2 / 194
領地編
1 次の悪役令嬢を演じましょう
しおりを挟む
ふっと、目が覚める。小鳥たちの愛らしい鳴き声が聞こえ、柔らかな日の光が差し込んでいる。気持ちのいい朝だ。
体を起こすと同時に、体の情報が頭に入って来る。流れ込んできた情報を口に出してみた。鈴のような透き通った声が、耳にここちよい。
「エリーナ・ローゼンディアナ。祖父が伯爵位を賜っており、王都に近いところに小さな領地を持っている。母がこの家の出で、エリーナは生まれた時からここで暮らしている。父は誰だか分からないらしい……っと」
しかもその母は五歳の時に病で亡くなってしまい、現在祖父と二人だけのようだ。
(伯爵ねぇ。低くもないけれど、高くもないわよね)
悪役令嬢と言えば、親の権力を振りかざして……が定番だが、今回は難しそうだ。権力を振りかざすなら、貴族の最高位である公爵は欲しい。
それに、記憶にある祖父は、政治の場で活躍している人ではない。
(まぁ。安全に暮らせるだけいいわ。見たところ、お金には困ってないみたいだし)
部屋の調度品を見ると、華美ではないが品はいい。悪役令嬢によっては、家にお金がないので、上玉の結婚相手を得るために主人公の邪魔をするというストーリーもあったからだ。
エリーナはぐっと伸びをして、欠伸をする。
(ゆっくりした始まりでよかったわ)
今回の始まりはいい方だ。ひどい時は気づけばイベントが始まる直前で、イベントをこなしながら世界観を把握した時もあった。
ゲームの設定にもよるのだろうが、どの段階で役に入れるかは分からない。
(まずは、このゲームの内容を理解しないと)
悪役令嬢の役に入った瞬間から、脳内にはゲームのシナリオが入っている。主人公と攻略キャラのプロフィールに、イベント内容、ルートと分岐点など。
それは念じただけで頭に広がるものだったのだが……。
(あれ? シナリオが浮かばないわ)
いつもと違うと、困惑する。何度念じてみても、結果は同じだった。
(どうしたのかしら。不具合でも起こったの?)
いくらベテランの悪役令嬢と言っても、アドリブはきつい。せめて、誰をターゲットにするかぐらいの情報は欲しい。
前にも全キャラの動きが不自然に止まったり、視界が真っ暗になったりという不具合はあったが、数日で直っていた。今回もすぐに直るだろうと問題は後回しにし、ベッドから降りようとした。
……が。
「きゃっ」
着くと思った足は着かず、見事に転ぶ。それほど痛くなかったが、それよりも驚きのほうが大きい。
(あれ、なんか思ったより小さくないかしら)
目線が低く、床に着いた手もちんまりとしている。嫌な予感に、血の気が引いてきた。
(えぇ……まって)
エリーナは首を巡らし、部屋の隅に姿見を見つけると恐る恐る近づく。歩幅もてくてくではなく、とてとてのような。
気のせいであってほしいと思いつつ姿見に目をやると、そこに映っていたのは幼い女の子だった。
「嘘でしょ!?」
思わず姿見に手を置いてまじまじとその姿を見た。
(この姿で悪役令嬢するの!?)
どうみても6、7歳くらいだ。鏡の中の少女は驚き目を見張っている。
乙女ゲームはだいたい15、6の年齢から始まることが多い。少女の恋愛がテーマなのだから当然だ。だから、今までの役はそれぐらいの年齢で、こんな幼い悪役令嬢は演じたことがない。
しかも、この顔はやけに目がくりくりしている。愛らしい瞳はアメジスト色。プラチナブロンドの髪はゆるふわで、肌はもっちり薄ピンク。
乙女ゲームの悪役令嬢と言えば、つり目にドリルのような縦巻きロールが定番だった。髪型は色々あれども、怖そうなつり目は共通していたのだ。
(どうしよう。これ、睨んでも迫力あるかしら)
試しに鏡に向かって睨みを利かせてみるが、キレがない。ギロリじゃなく、キョロリだ。
(シナリオも分からないし、顔も可愛すぎるわ……どういうこと?)
今までとは違う始まり方に戸惑いを隠せない。鏡に手をついて考えてみるが、幼い脳はいい解答を出してくれない。
眉間に皺をよせたエリーナは、ハッと閃いた。顔を上げて、自分の新しい顔を見つめる。
(これはまさか……私がもうプロの域にいるから、ハードモードになったのね!)
この容姿で悪役令嬢はハードルが高いが、だからこそプロのプライドが刺激される。エリーナは、今までとは違う悪役令嬢に燃えた。
(考えてみれば、いつも同じような悪役令嬢じゃ、プレイヤーも飽きるわよね)
乙女ゲームではギャップも一つの重要な要素であることを、エリーナはよく知っていた。ゆえに、容姿が違っていても目指すものは変わらない。
(悪役令嬢の誇りにかけて、主人公をいじめぬいて断罪されるわ!)
