異世界転移物語

月夜

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全能の神の誤ち

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 金田さんはそこで一息入れた。

「彼らとて、大量の物資や人員を移動するのはかなわなかったようだ。俺たちの様子を観察しながら、飢え死にしない程度に援助する、そんなスタンスで物資移動をしていたんだ。こちらの世界でも当然監視網が張り巡らされている」

「じゃあ、たとえば数十人もの世界内転移もAIがわざと実行したというんですか」

「ああ、おそらくそうだろう。ある程度、集落運営のメドがついた段階で、それ以上の人口増加を防ぐ目的があったんじゃないかな」

 そう言われてみれば心当たりは確かにある。あまりにタイミングの良い転移だった。スカウトさんたちが出発してもなお、人員に余裕があった、あのタイミング。

 ここに来てからのいくつかの転移も、実質的にそれによって深刻な問題が生じたことはない。ちゃんとAIがバランスを考えてくれたのだ。

 それに新しい人が来るたびに、適切な物資の補充が行われたり、病人が出たタイミングでドクターが来たりと……あれはやはり偶然ではなかったのだ。ご都合主義すぎる展開はすべて仕組まれていたのだった。

「もっと科学を応用した物資を大量に転移させれば、こっちの生活で苦労することはないだろうが、それでは俺たちがこの世界でたくましく生きていく力がつかない。また人間同士の強いつながりを作る障害にもなってしまう。苦労をともにすることで互いの仲が深まるっていう人間の特性をあいつら良く分かってやがる」

「金田さんはどこでそれを? もう教えてくれてもいいでしょ。金田さんの病気とも何か関係あるんですか」

「以前にも言ったよな。俺は転移の際、時空の狭間に置き去りにされたって。あれは転移のバグみたいなもんだった。AIだって完璧じゃないってことだ。その状況を知ったAIは俺の脳内に語りかける形で接触してきたんだ。そこから脱出することは出来るが、障害が残る、と。最悪、重い病にかかり死に至る、と」

「そんな。彼らのせいってことですか?」

「ああ、彼らのミスだ。だが責めても仕方ない。俺はそれでも脱出を望んだ。あんな空間でいつまでもいられるかってんだ。なんとか、この世界に戻っては来れたものの、案の定、不知の病に冒された。その時、せめてもの罪滅ぼしなのか、俺にAIがやろうとしているすべてを話してくれたというわけだ……」

「AIがそんな人間的な態度に出るなんて……なんだか信じられない」と陽子さん。

「もちろん彼らは、俺が皆にそのことを話すことも想定していた。話してダメなような内容なら、わざわざ俺に教えたりしないよな。なので他人に伝えることを禁止はしなかったが、一言だけ条件をつけてきた。それは『話すに足る人物に話せ』というものだった。誰にも彼にも無差別に話すのではなく、人を選んで話せってことだ」
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