109 / 194
学園編 18歳
103 お見合いについて相談しましょう
しおりを挟む
クリスがお見合いをする。それは喜ばしいことで、クリスの幸せを考えれば応援するべきなのになぜか気分が晴れなかった。普段通りに過ごしているが、ふとした時にそのことを考えてしまう。ラウルについても頭をちらつくが、今はそれを考えている時ではなかった。
そしてそうこうしているうちに夏休みが明けた放課後、浮かない顔をしていたエリーナはベロニカとリズにサロンへと連れていかれたのだった。いつものようにリズがお茶を淹れ、エリーナの隣に座る。エリーナは小説語りをして気分を変えようと、笑顔を作ったがベロニカの最初の一言で突き崩された。
「エリーナ。クリスさんがお見合いをするそうね」
「え、そうなんですか!?」
さすがはベロニカ、情報が早い。リズは目を丸くしてエリーナの顔を見て、心配そうに表情を伺っている。エリーナは力なく笑って頷いた。
「えぇ、シルヴィオ殿下の紹介で。もう少し先の話なんですけどね」
「元気がないわね。クリスさんがお見合いするの嫌なの?」
ベロニカはいつだって直球で訊いてくる。エリーナはその言葉を受けて少し考え、首を横に振った。
「嫌というよりは……寂しいと言いますか。なんだか気が重いんです」
エリーナ自身も自分の気持ちがよくわかっていないため、曖昧な返答になる。胸がつかえているようにもやもやする。
そんなエリーナをベロニカは紅茶をすすりながら、鋭い目つきで見ていた。
「クリスさんは何と言っているの?」
「会って断るって……でも、どうなるかなんてわかりませんし」
「ふ~ん。たしかお相手は侯爵令嬢だったわよね」
「そ、そうなんですか……」
エリーナはお見合いをすると聞いただけで、それ以上のことは知らなかった。クリスが知らなくていいと言ったためだ。ベロニカが知っているということは社交界では噂になっているのだろう。外堀が埋められているような状態に、エリーナは漠然とした不安を感じた。
「エリーナ様は何が不安なんですか?」
リズはエリーナの表情からその気持ちを汲み取る。一方言い当てられたエリーナは、自分に問いかけるように「不安……」と呟いた。
「クリスが幸せになれたらいいとは思うんです。でも、相手がどんな人かも分からないし、それに急に遠くへ行ってしまうようで……」
気落ちしているエリーナに対し、ベロニカは憐れみの眼差しを向けカップをソーサーに戻した。
「まだ結婚が決まったわけでもないのに、そんな顔している場合ではないわよ。エリーナがお見合い相手を見定めないと。クリスさんがいつもしているみたいにね。厳しく相手を見て、粗を探せばいいわ」
「そうですよ! それこそ悪役令嬢の出番です。気に入らなかったら追い払えばいいんです!」
その言葉にエリーナは視線を上げ、目を瞬かせた。すっと胸が軽くなり、瞳に希望が光る。
「そうですよね。わたくしが受け身でいる必要なんてありませんよね」
何より悪役令嬢を出されれば、黙ってなどいられない。そうだ、これは何回も演じてきた兄弟の見合い相手や婚約者をいじめるシチュエーションではないか。それに気づいたエリーナは、身の内からやる気が込み上げてくるのを感じる。
「わたくしやりますわ! クリスの見合い相手を見定める悪役令嬢になります!」
拳を握って意気込むエリーナを見る二人の視線は生温かい。そしてさっそくロマンス小説を読みこんで同じシチュエーションの勉強をすると、意気揚々と帰っていったエリーナの背を見送った二人は、無言で顔を見合わせた。
二人の顔には「そうじゃない」と書かれている。二人にすれば悪役令嬢になってほしいのではなく、そのシチュエーションでの悪役令嬢の気持ちに気づいてほしかったのだ。
ベロニカは深々と溜息をついて、リズが淹れなおした紅茶をすする。
「恋愛レベルひよこにはまだ早かったかしら」
「でも、寂しいとか不安とか、ちょっと独占欲が出てきていますしそろそろ覚醒するのではと踏んでいます」
二人はリズがオランドール公爵家で侍女として行儀見習いをしていることもあり、よくエリーナについて話していた。そのため言葉には容赦がない。
「そうね。このお見合いがいい刺激になるといいのだけど」
「見守るしかないですね……ところで、お相手はどんな方なんですか?」
そう何気なくリズが尋ねれば、ベロニカは微妙そうな表情を浮かべて答える。
「一言で言えば野心家ね。留学が長くて国内ではあまり知られていないけれど、女性でありながら政治、歴史、天文学と数々の学問を修められた才女よ」
「わぁ……それは強烈な方の予感がしますね」
「昔会ったことがあるけれど、中々芯のある方よ」
