲームのようなきれいな告白ではない。だが、これがエリーナの精一杯だ。
クリスは目を飛び出さんばかりに開いて固まっており、言葉を出すことができない。ここで想いの丈を訴えないと届かないと思い、エリーナはさらに畳みかけた。
「私はクリスを選んだの。クリスと一緒にいたいの!」
自分でも分かるぐらい顔が真っ赤だ。
「僕を……選んだの?」
信じられないといった表情でクリスは呟く。
「なんで? 僕は、違うのに。選ばれるはず、ないのに」
半ば無意識で口にした言葉からは、クリスが動揺しているのが伝わってくる。クリスはゆっくり立ち上がり、不安そうに眉根を下げて近づいて来た。エリーナは手の届く距離に立っているクリスをまっすぐ見つめる。
「私が選んだのよ。好きだって、気づいたのよ」
伝わってほしいと、願いをこめてもう一度口にする。何度口にしても気恥ずかしく、目を逸らさないだけで精一杯だ。
「嘘だ……それは、家族への信愛だよ。恋愛じゃない」
信じられないのか、信じたくないのか。クリスはそう否定した。エリーナは負けてたまるかと仁王立ちになり、想いの全てを込めて叫んだ。
「違うわ! 私だって、恋が何かを知ってる。みんなが、教えてくれたもの!」
想いを寄せてくれた四人だけではない。エリーナはそれぞれの形で恋をしている人たちを見てきた。
「殿下からは一途な想いを、ルドルフ様からは独占したいという想いを、ミシェルからはその人の笑顔のために動きたいという想いを、そしてラウル先生からは嫉妬の心を教えてもらったわ。もちろん、リズとベロニカ様からも人を愛することを……。それが全て当てはまるのは、クリスだけなのよ!」
一人一人からもらったピースが嵌っていくように、エリーナは恋を知った。その全てがクリスへとつながっていく。クリスはわなわなと震える唇で、夢うつつのように声を出す。
「本当に? 何かに強制されていないよね」
「なんでそんなに疑り深いのよ……」
「だって、信じられなくて」
そう泣きそうな顔になったクリスは壊れ物に触るように、そっとエリーナに手を伸ばした。エリーナが半分呆れた顔でその手を取れば、抱き寄せられる。頬にクリスの胸が当たり、その熱と鼓動の速さにクリスの心を知る。遅れてクリスが泣いていることに気づく。
「本当に、僕でいいの?」
涙交じりの声でなかなか信じようとしないクリスに、エリーナはとうとう溜息をついた。
「クリス以外は嫌よ。だから、クリスの答えを教えて」
そう伝えると、クリスはそっと体を離して涙を拭ってから、手を取ったまま跪いた。クリスの紅い髪が蝋燭の灯りに照らされて艶めく。上目遣いで見つめられれば、鼓動が早まり顔は熱を帯びる。
「エリー。愛しているの言葉では足りないくらい、君の全てを愛している。ずっと側で見てきて、何度も救われた。だから、これからは僕が守る。エリーがこの世界でずっと笑っていられるように」
そして愛おしむように手の甲に唇を落とし、立ち上がってもう一度エリーナを抱きしめた。エリーナはその心地よいぬくもりに身を預け、目を閉じる。クリスは優しく髪を撫でていた。
「エリー、ありがとう。絶対守るから……もう苦しませないから」
そう震える声で言葉を紡ぐクリスの頬を涙が伝う。二人は互いの熱と鼓動を感じ、幸せに浸るのだった。
サリーにクリスの居場所を聞くと書斎にいるらしい。
(最初にクリスと会った時のことを思い出すわね)
クリスと最初に会ったのも書斎だった。祖父に新しい家族が来ると言われ、弟だと思い込んだエリーナは面を食らった記憶がある。その後悪役令嬢として嫌がらせに躍起になったが、全て躱されたのも今になってはいい思い出だ。
サリーの付き添いを断り、一人で書斎に向かった。ドアの前で深呼吸をしてからノックをする。返事の声に心臓が飛び跳ね、落ち着かせてから書斎に入った。
「エリー、おかえり」
「ただいま、クリス」
蝋燭と本、インクの香りにクリスの匂いが混ざる。それだけで胸が締め付けられた。
「少しいいかしら」
「いいよ」
クリスはペンを置いて、顔をエリーナに向けた。その視線にさらされるだけで頬が赤くなり、耳元に心臓があるぐらいバクバクと高鳴る。呼吸が浅くなり、緊張していると思うとさらに緊張する。それでもなんとか、言葉を絞り出した。