今日から睨む練習をしないと、と思いながら姿見とにらめっこをしていると、ドアがノックされる音がした。
体を起こすと同時に、体の情報が頭に入って来る。流れ込んできた情報を口に出してみた。鈴のような透き通った声が、耳にここちよい。
「エリーナ・ローゼンディアナ。祖父が伯爵位を賜っており、王都に近いところに小さな領地を持っている。母がこの家の出で、エリーナは生まれた時からここで暮らしている。父は誰だか分からないらしい……っと」
しかもその母は五歳の時に病で亡くなってしまい、現在祖父と二人だけのようだ。
(伯爵ねぇ。低くもないけれど、高くもないわよね)
悪役令嬢と言えば、親の権力を振りかざして……が定番だが、今回は難しそうだ。権力を振りかざすなら、貴族の最高位である公爵は欲しい。
それに、記憶にある祖父は、政治の場で活躍している人ではない。
(まぁ。安全に暮らせるだけいいわ。見たところ、お金には困ってないみたいだし)
部屋の調度品を見ると、華美ではないが品はいい。悪役令嬢によっては、家にお金がないので、上玉の結婚相手を得るために主人公の邪魔をするというストーリーもあったからだ。
エリーナはぐっと伸びをして、欠伸をする。
(ゆっくりした始まりでよかったわ)
今回の始まりはいい方だ。ひどい時は気づけばイベントが始まる直前で、イベントをこなしながら世界観を把握した時もあった。
ゲームの設定にもよるのだろうが、どの段階で役に入れるかは分からない。
(まずは、このゲームの内容を理解しないと)
悪役令嬢の役に入った瞬間から、脳内にはゲームのシナリオが入っている。主人公と攻略キャラのプロフィールに、イベント内容、ルートと分岐点など。
それは念じただけで頭に広がるものだったのだが……。
(あれ? シナリオが浮かばないわ)
いつもと違うと、困惑する。何度念じてみても、結果は同じだった。
(どうしたのかしら。不具合でも起こったの?)
いくらベテランの悪役令嬢と言っても、アドリブはきつい。せめて、誰をターゲットにするかぐらいの情報は欲しい。
前にも全キャラの動きが不自然に止まったり、視界が真っ暗になったりという不具合はあったが、数日で直っていた。今回もすぐに直るだろうと問題は後回しにし、ベッドから降りようとした。
……が。
「きゃっ」
着くと思った足は着かず、見事に転ぶ。それほど痛くなかったが、それよりも驚きのほうが大きい。
(あれ、なんか思ったより小さくないかしら)
目線が低く、床に着いた手もちんまりとしている。嫌な予感に、血の気が引いてきた。
(えぇ……まって)
エリーナは首を巡らし、部屋の隅に姿見を見つけると恐る恐る近づく。歩幅もてくてくではなく、とてとてのような。
気のせいであってほしいと思いつつ姿見に目をやると、そこに映っていたのは幼い女の子だった。
「嘘でしょ!?」
思わず姿見に手を置いてまじまじとその姿を見た。
(この姿で悪役令嬢するの!?)
どうみても6、7歳くらいだ。鏡の中の少女は驚き目を見張っている。
乙女ゲームはだいたい15、6の年齢から始まることが多い。少女の恋愛がテーマなのだから当然だ。だから、今までの役はそれぐらいの年齢で、こんな幼い悪役令嬢は演じたことがない。
しかも、この顔はやけに目がくりくりしている。愛らしい瞳はアメジスト色。プラチナブロンドの髪はゆるふわで、肌はもっちり薄ピンク。
乙女ゲームの悪役令嬢と言えば、つり目にドリルのような縦巻きロールが定番だった。髪型は色々あれども、怖そうなつり目は共通していたのだ。
(どうしよう。これ、睨んでも迫力あるかしら)
試しに鏡に向かって睨みを利かせてみるが、キレがない。ギロリじゃなく、キョロリだ。
(シナリオも分からないし、顔も可愛すぎるわ……どういうこと?)
今までとは違う始まり方に戸惑いを隠せない。鏡に手をついて考えてみるが、幼い脳はいい解答を出してくれない。
眉間に皺をよせたエリーナは、ハッと閃いた。顔を上げて、自分の新しい顔を見つめる。
(これはまさか……私がもうプロの域にいるから、ハードモードになったのね!)
この容姿で悪役令嬢はハードルが高いが、だからこそプロのプライドが刺激される。エリーナは、今までとは違う悪役令嬢に燃えた。
(考えてみれば、いつも同じような悪役令嬢じゃ、プレイヤーも飽きるわよね)
乙女ゲームではギャップも一つの重要な要素であることを、エリーナはよく知っていた。ゆえに、容姿が違っていても目指すものは変わらない。
(悪役令嬢の誇りにかけて、主人公をいじめぬいて断罪されるわ!)
今日から睨む練習をしないと、と思いながら姿見とにらめっこをしていると、ドアがノックされる音がした。
2
お気に入りに追加
754
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す
ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる!
*三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。
(本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる