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学園編 17歳
68 王女様に悩まされましょう
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翌日からシャーロット王女は正式に学園で学術交流と文化交流に励まれることとなった。同時に、目に見えてジークにまとわりついている。
「ジーク様、こちらのお菓子は何というものなの?」
「これは王都で人気のあるプリンクッキーだ」
「まぁおいしい。ラルフレア王国にいればいつでも食べられるのね」
そんなやりとりがそこらかしこで行われ、今エリーナとベロニカの目の前でも行われていた。シャーロットはジークの隣に陣取り、腕をからめている。その後ろに護衛の騎士が控えていた。
昼休みのサロン。ベロニカ、エリーナ、ジークの三人で話していたところに、シャーロットが割り込んできたのだ。エリーナは逃げ出したかったが、ベロニカに退路を断たれていた。
「エドガー。後でこのプリンクッキーを買っておいて」
「かしこまりました。シャーロット様」
シャーロットは後ろに立つ護衛の青年にそう指示を出した。端正な顔つきをしており、水色の髪は短く瞳は濃い紫色をしている。リズが攻略キャラでもおかしくないと口にするほど美形であった。
シャーロットはジークに顔を向けながら、あれやこれやとおしゃべりをする。エリーナはシャーロットの話に相槌を打ちながら、横目でベロニカの表情を見た。
(ひぃぃぃ。怒っていらっしゃる)
口元は優美に弧を描いているが、目が全く笑っていない。当然だ。婚約者と目の前でくっつかれ、おもしろいはずがない。そのせいで、エリーナは一切会話に入れずただ頷くだけだ。
エリーナは後で気晴らしになるような痛快な小説を紹介しようと心に決めるのだった。
その翌日、放課後のサロンでベロニカは珍しく頭を抱えていた。
「……どうされましたか?」
エリーナはおずおずとそう声をかける。リズがお茶を淹れてそっとテーブルに置いてくれた。小説語りをする時は、リズが給仕役をしてくれるようになっていた。
「ちょっと面倒なことになったわ」
ベロニカは紅茶の香りで気を落ち着かせ、一口飲んでから続ける。
「南の国からシャーロット様とジーク殿下の婚姻の申し込みがあったのよ……」
「まぁ」
「え、本当ですか!?」
二人は目を丸くし、リズはいそいそとエリーナの隣りに座る。恋バナ好きでゲーム好きのリズは、不謹慎と思いながらもわくわくしていた。
「陛下は本人たちの同意があればと返答されたそうだけれど、困ったことになったわ」
「どうしてですか? ベロニカ様は正妃を抜けられるかもしれないのでしょう?」
王女の方が格上であり、もし婚約となれば正妃となる可能性が高い。婚約者の立場を嫌がっていたベロニカにとっては絶好の機会のように思えるのだが。
「そう簡単な話でもないのよ。前々王も南の国から正妃を迎えられているから、今回も同じことをすると外交バランスが悪くなるのよ。西なら問題なかったんだけどね。今回のことで西が動く可能性も出て来たし……。それにもしそうなっても、側妃として残らされるわ」
眉間に皺をよせて頭を悩ますベロニカを見て、平民のリズはへぇと間の抜けた声を上げる。
「政治の世界って大変なんですね」
「ジークもさっさと断ればいいのに、相手が王女だからって逃げ腰になって……いらない波風を立てないように、王女が帰る前まで返事は保留にするそうよ」
王女はあと三週間滞在する予定であり、その間にもジークとのイベントは目白押しである。苦々しいと吐き捨てるベロニカに、リズとエリーナは顔を見合わせた。いつも冷静なベロニカがこのように苛立っているのは珍しい。
「さすがに王女相手ではわたくしも手が出せないし……」
歯がゆそうに渋い顔をしているベロニカは紅茶を飲み干し、溜息をついてカップを戻した。そこにリズがお茶を注ぎ、不思議そうに小首を傾げる。
「ベロニカ様……殿下を取られるのが嫌なら、素直にそうおっしゃったらいいんじゃないですか」
その言葉にベロニカはさっと顔色を変え、眉間に皺を寄せる。
「ちょ、何を言い出すのよ」
「だってベロニカ様、嫉妬する乙女の顔でしたよ? なんだかんだおっしゃっても、殿下のことが好きなんでしょう?」
何気ないリズの言葉に、エリーナは目をパチクリとさせてベロニカに視線を向けた。
「勝手なことを言わないでちょうだい!」
そう目を吊り上げるベロニカの顔は紅く、残念ながら言葉を裏切っている。そうだったのかとニマニマと笑みを浮かべていたら、ベロニカに頭を扇子ではたかれた。今日もいい音だ。
「リズ、これは政略結婚なのよ? そんなことあるわけないでしょう」
「別に政略結婚でも、恋したらいいじゃないですか。出会いはもちろん大切ですけど、それからどうするかのほうが大事ですよ」
乙女ゲーム、ロマンス小説と恋愛をこよなく愛するリズはそう力説する。エリーナは内心拍手を送っていた。
「リズ、いいことを言うわね。ベロニカ様、わたくしも応援しますわ。かわいいだけの王女様に負けてたまるかですわ!」
「その意気ですエリーナ様! さぁベロニカ様も一緒に!」
「……やめて」