「それは……」
波乱の足音がすぐそこまで近づいているのを、二人は強く感じたのだった。
そしてそうこうしているうちに夏休みが明けた放課後、浮かない顔をしていたエリーナはベロニカとリズにサロンへと連れていかれたのだった。いつものようにリズがお茶を淹れ、エリーナの隣に座る。エリーナは小説語りをして気分を変えようと、笑顔を作ったがベロニカの最初の一言で突き崩された。
「エリーナ。クリスさんがお見合いをするそうね」
「え、そうなんですか!?」
さすがはベロニカ、情報が早い。リズは目を丸くしてエリーナの顔を見て、心配そうに表情を伺っている。エリーナは力なく笑って頷いた。
「えぇ、シルヴィオ殿下の紹介で。もう少し先の話なんですけどね」
「元気がないわね。クリスさんがお見合いするの嫌なの?」
ベロニカはいつだって直球で訊いてくる。エリーナはその言葉を受けて少し考え、首を横に振った。
「嫌というよりは……寂しいと言いますか。なんだか気が重いんです」
エリーナ自身も自分の気持ちがよくわかっていないため、曖昧な返答になる。胸がつかえているようにもやもやする。
そんなエリーナをベロニカは紅茶をすすりながら、鋭い目つきで見ていた。
「クリスさんは何と言っているの?」
「会って断るって……でも、どうなるかなんてわかりませんし」
「ふ~ん。たしかお相手は侯爵令嬢だったわよね」
「そ、そうなんですか……」
エリーナはお見合いをすると聞いただけで、それ以上のことは知らなかった。クリスが知らなくていいと言ったためだ。ベロニカが知っているということは社交界では噂になっているのだろう。外堀が埋められているような状態に、エリーナは漠然とした不安を感じた。
「エリーナ様は何が不安なんですか?」
リズはエリーナの表情からその気持ちを汲み取る。一方言い当てられたエリーナは、自分に問いかけるように「不安……」と呟いた。
「クリスが幸せになれたらいいとは思うんです。でも、相手がどんな人かも分からないし、それに急に遠くへ行ってしまうようで……」
気落ちしているエリーナに対し、ベロニカは憐れみの眼差しを向けカップをソーサーに戻した。
「まだ結婚が決まったわけでもないのに、そんな顔している場合ではないわよ。エリーナがお見合い相手を見定めないと。クリスさんがいつもしているみたいにね。厳しく相手を見て、粗を探せばいいわ」
「そうですよ! それこそ悪役令嬢の出番です。気に入らなかったら追い払えばいいんです!」
その言葉にエリーナは視線を上げ、目を瞬かせた。すっと胸が軽くなり、瞳に希望が光る。
「そうですよね。わたくしが受け身でいる必要なんてありませんよね」
何より悪役令嬢を出されれば、黙ってなどいられない。そうだ、これは何回も演じてきた兄弟の見合い相手や婚約者をいじめるシチュエーションではないか。それに気づいたエリーナは、身の内からやる気が込み上げてくるのを感じる。
「わたくしやりますわ! クリスの見合い相手を見定める悪役令嬢になります!」
拳を握って意気込むエリーナを見る二人の視線は生温かい。そしてさっそくロマンス小説を読みこんで同じシチュエーションの勉強をすると、意気揚々と帰っていったエリーナの背を見送った二人は、無言で顔を見合わせた。
二人の顔には「そうじゃない」と書かれている。二人にすれば悪役令嬢になってほしいのではなく、そのシチュエーションでの悪役令嬢の気持ちに気づいてほしかったのだ。
ベロニカは深々と溜息をついて、リズが淹れなおした紅茶をすする。
「恋愛レベルひよこにはまだ早かったかしら」
「でも、寂しいとか不安とか、ちょっと独占欲が出てきていますしそろそろ覚醒するのではと踏んでいます」
二人はリズがオランドール公爵家で侍女として行儀見習いをしていることもあり、よくエリーナについて話していた。そのため言葉には容赦がない。
「そうね。このお見合いがいい刺激になるといいのだけど」
「見守るしかないですね……ところで、お相手はどんな方なんですか?」
そう何気なくリズが尋ねれば、ベロニカは微妙そうな表情を浮かべて答える。
「一言で言えば野心家ね。留学が長くて国内ではあまり知られていないけれど、女性でありながら政治、歴史、天文学と数々の学問を修められた才女よ」
「わぁ……それは強烈な方の予感がしますね」
「昔会ったことがあるけれど、中々芯のある方よ」
「それは……」
波乱の足音がすぐそこまで近づいているのを、二人は強く感じたのだった。
0
お気に入りに追加
754
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる