314 / 319
全能の神の誤ち
しおりを挟む
金田さんはそこで一息入れた。
「彼らとて、大量の物資や人員を移動するのはかなわなかったようだ。俺たちの様子を観察しながら、飢え死にしない程度に援助する、そんなスタンスで物資移動をしていたんだ。こちらの世界でも当然監視網が張り巡らされている」
「じゃあ、たとえば数十人もの世界内転移もAIがわざと実行したというんですか」
「ああ、おそらくそうだろう。ある程度、集落運営のメドがついた段階で、それ以上の人口増加を防ぐ目的があったんじゃないかな」
そう言われてみれば心当たりは確かにある。あまりにタイミングの良い転移だった。スカウトさんたちが出発してもなお、人員に余裕があった、あのタイミング。
ここに来てからのいくつかの転移も、実質的にそれによって深刻な問題が生じたことはない。ちゃんとAIがバランスを考えてくれたのだ。
それに新しい人が来るたびに、適切な物資の補充が行われたり、病人が出たタイミングでドクターが来たりと……あれはやはり偶然ではなかったのだ。ご都合主義すぎる展開はすべて仕組まれていたのだった。
「もっと科学を応用した物資を大量に転移させれば、こっちの生活で苦労することはないだろうが、それでは俺たちがこの世界でたくましく生きていく力がつかない。また人間同士の強いつながりを作る障害にもなってしまう。苦労をともにすることで互いの仲が深まるっていう人間の特性をあいつら良く分かってやがる」
「金田さんはどこでそれを? もう教えてくれてもいいでしょ。金田さんの病気とも何か関係あるんですか」
「以前にも言ったよな。俺は転移の際、時空の狭間に置き去りにされたって。あれは転移のバグみたいなもんだった。AIだって完璧じゃないってことだ。その状況を知ったAIは俺の脳内に語りかける形で接触してきたんだ。そこから脱出することは出来るが、障害が残る、と。最悪、重い病にかかり死に至る、と」
「そんな。彼らのせいってことですか?」
「ああ、彼らのミスだ。だが責めても仕方ない。俺はそれでも脱出を望んだ。あんな空間でいつまでもいられるかってんだ。なんとか、この世界に戻っては来れたものの、案の定、不知の病に冒された。その時、せめてもの罪滅ぼしなのか、俺にAIがやろうとしているすべてを話してくれたというわけだ……」
「AIがそんな人間的な態度に出るなんて……なんだか信じられない」と陽子さん。
「もちろん彼らは、俺が皆にそのことを話すことも想定していた。話してダメなような内容なら、わざわざ俺に教えたりしないよな。なので他人に伝えることを禁止はしなかったが、一言だけ条件をつけてきた。それは『話すに足る人物に話せ』というものだった。誰にも彼にも無差別に話すのではなく、人を選んで話せってことだ」
「彼らとて、大量の物資や人員を移動するのはかなわなかったようだ。俺たちの様子を観察しながら、飢え死にしない程度に援助する、そんなスタンスで物資移動をしていたんだ。こちらの世界でも当然監視網が張り巡らされている」
「じゃあ、たとえば数十人もの世界内転移もAIがわざと実行したというんですか」
「ああ、おそらくそうだろう。ある程度、集落運営のメドがついた段階で、それ以上の人口増加を防ぐ目的があったんじゃないかな」
そう言われてみれば心当たりは確かにある。あまりにタイミングの良い転移だった。スカウトさんたちが出発してもなお、人員に余裕があった、あのタイミング。
ここに来てからのいくつかの転移も、実質的にそれによって深刻な問題が生じたことはない。ちゃんとAIがバランスを考えてくれたのだ。
それに新しい人が来るたびに、適切な物資の補充が行われたり、病人が出たタイミングでドクターが来たりと……あれはやはり偶然ではなかったのだ。ご都合主義すぎる展開はすべて仕組まれていたのだった。
「もっと科学を応用した物資を大量に転移させれば、こっちの生活で苦労することはないだろうが、それでは俺たちがこの世界でたくましく生きていく力がつかない。また人間同士の強いつながりを作る障害にもなってしまう。苦労をともにすることで互いの仲が深まるっていう人間の特性をあいつら良く分かってやがる」
「金田さんはどこでそれを? もう教えてくれてもいいでしょ。金田さんの病気とも何か関係あるんですか」
「以前にも言ったよな。俺は転移の際、時空の狭間に置き去りにされたって。あれは転移のバグみたいなもんだった。AIだって完璧じゃないってことだ。その状況を知ったAIは俺の脳内に語りかける形で接触してきたんだ。そこから脱出することは出来るが、障害が残る、と。最悪、重い病にかかり死に至る、と」
「そんな。彼らのせいってことですか?」
「ああ、彼らのミスだ。だが責めても仕方ない。俺はそれでも脱出を望んだ。あんな空間でいつまでもいられるかってんだ。なんとか、この世界に戻っては来れたものの、案の定、不知の病に冒された。その時、せめてもの罪滅ぼしなのか、俺にAIがやろうとしているすべてを話してくれたというわけだ……」
「AIがそんな人間的な態度に出るなんて……なんだか信じられない」と陽子さん。
「もちろん彼らは、俺が皆にそのことを話すことも想定していた。話してダメなような内容なら、わざわざ俺に教えたりしないよな。なので他人に伝えることを禁止はしなかったが、一言だけ条件をつけてきた。それは『話すに足る人物に話せ』というものだった。誰にも彼にも無差別に話すのではなく、人を選んで話せってことだ」
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる