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学園編 16歳
33 怪しい少女を問い詰めましょう
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サロンの中には貸し切れるものがある。人の少ない放課後はあまり意味がないが、使用可の札をひっくり返して使用中にしておけば、他の人が入って来ることはない。主に上流貴族の学生が使うのだが、今回エリーナはしっかりと使用中にしてからドアを閉めた。
戸惑い、怯えた表情のリズをソファーに座らせ、テーブルを挟んだ向かい側に座る。昼休みは給仕係が常駐しているが、放課後はいない。つまり、完全に二人っきりだ。
「逃げられるなんて思わないでね」
「は、はい」
リズは上ずった声で返事をし、ガチガチに身を固くしていた。涙は引いたが目は赤く充血している。
「それで、リズ・スヴェル。あなたは侍女科の学生でいいのよね」
「は、い。今年度入学しました」
「どうしてこんなことしたの?」
意図的に威圧的な視線を送る。リズはひっと小さく呻いて、視線を泳がせた。口に出すのをためらうリズに、エリーナは時間の無駄と質問を重ねる。
「ジーク様に思いを寄せているの?」
「い、いえ! 素敵な方で四六時中見ていたいですけど、不相応な想いは抱いておりません!」
「じゃぁ、他の誰か?」
「違います!」
血相を変えて否定したが、本当の理由を言おうとしない。嘘をついているようには見えないが、明らかに何かを隠している。高圧的なだけでもだめかと、少し声音を優しくして再び問いかけた。
「ということは、私のことを見ていたの?」
「は、はい……」
「どうして?」
「す、すてきだなぁって……」
嘘が下手すぎる。視線は定まらず、声も震えている。侍女科の学生が伯爵令嬢を追い回していたとなれば、罰則は免れないし最悪就職にも響く。色恋がからんでいるなら話は別だが、そうでないなら彼女にはデメリットしかない。
「ねぇ、怒らないから、本当のことを教えて?」
眉尻を下げて困った表情を浮かべ、小首を傾げる。押してだめなら引くしかない。こういう時可愛らしいこの顔は有効だ。
リズにも効いたようで、「エリーを困らせてる」ともごもご呟き、どうしようかと葛藤している。こちらにチラチラ視線を向けながら百面相をするリズは陥落一歩手前。
(これは、落とせるわ)
この方法は何度もクリスに試し、勝利を重ねているとどめの一撃だ。瞳を潤ませ、合わせた手を口元に持っていき、コテンと小首を傾げて一言。
「おねがい」
ちょっと甘えの入った声がポイント。悪役令嬢らしくはないが、自分の利点を最大限生かすことも必要だ。
「うっ……かわいい」
(落ちたわね)
思惑通り心臓を射抜けたようで、にんまり笑いそうになる表情を慌てて引き締める。そしてリズは深呼吸をすると覚悟を決めた表情でまっすぐ視線を向けてきた。
「信じてもらえるか、わからないんですけど……」
不安げにおずおずと声を出すリズに、エリーナは任せなさいと胸を張る。
「大丈夫、ちょっとやそっとじゃ驚かないわ」
なにせ悪役令嬢20回目であり、悪役人生の経験だけは豊富だ。これまで色々なキャラとストーリーを見てきたため、なんでも受け止められる自信がある。
リズはもう一度深呼吸をすると、背筋を正して膝の上の拳にぐっと力を入れた。何が飛び出すのかと少しドキドキしながら言葉を待つ。
「エリーナ様……前世って信じますか?」
唐突にスピリチュアルな話になり、エリーナは小首を傾げつつ、えぇと頷く。
「まぁ、あってもおかしくはないわね」
エリーナの今までの悪役令嬢も前世といえば前世だ。あまり生きていたという実感はないが。
「それで……私には前世の記憶があるんです」
「え?」
もしかして同じようにゲームキャラを演じてきたのだろうかと、期待を胸に続きに耳を傾ける。そしてリズは緊張に顔を強張らせ、この世の終わりを告げるように重々しく口を開いた。
「それによると、この世界は乙女ゲームの世界にそっくりなんです」
振り絞るように告げられた言葉を聞いて、エリーナはパチクリと瞬きをする。真顔のままコクリと頷いた。
「知ってるわ」
「へ、知ってる? えぇぇぇ!」
あっさりとエリーナが認めると、リズは飛び上がって驚いた。人って浮くんだと変な所を感心してしまった。
(ということは、モブキャラ専門の役者かしら……20回目にして仕事仲間に出会えるなんて!)
自分と同じ境遇の者に出会えて、自然と顔がほころぶ。戸惑い混乱しているリズを放って、じんわりと感動に浸っていた。
「え、え。もしかして、私と一緒なんですか!?」
リズは安心したのか期待に目を見開いて、前のめりになる。声もさきほどとは打って変わって弾んでいた。
「えぇ!」
「じゃぁ、あなたも」
「そう。わたくしもあなたと同じで、乙女ゲームのキャラクターを何人も演じてきたプロの悪役令嬢よ!」
自分の事を口にすることができる日が来るなんてと、エリーナは悪役令嬢人生の中で最高の喜びを味わっていた。
(これで今までの不満とかを愚痴ることもできるし、このゲームの悪役令嬢を楽しく演じられるわ!)
