悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
上 下
67 / 194
学園編 17歳

64 茶会で心を奪われましょう

しおりを挟む
「お姉さまぁ。あーん」

 ふわふわの藍色の髪が腰まで伸び、薄紫の瞳がクリクリと可愛らしい天使が、右側からスプーンに乗ったココナッツプリンを差し出してくる。

「お姉さま、こっちも~」

 そして同じ顔の天使が左側からスプーンに乗ったクレームブリュレを差し出してきた。
 ソファーに座るエリーナを挟んでお菓子攻めにする二人の天使は今年で六歳。バレンティア公爵家のアイドルである。

(か、か、可愛すぎる~!)

 キラキラと上目遣いでどうぞと差し出してくれる双子のなんと可愛らしいことか。エリーナは可愛さに悶え、両手で顔を覆っていた。ここがバレンティア公爵家でなければ叫んでいただろう。家でクリスが「可愛すぎて死ぬ!」と叫んでいる気持ちがわかってしまった。

「ローズ、リリー。エリーナが困っているだろう」

 向かいのソファーに座っているルドルフはおもしろくなさそうな顔で紅茶をすすっている。エリーナは顔を上げ、左右でウルウルと瞳を揺らしている双子を交互に見た。右にいるのが双子の姉のローズで、赤いドレスを着ている。対して左にいるのが妹のリリーで、青いドレスを着ていた。

「いえ、両方いただきますわ!」

 こんな可愛い申し出を断ることはできないと、エリーナは二人のスプーンから大好きなプリンをもらった。少々はしたないが子どものすることと、大目に見てもらうことにする。

「おいしい?」

「どう?」

「もちろんおいしいですわ!」

 満面の笑みでそう答えれば、双子はやったぁとエリーナに抱きついてきた。その仕草に心臓が打ち抜かれる。


 本日は以前夜会で誘われた茶会に参加するため、バレンティア侯爵家を訪れていた。クリスも一緒に来ており、最初は公爵夫妻とルドルフ、クリス、エリーナで談笑をしていたのだが、双子が「お客様が来たのー?」と乱入してきたので、ルドルフとエリーナが双子を連れて席を外したのだ。

 その後、双子の可愛さに秒で陥落したエリーナである。

「エリーナお姉さま、ご本を読みましょう?」

「え~。庭園にいきましょうよ~」

 可愛い天使にお姉様と呼ばれ、ゆさゆさと左右から揺らされる。ここは天国なのかなと、昇天しそうになっていた。そこに苦り切った顔でルドルフが割って入る。

「ローズ、リリー。エリーナは私と話すために来たんだ。取らないでくれるか?」

 べったりとくっつく双子を見て、ルドルフは少し羨ましそうだ。それに対し、ローズがぷくりと頬を膨らませる。

「だってぇ、お兄さまはいつもエリーナお姉さまの話をするんだもん。お茶会とか、夜会とかずる~い」

 そこにリリーも追撃する。

「私たちだって、お姉さまに会いたかったのに、なかなか家に呼んでくれないんだもん。ちょっとくらい遊んだっていいじゃない」

 双子はエリーナごしに顔を合わせて、「ねー」と声を合わす。妹二人から責められて、ルドルフは額に手をやっていた。しかもさりげなく双子にエリーナの話をしていたことをばらされた。
 エリーナはデレデレと相好を崩し、二人の頭を撫でている。

「ルドルフ様、妹ってこんなに可愛いんですね。毎日一緒にいられるルドルフ様が羨ましいです」

「……可愛いが、わりと強かで凶暴だぞ」

 小さくて可愛くても女の子であり、時に無邪気に辛辣な言葉を吐くのだ。よく家に遊びに来るベロニカの影響とは考えたくない。

「ねぇ、お姉さま~。お兄さまと結婚したら一緒にいられるよ~」とローズ。

「わたし、お姉さまがほしいの~」とリリー。

 きゅっとドレスを掴まれ、お願いされれば「よろこんで」と返したくなるが、寸前で我に返った。

(あ、危ないわ……外堀が埋められるところだった)

 翻弄されるエリーナを見て、ルドルフが「妹を使うという手があったか」と持ち前の腹黒さを発揮しはじめていた。ルドルフだけならまだしも、天使に迫られたら断るのが難しくなる。

「ねぇ、お姉さま。今度、ピクニックしましょ」

「リリー、頭いい~。お兄さまもいいよね」

「あぁ、もちろん」

 ルドルフは素晴らしい考えだといい顔で笑っている。瞬く間に次の予定が決まってしまった。エリーナが口を挟む隙は無い。

「エリーナ。活発な妹たちだが、懐いてくれて嬉しく思うよ。これでエリーナを迎えるのに、何の気兼ねもなくなったからな」

 ん? とその言葉にエリーナは固まる。よく考えれば、これは顔合わせのようなものではないか。扉の向こうでクリスが夫妻と何を話しているのかが、無性に気になってきた。クリスのことだから、勝手に婚約を進めるはずはないが……。

「ル、ルドルフ様。純粋な子どもの前でその話はまだ早いと言いますか。それに子どもの機嫌はすぐに変わってしまいますし」

「ローズは子どもじゃないもん。レディだもん!」

「エリーナお姉さまのこと、ずっと好きだもん!」

 エリーナが何とか話を逸らそうとすれば、両側から苦情が飛んできた。きゃいきゃいと吠える二人に、和んでしまう。可愛い。

「ごめんなさいね。立派なレディよね」

 唇を尖らしている様子も抱きしめたくなるほど可愛い。エリーナは可愛い以外の言葉が出てこなかった。


 その後、双子に連れられて庭園を散歩し、東屋で絵本を読んだ。その様子をルドルフは微笑ましそうに見ており、今回は妹たちにエリーナとの時間を譲ると決めたらしい。そしてたっぷり遊んだところで、クリスに呼ばれてバレンティア公爵家を後にする。

「帰らないで~」

「私たちと遊んで~」

 とドレスにしがみついて離れない二人に後ろ髪が引かれたが、「絶対また遊びに来るわ」と約束してお別れをした。二人はエリーナが馬車に乗り込んでも懸命に手を振ってくれ、健気さに涙が出そうだ。お礼のお手紙を出そうと、心に誓う。

「エリーナって子どもに好かれるんだね。すごく可愛かったよ」

 ちなみにクリスは子どもに避けられる。今日も乱入してきた双子はクリスを凝視した後、そちらから遠ざかるようにエリーナにくっついてきた。

「連れて帰りたくなったわ……」

「へぇ、気に入ったなら婚約の話を進める? 公爵夫妻は二人に任せるって言ってたよ」

 やはり婚約の話もしていたらしい。両家とも婚約を急いでいるわけでもないため、縁があればぐらいの軽いものだが確実に外堀は埋められている。

「そ、それは……まだ遠慮するわ」

 婚約の二文字に、クリスの顔が見られない。ベロニカにクリスと結婚する道もあると言われてから、なんだか気恥ずかしくてその話題は避けていた。

「そう。まぁ、エリーが選べばいいよ。結婚するもしないもさ」

 クリスはそう言って、いつもエリーナに判断を任せていた。結婚は貴族の義務という風潮の中で、結婚しなくてもいいとはっきり口にする。

「えぇ……後悔しないように、選ぶわ」

 今までは選ぶことすらできなかったのだ。この世界でずっと生きるのか、次のゲームが始まるのかはわからないが、後悔のない選択にしたい。
 エリーナは馬車に揺られながらそう強く思ったのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

処理中です...