異世界転移物語

月夜

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抗いたい運命

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「そうです。どんな状況だったんですか? もうみんなには散々話したのかも知れませんが、僕も聞いておきたいので、もう一度話してもらえませんか」

「構わないわ」

 僕のお願いを真奈花さんは快く引き受けてくれた。

「ええとね、私はある食品メーカーの商品開発室に勤務してるの。本来は日曜日だから休みなんだけど、クレームが来たもんで休日出勤してたんだよね。まったく、うちの会社ったら人手不足なもんで」

 愚痴を述べられた僕は苦笑する。

「サバ缶の刻印に問題があったの。賞味期限のやつ。一部、刻印不良が発生して読み取りにくい状態になってるってんで、とりあえず出荷前の商品を集めて、何人かの社員でチェックしようということになったのよ。ほら、人海戦術ってやつ。それで私がその準備をしてたんだけど……その時に急にめまいが起こって」

「はあ、なるほど。それでサバ缶だらけだったんですか。料子さんたち喜んでたでしょ」

「そうね。なんか食料が不足してるらしいじゃん、ここ。あんなもんでもすごく貴重だって嬉しがってた」

 真奈花さんは他人事のように言う。あまりサバイバルの実感はないのかもしれない。

「それにしても驚いたわ。気がついたらいきなり森の中で、しかも知らない人たちや瀕死の病人までいるんだもの。あ、変な言い方してごめんなさいね。あの亡くなった金田さんという人、あなたたちにとっては大切な人だったんだよね?」

「はい。かけがえのない友人……といってもいいでしょうね」

「もう一ヶ月以上も森の中で暮らしてるんでしょ。それって、どんな感じ?」

 真奈花さんの問いはあまりに漠然とし過ぎていた。

「どんな感じと言われても……とにかく色々ありました。トラブルが起こるたびに、みんなでどうしようか考えながら、毎日を乗り切ってきた感じですね。つらいことが多かったですが、今思うと楽しいこともたくさんあったような気がします」

「へええ、そうなんだ。私もこれからそんな経験をしていくことになるのね」

 真奈花さんは遠くを見つめるような仕草をした。

「ねえ、私たちはなんでこんな目にあうんだろうね。何か悪いことしたのかな。健太君だっけ? あなたは何か神様信じてる?」

「宗教は特には。でも日本の八百万の神みたいな漠然としたものについては、なんとなく神はいるのかな、ぐらいには思ってます」

「これも運命って言ってしまえばそれまでだけど、どうして私の運命がこの不遇な方向に進んだのかは知っておきたいな。でなければ、こんな運命受け入れられないわ」
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