悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 18歳

103 お見合いについて相談しましょう

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 クリスがお見合いをする。それは喜ばしいことで、クリスの幸せを考えれば応援するべきなのになぜか気分が晴れなかった。普段通りに過ごしているが、ふとした時にそのことを考えてしまう。ラウルについても頭をちらつくが、今はそれを考えている時ではなかった。

 そしてそうこうしているうちに夏休みが明けた放課後、浮かない顔をしていたエリーナはベロニカとリズにサロンへと連れていかれたのだった。いつものようにリズがお茶を淹れ、エリーナの隣に座る。エリーナは小説語りをして気分を変えようと、笑顔を作ったがベロニカの最初の一言で突き崩された。

「エリーナ。クリスさんがお見合いをするそうね」

「え、そうなんですか!?」

 さすがはベロニカ、情報が早い。リズは目を丸くしてエリーナの顔を見て、心配そうに表情を伺っている。エリーナは力なく笑って頷いた。

「えぇ、シルヴィオ殿下の紹介で。もう少し先の話なんですけどね」

「元気がないわね。クリスさんがお見合いするの嫌なの?」

 ベロニカはいつだって直球で訊いてくる。エリーナはその言葉を受けて少し考え、首を横に振った。

「嫌というよりは……寂しいと言いますか。なんだか気が重いんです」

 エリーナ自身も自分の気持ちがよくわかっていないため、曖昧な返答になる。胸がつかえているようにもやもやする。
 そんなエリーナをベロニカは紅茶をすすりながら、鋭い目つきで見ていた。

「クリスさんは何と言っているの?」

「会って断るって……でも、どうなるかなんてわかりませんし」

「ふ~ん。たしかお相手は侯爵令嬢だったわよね」

「そ、そうなんですか……」

 エリーナはお見合いをすると聞いただけで、それ以上のことは知らなかった。クリスが知らなくていいと言ったためだ。ベロニカが知っているということは社交界では噂になっているのだろう。外堀が埋められているような状態に、エリーナは漠然とした不安を感じた。

「エリーナ様は何が不安なんですか?」

 リズはエリーナの表情からその気持ちを汲み取る。一方言い当てられたエリーナは、自分に問いかけるように「不安……」と呟いた。

「クリスが幸せになれたらいいとは思うんです。でも、相手がどんな人かも分からないし、それに急に遠くへ行ってしまうようで……」

 気落ちしているエリーナに対し、ベロニカは憐れみの眼差しを向けカップをソーサーに戻した。

「まだ結婚が決まったわけでもないのに、そんな顔している場合ではないわよ。エリーナがお見合い相手を見定めないと。クリスさんがいつもしているみたいにね。厳しく相手を見て、粗を探せばいいわ」

「そうですよ! それこそ悪役令嬢の出番です。気に入らなかったら追い払えばいいんです!」

 その言葉にエリーナは視線を上げ、目を瞬かせた。すっと胸が軽くなり、瞳に希望が光る。

「そうですよね。わたくしが受け身でいる必要なんてありませんよね」

 何より悪役令嬢を出されれば、黙ってなどいられない。そうだ、これは何回も演じてきた兄弟の見合い相手や婚約者をいじめるシチュエーションではないか。それに気づいたエリーナは、身の内からやる気が込み上げてくるのを感じる。

「わたくしやりますわ! クリスの見合い相手を見定める悪役令嬢になります!」

 拳を握って意気込むエリーナを見る二人の視線は生温かい。そしてさっそくロマンス小説を読みこんで同じシチュエーションの勉強をすると、意気揚々と帰っていったエリーナの背を見送った二人は、無言で顔を見合わせた。
 二人の顔には「そうじゃない」と書かれている。二人にすれば悪役令嬢になってほしいのではなく、そのシチュエーションでの悪役令嬢の気持ちに気づいてほしかったのだ。
 ベロニカは深々と溜息をついて、リズが淹れなおした紅茶をすする。

「恋愛レベルひよこにはまだ早かったかしら」

「でも、寂しいとか不安とか、ちょっと独占欲が出てきていますしそろそろ覚醒するのではと踏んでいます」

 二人はリズがオランドール公爵家で侍女として行儀見習いをしていることもあり、よくエリーナについて話していた。そのため言葉には容赦がない。

「そうね。このお見合いがいい刺激になるといいのだけど」

「見守るしかないですね……ところで、お相手はどんな方なんですか?」

 そう何気なくリズが尋ねれば、ベロニカは微妙そうな表情を浮かべて答える。

「一言で言えば野心家ね。留学が長くて国内ではあまり知られていないけれど、女性でありながら政治、歴史、天文学と数々の学問を修められた才女よ」

「わぁ……それは強烈な方の予感がしますね」

「昔会ったことがあるけれど、中々芯のある方よ」

「それは……」

 波乱の足音がすぐそこまで近づいているのを、二人は強く感じたのだった。
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