「あ、あのね。卒業パーティーのエスコートのことなんだけど、クリスにお願いしたいの」
心臓がうるさく、口の中が渇く。クリスの反応が怖くて、じっと祈るような思いでクリスの答えを待った。クリスは「そうだね」と少し迷うそぶりを見せてから、頷く。
「婚約者もいないし、僕がしたほうがいいだろうね」
婚約者の代わりと思われたようで、エリーナは慌てて否定する。
「ち、違うの。私はクリスがいいの。クリスにエスコートをしてほしいのよ!」
言い募るエリーナに、クリスは不思議そうな顔で小首を傾げた。欠片も気持ちが伝わっておらず、エリーナは羞恥をかなぐり捨てて恋する想いを口にした。
「だから、私は、私は……クリスが好きなの! 卒業パーティーはクリスといたいの!」
たどたどしく、エリーナは偽りのない想いを告白する。ロマンス小説や乙女ゲームのようなきれいな告白ではない。だが、これがエリーナの精一杯だ。
クリスは目を飛び出さんばかりに開いて固まっており、言葉を出すことができない。ここで想いの丈を訴えないと届かないと思い、エリーナはさらに畳みかけた。
「私はクリスを選んだの。クリスと一緒にいたいの!」
自分でも分かるぐらい顔が真っ赤だ。
「僕を……選んだの?」
信じられないといった表情でクリスは呟く。
「なんで? 僕は、違うのに。選ばれるはず、ないのに」
半ば無意識で口にした言葉からは、クリスが動揺しているのが伝わってくる。クリスはゆっくり立ち上がり、不安そうに眉根を下げて近づいて来た。エリーナは手の届く距離に立っているクリスをまっすぐ見つめる。
「私が選んだのよ。好きだって、気づいたのよ」
伝わってほしいと、願いをこめてもう一度口にする。何度口にしても気恥ずかしく、目を逸らさないだけで精一杯だ。
「嘘だ……それは、家族への信愛だよ。恋愛じゃない」
信じられないのか、信じたくないのか。クリスはそう否定した。エリーナは負けてたまるかと仁王立ちになり、想いの全てを込めて叫んだ。
「違うわ! 私だって、恋が何かを知ってる。みんなが、教えてくれたもの!」
想いを寄せてくれた四人だけではない。エリーナはそれぞれの形で恋をしている人たちを見てきた。
「殿下からは一途な想いを、ルドルフ様からは独占したいという想いを、ミシェルからはその人の笑顔のために動きたいという想いを、そしてラウル先生からは嫉妬の心を教えてもらったわ。もちろん、リズとベロニカ様からも人を愛することを……。それが全て当てはまるのは、クリスだけなのよ!」
一人一人からもらったピースが嵌っていくように、エリーナは恋を知った。その全てがクリスへとつながっていく。クリスはわなわなと震える唇で、夢うつつのように声を出す。
「本当に? 何かに強制されていないよね」
「なんでそんなに疑り深いのよ……」
「だって、信じられなくて」
そう泣きそうな顔になったクリスは壊れ物に触るように、そっとエリーナに手を伸ばした。エリーナが半分呆れた顔でその手を取れば、抱き寄せられる。頬にクリスの胸が当たり、その熱と鼓動の速さにクリスの心を知る。遅れてクリスが泣いていることに気づく。
「本当に、僕でいいの?」
涙交じりの声でなかなか信じようとしないクリスに、エリーナはとうとう溜息をついた。
「クリス以外は嫌よ。だから、クリスの答えを教えて」
そう伝えると、クリスはそっと体を離して涙を拭ってから、手を取ったまま跪いた。クリスの紅い髪が蝋燭の灯りに照らされて艶めく。上目遣いで見つめられれば、鼓動が早まり顔は熱を帯びる。
「エリー。愛しているの言葉では足りないくらい、君の全てを愛している。ずっと側で見てきて、何度も救われた。だから、これからは僕が守る。エリーがこの世界でずっと笑っていられるように」
そして愛おしむように手の甲に唇を落とし、立ち上がってもう一度エリーナを抱きしめた。エリーナはその心地よいぬくもりに身を預け、目を閉じる。クリスは優しく髪を撫でていた。
「エリー、ありがとう。絶対守るから……もう苦しませないから」
そう震える声で言葉を紡ぐクリスの頬を涙が伝う。二人は互いの熱と鼓動を感じ、幸せに浸るのだった。
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