まさに天国と、目を輝かせるエリーナの頬は興奮でほんのり赤くなっていた。クリスがいれば卒倒しそうな可愛さである。だが、リズはポカンと口を開けている。
「え、プロの悪役令嬢? 私、転生者ですけど?」
「え、てんせいしゃ?」
見つめ合うこと三秒。どうも思い違いがあるようだと、二人は仕切り直して話を再開するのだった。
戸惑い、怯えた表情のリズをソファーに座らせ、テーブルを挟んだ向かい側に座る。昼休みは給仕係が常駐しているが、放課後はいない。つまり、完全に二人っきりだ。
「逃げられるなんて思わないでね」
「は、はい」
リズは上ずった声で返事をし、ガチガチに身を固くしていた。涙は引いたが目は赤く充血している。
「それで、リズ・スヴェル。あなたは侍女科の学生でいいのよね」
「は、い。今年度入学しました」
「どうしてこんなことしたの?」
意図的に威圧的な視線を送る。リズはひっと小さく呻いて、視線を泳がせた。口に出すのをためらうリズに、エリーナは時間の無駄と質問を重ねる。
「ジーク様に思いを寄せているの?」
「い、いえ! 素敵な方で四六時中見ていたいですけど、不相応な想いは抱いておりません!」
「じゃぁ、他の誰か?」
「違います!」
血相を変えて否定したが、本当の理由を言おうとしない。嘘をついているようには見えないが、明らかに何かを隠している。高圧的なだけでもだめかと、少し声音を優しくして再び問いかけた。
「ということは、私のことを見ていたの?」
「は、はい……」
「どうして?」
「す、すてきだなぁって……」
嘘が下手すぎる。視線は定まらず、声も震えている。侍女科の学生が伯爵令嬢を追い回していたとなれば、罰則は免れないし最悪就職にも響く。色恋がからんでいるなら話は別だが、そうでないなら彼女にはデメリットしかない。
「ねぇ、怒らないから、本当のことを教えて?」
眉尻を下げて困った表情を浮かべ、小首を傾げる。押してだめなら引くしかない。こういう時可愛らしいこの顔は有効だ。
リズにも効いたようで、「エリーを困らせてる」ともごもご呟き、どうしようかと葛藤している。こちらにチラチラ視線を向けながら百面相をするリズは陥落一歩手前。
(これは、落とせるわ)
この方法は何度もクリスに試し、勝利を重ねているとどめの一撃だ。瞳を潤ませ、合わせた手を口元に持っていき、コテンと小首を傾げて一言。
「おねがい」
ちょっと甘えの入った声がポイント。悪役令嬢らしくはないが、自分の利点を最大限生かすことも必要だ。
「うっ……かわいい」
(落ちたわね)
思惑通り心臓を射抜けたようで、にんまり笑いそうになる表情を慌てて引き締める。そしてリズは深呼吸をすると覚悟を決めた表情でまっすぐ視線を向けてきた。
「信じてもらえるか、わからないんですけど……」
不安げにおずおずと声を出すリズに、エリーナは任せなさいと胸を張る。
「大丈夫、ちょっとやそっとじゃ驚かないわ」
なにせ悪役令嬢20回目であり、悪役人生の経験だけは豊富だ。これまで色々なキャラとストーリーを見てきたため、なんでも受け止められる自信がある。
リズはもう一度深呼吸をすると、背筋を正して膝の上の拳にぐっと力を入れた。何が飛び出すのかと少しドキドキしながら言葉を待つ。
「エリーナ様……前世って信じますか?」
唐突にスピリチュアルな話になり、エリーナは小首を傾げつつ、えぇと頷く。
「まぁ、あってもおかしくはないわね」
エリーナの今までの悪役令嬢も前世といえば前世だ。あまり生きていたという実感はないが。
「それで……私には前世の記憶があるんです」
「え?」
もしかして同じようにゲームキャラを演じてきたのだろうかと、期待を胸に続きに耳を傾ける。そしてリズは緊張に顔を強張らせ、この世の終わりを告げるように重々しく口を開いた。
「それによると、この世界は乙女ゲームの世界にそっくりなんです」
振り絞るように告げられた言葉を聞いて、エリーナはパチクリと瞬きをする。真顔のままコクリと頷いた。
「知ってるわ」
「へ、知ってる? えぇぇぇ!」
あっさりとエリーナが認めると、リズは飛び上がって驚いた。人って浮くんだと変な所を感心してしまった。
(ということは、モブキャラ専門の役者かしら……20回目にして仕事仲間に出会えるなんて!)
自分と同じ境遇の者に出会えて、自然と顔がほころぶ。戸惑い混乱しているリズを放って、じんわりと感動に浸っていた。
「え、え。もしかして、私と一緒なんですか!?」
リズは安心したのか期待に目を見開いて、前のめりになる。声もさきほどとは打って変わって弾んでいた。
「えぇ!」
「じゃぁ、あなたも」
「そう。わたくしもあなたと同じで、乙女ゲームのキャラクターを何人も演じてきたプロの悪役令嬢よ!」
自分の事を口にすることができる日が来るなんてと、エリーナは悪役令嬢人生の中で最高の喜びを味わっていた。
(これで今までの不満とかを愚痴ることもできるし、このゲームの悪役令嬢を楽しく演じられるわ!)
まさに天国と、目を輝かせるエリーナの頬は興奮でほんのり赤くなっていた。クリスがいれば卒倒しそうな可愛さである。だが、リズはポカンと口を開けている。
「え、プロの悪役令嬢? 私、転生者ですけど?」
「え、てんせいしゃ?」
見つめ合うこと三秒。どうも思い違いがあるようだと、二人は仕切り直して話を再開するのだった。
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