頭が痛くなってきたとこめかみを揉むベロニカをよそに、二人は王女様撃退作戦を考えていく。その冗談とも本気ともわからない案の数々は、却下というベロニカの鋭い一声で闇へと流れていったのだった。
「ジーク様、こちらのお菓子は何というものなの?」
「これは王都で人気のあるプリンクッキーだ」
「まぁおいしい。ラルフレア王国にいればいつでも食べられるのね」
そんなやりとりがそこらかしこで行われ、今エリーナとベロニカの目の前でも行われていた。シャーロットはジークの隣に陣取り、腕をからめている。その後ろに護衛の騎士が控えていた。
昼休みのサロン。ベロニカ、エリーナ、ジークの三人で話していたところに、シャーロットが割り込んできたのだ。エリーナは逃げ出したかったが、ベロニカに退路を断たれていた。
「エドガー。後でこのプリンクッキーを買っておいて」
「かしこまりました。シャーロット様」
シャーロットは後ろに立つ護衛の青年にそう指示を出した。端正な顔つきをしており、水色の髪は短く瞳は濃い紫色をしている。リズが攻略キャラでもおかしくないと口にするほど美形であった。
シャーロットはジークに顔を向けながら、あれやこれやとおしゃべりをする。エリーナはシャーロットの話に相槌を打ちながら、横目でベロニカの表情を見た。
(ひぃぃぃ。怒っていらっしゃる)
口元は優美に弧を描いているが、目が全く笑っていない。当然だ。婚約者と目の前でくっつかれ、おもしろいはずがない。そのせいで、エリーナは一切会話に入れずただ頷くだけだ。
エリーナは後で気晴らしになるような痛快な小説を紹介しようと心に決めるのだった。
その翌日、放課後のサロンでベロニカは珍しく頭を抱えていた。
「……どうされましたか?」
エリーナはおずおずとそう声をかける。リズがお茶を淹れてそっとテーブルに置いてくれた。小説語りをする時は、リズが給仕役をしてくれるようになっていた。
「ちょっと面倒なことになったわ」
ベロニカは紅茶の香りで気を落ち着かせ、一口飲んでから続ける。
「南の国からシャーロット様とジーク殿下の婚姻の申し込みがあったのよ……」
「まぁ」
「え、本当ですか!?」
二人は目を丸くし、リズはいそいそとエリーナの隣りに座る。恋バナ好きでゲーム好きのリズは、不謹慎と思いながらもわくわくしていた。
「陛下は本人たちの同意があればと返答されたそうだけれど、困ったことになったわ」
「どうしてですか? ベロニカ様は正妃を抜けられるかもしれないのでしょう?」
王女の方が格上であり、もし婚約となれば正妃となる可能性が高い。婚約者の立場を嫌がっていたベロニカにとっては絶好の機会のように思えるのだが。
「そう簡単な話でもないのよ。前々王も南の国から正妃を迎えられているから、今回も同じことをすると外交バランスが悪くなるのよ。西なら問題なかったんだけどね。今回のことで西が動く可能性も出て来たし……。それにもしそうなっても、側妃として残らされるわ」
眉間に皺をよせて頭を悩ますベロニカを見て、平民のリズはへぇと間の抜けた声を上げる。
「政治の世界って大変なんですね」
「ジークもさっさと断ればいいのに、相手が王女だからって逃げ腰になって……いらない波風を立てないように、王女が帰る前まで返事は保留にするそうよ」
王女はあと三週間滞在する予定であり、その間にもジークとのイベントは目白押しである。苦々しいと吐き捨てるベロニカに、リズとエリーナは顔を見合わせた。いつも冷静なベロニカがこのように苛立っているのは珍しい。
「さすがに王女相手ではわたくしも手が出せないし……」
歯がゆそうに渋い顔をしているベロニカは紅茶を飲み干し、溜息をついてカップを戻した。そこにリズがお茶を注ぎ、不思議そうに小首を傾げる。
「ベロニカ様……殿下を取られるのが嫌なら、素直にそうおっしゃったらいいんじゃないですか」
その言葉にベロニカはさっと顔色を変え、眉間に皺を寄せる。
「ちょ、何を言い出すのよ」
「だってベロニカ様、嫉妬する乙女の顔でしたよ? なんだかんだおっしゃっても、殿下のことが好きなんでしょう?」
何気ないリズの言葉に、エリーナは目をパチクリとさせてベロニカに視線を向けた。
「勝手なことを言わないでちょうだい!」
そう目を吊り上げるベロニカの顔は紅く、残念ながら言葉を裏切っている。そうだったのかとニマニマと笑みを浮かべていたら、ベロニカに頭を扇子ではたかれた。今日もいい音だ。
「リズ、これは政略結婚なのよ? そんなことあるわけないでしょう」
「別に政略結婚でも、恋したらいいじゃないですか。出会いはもちろん大切ですけど、それからどうするかのほうが大事ですよ」
乙女ゲーム、ロマンス小説と恋愛をこよなく愛するリズはそう力説する。エリーナは内心拍手を送っていた。
「リズ、いいことを言うわね。ベロニカ様、わたくしも応援しますわ。かわいいだけの王女様に負けてたまるかですわ!」
「その意気ですエリーナ様! さぁベロニカ様も一緒に!」
「……やめて」
頭が痛くなってきたとこめかみを揉むベロニカをよそに、二人は王女様撃退作戦を考えていく。その冗談とも本気ともわからない案の数々は、却下というベロニカの鋭い一声で闇へと流れていったのだった。
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